All Chapters of この度、元カレが義兄になりました: Chapter 21 - Chapter 30

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第21話

1週間後の日曜日。ついに、亜嵐くんと出かける日がやって来た。今日は朝から、雲ひとつない快晴。伊月くんとの買い物を除いて、同級生の男の子と二人で学校以外のどこかに出かけるのが初めての私は、たとえ相手が亜嵐くんでも意識してしまう。一応羽衣にこのことを報告すると、『良かったじゃない。あの亜嵐くんに、デートに誘われるなんて!』と言われた。羽衣いわく、亜嵐くんは校内で伊月くんの次に人気の男の子らしい。『これは、元カレの佐野くん以外の男の子にも目を向ける良い機会だよ。当日は可愛く着飾って、このチャンスを絶対モノにしなよ!』とまで言われたから。今朝は羽衣に言われるままに、準備をした。白のブラウスに、パステルイエローのスカート。普段は下ろしたままのストレートの黒髪も、今日はゆるく巻いてみた。家を出て待ち合わせ場所へと向かって歩いていると、ふわりと吹いた風でスカートの裾がひらりとなびいた。「陽菜ちゃん!」待ち合わせの駅前に着くと、私に気づいた亜嵐くんが手を挙げた。「ごめん、待った?」「ううん。全然」亜嵐くんは私を見て一瞬目を大きく見開いたけど、すぐに笑顔になる。「今日の陽菜ちゃん、いつにも増して可愛い!」「そ、そう?」お世辞かもしれないけど、ストレートに言われると照れるな。「ていうか……」亜嵐くんが眉をひそめ、私の隣へと視線を移す。「なんで佐野が、ここにいるんだよ!?」そう。家を出ようとしたら、私のあとを伊月くんがついてきちゃったんだ。「なんでって、単純に兄として妹が心配だからだよ」今にも噛みつきそうな勢いの亜嵐くんに対し、伊月くんは平然としている。「大切な妹が長谷川に手を出されでもしたら、大変だからな」「はあ?意味分かんないんだけど」“大切な妹”か。そう言ってもらえるのは、有難いけど……嬉しいような、ちょっぴり切ないような。「もし三人が嫌なら、陽菜は連れて帰るけど?」「くっ、分かったよ。佐野も一緒でいいよ」亜嵐くんが渋々了承し、私たちは急遽三人で出かけることになった。まず最初に向かったのは、映画館。「はい」映画館に入ると、亜嵐くんからチケットを渡された。「この映画、陽菜ちゃんと一緒に観たいなと思って、予約しておいたんだ」チケットに書かれたタイトルは、最近泣けると話題の恋愛映画だった。「陽菜ちゃん、この映画で良かっ
last updateLast Updated : 2025-05-28
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第22話

だってそこは、隣と仕切りが設けられた二人掛けのソファのような座席だったから。ええっと……これって、いわゆる『カップルシート』というものだよね?でも、どうして亜嵐くんがこういう席をわざわざ取ったの?私たち、恋人同士とかじゃないのに。「長谷川……っ」私たちの座席を見た伊月くんが、ワナワナと肩を震わせている。「まったく、なに考えてんだよ!?」「え?男女が二人で映画を観るなら、カップルシートの一択でしょ?」「カップルシート一択って、お前なあ……!」伊月くんが、盛大なため息をつく。「やっぱり今日は、ついてきて正解だったわ。陽菜」「なに?」「陽菜は、こっち。席、俺のと交換しよ」私が返事をするより早く、伊月くんは自分のチケットと私のチケットを取り替えた。そして彼はカップルシートの片方の席に、すました顔で腰をおろす。「ほら。長谷川も早く座りなよ」「は?嘘だろ。まさか、佐野と!?」「何だよ。俺と一緒じゃ不満か?」伊月くんが、佐野くんを鋭く睨む。「いいえ。滅相もございません。はあ……陽菜ちゃんと、仲良く映画鑑賞する予定だったのに……」ガクッと肩を落とした亜嵐くんを横目に、私はひとり、伊月くんが取った席へと向かった。**約2時間後。映画を観終えた私たちは、3人で街を歩いている。「思ってたよりも、良い映画だったな」「そうだね」さすが泣けると世間で話題になっているだけあって、映画は予想以上に大号泣だった。席は離れていたものの、伊月くんと同じ空間で映画を観られて、こうして感想を言い合えているだけで私は満足。「ねえ、二人とも。さっきから俺のこと忘れてない?」背後から声がして振り返ると、肩を落とした亜嵐くんがいた。「亜嵐くん、なんか元気ない?」「そりゃあね。俺の予定が、初っ端から丸つぶれだもん」「不満そうに言ってるわりには、映画のとき隣で鼻をズビズビ鳴らして、めちゃくちゃ泣いてたじゃねえか」伊月くんが亜嵐くんに突っ込む。「お前でも感動して泣くんだな」「『お前でも』って、佐野ひどくない!?」「ははっ」自然な笑みを見せる伊月くん。伊月くん、さっきから亜嵐くんには遠慮なく物を言ったり、笑ったりして。亜嵐くんとはタイプが真逆のように思えるけど、二人はけっこう仲が良いのかな?この間も亜嵐くんが伊月くんに借りたっていう漫画を、家まで返
last updateLast Updated : 2025-05-29
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第23話

