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All Chapters of 鳥籠の帝王: Chapter 41 - Chapter 50

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恋の行く先

 |全 思風《チュアン スーファン》は堂々と正面から|妓楼《ぎろう》の中へと|侵入《しんにゅう》した。普通ならばその時点で誰かが姿を現し、彼へ敵意や攻撃を向けてくるものなのだが…… 「静かだ」  彼の足音のみが|響《ひび》く。それでも|全 思風《チュアン スーファン》の手には剣が握られていた。 周囲を見渡せば|朱《あか》の|絨毯《じゅうたん》や柱、壁までもが|深紅《しんく》に染まっている。天井には異国の地から取り寄せたであろう|枝形吊灯《シャンデリア》が|眩《まぶ》しく輝いていた。 「ああ、本当につまらない」  顔を下に向かせながら、そう、|呟《つぶや》く。三つ編みにした長い黒髪がゆらりと揺れた。それを気にする様子すらなく、ただ|朱《しゅ》の階段を登っていく。   そんな彼の周囲には人の姿をした者たちがたくさんいた。 女は白い|漢服《かんふく》を着、美しい|簪《かんざし》を頭につけている。子供は男女問わず着飾ってはおらず、質素な|漢服《かんふく》を着ていた。男たちは青や水色などの|漢服《かんふく》を着用している。  けれど彼ら、彼女たちは、うんともすんとも言わなかった。黒目の部分は消え、どこを見ているのかわからない白目だけを見開いている。 |瞬《まばた》きすらしない。 呼吸もない。  不気味そのものの、人らしき存在たちだった。 「……ああ、これは考えてなかった。|小猫《シャオマオ》の事で頭がいっぱいになっていたな」   そこは予想していなかったなあ、と大笑いする。 剣を|一振《ひとふり》し、道を|塞《ふさ》ぐ者たちを|風圧《ふうあつ》で吹き飛ばした。飛ばされた者たちは壁や柱に体を打ちつける。けれど痛みを感じないようで、小さな|唸《
last updateLast Updated : 2025-04-22
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嫉妬と憎悪

 |妓女《ぎじょ》の高笑いは止まることがない。我を忘れて笑い続ける様は、美しさとは無縁なほどに不気味さが|際立《きわだ》っていた。  「……|思風《スーファン》って、|思《スー》の事?」  体力が限界を迎えていく。目覚めたばかりだというのに、|華 閻李《ホゥア イェンリー》の|瞼《まぶた》は閉じはじめていた。 けれど知った名を口にされたため、女を見つめながら小首を|傾《かしげ》げる。  |妓女《ぎじょ》は高笑いをやめ、|華 閻李《ホゥア イェンリー》をひと|睨《にら》みした。華やかな美女から一転、憎しみや|嫉妬《しっと》にまみれた瞳となる。|獣《けもの》のように|瞳孔《どうこう》を細め、怒りを足音に乗せて|華 閻李《ホゥア イェンリー》に接近した。やがて、怒りに任せた足取りが止まる。 「わたくしの|思風《スーファン》様を、|馴《な》れ|馴《な》れしく呼ぶでないわ! |小僧《こぞう》が!」  |華 閻李《ホゥア イェンリー》の前髪を|掴《つか》んだ。痛みに苦しむ|華 閻李《ホゥア イェンリー》を無視し、|妓女《ぎじょ》は身勝手な腹立ちまぎれに|罵詈雑言《ばりぞうごん》を浴びせる。  彼の頬に爪を立て、白い肌に血を流させた。 けれど|華 閻李《ホゥア イェンリー》は泣くどころか、キッと睨みつける。  それがいけなかったのだろう。|妓女《ぎじょ》からすればその強気な態度がますます|癪《しゃく》に触ったようで、爪をさらに深く食いこませた。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は痛みに|耐《た》えきれず、消えいる声とともに眉をしかめる。 「ふふ……あはは! |小僧《こぞう》が生意気な口を聞きおって。そなたなど、わたくしの体の穴を埋める|贄《にえ》に過ぎ……」 
last updateLast Updated : 2025-04-23
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裏で蠢(うごめ)く者

