Lahat ng Kabanata ng いもおい~日本に異世界転生した最愛の妹を追い掛けて、お兄ちゃんは妹の親友(女)になる!?: Kabanata 121 - Kabanata 130

185 Kabanata

116 悪い予感がする

 大雨の降る中、人通りの多い道を選んで駅へ向かう。 今日の待ち合わせは、彼の住む町だ。 最寄りの有玖駅まで一駅分の切符を買って電車に乗ると、あっという間にそこへ着いた。駅の周りを囲うように新しいマンションが立ち並んでいて、その奥に住宅街が広がっている。広井町のベッドタウンらしく、駅の階段には分譲マンションの広告が幾つも貼られていた。 ここが彼の住む町だと思うと、嬉しくてたまらなくなる。芙美と一緒に駅へ下りた人も多く、寂しいなんて気持ちにはならなかった。 バスのロータリーの向こうに待ち合わせのコンビニを見つけて、芙美は濡れた傘を開く。早足で向かうと、雑誌コーナーにいた湊がこちらに気付いて店から出てきた。彼は芙美の前に駆け寄ると、心配顔からの安堵を広げて「良かった」と目を細める。「思ったより平気だったよ。克服……できたのかな?」「それは気が早いんじゃないのか? けど、お疲れ様」 子供のおつかいみたいだと笑う芙美に、湊が空いた手を握り締める。 少し震えていたことに気付かれて、彼の手に力が籠った。   ☆ 雨への不安は杞憂だったらしい。心配して芙美にメールを送ると、昼近くになってから「平気だよ」と返事が来た。添付された写真には、これから二人で食べるというハンバーガーが写っている。「コレじゃなくて、顔を写せよ」 とりあえずは無事という事にホッとして、咲はタオルでぐしゃぐしゃと髪を拭いた。 朝、姉の凜にといてもらってフワフワだった髪が台無しだ。そもそも雨の部活にヘアセットなど無駄以外のなにものでもないが、「男の子と一緒なんでしょ?」と詰めて来る姉から逃げる事ができなかった。 男とは言え相手は智なのだから、咲は寝起きのままの状態だって問題ないと思っている。 さっき荷物の所まで下りてきて躊躇いなく服を脱ごうとしたのを、「ヤメロ」と智にテントへ押し込まれた。仕方なく中で着替えたけれど、荷物置き程度のスペースは窮屈で、服がずっとよじれている気がする。 この間雨が降った時、そのまま帰って風邪をひきそうになったのを教訓に、今日はちゃんと着替えを持ってきているが、今日はあの時より大分寒い。ブルブルと肩を震わせると、智が「急ごう」と足を速めた。 雨の部活は智と二人きりだった。 中條から言われたルーティンを終えて、その後剣の稽古もしてみた。智と一
last updateHuling Na-update : 2025-09-08
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117 旗

 広井駅で芙美や湊と合流して夕飯の材料を買ってから、三人で荒野家へ向かう。まだまだ雨は降っていたが、湊の傍らでしきりに笑顔を見せる芙美はコンプレックスなど全くないように見えた。 彼女は家に差し掛かった所で赤い傘を両手に握り締めながら、急に真剣な顔をして道の前へ躍り出る。「お兄ちゃんの部屋、本っ当に凄いから。覚悟しておいてね」 蓮がアニメやゲームが好きだという事も、部屋がオタク部屋だという事も前々から芙美に聞かされている。彼女なりの予防線に咲は「わかった」と頷いたが、どう凄いのかは全く想像がつかなかった。 湊は一度その部屋を見たことがあるという。「チラッとだったからよく分からなかったけど、派手って言うか、眩しかった気がする」 芙美が「ちゃんと見ない方が良いよ」と安堵した。 家に着くと、玄関で蓮が三人を迎える。「いらっしゃい。咲も、メガ……湊くんもどうぞ」 靴を脱いだところで、芙美が不安げな表情で咲の腕をつまんだ。よほど蓮の部屋を見られるのが嫌らしい。「大丈夫だよ」 咲はそっと芙美に笑顔を向けて、蓮の後を追い掛けた。 二階の一番奥、芙美の部屋の二つ隣が彼の部屋だ。前に来た時誘われたけれど、あの時はまだ初対面で、咲は蓮に対して警戒心剥き出しだった。だから部屋に足を踏み込むのは今日が初めてだ。「芙美が、蓮の部屋は凄いから覚悟しとけって言ってたぞ?」「アイツは俺を何だと思ってるんだよ。まぁでも、驚くかも」 悪戯な笑顔を見せて、蓮は部屋の扉を引いた。 何が出てくるんだという緊張は、訓練で山に入ったターメイヤ時代を思い出す。モンスターの気配を感じて、現れた瞬間のテを頭に巡らせる時の緊張だ。 不快な顔を見せたら申し訳ないと思いながら構えると、情報量の多い部屋の様子が視界に雪崩れ込んで来た。「うわぁ」 思わず上げた声は、嫌だと思ったからじゃない。シンプルな廊下から近未来へ迷い込んだ感覚に驚いただけだ。 正面の机には点きっぱなしのパソコンモニターが三つもあって、アニメ絵の壁紙と、グラフのようなものと、ゲームのような荒野の風景が映っている。 後はクローゼットに広めのベッド。大きな本棚の下半分は参考書や勉強用の書籍が並んでいたが、上は漫画や小説など色鮮やかなものばかりだ。 そんな部屋をベースに、芙美のいう二次元の世界が繰り広げられて
last updateHuling Na-update : 2025-09-09
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118 どっちが好き?

