お泊りするって言っても何も持ってきていないから、一旦家に戻る。なぜか樹くんまでついて来た。「えっと、準備するだけだから一人でも……」「だから姫乃さん危機感なさすぎ。近所で変質者出たって騒ぎあったよね」「確かに」「一人じゃ危ない。てか、俺が心配すぎる」「うん、ありがとう」申し訳ないなと思いつつも、そうやって心配してくれることがありがたくて嬉しい。すごく守られている感じがして、ちょっぴり胸がくすぐったい。「恋人だから?」「なにが?」「こうやって心配してくれるの」「何言ってんの。好きだからに決まってるでしょ」至極真面目に返事をされてしまって、心臓がトクンと高鳴る。 樹くんはクールな顔をしながらも、平然と甘い言葉を紡ぎだす。「好きだから」なんて言われて照れないわけがない。体の奥の方からカアアッと熱を持つのがわかる。「照れてる姫乃さんも可愛いですね」「いっ、言わないで。もうっ」「なんで? 可愛いからいいじゃん」「恥ずかしいんだもん」「あはは。ますます可愛くなるだけですよ」樹くんは目を細めてくっと笑う。 どう考えても樹くんの方が素敵だ。「もう、笑いすぎだよ。樹くん、好き」そう言ったら、樹くんはポカンとした。そしておもむろに両手で顔を覆う。「不意打ちは卑怯だ」「え、なに?」どうやら照れている様子。 私でも樹くんを照れさせることができるなんて、ちょっと優越感。小さなカバンにささっとお泊りの支度をして家を出る。 玄関の鍵をガチャリと閉めた。「ちょっと待って。忘れ物」もう一度開けてバタバタと入っていく。 引き出しからシルバーの鍵を取り出して……。「はい、これ」「なに?」「うちの合鍵。樹くんが持ってて。樹くんもいつでも来ていいよ」「……同棲遠のいた気がする。でも嬉しい。ありがとう」鍵を受け取った樹くんは、またくっと目尻を落とした。 おもむろに手を繋がれる。樹くんの部屋まですぐそこだというのに、片時も離れたくない。そんな感情が湧き上がって、私もきゅっと手を握り返した。お互いの温かさが伝わってきて、心まで満たされる気がした。
آخر تحديث : 2025-08-24 اقرأ المزيد