歩いて数分。みんなでカラオケ店へとやって来た。受付を済ませてドリンクバーで飲み物を入れると、指定されたカラオケルームへと向かう。「それじゃあ、俺から歌いまーす!」席に着くなり、亜嵐くんが一番に曲を入れて歌い始める。彼が歌うのは、最近人気の3人組バンドのアップテンポな曲だ。へえ。亜嵐くんってバスケだけでなく、歌も上手いんだな。カラオケは久しぶりに来たけど、他の人が歌うのをこうして聴いているだけでも楽しい。「よっしゃー、97点!」「さすが、亜嵐!」「続けてもう一曲歌えよ〜」亜嵐くんが積極的に歌って場を盛り上げるなか、伊月くんは他の人が歌うのを黙って聴いているだけ。伊月くんの性格上、こういう場はやっぱり苦手なのかな?そんなことを思いながら彼のことを見ていた私は、伊月くんのグラスが空になったことに気づいた。「ねえ、伊月くん。飲み物のおかわり入れてこようか?」「えっ、でも……陽菜に悪いよ」「私もちょうど、ドリンクバーのところに行こうと思ってたから」私は、空になった自分のグラスを掲げてみせる。「陽菜は、いつもよく気づいてくれるよな。サンキュー」伊月くんが、ふわりと微笑む。「それじゃあせっかくだし、お願いしようかな」「うん。何がいい?」「アイスコーヒーで」「分かった」伊月くんの希望を聞くと、私はグラスを両手に扉へと向かう。「ねえ。佐野くん」扉に手をかけたとき、伊月くんに話しかける麻生さんの声が耳に入ってきた。「佐野くん、良かったら次歌わない?」気になってそちらに目をやると、麻生さんがマイクを手に伊月くんを笑顔で誘っている。「いや……俺、歌はあんまり……」「いいじゃない。顔見知りの子たちばかりだし。もし一人で歌うのが嫌なら、あたしとデュエットしようよ」「まあ……少しだけなら、いいけど」うそ。伊月くん、麻生さんと一緒に歌うの?胸の辺りがざわつくのを感じながら、私は急いでカラオケルームを出た。**ドリンクバーコーナーにやって来た私は、二人分の飲み物を入れる。グラスを機械にセットし、伊月くんから頼まれたアイスコーヒーのボタンを押したとき。「菊池さん」名前を呼ばれてそちらに目をやると、麻生さんが腕を組んで立っていた。「えっと……麻生さんも、飲み物を入れに?」彼女とこうして二人きりになるのは、初めてだから。ちょっと
last updateLast Updated : 2025-05-30
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第24話