 夕飯は前回のお泊り会に引き続いて、またもやカレーを作ることになった。あれこれ悩んだ末、簡単な所に落ち着いた次第だ。 芙美は料理が得意じゃない。女子二人で作るという事でカレーならと張り切ってみたが、結局は手際の良すぎる咲の手伝いをしているだけだ。「あとは煮込んでルウを入れるだけだから、洗いもの頼むぞ? 僕はサラダを作るから」「うん、わかった」 姉に持たされたという咲のエプロンは、やたら少女趣味でレースがフリフリと付いたものだった。 嫌だと文句を言いながらつける咲と、それを嬉しそうに眺める蓮の姿に、芙美は新旧の兄たちを複雑な気持ちで見守る。 男子二人はすぐそこのリビングで、対戦ゲームの真っ最中だった。テンションが高めの蓮の横で、湊が涼しい顔のままコントローラーを握りしめている。最初得意気だった蓮が劣勢に追い込まれて、三回バトルの末勝ったのは湊だった。 蓮が「くそぅ」と残念がって、湊に再戦を申し出る。「結構強いんだな。家でゲームとかするの?」「弟がいるんで、たまに」「そういうことか。小学生?」「いえ、中二です」 沸騰する鍋の灰汁をすくいながら、咲は芙美の側に身体を寄せた。「弟もアイツに似て堅物なのかな」「湊くんは堅物じゃないよ」 とはいうものの、弟がいるという事以外、彼の家族についてはあまりよく知らない。「それより、咲ちゃん大丈夫だった?」 グツグツという音に隠して、芙美はこっそり蓮の部屋の話をする。「大丈夫って?」「凄い部屋だったでしょ?」 家に着いてから、それぞれに別れてニ時間ほど過ごした。 湊と居る緊張が七割で、芙美の頭の三割は蓮の部屋にいる咲の事でいっぱいだった。リビングで湊と借りてきたDVDを見ていたのに、内容を殆ど覚えていない。 咲は「あぁ」と笑って、階段の上をチラと見る。「確かに凄い部屋だったな。近未来っていうか、派手だった」「でしょ?」「けど、嫌だなんて思わなかったよ。蓮と居ると楽しいし、あぁこういうの好きなんだって色々教えてもらったし」「惚気はいいよ。けど本気?」「本気って?」 あの部屋に入って、そんな程度の感想で済ませられる咲を尊敬してしまう。 咲はくし形に切ったトマトを皿に盛り付けると、満足そうに「よし」と手を叩いた。「だって。兄様の部屋はあんまり物がなかったし、アレとは真逆だったでしょ
last updateHuling Na-update : 2025-09-10
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119 貢がれる妹

