All Chapters of 3年間塩対応してきた夫は、離婚の話をされたら逆に泣きついてきた: Chapter 561 - Chapter 568

568 Chapters

第561話

「優月、俺たちは三年一緒にいたんだ。お前なら分かるはずだ。俺は嘘をつくような人間じゃないし、お前にも判断力がある。俺が誰のためにやっているかくらい、心の中ではもう」八雲の表情は、これまでになく真剣だった。私は言葉に詰まる。エレベーターの中はしんと静まり返り、上昇する機械音だけが淡々と響いている。彼の黒い瞳と向き合った瞬間、胸の奥に奇妙な感覚が広がった。――確かに、八雲は嘘を好む人間じゃない。要領よく立ち回るタイプでもないし、むしろ不器用なくらい真っ直ぐだ。今の地位だって、すべては実力で掴んできたもの。……じゃあ、本当に嘘はついていないの?彼のしてきたことは、全部葵のためじゃない?家も、お金も、そして今こうして私を見つけ出して、颯也から離れろと言ってくるのも……本当に、私のため?だったら、どうして?私たちはすでに離婚のカウントダウンに入っているのに。彼は私を愛してもいないのに。どうして、ここまで私のことに関わろうとするの?頭の中がぐちゃぐちゃに乱れる。何か言おうとして、唇を開いては閉じる。けれど、結局ひとつも言葉にならなかった。――そのとき。再び鳴り響いた着信音が、張り詰めた静寂を断ち切る。私ははっとして現実に引き戻され、八雲と同時に視線を落とした。画面に表示されていたのは――葵の名前。その名前を見た瞬間、さっきまでの迷いが一気に引き締まる。今回は、彼はすぐには切らなかった。ただ鳴り続けるスマホを握ったまま、応答しようとはしない。でも、分かっている。薔薇子の電話は切れても、葵の電話は切れない。もし切れば、葵は不安になり、疑い、きっと感情を爆発させる。ちょうどそのとき、エレベーターが「チン」と音を立てて止まった。私の階だ。私は一瞬で気持ちを整える。「松島先生からの電話ですよ。早く出てください。私はもう帰ります」確かに疑問は残っている。でも今、掘り下げるべきじゃない。これ以上、彼と葵の間に踏み込むべきじゃない。これからは、距離を取らないと。着信音が、ふっと止んだ。私がエレベーターを出たその瞬間、後ろから足音が追いかけてくる。次の瞬間、肩を掴まれた。「優月――」八雲の声は切迫していた。言葉も速い。「お前の安全が心配なんだ。唐沢家がどれだけ厄介か、お前は知ら
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第562話

ある疑問のあとには、さらに多くの疑問が続いた。短い空白ののち、入り乱れた思考が一気に押し寄せてくる。八雲は、本当に私が何をしようとしているのか知っているの?どうして知っているの?私は一度も彼に話したことがない。実際、誰にも言っていないのに。それに、彼はいつそれを知ったの?今日、彼は薔薇子と葵を避けて、ミルクティーを買うふりをしながら暗い階段の踊り場に隠れ、私を待っていた。あれは本当に、私に安全に気をつけろと注意するためだったの?さっき彼が言ったことは本当?これまでの行動も、葵のためじゃなくて、全部私のためだったの?頭の中は糸が絡まったように混乱し、そのせいで部屋を間違えてしまった。鍵を取り出してしばらく鍵穴に差し込もうとしても全然入らず、やがて中からドアが開き、驚いた顔の少女が顔を覗かせたところで、ようやく間違いに気づいた。慌てて何度も謝る。幸い相手は気にしていない様子で、すぐにドアを閉めてくれた。私は気を取り直し、自分の部屋番号をしっかり確認してから鍵を開けた。だがその夜、私はずっと上の空だった。シャワーを浴びるときにはお湯を出し忘れ、冷水にびくっとさせられたし、寝る前に水を飲もうとして部屋を出たときには、玄関の鍵をかけ忘れていたことに気づいた。幸い、どれも大事には至らなかった。きちんと鍵をかけ直してベッドに入ったものの、眠れなかった。目は閉じているのに、頭の中は一向に静まらない。八雲の、焦りと切迫に満ちたあの顔が、何度も浮かんでは消えない。「全部、お前のためだ」と真剣に言ったあの言葉。そして去り際に残した、「言ったこと、忘れるな。今はお前の安全が一番だ」という一言。思考は支離滅裂で、体はまるで焼き釜の中で転がされる餅のように何度も寝返りを打ち続けた。どれほど経ったのか分からないまま、ようやくうとうとと眠りに落ちた。それでもアラームをセットしておいたおかげで、翌日は遅刻せずに済んだ。慌ただしく身支度を整え、急いで病院へ向かう。簡単な朝のミーティングを終えたあと、颯也が私のそばに来て、少し身をかがめて顔を覗き込んだ。「昨夜、あまり眠れなかったのか?ウサギがパンダになってるぞ」「大丈夫です、夏目先生。仕事に支障は出しません」私は少し恥ずかしくなって俯きながらも、真面目にそう答えた。
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第563話

