All Chapters of ダンジョン喰らいの人類神話: Chapter 71 - Chapter 80

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71.潜入

 視線を伏せて、たむろする集団のそばを通り抜ける。鹿間さんからいくつか上手く彼らの仲間になる……というか、彼らの仲間として振舞うコツを教えてもらっていたから……少しそれを意識してみた。 できるだけ堂々と、我が物顔で……自らを孤高の存在のように思って歩めばいい……らしい。具体的にどうということでもないけれど、要は臆するなってことだ。潜入するからといって彼らは敵ではない。だから俺自身も敵だと思って臨んではならないのだ。 さて、ではそれを踏まえた上でどうするのかというと……。「どうすりゃいいんだ……?」 その答えは俺の中に無かった。対人経験の不足故に……俺の立場関係なしに人との接し方が分からない。ひとまず堂々と肩で風を切っているつもりではあるが、ところどころで見かける少年少女たちは各々の仲間たちだけで話しているだけで俺には見向きもしない。 どうするか悩んで、結果……一旦集団から距離をとることにする。まぁ小さな塊の集団があちこちに点在しているから、1個の集団から離れるということはまた別の集団に近づくことにはなるのだけど……。 しかしまぁそれはいいとして、とにかく不自然じゃないように見つけた自販機に向かっていくことにする。夜間でも変わらず働いてくれている自販機の明かりに歩みよって、ラインナップを眺める。 実際喉が渇いているわけでもないので買いたいものは無いがとりあえず硬貨を投入していく。そして視界の端にとまった無難なお茶のボタンが点灯したのを見て、特に考えもなくそれを押した。 自販機はその機能通り役目をはたして、俺の要望通りの商品を吐き出す。それを取り出そうと手を伸ばすと……。「ね、お兄さん……」「え……?」 突然背後から、見知らぬ少女に話しかけられた。お茶を取り出そうとしていた中腰の半端な姿勢のままで声の主に振り向く。すると……声の通り顔にも幼さを残した、しかし身に纏う雰囲気はどこか大人びた少女がこちらを見ていた。 少女は俺の姿を見ると、その身なりを観察するように視線を小さく動かして、そうして小さな笑みを浮かべた。「うん、やっぱり」「やっ……ぱり……?」 なんだか話しかけてくれたから、とりあえず繋がりは出来たか?とも思うが、それにしては手ごたえが無さすぎる。何かこれは、こう……。もしかして……俺の身分を察された?
last updateLast Updated : 2025-09-21
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72.潜入成功

「ねぇ、おい! どうすんの~……?」 はっきりとした答えを返さない俺に痺れを切らしたのか、徐々に苛立ってきた少女は俺の手を揺する。 俺からしたら、これはここに居る未成年者の輪に入っていくチャンスかもしれない。しかし、本当の事ではないとはいえ……このチャンスのために少女の言葉に「はい、そうです」と答えるのは流石に躊躇われた。 どうする……?どうしたら上手いことこの話を躱し、かつこの繋がりをものに出来る……? 悩んだ末、俺が出した答えは……。「いや……その、そういうことじゃないんだ、俺は……」「何? まだとぼけてんの? ここまで来て怖気づいた? だってお兄さん、どう見たってあたしより年上だし……そういう人は結局ヤりたくて来てるって、もうわかってるんだから……」 俺の弱弱しい否定に、少女はまだ俺が内なる欲求を隠し体面を保とうとしていると考えている。だが、本当にそういう目的で来ていないというのをはっきりとさせるために……今度はよりはっきりとした声で真っすぐに告げた。「いや、悪いけど……本当に俺はそういう目的で来たんじゃない。ただ……」 ここから先は、イチかバチかだ。事実どうなっているのか、この少女が何かに関与しているかすら定かでないが……本命をぶちこむ。「ただ俺は……ここに来れば、クリーナーみたいに……スキルが手に入るって聞いて……。それでここまで来たんだ」「……あ~……」 少女は俺の顔に表情を変える。どうしてか、その目の色は……少し落胆しているかのように見えた。 これは……どっちだ?ただ単に俺が少女の思うような「客」になりえないことに対する表情なのか、それとも何かを知っていて……そして俺が何かマズってしまった故の表情なのか……。どちらにせよその反応はあまり望ましいものではないが、後者だった場合……たぶん、だいぶマズいことになる。 少女はつまらなそうな表情のまま、俺から身を引くと……ポケットに手を突っ込んで、不審がるような眼差しを俺に向けた。「お兄さんそれ……どこで聞いたの?」「そ、れは……ええと……」 もちろん、ここに来ればスキルが手に入るなどというものはネットで調べてもヒットしない。つまるところ、この地とスキルに関連性を見出している時点で……俺は十分怪しい人間ということだ。それでも……こう、仲間内だけでも広まってる話
last updateLast Updated : 2025-09-22
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73.春