 ──これはまずい! ここにいたら、|小猫《シャオマオ》の体が持たない。  |朱《あか》く光る床から|淡《あわ》い|蛍火《ほたるび》のようなものが浮かんだ。それは無数にもなり、部屋中をふわふわと浮いている。 一見すると美しく、幻想的な光景だった。しかし現実はそうではない。この光が|華 閻李《ホゥア イェンリー》に触れるたび、子供は表情を苦痛に歪ませていった。 「……っ|躑躅《ツツジ》!」  |華 閻李《ホゥア イェンリー》が名付けた|蝙蝠《こうもり》を|凝視《ぎょうし》する。すると|蝙蝠《こうもり》は黒い|両翼《りょうよく》を羽ばたかせ、天井目掛けて突撃した。 その一回で天井を突き破り、回転しながら外へと出る。 「……|躑躅《ツツジ》、この陣を|破壊《はかい》しろ!」   言うが早いか、|蝙蝠《こうもり》の行動の方が先か。それを考える者はこの場にはいなかった。  |全 思風《チュアン スーファン》が後ろへと飛ぶ。 瞬間、|蝙蝠《こうもり》は口を開けた。大きく息を吸い、勢いをつけて吐き出す。放出したそれは|突風《とっぷう》となり、床に|燻《くすぶ》っていた淡い|蛍火《ほたるび》を消していった。|蝙蝠《こうもり》|の躑躅《ツツジ》は満足げに、ふんすと鼻を高く上げる。  |全 思風《チュアン スーファン》は急いで|華 閻李《ホゥア イェンリー》の細い首に指をあて、脈を確かめる。規則正しいとは言えないが、それでも正常に戻りつつあるようだった。 |全 思風《チュアン スーファン》は胸を|撫《な》で下ろし、床を確認する。多少、陣の名残があるものの、ほとんど光を失っていた。彼は|華 閻李《ホゥア イェンリー》を抱えながら、足で|血命陣《けつめいじん》の一部を|擦《こす》る。 そうすることで陣は機能を|喪《うしな》い、発動できなくなると考えたからだ。その|思惑《おもわく》は
last updateLast Updated : 2025-04-23
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白、そして黒き冥(やみ)

 |全 思風《チュアン スーファン》は屋根を伝いながら白服の男たちを追った。 下を見れば、街の人々が困惑した様子で道を|塞《ふさ》いでいる。彼らは|殭屍《キョンシー》ではなく人間に戻っているようで、かなりの|動揺《どうよう》が走っていた。 それを屋根上から確認していると、見知った男の姿を発見する。男は|爛 春犂《ばく しゅんれい》で、|全 思風《チュアン スーファン》を見るなり屋根の上へと飛び乗った。 「──|全 思風《チュアン スーファン》殿、そちらは終わったのか?」 「ああ、終わったよ。|小猫《シャオマオ》は疲れてるみたいだから、安全な場所で休んでもらってる。それより……」  二人はざわつく人々を下に、逃げている白服の者たちを追いかける。ときには木々を利用し、あるときは|提灯《ちょうちん》をぶら下げる太い糸に掴まり、壁を蹴りながら屋根へと登った。 前を逃げる数人の白服へ、|全 思風《チュアン スーファン》は剣を|投球《とうきゅう》する。しかし彼ら白服の者たちには、それぞれの剣で弾かれてしまった。 「……へえ、なかなかにやるね。でもさ?」  ふっと、片口に笑みを浮かべる。右の人差し指をくいっとあげた。 |全 思風《チュアン スーファン》の剣は糸で|操《あやつ》っているかのように空中に浮く。彼は気にすることなく、指先で|空《くう》を斬った。剣は彼の言いつけを守るかのように、|不規則《ふきそく》な動きで白服たちを|翻弄《ほんろう》していく。 「|剣操術《けんそうじゅつ》か。|全 思風《チュアン スーファン》殿は、|仙術《せんじゅつ》にも|精通《せいつう》していたのか?」   |爛 春犂《ばく しゅんれい》は驚きつつ、自身も剣操術《けんそうじゅつ》を|繰《く》りだした。  二人の|剣操術《けんそうじゅつ》は次々と白服の者たちを切り裂いていく。
last updateLast Updated : 2025-04-23
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華章 自分に出来ること 夢と現実

