一本の着信音が、静まり返った重苦しい空気を破った。浩賢は私に一言「ごめん」とだけ告げると、慌ただしく病室を出ていった。藤原夫人のスープはさすがの出来栄えで、香りだけで、その美味しさが伝わってくる。だが、ひと口飲もうとした瞬間、吐き気にも似た、覚えのある不快感だった。――胃の調子が、またおかしい。これは魚のスープで、生臭さもほとんど感じられないほど丁寧に下処理されている。それでも、ここ最近ずっと気分が優れないせいか、どうしても食欲が出ず、こうした違和感ばかり覚えてしまう。せっかくの美味しいスープなのに。藤原夫人の心遣いも、なんだか申し訳ない。そんなことを思っていると、スマホからLINEの通知音が鳴った。紬さま:【美人さん、どうしてまだお見舞いに来てくれないのですか?会えなくて気が狂いそうなんですけど】この子ったら。昼に「ここ数日は休みを取っているから、数日後に行くね」と伝えたばかりなのに、夜にはもう文句を言ってくる。私は返信した。【どう狂いそうなんですか?】紬さま:【今にも飛び跳ねて暴れたくなるくらいの狂い方】【その状態で、本当に飛び跳ねられますか?】彼女はつい数日前に手術を受けたばかりで、肋骨骨折に心臓の損傷まである。そんな状態で跳ね回れるはずがない。紬さま:【はあ……実は麻酔が切れて痛くてたまらなくて、飛び跳ねたいくらいってこと。美人さんが来てくれたら、少しは痛みも和らぐかもしれないのに……】なるほど、紬は痛みに耐えきれず、麻酔科医である私に来てほしいというわけだ。少し考えてから、保温容器を手に取り、病室を出た。紬の病室の前に着くと、彼女はまだベッドに横たわり、片手でスマホを握りながら小さくうめき声を上げていた。「美人さん、どうして返信くれないの?紬さまがおしゃべりすぎて嫌になった?」「一日中ふざけてばかりで、私とはろくに話もしないくせに、スマホを抱えて他人とはずっとおしゃべり。もう騒ぐのはやめなさい」ベッドの傍らに座っていた霜子が、一口サイズに切った果物を紬の口元へ運ぶ。「少しは果物を食べなさい」「もう食べたくないってば。お母さん、毎日アワビだの高麗人参だのばっかり食べさせるから、顔までむくんできたんだよ。お願いだから勘弁して。これから撮影もあるのに、アンパンマンみたいな顔になっちゃ
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