All Chapters of 高嶺に吹く波風: Chapter 121 - Chapter 130

160 Chapters

120話 暴走する者

「メサ……?」 爆発音と衝撃が完全に収まり、私達の肩に灰が降り掛かる。 「やった……やったぞ!! 人間の武器がイクテュスに通じた!!」 武装した人の一人が勝ち誇ったかのように大声を上げる。しかしハンマーの奴がその音に反応し、ギョロっと目を動かし武装した人達を睨む。 「まずい逃げ……」 しかし私が言い終わる前に奴は今までとは桁違いのスピードで向こうの人達に急接近する。 「ひっ……」 「死ね」 一瞬の後数人の首から上が吹き飛ぶ。 ボトボトと私達の近くに重い物が落ちる。それはぐちゃぐちゃに潰れた人間の頭だった。ヘルメットは役目を果たさず壊れ、その中身が垂れ出ている。 「うっぷ……」 あまりに凄惨な光景に、私は口元を押さえ吐瀉物を口の中で抑えることになる。 「うわぁぁぁぁぁ!!!」 奴がハンマーを振るう度に人間の命が簡単に潰えていく。 「やめやがれ!!」 十人目の首が飛ぼうとしたが、なんとかアナテマの力が届くのが間に合う。 「邪魔……するなぁ……!!」 「うぐっ……重たい……!?」 奴はアナテマが発生させた引力をものともせず、その力を振り払おうとする。 「おじさん達逃げて!!」 地面を殴り氷を向こう側に伝わらせ、奴と武装隊員達との間に壁を作る。 「邪魔するなぁ……!! お前ら全員殺してやる……!!」 「おいラ……」 クラゲの奴が何かしようとした時奴の横を高速の何かが通り抜ける。 「ぐっ……テメェは……!!」 ハンマーの奴の顔面に生人君の足がめり込んでいた。両手は触手になっており、飛んできた方を見ると離れた高所にパチンコのゴムみたいな物を触手で作っていた。 「おいライここは引くぞ!!」 「黙れ!! メサの仇はここで……」 生人君が振り落とされ着地する。二人が揉めている間に私達は奴らを取り囲む。 「クソ……クソぉぉぉぉぉ!!」 奴は地面を殴り一段と大きい爆発を起こす。それは奴自身も、隣に居たクラゲの奴も巻き込み大きな土埃を起こす。 「げほっげほっ……はっ! あいつらは!?」 煙が晴れた頃には二体は居らず、残されたのは武装隊員の死体と辺りに積もる灰だけだった。 「完全に逃げられた……みたいだね」 橙子さんが変身を解除する。それに続き私達と健橋先輩も解除し、生きている謎の大人達の
last updateLast Updated : 2025-08-03
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121話 忘れた彼

「で、でも生人君は今まで……」 「それ自体は私も評価していますが、如何せん彼は身元が一切分からず全て自称。それにこの判断は双方の上が下したものなので私にはどうしようもありません」 小さな友人のことを想い反論しようとしたものの、事は既に済んでしまっておりどうしようもない。それに今はあのハンマーの奴が大暴れし一刻を争う事態だ。食い下がっている時間も、生人君を連れ戻す時間もない。 (四人であの二体を相手……) 正直勝算はかなりある。生人君が抜けたとはいえ敵はクラゲの奴とハンマーの奴の二体、それに片方は暴走気味で理性を失っていた。手玉に取りやすいだろう。 (なのに……何かスッキリしない……) やっとイクテュス達との戦いにケリがつくかもしれない。だというのに私の心の中には引っかかるものがある。だがその正体は分からずそれが余計にもどかしさに拍車をかける。 「その代わり……となるかどうかは分かりませんが、うちの人員を派遣して索敵と援護を行います。貴方達はとりあえず奴らが発見されるまで体を休ませてください。特に高嶺さんと波風さんは」 「はい……」 かなり体力はついてきたとはいえ、今回の戦闘はかなり激しいものだった。息もまだ整っていないし、連戦も厳しいだろう。 とりあえず私達四人は仮説のテントに入らせてもらい、毛布の上に座って渡された水と缶パンを口に入れる。パンで乾燥した口を潤すべく水を飲み、またパンを数粒放り込む。 いつ呼び出されるか分からないので、自然に物を運ぶ手は早くなる。 「高嶺……そんな焦って食べたら詰まらすよ?」 「むぐむぐ……ごくん。うん……」 波風ちゃんに窘められ、少し冷静になりよく噛んで飲み込む。 「そういえば二人はあいつと戦ってたけど、勝てそうだった?」 「おう大丈夫だったぞ。例の新技もある程度コントロールできたし。まぁそこまで持続できないのがキツいがな」 「ただまぁあのイクテュスの様子からして時間稼ぎなんてする余裕はなさそうだし、高嶺と波風があのクラゲを止めてくれれば倒せるはずだよ」 あのクラゲとは一ヶ月程前にホテルで戦ったのが最後だ。私達はその期間で確実に強くなってるし、合体形態にも慣れてきた。 「波風ちゃんは体調大丈夫?」 「え……? だ、大丈夫へっちゃらよ!」 「波風ちゃん……?」 最近変身
last updateLast Updated : 2025-08-04
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122話 共存の架け橋