 夕食後、女子が交代でお風呂に入っている間に、湊と蓮が布団の用意をしてくれた。 客間に寝るのが湊で、芙美の部屋には咲が泊まることになっている。「じゃあ、荷物ここでいいか?」 バスタオルをこんもりと頭に巻いたまま、咲は持ってきたバッグを布団の横に置いた。「うん、好きに使ってくれて構わないよ。咲ちゃんのパジャマ、可愛いね」「これは僕の趣味じゃないぞ? アネキに持たされたやつだからな!」 咲は芙美に念を押して、自分の格好を見下ろす。今日のパジャマは前回のお泊り会の時よりも、更に可愛さが増している気がした。有無を言わせない凛の作戦で、家を出る直前にすり替えられた。 蓮と付き合ってることを知っている彼女に、『芙美の家に泊りに行く』なんて言わなければよかったと思うけれど、口実にできる様な友人なんて他に思い浮かばなかった。 ──『咲ちゃんを彼女にしてくれてありがとうって言う、私から彼への感謝の気持ちよ』 そんな理解し難い姉のせいで、咲は貢物にでもなった気分だ。けれどこんな乙女アピールをする服など着なくたって、咲は自分がまぁまぁ可愛いと思っていた。「むしろ、これが僕だってのが疑問なんだよ」 頭のバスタオルをむしり取って姿見の前に立ったところで、咲はハッと苦虫を噛んだような顔をする。すぐ後ろで膝の絆創膏を貼り替えていた芙美と、鏡越しに目が合ってしまったからだ。 赤いチェックのパジャマ姿で「似合ってるよ」と褒める彼女に「まぁな」とクールに気取って、咲は半乾きの髪をブラシで整えた。 机の上にある目覚まし時計を確認すると、まだ八時前だ。「じゃあ、十一時になったら湊と交代な」 その時間になったら、自分の布団がある部屋に行くという約束だ。「わかった。じゃあ後でね」 「おぅ」と返事して廊下に出ると、階下からシャワーの音が聞こえた。男子はどっちが先に風呂に入ったのだろうと考えながら、咲は自分の額に手を当てる。熱い感じはしなかったけれど、少しだけ喉が痛かった。 浴室から出る時に持ってきた風邪薬を飲んだお陰か、気分はまぁまぁ良い。ここで熱を出したら折角の時間が即終了になってしまいそうで、咲は「大丈夫」と胸を押さえた。 この世界には『病は気から』という言葉があるし、熱くらいそんなものだと思う。 蓮の部屋の扉を叩くと「はぁい」と声がして、中から彼が現れる。 裸だ
last updateHuling Na-update : 2025-09-11
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120 大好き

 やばいやばいやばい…… そんな言葉を脳内で繰り返しながら、咲は蓮のすぐ横でゾンビアニメを見ている。 まだ一話目のアイキャッチが終わった所だ。冒頭から恐怖シーンが出てきているが、怖いとか怯えていられるような状況ではない。 熱がある──はっきりと自覚できた。 けれど、それを言い出すことができなかった。折角楽しい時間を過ごしているのに、熱だなんて全てが台無しになってしまう気がしたし、玄関の前に停まっていた車で強制送還させられるかもしれない。 何よりまだ我慢できる気がした。 ぼんやりと熱い目元に、少しだけ瞼を閉じる。 寒気がして膝を抱え込むと、蓮がそれを恐怖だと捕らえて「怖い?」と咲を覗き込んだ。「ううん、平気だ」 強がってみたものの、こんな近くで蓮に不調を隠し通せるわけがなかった。 画面に突然飛び出たゾンビの顔に驚いて「ヒッ」と声を上げた咲の手を、蓮がそっと握りしめる。 それが決定打だった。「咲?」 途端に表情を強張らせた蓮が、咲の前髪を手でかきあげ、額に頬を押し当てる。「ちょっ……」 急に縮まった距離に慌てる咲を、蓮は真面目な顔で覗き込んだ。「いつから?」「な……何のことだ?」「熱あるだろ」「……大したことないよ。少し前……かな」 まっすぐな視線にたじろいで、咲は咄嗟に嘘をつくことができなかった。「けど、平気だから」「俺に気なんて遣うなよ」「だって。熱があるって分かったら、今日蓮に会えなかっただろ? 会える時は蓮に会っておきたいんだよ。僕は──」「咲」 蓮が咲を抱き締める。最後まで言わせてはくれなかった。「俺だっていつも咲に会いたって思ってる。だから一人で無理なんてするなよ。気付けなかったの分かると、俺だって辛いんだぞ?」「蓮……」「大好きだから、熱でも何でも咲の事心配させて。それとも俺、甘えられないような空気出してる?」 昼間『甘えてこい』と智に言われた。 蓮は、咲が何かおかしなことを言っても、きっと全部受け止めてくれるだろう。だから、「そんなことないよ」と首を振った。「僕は、蓮に甘えてないのかな」 どうやら熱のせいで心も弱っているらしい。 泣きそうになって、咲は慌てて涙を堪えた。「ねぇ咲。会える時に会いたいって、会えなくなるような心配してる? こんな時に言うのもなんだけど、今度の部活の合宿って、
last updateHuling Na-update : 2025-09-12
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121 彼の部屋はどんな部屋

