جميع فصول : الفصل -الفصل 110

119 فصول

11_5 合鍵 姫乃side

お泊りするって言っても何も持ってきていないから、一旦家に戻る。なぜか樹くんまでついて来た。「えっと、準備するだけだから一人でも……」「だから姫乃さん危機感なさすぎ。近所で変質者出たって騒ぎあったよね」「確かに」「一人じゃ危ない。てか、俺が心配すぎる」「うん、ありがとう」申し訳ないなと思いつつも、そうやって心配してくれることがありがたくて嬉しい。すごく守られている感じがして、ちょっぴり胸がくすぐったい。「恋人だから?」「なにが?」「こうやって心配してくれるの」「何言ってんの。好きだからに決まってるでしょ」至極真面目に返事をされてしまって、心臓がトクンと高鳴る。 樹くんはクールな顔をしながらも、平然と甘い言葉を紡ぎだす。「好きだから」なんて言われて照れないわけがない。体の奥の方からカアアッと熱を持つのがわかる。「照れてる姫乃さんも可愛いですね」「いっ、言わないで。もうっ」「なんで? 可愛いからいいじゃん」「恥ずかしいんだもん」「あはは。ますます可愛くなるだけですよ」樹くんは目を細めてくっと笑う。 どう考えても樹くんの方が素敵だ。「もう、笑いすぎだよ。樹くん、好き」そう言ったら、樹くんはポカンとした。そしておもむろに両手で顔を覆う。「不意打ちは卑怯だ」「え、なに?」どうやら照れている様子。 私でも樹くんを照れさせることができるなんて、ちょっと優越感。小さなカバンにささっとお泊りの支度をして家を出る。 玄関の鍵をガチャリと閉めた。「ちょっと待って。忘れ物」もう一度開けてバタバタと入っていく。 引き出しからシルバーの鍵を取り出して……。「はい、これ」「なに?」「うちの合鍵。樹くんが持ってて。樹くんもいつでも来ていいよ」「……同棲遠のいた気がする。でも嬉しい。ありがとう」鍵を受け取った樹くんは、またくっと目尻を落とした。 おもむろに手を繋がれる。樹くんの部屋まですぐそこだというのに、片時も離れたくない。そんな感情が湧き上がって、私もきゅっと手を握り返した。お互いの温かさが伝わってきて、心まで満たされる気がした。
last updateآخر تحديث : 2025-08-24
اقرأ المزيد

12_1 すれ違い 姫乃side

年度が変わると同時に、それまで息を潜めていた早田課長が畑違いの部所へ異動することが知らされた。私だけにとどまらず、これまで数々のセクハラ行為を行っていた早田課長はついに咎められるということで、所謂左遷という形で処置されることになったのだ。その影響もあり、セキュリティ管理課では大規模な人事異動が行われることになった。そんな中、私は部長に呼ばれて面談室にいる。 私も異動するのだろうかと想像しつつも、緊張で手に汗をかいている状態だ。部長の重い口が開かれる。「朱宮くん」「はいっ」部長の呼び掛けに背筋がピンと伸びた。「実は今後IT部門で、管理業務を一元化しようとする構想が出ているんだ」「一元化ですか?」今は各課に庶務がいて、課ごとにいろいろなことを管理している。それを部門で一元管理するとなると、管理業務だけを専属で行うようなチームを作るということだろうか。「管理業務チームができることになるんだけど、そこでだ、朱宮くん」「はい」「そのチームの庶務のリーダーに推薦したいと思う。初めてのことだし我々も手探り状態のままお願いするわけなのだが、朱宮くんには是非頑張ってほしい。まずはお試しなんだが、引き受けてくれるかね?」庶務のリーダー? 私が?!まさかの推薦に身が引き締まった。 男性しか出世の道はないと言われているこの会社で、出世とまではいかないにしろ自分を評価してもらえリーダーに推薦されことが素直に嬉しかった。仕事も恋も順調だ。 ますます頑張ろうと、気持ちが新たになった。
last updateآخر تحديث : 2025-09-01
اقرأ المزيد

