全 思風は堂々と正面から妓楼の中へと侵入した。普通ならばその時点で誰かが姿を現し、彼へ敵意や攻撃を向けてくるものなのだが…… 「静かだ」 彼の足音のみが響く。それでも全 思風の手には剣が握られていた。 周囲を見渡せば朱の絨毯や柱、壁までもが深紅に染まっている。天井には異国の地から取り寄せたであろう枝形吊灯が眩しく輝いていた。 「ああ、本当につまらない」 顔を下に向かせながら、そう、呟く。三つ編みにした長い黒髪がゆらりと揺れた。それを気にする様子すらなく、ただ朱の階段を登っていく。 そんな彼の周囲には人の姿をした者たちがたくさんいた。 女は白い漢服を着、美しい簪を頭につけている。子供は男女問わず着飾ってはおらず、質素な漢服を着ていた。男たちは青や水色などの漢服を着用している。 けれど彼ら、彼女たちは、うんともすんとも言わなかった。黒目の部分は消え、どこを見ているのかわからない白目だけを見開いている。 瞬きすらしない。 呼吸もない。 不気味そのものの、人らしき存在たちだった。 「……ああ、これは考えてなかった。小猫の事で頭がいっぱいになっていたな」 そこは予想していなかったなあ、と大笑いする。 剣を一振し、道を塞ぐ者たちを風圧で吹き飛ばした。飛ばされた者たちは壁や柱に体を打ちつける。けれど痛みを感じないようで、小さな|唸《
Last Updated : 2025-04-22 Read more