 少女とともに、夜中の飲食店に入店する。それはどこにでもある牛丼屋、深夜料金にはなってしまうが……にしたってめちゃくちゃ高額って店ではない。正直……まあ自販機のお茶よか高いとはいえ……少女の態度がこれで変わるとは思っていなかったのだが……。ましてや牛丼、これはまあ……偏見でしかないけれど、こう……女の子は嫌がりそうなものだし……。 とりあえず適当な席まで歩いていく俺たちを、店員の眼差しが突き刺す。どう考えても、俺はあの店員の目には”そういう人”に映っていた。事情を知らなければそういう風にしか見えないということは俺自身理解しているので、決してあの店員を責められない。むしろ何も言ってこないことに感謝するべきまであるだろう。あるいはそういう意味でも……ここの店員は慣れっこなのかもしれない。「なぁ……本当にこれで案内してくれるんだろうな?」「だいじょーぶだって、そう焦らないで」 少女は少女で、周りの視線を一切気にすることもなく堂々と薄っぺらいメニューをめくってラインナップを眺めている。水を運びに来た店員が、俺たち……特に俺に向けて薄っすら嫌悪感を滲ませた視線を向ける。俺はそれに対して「違うんです!」と叫ぶことができるはずもなく、曖昧に笑って会釈することしかできなかった。この場合だと……その振る舞いはなんなら店員に対して無視を決め込むよりも怪しくて気持ちの悪い対応だったかもしれない。「ねぇ、あんた……名前は?」「……何? そんなこと聞いてどうすんの? 教えると思う?」 気を紛らわすために投げかけた言葉を、少女はメニューから視線を動かすこともせずに躱す。間にある壁の分厚さを感じて「やりづらいなぁ」とは思うが……実際今道端で会ったばかりの俺にその名を教えるわけがなかった。 牛丼屋で何をそんなに迷うことがあるのか、少女はメニューをひっくり返したり、また元に戻したりしながらもう見飽きたであろうそれを眺めている。俺は居心地の悪さから、その時間をじれったく感じていた。「はぁ……」 どうして俺がこんな目に……。仕事のためとは言え……なんだかひどくみじめな気持ちになってくる。未成年淫行に及ぶ者は周りからのこういう視線に耐えているのかと思うと……その情熱をもっと他のところに割けなかったのかと思わずにはいられない。けれども倉井さんのことを思い出
last updateLast Updated : 2025-09-23
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74.最後の確認