12_2 すれ違い 姫乃side

さっそく樹くんへ報告したく探すも、忙しいのかなかなか席に戻る気配がない。結局ウズウズしたまま終業時刻になり、一人家に帰って夕食の準備をした。どうやら樹くんも仕事が忙しくなったようで、「先に食べてて」と簡単なメッセージだけが入る。作った夕食はラップをかけて、樹くんの家の冷蔵庫に入れておいた。こんなところで合鍵が役に立つとは思わなかった。それからしばらく、お互いに帰宅時間がバラバラになる日が続いた。樹くんも私も、新しい仕事で毎日残業の日々だ。会社で顔を突き合わせることもなくなった。ただ、出勤だけはなんとか一緒にできていて、なんとなくメッセージのやり取りもできている。だから、平気だと思っていた。「今日も遅くなりそう?」「うん、新しいプロジェクトが結構大変で。姫乃さん、いつも夕飯作ってくれてるけど、作らなくてもいいよ。姫乃さんだって仕事忙しいんでしょ」「うん、私も結構忙しくしてる」「だよね。落ち着くまでは別々にしよう」「そうだね」それが最善で、お互いに納得してそうしたというのに、なぜたが胸がざわりと揺れた。残業をして帰っても、樹くんは私よりも遅くまで残業をしているから、帰りに出会うこともない。一人で家に帰って一人で夕飯を作り食べる。以前はそれが当たり前の生活だったのに、いつからだろう、一人がこんなに寂しく思うなんて。
last updateآخر تحديث : 2025-09-02
اقرأ المزيد

12_3 すれ違い 姫乃side

ずっと私は一人で生活してきたのに。アラサー独身彼氏なしが枕詞みたいになっていたのに。こんなにも寂しい気持ちが芽生えるなんて、思っても見なかった。それだけ私は樹くんが好きで大切で、どうしようもないくらいに気持ちが膨れ上がる存在なのだと、身を持って実感したのだ。その日はいつもよりも忙しくて、乗りたい電車の時間に間に合わなかった。次の電車が来るまで、ぼんやりと待つ。ようやく来た電車に乗って、ガタンゴトンといい感じの揺れにふわりと眠くなった。ふと気づくと自分が降りる駅で、慌てて立ち上がる。よかった、乗り過ごさなかったと思いつつ改札口を出ると、バッタリと樹くんに出会った。「樹くん!」「姫乃さんも同じ電車だったんだ」「ね、びっくり」「一緒に帰りましょう」アパートに向かって歩き出すと、手を繋いでくれる。アパートまではすぐなのに、なんだか照れくさい。それに、久しぶりに樹くんに触れた気がして嬉しくなった。「せっかく同じ時間に帰ったんだし、夕飯一緒に食べる?」「うーん、今日は疲れたから帰るよ」「そっか」なんとなく、樹くんならいいよって言ってくれる気がしていたから、断られたことに若干ショックを受けてしまった。樹くんと一緒にいたいと思ってるのは私だけ……? なんて、そんなネガティブな気持ちさえ湧いてしまう。樹くんは黙ったまま、まっすぐ前を見て歩いている。いつもクールだけど、今日はいつも以上にクールだ。よっぽど疲れているのだろうか。
last updateآخر تحديث : 2025-09-03
اقرأ المزيد

12_4 すれ違い 姫乃side

「……なんか、樹くん熱いね?」「そう?」「ちょっと顔も赤いよ」「……大丈夫だよ」「熱があるんじゃない?」樹くんの首元に手を伸ばすと、じわっと熱さが手に伝わってくる。やっぱり熱があるみたいだ。「やっぱりご飯作ろうか。つらいでしょ」「大丈夫、寝てれば治るから」アパートに着くと、樹くんは「じゃあまた」と言って早々に自分の部屋へ帰って行った。いつもだったら、絶対に私を部屋まで送り届けるくらいの過保護なのに。よっぽどつらいのかもしれない。私はその足でコンビニへ向かった。体調が悪いときは食欲もないだろうから、ポカリやヨーグルトやゼリーなんかを大量に買い込む。いったん家に戻って、熱冷ましのシートや保冷剤なんかもカバンに詰め込んで、樹くんちのインターホンを鳴らした。ピンポーン軽快な音が鳴るけれど、待てど暮らせど樹くんが出てくる様子はない。もう寝ているのかも? あんまりしつこくすると迷惑かな? でも、もし倒れていたら?いろいろな考えが頭の中を巡る。放置なんてありえない。カバンの中から鍵を取り出す。樹くんが渡してくれた合鍵だ。ガチャリと無機質な音がする。恐る恐る中へ入ると、電気は点いていた。「お、お邪魔しまーす。樹くーん?」呼びかけても返事がなく、寝室の扉を開けた。薄闇の部屋の中に、ベッドに沈み込むようにして寝ている樹くんがいた。
last updateآخر تحديث : 2025-09-04
اقرأ المزيد

