智の魔法で気絶させられた鈴木を担架で保健室へ運び込んだところで、一華に呼び出された絢がご立腹の様子で駆けつけた。 急だったせいかいつもより地味な格好の彼女は、体型に沿った紫のサテン生地のワンピースに薄いコートを羽織っている。強調された胸に釘付けになる智に一華がむくれるという軽い痴話喧嘩が起きて、絢が「やめなさい」と一蹴する。「それより彼をどうにかするのが先よ。何でこんなことになってるの?」 ベッドでガァガァと鼾をたてる鈴木は、時折ニヤニヤと締まりのない顔を見せて起きる気配はない。 地下で遭遇するまでの事情を知らない一華に変わって、智が駅で光を見つけてからの経緯を説明する。「ごめんなさい、ルーシャ。私が施錠するのを忘れてしまって」 謝る一華に重ねて、智も「すみません」と頭を下げた。「まさかつけられてるとは思ってなくて。地下へ誘導する結果になったのは俺の責任です」「僕も……」 咲も続けて謝った。 絢は呆れたように溜息をついて、「二度目はないわよ」とベッドの横へ移動する。「けど彼はどうして学校なんかにいたのかしら」「それは、多分肝試しだったのかも」 ついこの間彼が言っていた事を思い返して、咲が鈴木を振り返った。 メラーレが地下で剣を叩く音を『藁人形に釘を打ち込む音』だと言って、彼はその真相を確かめたいと言っていた。 肝試しのメンバーを探しているようだったけれど、結局誰も見つからなかったらしい。「一人で来たのか。ちょっと気の毒だな」「でも俺たちをつけてあの地下室に辿り着いたんだから、コイツにとっちゃ大成功だったんじゃないか?」「お前にぶっ倒されたけどな」 しかも憧れの一華と智の抱擁を目撃するという大失恋の結末では、流石の咲も鈴木に同情したくなってしまう。「彼一人で良かったわよ。私もこんなことばかりするのが良くないのは分かってるけど、仕方ないわね。今騒ぎを起こすわけにはいかないもの」 キンと耳鳴りがして、咲は絢の手元を見やった。 彼女の細い指先が掌サイズの黒い魔法陣を宙に描く。「少しだけ巻き戻すわ」 彼女は攻撃魔法を殆ど使わない代わりに、補助的な魔法を巧みに操る魔女だ。今彼女は、地下へ入った記憶を鈴木から消すという。 魔法陣を貼りつけた人差し指を鈴木の額に押し当てて、絢は小さく文言を唱えた。 くるくると回る文字列が肌に移
Last Updated : 2025-08-29 Read more