「朝食を届けに?」颯也は眉を上げ、驚きを含んだ声を漏らした。彼が驚いた理由は分かる。さっき私は「朝食は食べた」と言ったばかりなのに、浩賢が食事を持って現れたのだから。私は少し気まずくなり、説明しようとした。けれど浩賢のほうが先に口を開いた。彼はランチボックスを開けながら中身を並べ、眉を上げて颯也をちらりと見やる。「ずいぶん大げさに新雅を辞めて東市協和病院まで追いかけてきて、優月を口説こうとしてるくせに、基本的なことも知らないんだね。優月は胃腸が弱いから、朝はちゃんとしたものを食べないと胃が痛くなる。今の住まいじゃ朝食を作るのも不便だし、この時間ならどうせ何も食べてないだろ?」浩賢は確かに私のことをよく知っている。生活リズムも、いつも朝食を食べ損ねがちなことも。けれど彼が颯也に向ける視線や口調には、あからさまな軽蔑と嫌悪が混じっていた。まるで挑発しているみたいだ。もともとこの二人は折り合いが悪く、顔を合わせれば言い合いになる。ここで衝突するんじゃないかと、私は不安になった。「それで、これを食べさせるつもり?屋台の食材は質も良くないし安全とも言えない。そんなものを食べたら、かえって胃腸に悪いだろう」案の定、颯也も眉をひそめ、対抗するような空気を纏う。一瞬で場の空気が張り詰めた。私は焦って、すぐに口を開いた。「大丈夫です……」確かに屋台の味噌汁は家で作るものとは違うけれど、そこまでひどいわけじゃない。営業には資格も必要だし、衛生が悪ければとっくに摘発されているはずだ。そんなに大げさな話じゃない。浩賢は善意で朝食を持ってきてくれたのに、あれこれ文句をつけるわけにはいかない。「誰が屋台で買ったなんて言った?優月に危ないものを食べさせるわけないだろう。これは全部家から持ってきたんだ。うちの野沢(のざわ)さんが作ったものだよ」浩賢はまったく動じることなく、落ち着いた様子で箸とスプーンを取り出して私に差し出した。顎をわずかに上げ、まぶたをゆるく持ち上げて颯也を見るその表情は、「そんなことくらい想定済みだ」とでも言いたげだった。その一言に驚いたのは、颯也だけじゃない。私も同じだった。「藤原先生、これ……家から持ってきたの?それじゃ……」浩賢は今日だけでなく、ここ最近ずっと朝食を持ってきてくれていた。私はずっと
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第564話