12_5 すれ違い 姫乃side

側に寄ると、呼吸が荒いのがわかる。やっぱり熱があるみたいだ。仕事から帰ってきたときのまま、ワイシャツで寝ていた。「樹くん、ほら、汗かくから着替えたほうがいいよ」「……ん、姫乃さん?」「そうだよ。救急外来行く?」「いや、いい。……寝てれば治る」そんな事を言いつつも、樹くんはしんどそうな声を出す。濡れたタオルで体を拭いて、楽なスウェットに着替えさせた。熱冷ましのシートを貼って、ベッドへ寝かす。もし途中で起きたら食べられるようにと玉子粥も作っておいた。定期的に樹くんの様子を見つつ、私も適当に夕飯を掻き込む。心配だから、今日はこのままお泊りをしようかな。しんと静まり返る部屋。樹くんは起きてこない。それでも、樹くんを1人にするという選択肢は持ち合わせていなかった。こんな時に考えてしまう。いや、こんな時だからこそだろうか。樹くんの提案通り同棲していたらよかったのかもしれない。そうしたら、もっと樹くんの不調に気付いてあげられていたかもしれないのに。もっといろんなこと、樹くんにしてあげられるのに。「……同棲か」もちろん同棲に憧れはあった。でも最近の私は、樹くんという素敵な彼氏ができたことに満足してしまって、それ以上のことが起きると頭がキャパオーバーになってしまっていたのだ。考えが改めさせられる出来事に止まっていた脳が動き出す。私はもっとちゃんと、樹くんと向き合ったほうがいい。
last updateآخر تحديث : 2025-09-06
اقرأ المزيد

13_1 同棲しよ 樹side

ここ最近ずっと、体調が思わしくないと思っていた。それでも寝て起きれば仕事に行けるくらいの元気はあるし、まあ大丈夫だろうとだましだまし仕事をしていた。ちょうど忙しくもあったから休むわけにもいかないし、仕事に集中していればどうにでもなったのだ。姫乃さんと食べていた夕飯も、別々になった。俺の忙しさに姫乃さんを付き合わせるわけにはいかないし、姫乃さんも忙しそうだったから負担をかけたくないと思ったのだ。一緒に出勤しているから、朝だけはかろうじて顔を見ることが出来た。綺麗で可愛い姫乃さんは、「おはよう」とにっこり微笑む。その顔を見るだけで、一日頑張れる気がした。仕事中は全く関わらない。姫乃さんも業務内容が変わり、責任ある立場に就いたみたいだ。頑張っている姫乃さんに負けないように、俺も新しいプロジェクト業務をこなす日々だった。そんなある日、帰りの最寄り駅でバッタリ姫乃さんと出会った。「樹くん!」「姫乃さんも同じ電車だったんだ」「ね、びっくり」「一緒に帰りましょう」姫乃さんと手を繋ぐと、姫乃さんは嬉しそうにふわっと笑う。でも、絶対に俺の方が嬉しいと感じている。毎朝顔を合わせているのに、帰りに会えるのがこんなにも嬉しいだなんて。それに、久しぶりに姫乃さんに触れた気がする。柔らかな手が心地良い。
last updateآخر تحديث : 2025-09-07
اقرأ المزيد

