私がそう言い終えた瞬間、病室は長い沈黙に包まれた。先輩たちは目を丸くし、誰もが息を飲んだような表情で私を見つめている。さらにその視線には、わずかな同情と……そして侮蔑すら混じっていた。まるで――「分をわきまえろ」そう言われているようだ。だって私は今、患者の血圧異常の責任を、ほとんどそのまま八雲に押し返したのだから。八雲とは何者か。彼は「権威」そのものだ。東市協和病院病院だけではない。国内の脳神経外科領域全体において、誰もが逆らえない絶対的存在。そんな彼に公然と異議を唱えるなんて、先輩たちの目には、私は自分の身の程も知らない愚か者に映っているはずだ。けれど、だから何?権威は確かに絶対的かもしれない。だが、権威だからといって「常に正しい」とは限らない。私はただ、正しく疑問を口にしただけ。それの何がいけない?重い沈黙の中、そばにいた葵が、おそるおそる声を出した。「水辺先輩……その、気持ちは分かりますけど……加藤患者の手術のせいで動揺してる今は、言葉には気を付けたほうがいいと思います……そうじゃありませんか?」彼女はそう言いながら、真剣な表情で私を見つめ、横目で八雲のほうもちらりと見た。その視線には、少しのいたわりの色も混ざっている。つまり、彼女も私が「わざと揉め事を起こした」と思っている。案の定、すぐに他の先輩が続いた。「まあ、水辺先生は若い。臨床経験が足りないのも仕方ない。紀戸先生、どうかお気になさらず」まるで事を丸く収めようとしているような口ぶり。だが私は納得できなかった。「私は理由があって申し上げています。手術中、私たち麻酔チームの静脈カテーテル挿入の提案を紀戸先生が拒み、代わりに紀戸先生が好んで使用する受容体作動薬を選択しました。この薬剤は脳神経外科で灌流圧維持に使われるものです。その性質上、血圧変動が起こり得ます」私は淡々と事実だけを言った。その瞬間、先輩たちの表情が揺れた。疑念、思考、そして小さく頷く者までいた。しかしすぐに彼らは気付いた。私の言葉は八雲の権威を正面から否定するものだと。途端に彼らはまた、他人事のような静観の態度に戻った。「よく言ったな」と、八雲はこのタイミングで口を挟んだ。両手を合わせて私の前で拍手の仕草を見せ、皮肉たっぷりに言った。「水辺先生、ほかに思い
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