 "約束して" |瓦礫《がれき》の山に埋もれた|腐敗臭《ふはいしゅう》が|漂《ただよ》うなか、優しい声が走る。燃え|盛《さか》る|家屋《かおく》、泣き叫ぶ人々。 それらを耳にしながらも声の主は語った。「──君を必ず迎えにいくよ。だから、私の事を覚えておいて」  悲鳴や|業火《ごうか》で|阿鼻叫喚《あびきょうかん》が飛び交うこの場においても、声の主は笑う。「君が世界のどこにいても、私が見つけるから」 声の主の髪は黒かった。それはそれは長く、顔を隠すほどに暗闇に満ちた髪である。けれど瞳は|焔《ほのお》を移し取ったような、|燦々《さんさん》とした|朱《あか》だった。 |凛《りん》とした姿勢の上には|漆黒《しっこく》の|漢服《かんふく》を着ている。スラリと伸びた身長で、|骨格《こっかく》や声からして男性であることが|伺《うかが》えた。 そんな男の前には、ボロボロになった子供がいる。声が届いているのかすらわからないほどに泣きじゃくり、顔を涙でぐしゃぐしゃにしていた。 けれど子供の周囲には、この場に不釣り合いな色とりどりの花が落ちている。|山茶花《さざんか》、|木蓮《もくれん》、|桔梗《ききょう》などの花だ。それらは子供が泣く度に宙へと舞い上がる。 瞬間、|山茶花《さざんか》は雪になった。|木蓮《もくれん》は炎、|桔梗《ききょう》は小石へと姿を変える。 男はこの光景を見ても美しく笑むだけだった。「……今はまだ、◼️◼️を迎え入れるだけの力がない。私個人にはあっても、全てにはないんだ」 男は舞う花を一つだけ掴み、腰を曲げて片膝をつく。 泣きじゃくる子供の頬に触れ、そっと口づけをした。子供の唇はかさついているが、声の主は嬉しそうに微笑する。子供のもちもちとした|柔肌《やわはだ》を少しだけ|堪能《たんのう》し、やがて立ち上がった。「──ああ、もう行かないと」 泣いている子供へ再度腕を伸ばしかけたが、素早く引っこめる。|踵《きびす》を返し、泣く子供へと背中を向けた。 あちこちから聞こえる悲鳴や、鼻をつくような嫌な臭い。それらをもろともせず、声の主は歩き出した。 ふと、何かを思い出したかのように立ち止まる。そして自身の髪を二本抜いた。髪に、ふーと息を吹きかける。すると不思議なことに一本は|蝙蝠《こうもり》、もう一本は小さな|勾玉《まがたま》へと変わっ
last updateLast Updated : 2025-04-23
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奇妙な旅路、それぞれの行く末

 ガッポガッポと、|砂利道《じゃりみち》を一台の|荷馬車《にばしゃ》が進む。道の|両脇《りょうわき》には雑草が生い茂り、田畑もあった。|疎《まば》らではあるが、家屋が並んでいる。けれど家のほとんどはボロボロで、人が住んでいる気配はなかった。 周囲には|尖《とが》った山が多く、側には|運河《うんが》が流れている。水は|透明《とうめい》で、底を泳ぐ魚の姿すら見えた。 雑草の合間から野うさぎが飛び出しては、どこかへと行ってしまう。 見上げた空は青く、雲はゆったりと動いていた。太陽の光が|眩《まぶし》しく地上を照らしている。どこまでも続く空には|鳶《とんび》が飛んでおり、鳴き声が遠ざかっていった。 「──うわあ、自然がいっぱいだあ! あ、うさぎがいる。可愛い!」  |華 閻李《ホゥア イェンリー》は荷馬車の窓から顔を出し、もふもふとしたうさぎを目で追いかける。   彼らは水の都である蘇錫市(そしゃくし)を後にし、次の場所へ向かうべく馬車に乗っていた。   黒髪で三つ編み、美しい顔立ちの長身の男は|全 思風《チュアン スーファン》だ。彼は整った顔立ちに笑みを浮かべながら、前の椅子に座って|手綱《たずな》を|曳《ひ》いている。鼻歌を|披露《ひろう》しながら|優雅《ゆうが》に先頭を陣取る様は|吟遊詩人《ぎんゆうしじん》のよう。 馬の身体に巻きついた|紐《ひも》を操作し、|砂利道《じゃりみち》を進んだ。  そんな彼を尻目に、荷馬車には|二人《・・》の者がのんびりと座っていた。  一人は|禿《とく》という|國《くに》では珍しい銀の髪を持つ、|儚《はかな》き見目の美しい少年である。少女のような愛らしい顔立ちと、ぱっちりとした大きな両目、病的なまでに白い肌など。|庇護欲《ひごよく》をそそるほどに神秘的な雰囲気を持っていた。 金の|刺繍《ししゅう》が施された|朱《あか》の|外套《がいとう》が彼の銀髪に映える。普段は床
last updateLast Updated : 2025-04-23
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闇に蠢(うごめ)く皇帝