藤原夫人は、これらのことをすべて知っていて、それでも反対していないの?胸の中の驚きは一気に頂点に達した。「ふ……藤原夫人が……」「母は君のことをとても気に入ってるよ。一度しか会っていないけど、ひと目で分かったって、しっかりしていて大らかな子だってね。だから、ちゃんと大事にしなさいって言われてる」浩賢は私の言葉を引き取り、澄んだ黒い瞳でまっすぐこちらを見つめながら、穏やかで真剣な口調で言った。胸がわずかに揺れる。以前、入院していたとき、浩賢は藤原夫人が自ら煮込んだスープを持ってきてくれた。そのとき彼は、婚約を解消することを母親が承諾したとも言っていた。けれど私は、その言葉を信じていなかった。その後、彼はその話を二度と口にしなかった。それでも変わらず私に接し続けてきた。そして今日になって初めて、そのすべてを知ることになった――胸に広がる感情は、あの頃とはまるで違う。強く心を動かされる。けれど同時に、目に見えないプレッシャーのようなものが胸にのしかかる。私は浩賢を見つめたまま、何を言えばいいのか分からなかった。「水辺先生、早く食べて」私の戸惑いを察したかのように、浩賢はすぐに話題を変え、食事を促した。それから、顔色の悪い颯也のほうをちらりと見やる。「夏目先生、この朝食は量が少ないから、分けてあげられない。気を悪くしないでね」――わざとだ。完全にわざとだ。分けないだけならまだしも、わざわざ愛想よく言うあたりが余計に腹立たしい。しかもその愛想の売り方が絶妙に嫌味で、なおさらたちが悪い。案の定、颯也の表情はさらに陰り、険しさを増した。体の横に垂らしていた手は強く握り締められ、関節が白く浮き出る。手の甲には青筋が浮かび、その細長い狐のような目は刃のように鋭く、浩賢を射抜いていた。それでも浩賢はまったく意に介さない。その刃のような視線を真正面から受け止めながら、どこまでも穏やかで人のよさそうな笑みを浮かべている。「大丈夫。朝食はもう済ませているから。水辺先生、温かいうちに食べてね。俺はこれで仕事に戻るよ」颯也は握りしめた拳を白衣のポケットに押し込み、私にひとこと言い残すと、そのままオフィスを出ていった。「はい、すぐ食べます」私は少し申し訳なく感じながら答えた。だが浩賢はまったく気にする様子もなく、むしろ
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第565話

「うん」浩賢の去っていく背中を見送りながら、胸の奥にまた温もりが広がった。けれど同時に、あの見えないプレッシャーもいっそう強くなる。浩賢は優しくて細やかで、私を困らせないように「友達」という名目で気遣い、親切にしてくれる。でも――本当は、ただの友達じゃないことくらい、私だって分かっている。なのに、どう断ればいいのか分からない。実際、一度はきちんと断ったはずなのに、今の彼のやり方では、断る理由そのものが見つからない。やっぱり、どこかで改めてはっきりさせるしかない。……その日も仕事は相変わらず忙しく、夕方になってようやく一日の業務を終えた。荷物をまとめて帰ろうとする。だが、オフィスを出る前に、背後から足音が追いついてきた。すぐ耳元で、柔らかな笑いを含んだ声が響く。「優月、今夜は何が食べたい?」颯也の声と笑顔には、どこか人を引き寄せる不思議な力があるのかもしれない。それとも、彼の唇がふと耳元に触れたせいか――まるで火に触れたみたいに、私は思わず跳ねるように身を引き、距離を取って慌てて彼を見た。今度の熱は、耳元から頬へと一気に広がっていく。颯也はその場に立ったまま、楽しそうに私を見つめていた。あの細長い狐のような瞳の奥で、柔らかな光が揺れている。「今夜、ですか?」どうにか気持ちを落ち着けながら、私はようやく意味を理解した。――そうだ、今夜は颯也と一緒に食事をする約束だった。少し気まずくなりながら口を開く。「すみません、夏目先生。今夜はちょっとご一緒できなさそうで……」「用事か?」颯也はわずかに眉を上げる。「はい」私は頷いて、すぐに付け加えた。「別の日に、改めてご馳走させてもらってもいいですか?」彼に「食事に誘われるのが嫌だ」と思われたくなかった。実際、感謝の気持ちもあるし、何度でもご馳走するのは全然構わない。それに、彼と食事をするのは楽しい。料理のセンスもいいし、一緒にいると気分も明るくなる。颯也の、妖しく笑っていた瞳が少しだけ陰り、ほんの一瞬、寂しげな色がよぎる。だがすぐにそれを抑え込み、軽く首を振った。「別に奢ってほしいわけじゃない。大丈夫だ、用事があるならそっちを優先してくれ」「はい、じゃあまた明日」それ以上気にかけている余裕はなかった。廊下の向こう
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第566話