あのあとドリンクを手にカラオケルームに戻ると、伊月くんと麻生さんがちょうど歌っているところだった。伊月くん、さっき歌はあんまり……と言っていたけど、普通に上手い。でも、デュエットする二人を見ていると、どうにも心が落ち着かなくて。私は『用事を思い出した』と亜嵐くんに言付け、ひとり先に帰ることにした。カラオケ店の外に出ると、ひんやりとした風が足元を通り過ぎていき、ぶるっと身体を震わせる。あーあ。嘘をついてしまったのは良くないけど、あれ以上あの場にいるのは無理だったから。とぼとぼと街を歩いていると、先ほどのカラオケでの光景が頭をかすめる。伊月くんと麻生さんが仲良くしているのを見ているだけで、心の中に嵐が吹き荒れるなんて。私は伊月くんのことを、ちっとも『お兄ちゃん』として見れてないんだ。血が繋がっていないとはいえ、兄のことが好きだなんて。お母さんや光佑さん、伊月くんが知ったらきっと軽蔑される。だから、こんな恋心はさっさと捨てなきゃいけないのに。どうして私は……。ぎゅっと、拳を握りしめたときだった。「あれ、陽菜?」すれ違いざまに声をかけられた。「羽衣!」たった今、街中ですれ違った人は、友達の羽衣だった。「どうしたの?今日は、長谷川くんとデートだったんじゃ……」「そうなんだけど……」私は口ごもってしまう。「もしかして、何かあった?」うう……羽衣ってば、鋭い。「なっ、何でもないよ」羽衣に余計な心配はかけたくなくて。私は、視線をそらした。「うそ。絶対に何かあったでしょう!わたしは、陽菜のことならお見通しなんだから」さすが羽衣。中学からの付き合いなだけあるよ。「友達だからって、無理に話せとは言わないけど。話せば、少しは気が楽になるかもしれないよ?」弱っていた私の心に、羽衣の言葉が優しく響く。羽衣に甘えて、全てを打ち明けてしまいたい。そんな気持ちが沸き起こり、抑えきれなくなった。「あのね、羽衣。今から話すことは、誰にも言わないで欲しいんだけど……」中学の頃から私のことをよく知ってくれている羽衣になら、話してもきっと大丈夫──そう思えたから。「私の話……聞いてくれる?」「もちろんだよ」私と羽衣は近くの公園まで移動し、ベンチに並んで腰かけた。「実はね……」私は、先ほどのカラオケでの出来事を羽衣に話した。麻生さんに『佐野
last updateLast Updated : 2025-05-31
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第25話

羽衣と別れ、帰宅して今は夕食の時間。何だろう。頭が少し痛いような……それに、寒気もする。「ごちそうさま」私は食欲がなくて、ご飯を半分以上残してしまった。今日の夕飯は、私が好きなエビフライなのに。「あら、陽菜。もういいの?」「うん。ちょっと頭が痛くて……ご飯、残してしまってごめんなさい」せっかく作ってくれたお母さんには、申し訳ないけど……私は食卓の席を立つ。「陽菜ちゃん、大丈夫かい?」「はい。寝たら、良くなると思うので」声をかけてくれた光佑さんに微笑むと、私は自分の部屋へと向かった。**今日は早く寝よう。そう思い、パジャマに着替えた私がベッドに入ったとき。──コンコン。「陽菜?俺だけど……」えっ、伊月くん!?私の部屋を訪ねてくるなんて、どうしたんだろう。「入っても良いか?」「うっ、うん!」せっかく来てくれたのを断るのも悪いと思い、私は慌ててベッドから起き上がった。「急に悪い。陽菜、さっき薬飲んでなかっただろ?」「あっ」伊月くんの手には、水の入ったコップと市販の風邪薬が。伊月くん、わざわざ持ってきてくれたんだ。「ありがとう」「陽菜、少し顔が赤いけど……もしかして熱ある?」そう言って、私のおでこに自分の手をそっと当てる伊月くん。伊月くんの手は、大きくて。少しひんやりとしていて、気持ちがいい。「うーん、ちょっと熱いような……。一応、体温計で測ってみよう」伊月くんから体温計を渡され、脇にいれて測定すると37.4度だった。「やっぱり熱あるな」「少し熱っぽいだけだから、大丈夫だよ。薬も飲んだし、一晩寝たら明日には良くなると思うから」「そうか。休んでたところを、邪魔して悪かったな。今夜は無理せず、温かくして寝ろよ」「うん。ありがとうね」「おやすみ、陽菜」「おやすみなさい」──パタン。私が返事すると、伊月くんは部屋から出て行った。わざわざ心配して、来てくれただなんて……伊月くんのその気持ちがすごく嬉しかった。明日また改めて、お礼を言おう。そんなことを思いながら、私は眠りについた。**【伊月side】夜中の2時過ぎ。喉が渇いた俺は、水でも飲もうと自分の部屋を出た。2階の自室から1階へと続く階段へは、陽菜の部屋の前を通らないといけないのだが。彼女の部屋の前まで来てふと頭に浮かんだのは、先ほど目にした
last updateLast Updated : 2025-06-01
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第26話

