「今がどういう時代だと思っているの。結婚は本人の自由であるべきなのに、どうして私に一言もなく、勝手に婚約を決めたの!」風歌は勢いよく立ち上がり、憤りを隠せないでいた。正雄は痛いところを突かれて言葉に詰まり、弱々しく彼女の腕を掴もうとしたが、その手は荒々しく振り払われた。彼は手を引っ込め、髭を扱きながら落ち込んだ。「風歌……もう決まってしまったことだ。まあ、一度俊則君に会ってみてから決めたらどうだ?本当にいい奴なんだ。お前より五つ年上だが、人を思いやれる男だ。父さんのお眼鏡にかなったんだから、お前もきっと気に入る」「五つも上なんて嫌!おじさんじゃない!好きになれない!」風歌は聞く耳を持たなかった。今のところ、新たに恋愛をするつもりなど毛頭なく、婚約や結婚など、もってのほかであった。「まだ二十八だぞ、どこがおじさんだ。お前の元夫だって、五つ上だったじゃないか」風歌は言葉に詰まった。「それとこれとは違うよ!この話に、交渉の余地はないのよ。今すぐ、この婚約を破棄して!」正雄の声が、さらに弱々しくなる。「破棄は…できないんだ。昨日決まったばかりでな。吉田家の御当主とも、三日後のお前の歓迎会で、婚約を発表する約束をしてしまった」風歌は深呼吸をし、必死に怒りを抑え込んだ。「歓迎会?そんなもの知らない。お父さんが破棄できないと言うなら、結構。私が自分で破棄する!」彼女は怒りに任せてドアを閉め、出て行った。正雄は怒りに燃える彼女の後ろ姿を見送り、なすすべもなく首を振った。ますます母親の気性に似てきた。あいつを手なずけられる男でないと、務まらんな。風歌は書斎を出ると、そのまま庭園を抜けていった。ジュウイチたち数人のボディガードが、門の前で待機していた。腹は立っていたが、父は病気で足も不自由だ。娘として、戻ってきたからにはそばにいてあげるべきだろう。そこで、彼女はボディガードたちにホテルへ荷物を取りに戻るよう命じ、しばらくこの別荘に滞在することにした。風歌は門のそばでしばらく立ち止まり、この婚約をどう処理すべきか考えを巡らせた。しばらく考えていたが、ふと視界の端に、小林が控えているのが入った。風歌は彼を呼び寄せた。「小林さん、吉田家の屋敷はこど?」「存じております。お嬢様、どなたか
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