目立たないように、私は俊明に先に帰るよう促した。だが彼は足を止め、ふと眉をひそめて、さらに問いかけてきた。「水辺先生、この件は浩賢から俺に話してもらってもよかったのでは?昨夜ちょうど彼と一緒に夕食をとって、そのときも唐沢家について調べてほしいと頼まれたんだ」浩賢も俊明に唐沢家の調査を依頼していた?それはさすがに予想外で、思わず問い返した。「彼は何と言っていましたか?」俊明は足を止めると、再びテーブルのそばへ戻り、小声で言った。「最近しばらく唐沢家の動きを注意深く見ていてほしい、とだけ言われた。以前の件を、あの家がまだ諦めていない気がする、裏で何か仕掛けてくるかもしれない、と。ただ、水辺先生のことはまったく触れていなかったので、水辺先生もこの件を気にしているとは知らなかった」なるほど、そういうことか。どうやら浩賢は、拉致犯が唐沢家と関係している可能性を推測していただけで、具体的な事情までは把握していなかったらしい。ひそかに俊明に協力を頼んだのも、おそらく私の代わりにこの問題を解決しようとしてくれていたのだろう。いずれにしても、浩賢は昔から本当に頼りになる友人だ。「やはり同じ考えでしたね。藤原先生も、松井記者なら必ず真相を突き止められると見込んだのでしょう」私は微笑みながら、俊明を立てるように言った。俊明の端正な顔に、ぱっと明るい笑みが浮かぶ。私はまだ思うように動かない手を持ち上げ、彼の肩を軽く叩いた。「とはいえ、延湾の国境周辺の情勢も不安定ですし、唐沢家の周辺も穏やかではありません。松井記者、くれぐれも安全第一でお願いしますね」「はは、危険な場所に踏み込むのも記者の務めだから。それに、俺たちのような仕事をする人間には、ちゃんと身を守る術があるさ。水辺先生は心配しなくて大丈夫」俊明は自信に満ちた様子で、むしろどこか楽しげですらあった。それは確かに事実だ。かつて彼と仕事をしたことがあり、この記者の機転と身のこなしの良さはよく知っている。実力は申し分ない。さらにいくつか注意を促してから、私はゆっくりと病院へ戻った。病室に着く前、突然スマートフォンに着信が入った。見慣れない番号だ。しばらく画面を見つめたが、誰なのか思い出せない。何かと物騒な時期でもあるし、知らない番号には出たくなかったので、そのまま出ずに、切れるのを待った。
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