私の風邪も、すっかり治ったある日の朝。この日は土曜日ということもあり、学校はお休み。のんびりと朝食を食べ終えた私が、リビングのソファに置いたままだったスマホを確認すると、メッセージが一件届いていた。「あれ、伊月くんからだ」私にメッセージを送ってくるなんて珍しいな……と、軽い気持ちで画面をタップ。【悪いんだけど、バッシュを忘れたから持ってきてくれないか?今日はこれから第一体育館で、大事な試合があるんだ】「えっ。バッシュを忘れたって大変!」そういえば、さっき伊月くんが慌ただしく家を出ていく足音が聞こえていた。慌てていて、持っていくのを忘れちゃったのかな?二階の伊月くんの部屋に向かうと、ローテーブルの上にバッシュが入ったと思われる黒の袋があった。私はその袋を手に取る。今日は大事な試合だって、届いたメッセージに書いてあったし。何より伊月くんはバスケ部のエースなんだから、このバッシュがないと困るよね。『はっきり言って、あなたの存在は目障りなのよ』 『もう部活とかも見に来ないでよね』カラオケのときに、麻生さんから言われたことが一瞬頭を過ぎったけれど。光佑さんは今日は仕事で、お母さんも朝早くに出かけてしまっていて、いま家にいるのは自分だけだから。これは、私が持っていくしかない。私は急いで荷物をまとめると、戸締りをして家を飛び出した。それからバスを乗り継ぎ、バスケ部の試合が行われるという第一体育館に到着。伊月くん、どこだろう?一応、着いたってメッセージは送ったんだけど……。私が入口から中のほうを、キョロキョロと見回していると。「あら?もしかして……菊池さん?」背後から突然声をかけられ、肩が跳ねた。振り返ると、白のジャージ姿の麻生さんが眉をひそめて立っていた。バスケ部の人たちとカラオケに行った日の夜、熱を出した私はあのあと3日間学校を休んだ。それからもしばらくバスケ部の練習は見に行けていなかったから、麻生さんと顔を合わせるのはカラオケのとき以来だけど……。麻生さんの顔を見ただけで、心拍数が上がってしまう。「どうして菊池さんがここに?」「ええっと……」伊月くんとの同居のことは秘密だから、忘れ物を届けに来ただなんて本当のことは言えないし。私は思わず、伊月くんのバッシュが入った袋を後ろ手に隠した。「この前あたし、菊池さんにもう
last updateLast Updated : 2025-06-02
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第27話

「……おーい、晴香ちゃーん。ちょっと良いー?」そのとき、どこからか声がして。そちらに目をやると、亜嵐くんが麻生さんを呼んでいた。「はーい。今行きます!」亜嵐くんに返事をした麻生さんが、こちらをキッと睨みつける。……う。もしかして、また何か言われるのかな?私は、震えそうになる手をぎゅっと握りしめる。「まあ……言われてみれば、菊池さんの言うとおりよね」「えっ?」「この前はつい、目障りだとか部活を見に来るなとか、あなたに色々と失礼なことを言って悪かったわ。ごめんなさい」麻生さんは私に軽く頭を下げると、亜嵐くんの元へと駆けて行った。う、うそ。今、麻生さんが私に謝った?麻生さんの予想外の言動に、私は拍子抜けしそうになる。でも……今日初めて麻生さんにハッキリと言い返して、この間のことも謝ってもらえて。ようやく、胸の辺りがスッキリしたような気がする。「陽菜」「えっ、伊月くん!?」いつの間にかすぐ後ろに、ユニフォーム姿の伊月くんが立っていてびっくり。「陽菜、今のって……。もしかして、麻生に何か言われたのか?」「ええっと……いや、大丈夫だよ?」これから麻生さんは、この前みたいなことはきっともう言ってはこないだろうって。何となく、そんな気がしたから。余計な心配はかけたくなくて、私は伊月くんに微笑んでみせる。「ちょっとした、世間話をしていただけだから」「ふーん。それなら良いけど……もし、麻生や他の奴に何か嫌なことを言われたりしたら、すぐ俺に言えよ?」「うん、ありがとう」私は、持ってきたバッシュを伊月くんに渡す。「わざわざ持ってきてくれて、ありがとな」「ううん。それじゃあ、私はこれで……」「あっ、待って陽菜」帰ろうと歩き出した私の腕を、伊月くんが掴んだ。「陽菜、このあと時間ある?」「時間?うん。あるけど……」「だったら、このあとの試合見てってよ」「えっ、いいの?」「そんなの、当たり前だろ?」思わず聞き返してしまったけど、伊月くんのほうから誘ってくれるなんて。「今日の初戦の相手は、かなりの強豪校なんだ」「そうなんだ。でも、伊月くんならきっと大丈夫だよ。頑張ってね!」「ああ。頑張るよ」私の頭に、伊月くんの大きな手がポンとのせられる。「陽菜に、かっこ悪いところは見せられないからな。絶対に勝ってみせる」そう言って、去
last updateLast Updated : 2025-06-03
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第28話

