「優月、俺たちは三年一緒にいたんだ。お前なら分かるはずだ。俺は嘘をつくような人間じゃないし、お前にも判断力がある。俺が誰のためにやっているかくらい、心の中ではもう」八雲の表情は、これまでになく真剣だった。私は言葉に詰まる。エレベーターの中はしんと静まり返り、上昇する機械音だけが淡々と響いている。彼の黒い瞳と向き合った瞬間、胸の奥に奇妙な感覚が広がった。――確かに、八雲は嘘を好む人間じゃない。要領よく立ち回るタイプでもないし、むしろ不器用なくらい真っ直ぐだ。今の地位だって、すべては実力で掴んできたもの。……じゃあ、本当に嘘はついていないの?彼のしてきたことは、全部葵のためじゃない?家も、お金も、そして今こうして私を見つけ出して、颯也から離れろと言ってくるのも……本当に、私のため?だったら、どうして?私たちはすでに離婚のカウントダウンに入っているのに。彼は私を愛してもいないのに。どうして、ここまで私のことに関わろうとするの?頭の中がぐちゃぐちゃに乱れる。何か言おうとして、唇を開いては閉じる。けれど、結局ひとつも言葉にならなかった。――そのとき。再び鳴り響いた着信音が、張り詰めた静寂を断ち切る。私ははっとして現実に引き戻され、八雲と同時に視線を落とした。画面に表示されていたのは――葵の名前。その名前を見た瞬間、さっきまでの迷いが一気に引き締まる。今回は、彼はすぐには切らなかった。ただ鳴り続けるスマホを握ったまま、応答しようとはしない。でも、分かっている。薔薇子の電話は切れても、葵の電話は切れない。もし切れば、葵は不安になり、疑い、きっと感情を爆発させる。ちょうどそのとき、エレベーターが「チン」と音を立てて止まった。私の階だ。私は一瞬で気持ちを整える。「松島先生からの電話ですよ。早く出てください。私はもう帰ります」確かに疑問は残っている。でも今、掘り下げるべきじゃない。これ以上、彼と葵の間に踏み込むべきじゃない。これからは、距離を取らないと。着信音が、ふっと止んだ。私がエレベーターを出たその瞬間、後ろから足音が追いかけてくる。次の瞬間、肩を掴まれた。「優月――」八雲の声は切迫していた。言葉も速い。「お前の安全が心配なんだ。唐沢家がどれだけ厄介か、お前は知ら
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