自身を軽々と抱き、宙を散歩する全 思風の姿に、華 閻李は声を失った。 浮遊する彼の足元を見れば、黒い羽が階段を造っている。それを伝って上へと登る様は、まるで宵闇の王のよう。地上にある町を見ようとしても、既に豆粒状態だ。それほどまでに上空へと進んだ全 思風は、歩みを止めていった。 山すら視界に入らなくなると、彼は足元にある黒羽根の階段を一度だけ蹴る。瞬刻、階段は地上に近い場所からパラパラと崩れていった。残ったのは二人が立っている部分だけとなる。「……はあー、風が気持ちいいね」 全 思風の長い三つ編みが靡く。 華 閻李は彼の黒髪を目で追い、その姿を焼きつけた。 彼の顔は美しさのなかに鋭さがある。それは誰も答えることができない、強い眼差しだ。烏の羽のように深く、底が見えない。 華 閻李の視線に気づいた彼は、顔を近づけてくる。彼の長いまつ毛から影が生まれた。女性のようとまでは言わないが、それでも整った顔立ちをしている。 ──本当に綺麗な人だ。どうして僕にここまでするのかはわからないけど……それでもこの人となら、どこまでも行けるんじゃないかって思えてしまう。 彼の姿勢は気高かった。 それでいて柔らかな笑み。 端麗で何者も寄せつけないほどに煌めく姿に、華 閻李は声を失った。「うん? どうしたの?」 ズイッと、微笑みながら華 閻李へ顔を近づける。よく通る声で語りながら子供の額に一つ、口づけを落とした。 すると、彼の耳を隠していた髪がふわりと捲れていく。形のよい耳ではあったが、先が尖っていた。 華 閻李からの熱い視線に気づいた彼は、大人っぽい表情のままに口元へ笑みを浮かべる。そして子供の髪を優しく撫で「幸せだなあ」と、平和な時間を満喫していた。「ふふ、どうしたの? 私の顔に何かついているのかい?」「……あ、あの! ……っ!?」 空気の薄い場所で大きな声を出したせいか、噎せてしまう。支えてくれている|全 思風《チュアン
Last Updated : 2025-04-19 Read more