 部屋でDVDの続きを見ようかと提案したところで、ふと足元の寝具が芙美の目に飛び込んできた。今夜、咲が寝る布団だ。 視線が枕にロックオンしてしまうのは、蓮がこの間『眼鏡くんの部屋に抱き枕があったらどうする』という話をしてきたせいだ。今更ながらに気になって、つい本人に尋ねた。「湊くんって、どんな枕使ってるの?」「枕? なんで突然」「あ、ううん。別に深い意味はないんだけど。どんなのかなぁって思って」 抱き枕を使ってるのかとは聞けず、精一杯のさりげなさを装う。 湊は少しだけ見せた警戒心を解いて、咲の枕を掌で押した。「ウチのはもう少し硬いかな。これより一回りくらい大きいけど」「そうなんだ。が、柄は?」「柄? いや、水色の無地だった気がするけど。親が買ってきたやつだし、あんまり覚えてないな」「水色の無地なんだね!」 彼の枕が美少女の萌え絵かどうかなんて、杞憂に過ぎなかったようだ。「当たり前だよね」「何が?」 つい漏らした安堵に湊が反応する「ううん、こっちの話。湊くんの部屋ってどんな部屋なのかなって思って」「……普通だよ?」 一瞬湊が答えを躊躇ったように見えたけれど、そこへの疑問は彼の「あれ」という声に遮られる。「どうしたの?」 芙美ぎが首を傾げると、彼は人差し指を唇に立てて入口の扉へ顔を向けた。 ずっと静かだった廊下の向こうに高い声が響いているのが分かって、芙美はそっと耳を澄ます。「咲ちゃんだ」 蓮の部屋の方から聞こえてくるのは、咲の泣き声だ。立ち上がろうとする芙美の手を引いて、湊が横に首を振った。「聞いたら悪いよ」「うん……」 けれど何故咲が泣いているのか、芙美には見当がつかない。さっき部屋から出ていった時は、いつも通りの彼女だったはずだ。「何かあったのかな」「お兄さんがついてるんだから大丈夫だよ」「そう……なのかな。私、こんな声で泣く兄様も咲ちゃんも見たことないよ」 ヒルスはよく泣いていたけれど、それはもっとあからさまで、大袈裟でうるさかった。 なのに今はそうじゃない。 聞いているこっちの胸に刺さるような悲痛な泣き声に不安が舞い降りて、芙美は湊の手を握り締める。 こんなヒルスの一面があったことを知らなかった。ずっと一緒だったのに、それを出さないように振舞っていたのかもしれない。「あの人は妹に助けを
last updateHuling Na-update : 2025-09-13
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121.5 【番外編】彼の部屋の同居人

 土曜の朝は土砂降りの雨音で目が覚めた。 予報通りに雨が降ったら、という話題で寝る前の電話が盛り上がったせいか、芙美に『おはよう』とメールすると、絵文字いっぱいの元気な返事が返ってくる。 彼女は雨への不安など全くない様子で、今日のスケジュールに話を弾ませた。 一人で来ると言う彼女を心配しつつ、上がりっぱなしのテンションに期待する。今日は二人で会って、咲と合流した後に芙美の家へ泊まりに行く予定だ。 持ち物の点検をすると、ふと横からの視線が気になった。二つ年下の弟・斗真が学ラン姿でコーラのペットボトルを手に部屋の入口に立っている。「どうした? 今日は塾の模試だって言ってなかったか?」「十時からだからまだ余裕。それより──」 斗真は部屋に入り込んでベッドに腰を下ろすと、ペットボトルの口をクルクルと締めて、もの言いたげな顔で湊を見上げた。「兄ちゃん今日泊りなんだろ? 彼女とお泊り?」「はあっ?」 何で知っているんだとは言わず、湊は斗真を睨んだ。「声、上擦ってる。バレバレだって。最近彼女出来たのだって分かってるんだから、教えてよ。お母さんたちには黙っとくからさ」 そんな話を家でした覚えはないし、今日も友達の家に泊ることになっている。「この間クラスの女子に、兄ちゃんが白樺台の制服を着た女子と一緒だったって言われたんだよ」 どうやら斗真の情報源は、彼の同級生らしい。「湊先輩、彼女と歩いてたよぉ」 斗真は声変わりしたての野太い声で女子を真似ると、ベッドの枕を引き寄せて胸にぎゅっと抱きしめる。 ついこの間までゲームや漫画の話ばかりだったのに、夏休み前に彼女ができた辺りですっかり変わってしまった。小さかった背もいつの間にか伸びて目線も近くなっている。「お前に話したら、すぐに広まるだろう?」「いいじゃん別に。兄ちゃんって昔からまぁまぁモテるのに、全然女子に見向きしなかったもんな」 この煩わしい感覚は、咲と話している時に似ている気がする。 こっちは何も言いたくないと思っているのに、斗真はそんなのお構いなしに質問を続けた。「で、どんな彼女? 可愛い? 前に見せてもらった入学式の写真にすごい美人写ってたけど、まさかあの人じゃないよね?」「アレではない」 そこだけはハッキリ答える。咲ではない。 けれど、「だよねぇ」と言う斗
last updateHuling Na-update : 2025-09-14
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122 対抗心!?