 |禿《とく》王家の者たちは、代々|不慮《ふりょ》の死を|遂《と》げていた。 初代皇帝は行方不明のままに、|遺体《いたい》すら見つからず。二代目皇帝は毒殺。そして三代目皇帝|魏 曹丕《ウェイ ソウヒ》は、権力争いの最中に病気で命を落としたとされていた。  今の皇帝はその息子で、幼くして帝位につく。暴君ではないけれど、尊敬されるほどの者ではなかった。どちらかというと、やりたくない皇帝を無理やりさせられたような……のんべんだらりとした、自由人と言われている。 「私は先代皇帝、|魏 曹丕《ウェイ ソウヒ》様が生きていた頃、ある存在を探しに|黄族《きぞく》へと潜りこんだのだ」  とどのつまり、|爛 春犂《ばく しゅんれい》は|黄族《きぞく》ではない。|黄族《きぞく》の格好をしているのは、彼らの信頼を得るためであると告白した。 「……先生は、いつから|黄族《きぞく》に?」  |全 思風《チュアン スーファン》に|抱擁《ほうよう》され、落ち着いたのだろう。|華 閻李《ホゥア イェンリー》は涙を拭いて|爛 春犂《ばく しゅんれい》へと向き合った。  |爛 春犂《ばく しゅんれい》は一度|瞼《まぶた》を閉じる。そしてゆっくりと開き、|懐《ふところ》から一冊の帳面を取り出した。 その帳面の表紙には[|禿《とく》王朝の歴史]と書かれている。 「これには、初代皇帝から今に至るまでの名が記されている」  中身は|機密事項《きみつじこう》なため見せることはできないが、これを元に目的を|遂行《すいこう》しているのだと|口述《こじゅつ》した。 「私の目的はいくつかある。その内の二つは他者に伝えても構わぬと言われている」  帳面を引っこめる。 淡々と、それでいて言葉の全てがハッ
last updateLast Updated : 2025-04-23
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初代皇帝の華

 全ての事件の黒幕は初代皇帝ではないか。 |爛 春犂《ばく しゅんれい》のそれはあまりにも現実味がなく、|華 閻李《ホゥア イェンリー》と|全 思風《チュアン スーファン》は眉をしかめた。  しかしその予想に|全 思風《チュアン スーファン》が待ったをかける。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》を膝の上に乗せ、子供の両手をニギニギとした。子供らしい肌の滑らかさはもちろん、男にしては小さな手である。 顎を子供のふわふわとした頭の上に置き、|爛 春犂《ばく しゅんれい》に冷めた眼差しを送った。  ──ふふ。|小猫《シャオマオ》は会った頃に比べて、肉がついたかな? それに、とってもいい|薫《かお》りがする。これは……|薔薇《ばら》、かな?  花の術を使う|華 閻李《ホゥア イェンリー》らしい|薫《かお》りだなと、子供の暖かさとともに|癒《いや》しの時間を味わう。  「──|爛 春犂《ばく しゅんれい》、どうして初代皇帝が絡んでいると? そもそも初代皇帝はもういないんじゃないのかい?」  そんなに長生きできる人間なんかそうはいない。 人ならざる力を得ている|仙道《せんどう》であっても、せいぜい数百年程度だろう。しかしそれは仙道だからこそ。 初代皇帝は普通の人間だ。百歳まで生きたら長寿と言われるだろう。 「……それとも初代皇帝は仙道だったわけ? そう言いたいの?」  |喧嘩腰《けんかごし》に言葉を投げた。|爛 春犂《ばく しゅんれい》を敵でも見ているかのように、|咎《とが》めるような視線を送る。  |爛 春犂《ばく しゅんれい》は彼からの質問を微笑しながら答えはじめた。 「いいや。ただ、死体が見つかっておらぬのなら、その可能性も視野に入れるべきだと思う
last updateLast Updated : 2025-04-23
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これからは三人で