13_2 同棲しよ 樹side

「せっかく同じ時間に帰ったんだし、夕飯一緒に食べる?」そう提案してくれたのに、俺は断った。夜になると体調が思わしくない。夕飯を作る気力もないし、かといって姫乃さんに作ってもらうのも姫乃さんに負担をかけてしまいそうで嫌だ。帰ったらすぐに寝よう。本当に、今日はしんどい。もし風邪を引いているのなら姫乃さんにうつしてしまったら大変だ。と、思考をぐるぐる巡らせていると、姫乃さんが「ねえ」と覗き込んでくる。「……なんか、樹くん熱いね?」「そう?」「ちょっと顔も赤いよ」「……大丈夫だよ」「熱があるんじゃない?」そう言いながら姫乃さんの手が俺の首に触れた。ひんやりして気持ちがいい。ということは、やはり俺は熱があるのかもしれない。「やっぱりご飯作ろうか。つらいでしょ」「大丈夫、寝てれば治るから。……じゃあまた」歩く手を挙げて姫乃さんと別れ、階段を上がる。やばい、息が切れそうなくらいしんどい。帰ったら寝よう、そうするしかない。玄関を入ってそのままベッドへ直行する。倒れ込むようにベッドへ横になると、急に熱が上がった気がした。たぶん、気が抜けたのだろう。そのまますぐに意識を手放してしまった。「……樹くん、……樹くん」姫乃さんの可愛い声が聞こえる。夢の中にまで姫乃さんが出てくるなんて、得した気分だ。
last updateآخر تحديث : 2025-09-08
اقرأ المزيد

13_3 同棲しよ 樹side

「樹くん、ほら、汗かくから着替えたほうがいいよ」何度も呼ばれるのでぼんやりとした気持ちの中、重い瞼を上げた。目の前に、心配そうな顔をした彼女がいる。「……ん、姫乃さん?」「そうだよ。救急外来行く?」「いや、いい。……寝てれば治る」そうしてまた瞼が落ちそうになったのに、「寝る前に着替えよう」と言われ、甲斐甲斐しく着替えを手伝ってくれる。ありがたいなと思いつつ、体のだるさが勝って、そのままベッドへ沈んだ。ふと目を覚ますと、あたりはだいぶ明るかった。どうやら朝方まで寝てしまっていたらしい。ぐっと体を起こすと、姫乃さんがベッドの縁に頭をもたげて眠っていた。「……姫乃さん」もしかしてずっとついててくれたのだろうか。そういえば、甲斐甲斐しく着替えを手伝ってくれたことを思い出した。どうやらあれは夢ではなかったらしい。「……ん、樹くん……おはよう」「……おはようございます」寝ぼけ眼だった姫乃さんは、突然はっと目を覚ますと、俺のおでこや首元をペタペタ触り始めた。「熱、だいぶ下がったみたいだね」「まあ、今はあんまりだるくないかな」「はぁー、よかったぁ」姫乃さんは大きく息を吐くと、すっと立ち上がる。「何か食べるでしょ? 玉子粥作ってあるから、温めてくるね」そう言って、パタパタと寝室を出ていった。
last updateآخر تحديث : 2025-09-09
اقرأ المزيد

13_4 同棲しよ 樹side

しばらくすると、出汁のいい香りが漂ってくる。俺もベッドを出て、キッチンへ行く。姫乃さんがエプロンをかけて、作業をしていた。「まだ寝てたらいいのに」「美味しそうなにおいがしたから」「じゃあ座って」目の前に、レンゲやらコップやらが準備される。最後に、丼に入った玉子粥がドンッと置かれた。「食べられる分だけでいいよ」「ありがとう、いただきます」レンゲでひとすくいして口に運ぶ。ちょうどいい温かさと優しい出汁の味。温かさがじんわり胃に染み渡っていく。俺が食べる姿を、姫乃さんは隣でニコニコしながらずっと見ていた。「美味い」「ほんと? よかったぁ」久しぶりの姫乃さんの手料理にお腹も心も満たされつつ、完食する。体が回復していくのがわかる。きちんとごちそうさまでしたと手を合わせてから、姫乃さんに向き合った。「姫乃さん、迷惑かけてごめん。ずっといてくれたんだ?」「うん、だって樹くんのこと心配だったから」「熱、うつってないよね?」「大丈夫だよ。……ねえ、樹くん」「うん」「同棲、しよっか?」「え……ゲホッ!」あまりの衝撃に思わずむせ返る。「ちょっと、大丈夫?」と姫乃さんが背をさすってくれた。「同棲?」「うん、同棲。一緒に住もうよ」「いいの?」「いいから言ってるんだよ」だって姫乃さん、あんなに渋っていたのに。
last updateآخر تحديث : 2025-09-10
اقرأ المزيد
السابق
1
...
789101112
امسح الكود للقراءة على التطبيق
DMCA.com Protection Status