「ふぅ……」 食べ物を迎え入れたばかりの暖かな胃袋を抱えて外に出る。店に入る前より夜風をいくらか涼しく感じた。 食事後の口の中をさっぱりさせるために、ここで初めてペットボトルの蓋を開け温くなったお茶を流し込む。ペットボトルのお茶なんてどれも同じような味だろうというイメージがあったが、飲んでみると俺の記憶の中にあるお茶のイメージよりかはだいぶ苦めの味に感じた。ちょっと俺には苦すぎるかな、と思いつつも……今はその渋さが口の中をすっきりさせる。これを美味しさと定義していいのかは微妙だけれど、気持ちいい飲み心地ではあった。惜しむらくはもう既に時間が経ちすぎて冷たくないことだ。「あ、ねえそれ……あたしにも頂戴」「え……渡そうとしたとき要らないって言ったじゃん。もう口付けちゃったよ……」「そのときは……対価としては不適当だって言っただけ! それに、あたしが今更口付けとかそういうの気にするわけないじゃん」「あっ、ちょっ……」 別にもうあと一本くらい買ったところでなんともなかったのに、春は俺の手からお茶をひったくっていってしまう。俺がそれを取り戻そうとするよりも早く、春は躊躇せずにペットボトルに口をつけてしまった。「あ~……」 力及ばず、無情にも俺が購入したお茶が春の胃袋へ消えていく。別に惜しくもないけど、止められなかったことを悔やむ声が情けなく漏れた。「うえ~……ぬるい~……。あんまり美味しくないね、これ」「勝手に飲んでおいてそりゃないだろ~……。はぁ、新しいの買おうか?」「え、なんで?」「なんでって……なんでも……」 飲みさしだし、ぬるいし……こうして一度飲んだとしてもやっぱり新しいものの方がいいだろう、という理屈なのだろう……と、自分の考えのはずなのに推論じみた分析をする。実際のところ……春はもう満足のいくまで飲んでしまったわけで、改めて買うほどそれを望んでいるわけはないはずだ。結局のところ、わざわざ新しく買おうと思った理由は……自分でも筋を通して説明できない。「ふぅん……」 そんな俺の様子に、何が面白いのか春は笑みを浮かべる。「お兄さんって変わった人だね」「そ、そうか……? んまぁ、ここら辺に来る人たちと比べると逆に変わって映るかもしれないけど……」「ううん、そういうことじゃないって。ここに来る人たちだって……普通の
last updateLast Updated : 2025-09-24
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75.降下

「あ、おい……」 春はおもむろにフェンスに手をかけ、少し上を見上げる。そして感触を確かめるように小さく数回揺すった。そうしたかと思うと、脚を上げ……。「え、あ……」 当然のようにフェンスを登りだした。フェンスの向こう側にも多少の足場があるとはいえ、一歩でも踏み外せば底の見えない奈落の底だ。いくら身軽さに自信があったとしてももう少し慎重になるのが普通だろう。「ちょっと……流石に危ないって……!」「大丈夫、気にしないで。ほんとは別のとこに……フェンスに穴が開いてるんだけど、そこまで行くのはめんどくさいから」「はぁ……?」 この様子を見れば向こう側に目的地があることは明らか、だが時間だけで言うならまだまだいくらでもあるのだからそう急がなくてもいいだろうに。 スカートをはいているにも関わらず高所まで登っていくものだから、少し視線を上げたら下着が見えてしまう。そのうっすらと視界に映ってしまった白から視線を逸らすように目を伏せた。 春は一番上まで登ってフェンスを跨ぐと、そこからこちらへ声を飛ばす。「何してるの? 登って来なよ……」「いや……登るって……。はぁ……分かった。でも、だとしても……お前が向こう側に降りてからな」「……気にすることないのに……」 春の目に俺はいいかげん何もかも気にしすぎに映るようで、呆れたようにフェンスの頂上でため息を漏らす。わざとらしくジトッとした眼差しで俺を見ると、危険なんか省みずに向こう側の狭い足場に飛び降りた。「……」 見てるこっちとしてはハラハラして仕方ないが、春は当然何も気に留めない。人一人がやっと両足を並べられるくらいの面積しかない足場を跳ねるようにして春は俺の前までやってくる。そしてフェンスに手をかけ、俺の顔を見上げると笑った。「さ、ほら……お兄さんも来なよ」「……っ、はぁ……」 どうせなら正しいルートから安全に向こう側に回りたいところだったけれど、こうなった以上俺もこのフェンスを越えるしかない。決して無茶ってわけではないけれど、なんだか……正規のルートを知ったうえでこういう最初の想定から外れた道を通ることに抵抗があるのだ。 ともあれ、どちらにしたって……結局このフェンスの向こう側は立ち入りを制限している。ルール違反に変わりはないのだ。 春に見守られながら、フェンスを登っていく
last updateLast Updated : 2025-09-25
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76.到着