「芙美何か言ってたか?」 荒助家に常備してあった経口補水液を半分飲んで、咲は蓮のベッドに入り込む。 「寝てな」と渡された体温計を脇に挟むと、自分の熱で温まった布団に汗が滲んだ。「心配してたよ。けど、俺が看るって言っといたから今日はここでゆっくり休みな」「ありがとう蓮。熱があるって言ったら、家に帰されるかと思った」「まだ雨降ってるし、ちゃんと水分摂って寝た方がいいよ。帰りたいっていうなら送っていくけど?」「帰りたくない」 蓮は「うん」とベッドの縁に浅く座り、持ってきた冷却シートを咲の額にペタリと貼りつけた。 ヒンヤリとした感触が気持ちいいけれど、すぐに温くなってしまいそうだなと咲は思った。 蓮は咲の頭を撫でて、音の鳴った体温計を確認する。「やっぱ高いな」「何度だった?」「三十八度五分」 蓮がデジタルの表示を咲に向ける。「あれ位の雨なんて平気だと思ったのに」「濡れながら身体動かすなら、終わってすぐに乾かさないと熱出るのは当たり前だよ。気分はどう? 落ち着いた?」「どうにか。蓮が居てくれて良かったよ」 そして今日湊を呼んでおいて、本当に良かったと思う。 さっきの涙もこの熱も、きっと芙美に要らぬ心配をかけてしまうだろうけれど、彼がその不安を取り除いてくれるはずだ。「俺は、泣いてる咲が嫌いじゃないし、ちょっと弱ってる咲も、これはこれで可愛いと思ってる」「相変わらず変態だな」「泣いてる咲を受け止めてやれるのって、俺だけだと思ってるから──違う?」「──違わない」 何だか熱が上がってきた気がして、咲はタオルケットを自分の鼻の位置まで持ち上げた。 蓮の匂いがする。「そういえば、このベッド借りてよかったのか? 僕が下でもいいんだぞ?」「構わないよ。それに、上に居てくれた方が俺も動きやすいから」 今日は咲がこの部屋で寝ることになって、蓮がすぐ横の客室から布団を一組運び込んできた。それに蓮が寝るという事は、もう一つの布団は芙美の部屋に残っているという事だ。「あの二人……一緒に寝るのかな」「心配?」「心配」 心配だと思うから、咲が芙美の部屋で寝ることになっていたのだ。 なのにそんな当初の予定は咲の熱であっさりと崩れてしまった。「大丈夫。メガネくんに限って変なことにはならないって」「男は普段淡白そうに気取ってて
last updateHuling Na-update : 2025-09-15
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123 見られていないはず