数日後。「今日のホームルームでは、来月末にある修学旅行の班決めを行う」昼休みのあとのホームルームで、担任の先生が口にした言葉に私はハッとする。そうだ。この1ヶ月、お母さんの再婚で伊月くんと義理の兄妹になって、いきなり同居するようになって。環境の変化にバタバタしていて、忘れかけていたけれど。5月の中間テストのあと、2年生で一番の高校行事・修学旅行があるんだった!私の通う高校では毎年、2泊3日で京都に行くのが恒例となっている。「各班4人なら、男女混合でもそうでなくても構わないからな」先生の声に、一斉に騒ぎ出す教室。各班4人かあ。とりあえず、私は羽衣と一緒に……そう思い、席から立ち上がろうとしたときだった。「なあ、陽菜ちゃん。俺と一緒に、班組まない?」突然声がして振り返ると、亜嵐くんがニカッと笑って立っていた。「えっ、うそ。亜嵐くんと?」「何だよ、その反応!傷つくんだけど〜!」亜嵐くんが、大げさに胸を押さえてみせる。ふふ。亜嵐くんって、一緒にいるだけで楽しいなあ。彼と一緒なら、修学旅行もきっと楽しくなりそう。「ねえ、陽菜!わたしも、同じ班になってもいいかな?」今度は、羽衣が手を振ってやって来る。「うん、もちろんだよ」よし、これで3人。あと1人は……。「ねえ、佐野くん。私たちの班に入ってくれない?」「あたし、伊月くんと一緒にまわりたいなー」教室に、女の子たちの声が響く。そちらを見ると、伊月くんが数人の派手な女の子に囲まれていた。伊月くん、あの子たちと同じ班になるのかな?そう思うと、胸が疼いた。伊月くんは、義理の兄だから。こんな気持ち、持っちゃダメなのに……。「悪いけど、俺……誰と同じ班になるかもう決めてるから」伊月くんが低い声で言うと、女の子たちの間をスッと抜けてくる。そして、そのまま真っ直ぐ……私のところまで歩いて来た。「陽菜、俺もお前の班に入れてくれないか?」「え、うそ、伊月くん!?」まさか、伊月くんに声をかけてもらえるとは思っていなくて。びっくりして声が裏返ってしまった。「えっ。伊月くん、なんで菊池さんと?」「長谷川くんと佐野くんと一緒なんて、ずるい〜」さっき伊月くんに声をかけていた女の子たちから、非難の声が聞こえてテンションが下がってしまう。そんな彼女たちを、伊月くんが軽く睨む。「いきなりで悪い
last updateLast Updated : 2025-06-04
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第29話