 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は初代皇帝の|寵愛《ちょうあい》を受けた一族の生き残りであった。そしてその一族が|殭屍《キョンシー》事件に|関与《かんよ》しているのではないか。 |爛 春犂《ばく しゅんれい》を含む先代皇帝たちは、そう考えているようだった。  当然それに反発の声をあげたのは|全 思風《チュアン スーファン》だ。彼は|威風《いふう》堂々としていた姿勢のまま、瞳を|深紅《しんく》に染めて闇を見せた。 「……その言葉の意味で言うなら、|小猫《シャオマオ》が関与してるって事になるけど?」  敵対をしているわけではないのに、|爛 春犂《ばく しゅんれい》を睨む瞳は冷たく凍えている。  |爛 春犂《ばく しゅんれい》は首をふり、そうではないとだけ|呟《つぶや》いた。 「|閻李《イェンリー》は何も知らぬだろう。自身の出生の秘密はおろか、一族の事さえわからぬだろうな」 「……その言葉に確証はあるわけ? もちろん私はあの子がどんな事をしてても、ずっと一緒にいるって|誓《ちか》ったからね。悪とかそんなのよりも、私がどうしたいか。それが重要だからね」  |華 閻李《ホゥア イェンリー》という子供を愛するがゆえに、|全 思風《チュアン スーファン》は|冥界《めいかい》の王としての立場を|棄《す》てることができる。 そう、断言した。 「相変わらず|全 思風《チュアン スーファン》殿は、|閻李《イェンリー》しか見えておらぬか」  |爛 春犂《ばく しゅんれい》が苦笑いをすれば、|全 思風《チュアン スーファン》は子供っぽく舌を出して抵抗する。 「……心配なされるな。先ほども申したようにあの子は、|殭屍《キョンシー》事件には|関与《かんよ》してお
last updateLast Updated : 2025-04-24
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適正

 ガラガラと、三人を乗せた馬車が砂利道を進む。  |全 思風《チュアン スーファン》が|手綱《たずな》を|曳《ひ》き、馬を走らせていた。その後ろにある荷の部屋では、|華 閻李《ホゥア イェンリー》と|爛 春犂《ばく しゅんれい》の二人がいる。 |華 閻李《ホゥア イェンリー》は膝の上に白い仔猫こと|白虎《びゃっこ》、頭の上に|蝙蝠《こうもり》の|躑躅《ツツジ》を乗せていた。  二匹のかわいい動物に囲まれて喜ぶ|華 閻李《ホゥア イェンリー》をよそに、|爛 春犂《ばく しゅんれい》は|訝《いぶか》しげな目をしている。 彼の視線に気づいた|華 閻李《ホゥア イェンリー》はどうしたのかと聞いた。 「……|閻李《イェンリー》、これから敵対する者との戦いは激しくなるだろう。そうなった場合、お前はどう対処する? 一人でも立ち向かえる強さを身につけねば、話にならぬぞ?」  |全 思風《チュアン スーファン》という最強の王がついている以上、何かしらの心配は要らぬだろう。しかし|全 思風《チュアン スーファン》という男に頼り、自身では何もしないのか。そんな、おんぶにだっこな状態のままでは荷物にしかならなかった。  厳しもくあり、それでいて|華 閻李《ホゥア イェンリー》の行く末を見守る。 彼の言葉の|端々《はしばし》からは|華 閻李《ホゥア イェンリー》を子供としてではなく、一人の|仙道《せんどう》として扱っているということが|伺《うかが》えた。  |華 閻李《ホゥア イェンリー》は動物|弄《いじ》りをやめ、真剣な面持ちで彼と向かい合う。 「……僕は、剣操術《けんそうじゅつ》を習いたいです」 「ほう?」  |華 閻李《ホゥア イェンリー》の大きな瞳は揺らぐことはなかった。それどころか、意思を貫こうとする眼
last updateLast Updated : 2025-04-24
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