「なぁ芙美、覚えてる?」 湊が床の布団に入ったまま話を始める。 芙美はベッドに仰向けに寝転んで、白くぼんやりと光る蛍光灯を眺めながら彼の話に耳を傾けた。「リーナはさ、ラルのこと笑わせようとしてたよね」「まだ会ったばかりの頃だね」 突然彼が切り出したのは、ターメイヤ時代の話だ。「そう。前から話そうと思ってたんだけど、なかなかタイミングがなかったから」「気付いてたんだね」「そりゃ、あれだけあからさまにされたら分かるよ」「そんなに?」「だから余計にリーナやアッシュが煩わしいって思ってた」「あぁ……そうだよね」 何となくラルに避けられているのは分かっていた。彼は仏頂面であまり話さず、仕事以外ではいつも一人で居る事が多い。だから最初はリーナもラルを怖いと思っていた。 本人の口から「煩わしい」とハッキリ言われてショックだったが、湊は「昔の事だよ」と加える。 今思うと智が転校して来るまでの湊も、あの頃のラルと同じだった気がした。電車で窓の外ばかり見ていた彼は、いつも側に居た芙美をどう思っていたのだろうか。「ラルは初めて会った時からずっと怒ってるみたいだったから、リーナは笑顔が見たかったんだよ」「ごめん。ラルは戦場での実戦経験があることを誇りに思ってた。全部父親がいたからできた事なのに、自惚れてたんだ」 懐かしむように、少し寂しそうに湊はその話をする。「父親が死んだ頃から世界の情勢は徐々に落ち着いて、暇になった俺に父親の知り合いが勧めてくれたのがリーナの側近だ。ウィザードの片腕になれるっていうから張り切って試験を受けたのに、実際受かってみたら自分の仕えるウィザードは弱そうな女の子だった。もう一人選ばれた奴はお気楽な奴で、正直ガッカリしてたんだ」「ご、ごめんなさい」「いや、そうじゃなよ。俺の自惚れだっていっただろ?」「うん……」 どうやらラルは傭兵時代を重ねて『ウィザードの側近』という任務に殺伐とした環境を求めていたらしい。確かにあの頃は平和だった。訓練はしていたけれど、楽しかった記憶の方が多い。「ハロンが来るまで実戦なんて殆どなかったもんね」 そんな思い出話が続いているが、芙美は今何故こんな話をしているんだろうという気持ちだった。彼にとっては共有したい過去なのかもしれないけれど、もっとこう楽しい話をしたいと思ってしまう。 芙美はベ
last updateHuling Na-update : 2025-09-16
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124 おかゆの味

 気付くとカーテンの奥が明るくなっていた。 蓮の部屋のベッドで目を覚まし、すぐそこに彼の顔がある。床に座り込んだまま枕元に伏せる蓮は、まさか一晩中そこに居たのだろうか。 咲が彼の方へそっと寝返りを打つと、蓮はパチリと目を覚ました。「おはよう、咲」「おはよう、蓮。ずっと看ててくれたのか?」「布団でも寝たよ。さっきあの二人が出て行ったから、見送りして少しここで休んでただけ」「もうそんな時間? 芙美たち部活に行ったのか?」 まだ朝だと思っていたが、壁掛けのデジタル時計を見るともう9時を過ぎていた。「ゆっくり休めて良かったよ。咲は今日部活休めってさ。具合はどう?」 蓮は「取るよ」と言って、咲の額から温くなった冷却シートを剥がした。「気分は……悪くないかな。寝起きでまだボーッとしてるけど」「うん、熱も下がったみたいだ」 咲の額に手を当て「良かった」と笑顔を零すと、蓮は「ちょっと行って来る」と部屋から出て行った。 階段を下りる足音が遠ざかる。 咲は起き上がって、ベッドサイドにあった分厚い本を手に取った。 昨日蓮が壁に掲げられた旗を『コーリア国騎兵団の団旗』だと言ったけれど、この本のサブタイトルにも『コーリア国』の名前が入っている。表紙の隅に描かれているのは、蓮の部屋にあるフィギュアの少女だ。 パラパラとページを捲った所で、蓮が朝食の乗ったトレイを手に戻ってきた。大きめの器から湯気が立っている。「読んだ?」「いや、まだだけど。勝手にごめんな」「いいよ、もし良かったら持って行って。返さなくていいからさ」 蓮は一旦トレイをテーブルに放し、咲を横のクッションへ誘う。「えっ、何で?」「いや、布教用にもう一冊あるから」「布教用?」「興味持ってもらえたら嬉しいってことだよ」「なら読んでみようかな」 咲は「ありがとう」と閉じた本を枕の上に乗せ、ベッドから下りて彼の横に並んだ。 トレイに乗っているのは、少しだけ具の入ったおかゆだ。うっすらと香る出汁の匂いに空腹を覚えて、鳴き出しそうな腹に手を当てる。「美味しそう」「温めてきたけど、食べれそう?」「あぁ。けど、これって蓮が作ってくれたのか?」「いや、ネットでレシピ拾おうとしたんだけど、やってくれるって言うからお願いしたよ」「じゃあ──」 芙美か? と言おうとしたところで蓮が「誰だと
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