 どれだけ下って来ただろうか、今では春はスマホで暗がりを照らしながら歩みを進めている。俺は今までのダンジョンでの経験で存外暗闇に慣れていたらしく、春のその微かな明かりだけで十分に辺りを見通せた。「はぁ……しかし、ほんとにこんなとこに……あんのかな……」 まだ下降を始めてそれほどの時間が経過したわけではないが、春の降り方はまるで無計画。場当たり的に通れそうな場所を選んで下へ下へ進んでいっているだけだった。正直……春に何か他の意図がある可能性が否定しきれない以上、疑わしい気持ちは拭い去れない。しかしまぁ……今日はもうこのまま突き進むほかないだろう。「なにやってんの? 早く来なよ。急がないと」「あ、ああ……悪い」 少し思案している間にだいぶ離れてしまった春を追う。その手に握られた明かりは次なる道を探して暗闇をさまよっていた。 しばらくすると……春はその足を止める。上からの明かりはとうに届かない、なかなかの深度だ。それでもこのクレーターは規格外に巨大で、その底も見えてこない。聞いた話が確かならそこそこの水位まで海水が流れ込んでいるはずなのだが、その海面もまだ暗闇の中に見えてこないので……これでもまだ全然上層なのだろう。 しかし……このクレーターの出来るまでの経緯といい、この構造といい……かなり奇妙だ。今の時代なら誰だって知っている東京消滅の事件……。秋葉原に出現した史上初のゲートがその内側の世界を実体化させ、ほとんど東京都全域を飲み込んだ。そこまでなら……規模はともかく普通だ。しかしその未曽有の大災害は一夜にして……いや、一瞬にして東京ごと消滅した。その時一体何が起きて、何がそれを引き起こしたのか……知る者は誰も居ない。 こうして下ってきて分かったが、この大地のえぐれ方は……やっぱり普通の自然現象ではない。破壊のされ方がものすごく不自然なのだ。俺や春が上から降りてこられているのもこの構造の特異性のおかげなのだが、まるでいくつかの階層に分かれているかのように、間隔こそ異なるが地面がせり出し足場となっているのだ。それこそ……初めから誰かが昇り降りするのを想定していたかのように……。あるいは、この奇妙な階層構造は東京消滅が起きた後に人為的に構築されたものなのかもしれないが……それにしたってこんなこと普通の人間にできる芸当じゃない
last updateLast Updated : 2025-09-26
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77.教室

 ゲート抜ける時の、奇妙な感覚。浮遊感に近いそれをここでも味わう。俺自身の感覚に絶対の自信があるわけではないけれど、やっぱり……この感覚は俺のよく知るものと変わらない気がする。 浮遊感から抜け出すと、段々と視界が形を取り戻す。俺の認識からすれば……やっぱりここはダンジョンのように思う。果たして、俺の目の前に広がった光景は……。「ここは……」 どういうことだろう、と頭の中が疑問で埋め尽くされる。ゲートの向こう側にあった世界は……魑魅魍魎の跋扈する異界ではなく、簡素な……。「教……室……?」  部屋の前には教卓と黒板、並んだ机と椅子……後ろ側にはおそらくこの教室の収容人数と同数のロッカーが並んでいた。ただ、いささか時代錯誤なようで……いわゆる現代の教室と異なり木製だ。「これは……ダンジョン、なのか……?」 常識に当てはめて考えるなら、ここはダンジョン……のはず……。しかしこの様子は何だ……?こんなダンジョンはあり得ない……とは言い切れない節もあるが、まず普通のダンジョンではないと思って間違いないだろう。「どう……? って、やっぱり来るのが遅すぎたね……もう誰も居ないみたい……」 俺が目の前の光景に困惑していると、俺に続いてゲートに入ったのであろう春がやってくる。「でも、お兄さん本当にためらいなく入ったね……。なんかちょっと慣れてる……?」「い、いや……そんなことはないよ。けど……これって、いったい何なんだ……?」 春が入ってきたことで気づくが、俺のよく知るダンジョンと違ってゲートが消えていない。クリーナー間での常識「ダンジョンの入り口と出口は異なる」を当たり前のように無視して、教室の後方の戸にゲートが口を開けたままでいる。あそこをくぐれば……たぶん、さっきの入り口のゲートから外に出られるのだろう。 春は慣れた様子で手近な机の表面を撫でながら俺の言葉に応える。「ここは……見たまんまの教室だよ。ここで……本当ならもうちょっと早い時間にみんなで集まってる。知ってる人も、知らない人も……関係なく、ね。なんでこんな見た目をしてるかは分かんないけど……そんな重要なことじゃないでしょ? ただこの場所は……求める人たちのために常に扉を開いていて、先生は誰も拒まない。ただ在るの。それだけがこの場所の意味だよ」「先生……?」「あ、そっか
last updateLast Updated : 2025-09-27
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78.初日の終わり

