すべてが終わった後、俺は協会の病棟でハナさんの様子を見守っていた。重症だったにもかかわらず、協会に務める回復スキル持ちの人の手によってその命は当然のように繋ぎ止められている。今はまだ意識が戻らないが、別にこれから永遠にそうということでもない。何なら、今すぐにでも目を覚ましてもおかしくないくらいだ。 倉井さんは……あの後、ダンジョンを出るなり俺たちを置いて逃げてしまった。ただ、実際のところ……その罪を隠し通すことはできないだろう。俺たちがここに居る時点で。 瀕死のハナさんを協会に担ぎ込んだのは、他の誰でもない俺自身だ。そして、ハナさんたちのことについては……まだ誰にも何も言っていない。別にこの事件を隠し通そうと心に決めてそうしたわけではなく、ただそのタイミングではまだないと思っただけだ。 静かな病室の中、パイプ椅子に腰かけ……ハナさんの様子を窺う。ハナさんとは……正直どう接したらいいのか、俺にもよく分からなかった。だから、このまま目覚めなければいいのに……とも思う。いや、今のは誤解を招く表現だったか……正確に言えば、今日ここに俺がいる間には眠ったままでいてくれたらいいのに、とそう思っているということだ。 境界線を決めているのは、結局俺の中にある勝手な感覚でしかないのだが……今日はまだ、俺はハナさんとは他人ではない。でもこのまま行ったら、きっと明日には他人になっている。一度他人になってしまえば、俺が背負うものはもう何もないという寸法だ。ただ……もし今、今日ここで目覚めてしまったら……俺はハナさんと話さなければならない。そんな、気がしているのだ。「はぁ……なんだかなぁ……」 結局、ハナさんは何をどう考えてあんなことをしていたのだろう?後から冷静になって振り返ってみると……やっぱりハナさんの振る舞いには筋が通っていなくて、未だに腑に落ちない。倉井さんはああいっていたけど、それについても……。「ここ……は……?」 びくり、とそのか細い声に方が震える。声の主は、枕の上で頭だけを動かし……その視線をこちらに向けた。「みー……ちゃん?」 俺は色々あった後だからいまいち気まずくて、頭の後ろをかく。そうしてしばらく口の中でいくつかの言葉をシミュレーションして、結局もっとも当たり障りのない言葉を音にした。「そう、ですよ……」
最終更新日 : 2025-09-11 続きを読む