颯也が持っていったその検査用紙は、西岡先生があらかじめ私のために用意してくれていたものだった。西岡先生が勤務時間を過ぎても外来に残っていたのは、私が検査を受けに来るのを待つためで、その検査用紙もすでに書き終えて机の横に置いてあったのだ。それを颯也は迷いなく手に取り、そのまま私の手首を掴んで歩き出した。まるで、隣にいた浩賢の表情がどんどん険しくなっていくのなど、最初から気にも留めていないかのように。私も西岡先生も、しばらく呆然としていた。西岡先生は状況をまったく把握できないまま、机の上の検査用紙を勝手に持っていかれてしまった。その一方で私は、反応する暇すらなく、そのまま颯也に強引に連れて行かれた。「待って」整形外科外来を引きずり出されそうになったその瞬間、もう片方の手首を誰かに強く掴まれた。浩賢だった。彼は私の手をぎゅっと握りしめ、頬を強張らせ、眉を深く寄せている。普段は優しく穏やかなその目が、今は颯也を鋭く睨みつけ、不満と怒りを隠そうともしていない。「夏目さん、何をしてるんだ?」「見て分からない?優月を検査に連れていくんだよ」颯也は足を止めざるを得なくなり、振り返って浩賢と視線を合わせた。細く吊り上がった狐のような目がわずかに細められるが、そこに譲る気配は一切なかった。「優月は俺が連れてきたんだ。西岡先生だって俺がお願いした。だから俺が連れていけばいい。君が出しゃばる必要はない!」浩賢の視線はまるで刃のように鋭く、息も荒くなっている。それでも颯也はまったく意に介した様子もなく、口元を歪めて妖しく笑った。「ずいぶん大きな口だね、藤原さん。知らない人が聞いたら、優月が君の所有物みたいに思うぞ。連れて来るのも連れて行くのも自由、そのうえ全部君の言う通りにしろって?」笑ってはいるが、その鋭さはまったく引けを取らない。案の定、その一言で浩賢の怒りは一気に跳ね上がった。私の手を握るその手はわずかに震えていて、声にも強い圧がこもっている。「優月は物じゃない!俺は一度だって彼女の意思に反することをしたことはない!それより君だろ、優月の気持ちを聞いたのか?勝手に引っ張って検査に連れて行って、彼女が本当に君と一緒に行きたいと思ってるのか?」口論に関して言えば、浩賢は颯也に敵わない。浩賢は実直で真っすぐな性格で、普段
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第567話