 その後……結局俺と春は、何の収穫も得られずに教室を後にした。少し教室の外も見て回ってみたものの……そこには誰もおらず、先生という人物の姿もやはり見えない。ダンジョンだったら少なくともどこかにボスは居るだろうに……そんな気配も感じられない。この初日は……謎のみを残して幕を閉じるのだ。「やっぱり……普通にここに出てくるんだな……」 ゲートを潜り抜けると、やはり入り口と同じ場所に出てくる。時間はそれほど経っていないが、もとより遅い時間だったので外は暗い。俺に続いて出てきた春も眠たそうにあくびをしていた。「ま、こーいうワケだから、次はもう少し早く来なね。あたしたちだって……別に夜通し起きてるわけじゃないからさ……」「そう、みたいだな……」 今日、廃都近縁に来た時も……確かに未成年者らしき姿はたくさんあったが、イメージよりかはまばらだった。その時点で、来るのが遅すぎたということにも勘づくべきだったのかもしれない。「いつもは……どのくらいに……?」「んー……まあ、七時過ぎくらいにはもうみんな集まってるかな……。で、十時前後くらいが一番人が多いかも? そこを過ぎると……あたしみたいなのしか残ってないかな。あたしは……気分にもよるけど、四時過ぎまで居ることも多いから……」「なるほど……。ていうか……お前、そんな時間まで……」「別にいいでしょ。誰も気にしないんだから」 ひとまず色々と前提を間違えていたみたいで、軽く頭を抱える。メインの活動時間は深夜から……ではなく、深夜中と考えておくべきみたいだ。つまり、完全な昼夜逆転生活である必要はないということだ。「まあ……なんにしても、今日はありがとな……」「もう帰るの……?」 俺が礼を言うと、春はちらりとこちらを一瞥してそう尋ねる。俺はそれに「まあ、そうなるかな」と頷いた。春はさらに問いを重ねる。「明日も来るの……?」「ああ、もちろん……。明日も来るよ……」「そ……」 それだけ聞き届けると、春は満足そうに頷く。今日の間……正直春に関してもずっとよく分からなかった。 ジェネレーションギャップ……という言葉で片付けていいものかは分からないけれど、いまいち考えが読めない。それこそ皐月と話すときのようなぎこちなさがある。って……そこと同じなら本当にジェネレーションギャップなのかもしれな
last updateLast Updated : 2025-09-28
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79.弁当

