ハロンの長い尾を駆け登り、羽のすぐ下を剣で切りつける。弱点だという背中の中心を狙いたかったが、左右に振れる羽が邪魔してそこから先に行くことができなかった。 ここは隔離空間の北の端だ。 うっそうと生える木々が邪魔して戦闘には向かないが、ハロンの巨体が動くたびにメキメキと木が倒れて、少しずつ地面が広がっていく。細かい枝が硬い皮に弾かれて空に舞っていた。 咲はもう一度ハロンに剣を突き付けて、地面へとジャンプする。 ハロンを人間に例えれば蟻程度の攻撃だろうが、繰り返せばダメージを重ねることができるのだろうか。敵の目的が隔離空間からの離脱なら、せめてそれを阻止しなければならない。 咲が地面で構えると、ハロンはすぐに興味を外へ移して壁への体当たりを繰り返した。 足元に刻まれた魔法陣は、やっぱり機能していないと思う。「ルーシャの魔法が失敗だったなんて、そんなことあるのか?」 彼女の魔法は絶対的なもののような気がしていたけれど、良く考えてみればついこの間も同じような事があった。「鈴木の時もそうだったか」 学校の地下に潜り込んだ鈴木に一華と智の関係を見られて、ルーシャに記憶の消去を頼んだが、消えたのは地下室での一連だけだった。 彼女に何か良くないことが起きているのだろうか。「ここの魔法陣に不具合が出てるってんなら、僕が守らなきゃだろう?」 牙を剥き出しにして短く叫んだハロンが、咲の前に滑らせた尾を跳ね上げた。咲は後ろに飛んで着地を決めると、隔離壁に背を向けた巨体と向き合って、声を張り上げる。「いいか、僕を見くびるんじゃないぞ。魔法さえなかったら、僕は智より強いんだからな?」 壁からハロンを少しでも離さなければと思う。 再び倒れた木を避けて、咲は剣を振った。 実戦なんて久しぶりだ。 恐怖からの震えを武者震いだと言い聞かせて、「行くぞ」と舌を出す。 地団太を踏むように踏み込んでくるハロンの咆哮は、女の悲鳴のようにも聞こえた。「オスだと思ってたんだけどな。実はメスだったりして」 腕をかすめた羽に斬り込んで、咲は少しずつハロンを広い方へと誘導していく。一歩一歩と位置を決め、振り上げられたハロンの足の下へ入り込んだ。 踵に剣を突き付けると、よろめいた巨体がまっさらな雪の上へたたらを踏む。途端に白い雪に黒い魔法陣が光った。 運は少しばかり自分に味
Last Updated : 2025-10-18 Read more