一人は、実直で温かく、何度も私に寄り添い、共に困難を乗り越えてきた。もう一人は、専門分野で何度もぶつかり合いながらも不思議と息が合い、しかも何度も根気強く支えてくれた。どちらも大事な友人。どちらも同じくらい大切で、優劣なんてつけられないのに、どういうわけかこの二人は犬猿の仲で、顔を合わせれば必ず言い争いになる。どちらかを選べば、もう一方はきっと傷つく。その瞬間、私はこの二つの熱く真っ直ぐな視線を真正面から受け止めながら、これまでの人生で一番難しい選択を迫られていると感じた。どうすればいいのか分からず、私は思わず顔を上げ、診察室にいる「もう一人」へと視線を向けた。診察室の中で、西岡先生はすでに状況を完全に把握していた。だが、私の助けを求める視線には気づかないふりをして、机の端からさっと一冊の本を取り上げると、それを顔の前に掲げ、いかにも「読書に集中していて何も見えていません」と言わんばかりに。私は唇を軽く噛んだ。……仕方ない、西岡先生を巻き込むのはやめよう。西岡先生にとっては、どちらも同じ病院の同僚だ。どちらかの肩を持てば、もう一方を敵に回すことになる。それに、そもそもこの件は西岡先生には無関係なのだから、無理に関わる必要はない。結局、私が自分でなんとかするしかない。私はもう一度唇を引き結び、深く息を吸ってから、静かに口を開いた。「藤原先生、夏目先生……もう争うのはやめませんか。こうしましょう。お二人ともここで待っていてください。私、一人で検査に行って、終わったらすぐ戻ってきます」どちらも選べないなら、いっそ誰も選ばない。これが唯一の解決策だった。だが、言い終わった瞬間――両手首が同時にぎゅっと締め付けられ、二方向から強い力で引っ張られた。「ダメだ!」「ダメ!」声がぴたりと重なる。颯也と浩賢がそれぞれ片側から私の手を強く握り、どちらも離そうとしない。状況はさらに悪くなっていた。さっきまではただ間に挟まれているだけだったのに、今は両側から引っ張られているようだった。「一人でなんて危ないだろ。俺が付き添うよ、優月」「夏目さん、ほんと図々しいな!放せよ、優月を!付き添うなら俺だろ!」手だけでなく、言葉でも激しくぶつかり合う二人。私はさっき以上にどうしていいか分からなくなる。「お願
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第568話

葵は、明らかにわざと八雲を試しているのだ。私が浩賢を選ぶのか、それとも颯也を選ぶのか――そんな噂話をしているように見えて、実際には八雲の私に対する態度を探ろうとしている。彼女はまだ八雲を完全には信じられていない。心のどこかで、彼と私の間にまだ何か曖昧な関係が残っているのではないかと疑っている。でも、それは一体どうして?八雲が葵に向ける感情は、誰の目にも明らかだ。私に対する態度だって、同じようにはっきりしている。それでもなお、葵はまだ八雲が彼女に対して揺るぎない想いを持っていると、確信できないのだろうか。もしかすると、あの拉致事件で受けた傷が、彼女を変えてしまったのかもしれない。かつては疑いもなく信じられたことが、今では何度も確かめなければ安心できないのだろう。私は指先をぎゅっと握りしめ、喉元までこみ上げてきた不満を無理やり押し込んだ。……もう考えるのをやめよう。そう思った、そのとき。八雲の低く静かな声が、不意に響いた。「水辺先生も、手首の回復具合を診てもらいに来たんだよね?」彼は葵の問いには答えず、まったく別の話題を口にした。「……はい」少し意外に思いながらも、私は反射的に答えていた。そしてすぐに気づく。八雲が葵を連れてここに来ているのも、彼女の手首の経過を診てもらうためなのだと。だから、ここで鉢合わせたのか。八雲は、本当に何から何まで世話を焼いている。ずっと葵に付き添い、あらゆる面で気を配り、今日のこの検査にだって、自ら付き添っている。さっき西岡先生の机にもう一枚検査用紙があったのを思い出す。あれはきっと葵のためのものだ。おそらく、それも八雲が手配したのだろう。……それなのに、同じ拉致事件の被害者であるはずの私――しかも、妻である私には、八雲は一度だって付き添ってくれたことはない。気遣いの言葉すら、かけてくれたことはなかった。それどころか、私はいつの間にか、それが当たり前だと感じるようになっていた。だからこそ、今こうして八雲から声をかけられたことに、逆に戸惑ってしまう。そして次に彼が口にした言葉は、さらに私を驚かせた。「水辺先生の手首はまだ完治していないのに、藤原先生と夏目先生はこうして引っ張り合って……彼女の負担をまったく考えていないんだね。そんな状態で、本当に『
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