 白みゆく空の下、あくびを噛み殺しながらホテルへの道をのんびり歩く。何か言葉を交わすわけではないが、皐月は俺の数歩後ろを着いて来ていた。 段々と朝に近づいていく街。それとは反対に、疲れた目は空の明るさに軽い痛みを覚える。でも……慣れない生活リズムのせいだろうか、心は妙にふわふわして軽かった。「なあ、皐月……連絡先交換してもいいか?」「……なんで?」 この気分に任せて、俺としては言いづらかったことを頼んでみるが……皐月の反応は相変わらず冷たい。けれど……今はなんだか色々適当でいい気がして、その様子を振り返っていちいち確認しようとも思わなかった。「なんでって……ほらさ、俺たち……基本的には別行動だし、今日も思ったより情報交換する機会が無かったしさ……。メッセージでのやり取りなら送っとけばいいし、おんなじ時間に俺たちが活動している必要もないだろ?」「でも……私が敵につかまったりしたら、携帯であんたと繋がりがあるってバレるかもしれないけど?」「あぐ……それはまあ、そうだな……」 そういうことなら、徹底したほうがいいのかもしれないなと考え直す。何より……やっぱり俺にとっては、俺自身の判断より皐月の判断の方が信頼できた。……と、そう思っていたのだが……。「ん……」「ん?」 歩いていると、肩甲骨のあたりに硬い感触を感じる。その感覚に歩みを緩め首だけ回して後ろの方を見ると……皐月が俺の背中に携帯の角を押し付けていた。その画面には、メッセージアプリの連絡先交換用のQRコードが表示されている。「えっと……?」「だから……交換するんでしょ? するなら早くして……」「え、ああ……。でもさっき……」「いいから……!」 無駄な問答は不要だから早くするべき事をしろと皐月が携帯で俺の背中をナイフでも突き刺すかのように殴打する。精密機械ということに気を使って抑えめの威力ではあるものの普通にそこそこ痛かった。 急かす皐月に従って、俺も自分の携帯を取り出しすぐさまアプリを立ち上げる。そして……。「これって……えっと、どっから読み取るんだっけ……?」「……」 俺がもたつくと、皐月にバッと携帯を奪われてしまった。「ああっ……」 どうせなら今後のためにも詳しいやり方を教えてほしかったのだが、皐月は俺から取り上げた携帯でさっさと必要な手順を済ませ
last updateLast Updated : 2025-09-29
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80.未だ見えぬ全貌

 来る二日目、昨晩は慣れない深夜行動で疲れて爆睡したので今日は体も本調子だ。時刻は夜七時。そこそこいい感じの時間。食事がてらそろそろ出発してもいい頃合いだろう。 そんなに急ぐ必要も無いのでゆったりと支度して、今日の活動に備える。「……と、そうだ……」 そこで皐月と連絡先を交換したのを思い出して携帯を確認してみた。受信してるメッセージは……姉さんからのもののみ。今日は花さんはまだ携帯の使用許可が下りていないようだ。そして、肝心の皐月に関しては……。「はぁ、ま……そうだよな……」 昨日の今日でどうということも無いだろう。用件が無ければ何もしてこない。皐月ってそういう人だ。たぶんだけど……。 必要な諸々は元々インベントリにしまわれているので、準備することも多くない。あとはもう……出発するだけだ。 最後に申し訳程度にベッドを整えて、部屋の外に出る。すると……。「おっと……」 隣の部屋から丁度、皐月も出てくるところだった。「あ……っと、タイミング……被っちゃったか……」 皐月がクリーナーだということが誤魔化しようのない以上、俺たちの行動は被ってはならない。その繋がりを察知されてはならない。昨日みたいに帰り道でたまたまばったり会う分には問題ないが、行きの段階で肩を並べてホテルから出て行くのはマズい。「えと……どうする? 皐月はもう少し……ここで休んでるか?」 一応年上として気を遣って、俺が先に出向くように提案する。この気の遣い方が皐月相手で正しいかどうかは分からないが、結局そんなことも関係なく皐月は首を横に振った。「いいや。私も行く」「え……いや、私もって……ほら、一応ここはずらさないとじゃん?」 皐月に関してこの手の前提の確認は不要だと思うのだが……しかし実際の言動がどうしてもその前提に合致しないので念を押すように付け加える。すると……やはりそういうことについての把握漏れはないようで、むしろ俺の察する力の無さを嘆くかのように皐月はため息を吐いた。「たぶんだけど……その必要はないよ」「必要ないって……どういう?」 皐月は未だどういうことなのか理解していない俺にため息を重ねる。とは言っても……俺からすれば本当にどういうことなのかまるで分らないのだから仕方ないだろう。それとも……本当ならすでに合点がいくくらい
last updateLast Updated : 2025-09-30
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