放課後。この日は、美化委員の校内清掃があった。委員の仕事を終えた私は、亜嵐くんと一緒に昇降口まで歩いてきた。「亜嵐くんは、このあと部活?」「いや。今日は俺も帰るよ」ローファーに履き替えて外に出ると、さっきまで晴れていたはずの空は、分厚い灰色の雲に覆われている。「うわ、雨降りそう……」ポツリと呟いたそのとき、空から落ちてきた水滴が、頬に当たって弾けた。「えっ、やだ、降ってきちゃった。どうしよう……私、傘持ってないのに」ぽつぽつと降りだした雨は、あっという間に量を増していく。「陽菜ちゃん。良かったら、俺の傘に入れてあげるよ。ちょうど置き傘してたんだよね〜」隣に立つ亜嵐くんが、ニコニコとビニール傘を広げる。「陽菜ちゃん、確か徒歩通学だったよね?俺もそうだから、一緒に帰ろう」「えっ、でも……亜嵐くんに悪いよ」顔の前で手を振って遠慮すると。「だったら、傘は陽菜ちゃんに渡して俺は濡れて帰るよ。はい、傘どうぞ」「そんなのもっとダメだって!」「だったら、俺に素直に送られてよ」「……っ。それじゃあ……」せっかくの亜嵐くんの厚意を無下にはできないと思い、お言葉に甘えようとしたときだった。「陽菜、帰るよ」突然、私たちの間に割って入ってきた低い声。振り返ると、伊月くんが折りたたみ傘を持って立っていた。「傘、持ってないかもと思って。陽菜のこと、待ってたんだ」うそ。待っててくれたの?あ、でも……。隣にいる亜嵐くんを、チラッと見上げる。「俺、傘持ってるから。陽菜ちゃんを、送っていくって話になってるんだよね」「それはどうも。でも、俺も傘持ってるからその必要はない」何だろう。二人が、睨み合っているように見えるのは気のせい?「陽菜は、俺が連れて帰るから」「ほんと、いつも良いところで邪魔してくるよな?陽菜ちゃんのおにーちゃん?」「は?」亜嵐くんの言葉に、伊月くんの目が鋭くなる。この二人、ときどき仲が良いのか悪いのか分からなくなるときがあるよ……。「亜嵐、余計なことは言うなよ……陽菜」ヒヤヒヤしていると、伊月くんの手が私のほうに伸びてきた。グイッ。大きな手が私の肩を掴んで、引き寄せる。「帰るぞ。じゃあな、長谷川」亜嵐くんに声をかけると、伊月くんが私を連れて歩きだす。……うう、近い。学校の校門を出て、私と伊月くんは小さな折り畳み
last updateLast Updated : 2025-06-05
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第30話

「なあ、陽菜。パーティーの準備だけど、どうする?」ゴールデンウィークも後半になった、ある日の朝。私がリビングに行くと、伊月くんが声をかけてきた。5月に突入してすぐ、お母さんと光佑さんが入籍したのだけど……挙式はしないって二人が言うから、私と伊月くんでサプライズパーティーを企画することに。今日がその予定日で、伊月くんと二人で街に出かけて準備するんだ。「花束とケーキを買う以外に、ガーランドやバルーンを使って部屋を飾りつけるのはどうかな?」私は、ネットで見つけたお祝いの飾りつけの写真を伊月くんに見せる。「お、良いな。それじゃあ、これからさっそく買いに行くか」「うん!」支度をして家を出ると、雨上がりの匂いがした。サプライズということもあり、お母さんと光佑さんには今出かけてもらっているから。二人が帰ってくるまでに、買い物や飾りつけをすませなくちゃ!賑わう商店街のなかを、伊月くんと並んで歩く。「陽菜。ここの花屋、評判いいらしいぞ」伊月くんが、スマホを見ながら言う。「へえ。それじゃあ、ここにしようか」花屋に入ると、ふわりと甘い香りに包まれた。「何の花が良いかな」「沢山あると、迷っちゃうね」お花を選ぶ伊月くんの真剣な横顔、良いなあ……って、今は見とれている場合じゃない。「あっ。これ、お母さん好きそう」私は、オレンジのバラの花を指さす。「お母さん、オレンジ色が好きなんだよね」「オレンジのバラか……へえ、花言葉は『絆』『幸多かれ』だって。絆には、断とうにも断ち切れない人の結びつきという意味があるから、結婚祝いにちょうどいいかもな。すいません!」スマホを見ていた伊月くんが店員さんに声をかけ、バラの花を包んでもらう。かすみ草と一緒に、大きな花束にしてもらった。「ふふ。あなたたち、もしかしてカップルさん?仲良いわねえ」「ち、違います!」店員のおばさんにニコニコと言われたけれど、私は慌てて否定する。伊月くんと、恋人同士に見えたのだと思うと嬉しいけど……。「俺たちはカップルじゃなく兄妹で、今日は両親のためのお祝いなんです」伊月くんが、にこやかに答える。「あら、そうなの。兄妹仲良くて、良いわね〜」“兄妹”。本当のことだけど、胸がちくりと痛む。こんなふうに複雑な気持ちになるなんて、私はまだ伊月くんのこと恋愛対象として見ている証拠だよ
last updateLast Updated : 2025-06-06
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