◆◆◆◆◆夜の街道を駆ける馬の蹄音が、冷え込んだ大地に響き渡る。背後には異端審問官と王都の衛兵たちの騎馬隊が迫っていた。「前にもいる……!」ヴィオレットが息を呑む。前方の街道には、森を抜けて先回りした二人の騎兵が馬を立てて待ち構えていた。レオンハルトは即座に状況を把握する。挟み撃ち――このままでは、進むことも戻ることもできない。「ヴィオレット、止まれ!」レオンハルトの鋭い声に、ヴィオレットはすぐに手綱を引き、馬を停める。レオンハルトも並んで馬を止めた。「リリアーナを預ける」レオンハルトは素早くリリアーナをヴィオレットの腕へと抱え渡す。その目は冷静だったが、どこかに微かな躊躇いがあった。「レオンハルト……?」「前方の敵を攻撃する。隙を突いて突破しろ」ヴィオレットはその言葉に、一瞬戸惑うように彼を見つめた。しかし、すぐに状況を理解し、強く頷く。「わかった」レオンハルトは剣を抜き、馬を駆ると前方の騎兵に向かって突進した。「包囲しろ!」異端審問官の命令が飛ぶ。レオンハルトの剣が閃き、前方の騎兵の剣とぶつかり合う。火花が散る。「今だ!」レオンハルトの声が響いた瞬間、ヴィオレットは手綱を強く握りしめ、馬を駆けさせた。「リリアーナ、しっかり捕まって!」「うん……!」リリアーナを庇うように身を低くしながら、ヴィオレットは戦闘の隙間を縫うように走る。レオンハルトは敵の注意を自分に引きつけながら、ヴィオレットが突破するのを見届ける。しかし――「逃がすな!」後方の異端審問官たちが剣を抜き、ヴィオレットの後を追おうとする。「させるか!」レオンハルトが剣を振るい、馬を横に滑らせて進路を塞ぐ。「お前たちの相手は俺だ」夜の闇の中、レオンハルトの剣が鋭く光った。◇◇◇ヴィオレットは手綱を強く握りしめ、馬を駆けさせた。リリアーナをしっかりと腕に抱き、振り返ることなく進む。「リリアーナ、大丈夫?」「うん……!」リリアーナは不安げにヴィオレットの腕にしがみついていた。その時、視界の先に揺れる旗が見えた。「……ルーベンスの兵!」ヴィオレットは安堵とともに馬を加速させる。彼らがアルフォンスの指示で迎えに来てくれたのだとすぐに理解した。「ヴィオレット様、ご無事ですか!」馬を止めると、兵士の一人が駆け寄ってくる。「私は大丈夫。でも
Last Updated : 2025-07-20 Read more