時間は私の期待通り、午後三時へと進んでいた。討論会が始まると、私は浩賢との約束通り会議室に来た。視線を上げた瞬間、ミーティングテーブルの周りは人で埋まっていた。中心には森本院長と八雲。八雲の右側には葵が座っている。その場にいる人たちは私の姿を見て表情を一様に変え、葵は特に、驚きと困惑の色を浮かべた。森本院長はすぐ説明した。「皆さんは水辺先生のことをご存じだと思うが、水辺先生が今日来たのは麻酔科の代表としてではなく、神経外科の患者、加藤さんの家族としてだ」そう言うと、私に視線を送って浩賢の隣へ座るよう示した。その時、斜め向かいから視線を感じ、そちらを向くと、八雲の底知れない黒い瞳とぶつかった。波立つことのない表情で、感情は読み取れない。昨夜の不穏な空気を思い出し、胸の奥がさらに落ち着かなくなる。「全員揃ったようだね」森本院長は院長らしい威厳を見せながら言った。「ではまず、患者の症例を確認しよう」森本院長がそう指示し、スライドの一枚目が開かれた瞬間――斜め向かいの八雲が反論した。「森本院長、それは適切でしょうか?」スライドを指していた森本院長の手が止まり、疑問を含んだ視線を八雲へ向けた。「紀戸先生はどこが不適切だと?」「『典型的症例』の患者が、うちの病院医師の親族だという点です」八雲の声は落ち着いていた。「不要な誤解を招きませんか?」その意図は私にも分かる。つまり「院内の麻酔科インターンである私が、身内扱いで優遇されていると思われかねない」ということだ。まして八雲は手術の主刀医で、外来の患者は彼の診察予約を取るだけでも必死だ。そこに私のような内部者が割り込めば、噂の種には十分だ。しかし森本院長は、焦ることなく言った。「医者だって人間だ。医者が患者を守るなら、医者の家族も守られるべきだ。それに加藤患者の症例は特別だ。研究価値もあり、学習にもなる。合理的な判断だよ。紀戸先生、急いで否定せず、まずは症例を見てから意見を言えばいい」大御所の言葉は確かに重い。八雲は私へ淡々と視線を向けたが、それ以上は何も言わなかった。――五分後。症例説明が終わり、森本院長が再び口を開いた。「紀戸先生の言う通り、この手術は難度が高い。しかし君には成功例がある。今回の症例を公開し、皆で学ぶことは、同僚たちにとって良い手本にな
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