「クソ……どこいった……!?」 奴らとの戦闘後、オレは見失ったライを探し人間の姿で右往左往していた。しかしどこに行こうともあのデカい図体は見当たらず、ついには息を切らしてしまい近くの木々が鬱蒼としている大きな公園で身体を休めることにする。 「メサ……」 また一人犠牲になってしまった。地上に来てから一緒に生活していた大事な仲間があんなにも呆気なく殺された。 (いや……今はそれよりも現状を再確認して対策を立てなければ……) こちらの戦力が大幅に削られてしまったこと。そして人間が使ったあの兵器。どれもが戦況をひっくり返す程のものだ。 だがオレの頭は回らず、何も思い浮かんでこない。思考に粘ついたものが絡まり運動を妨げる。 「ここに居たんだね」 意味のない長考を続ける中背後から奴の声が聞こえてくる。即座に振り返り戦闘体勢を取るが攻撃してくる気配はない。 「お前か……」 木々の隙間から姿を見せたのはあの化け物野郎だ。 「返り討ちに……」 こちらが構えブローチを取り出すが、奴は戦う素振りを全く見せない。 「戦わないのか? 戦意喪失……ってわけでもなさそうだが」 「ボクは作戦から外された。君達の討伐にはもう関わっていない」 「……は? 何で……いや、そうか。人間お得意のそういうことってところか」 こいつは他のキュアヒーローとは違い明らかに人間ではない。権利関係やいざこざで揉めてもなんら不思議ではないし、類似している件なんて腐るほどあるだろう。 「……で? お前が作戦を外されたことと、オレがお前を始末しないことには何も関係ないよな? お前はオレ達の仲間を殺してきた……」 「そうだね。否定しないよ」 "そっちが先にやった""正当防衛だお前達が悪い"そんな言葉が飛んでくると予想していたが、奴はオレの敵意剥き出しの言葉を受けても否定せず真っ直ぐ受け止める。 「お前は何がしたいんだ……?」 「さっきも言ったでしょ。ボクはこの争いを止めたい。イクテュスにも知能があって、話し合いの余地があるなら共存を望みたい」 「ふざけるな……そんなこと……」 オレ達は人間からしてみれば異形の怪物。姿形はもちろん身体能力や構造何から何まで違う。そんな二つの種族が分かり合えるわけがない。 「大体人間は同じ種族同士でも分かり合えていないじゃない
last updateLast Updated : 2025-08-05
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123話 抜け落ちた記憶

「オレが共存の架け橋に……だと?」 「君ならできる。まだ引き返せる」 「無理だ……オレは……!!」 あの時の、イリオを殺した時の感触が蘇り全身を駆け巡る。 大事な人を庇おうとして命を断たれる姿。それを受け止めきれず精神を侵されるあの子。思い出すだけで胸を締め付けられ、何度も頭を殴られたような衝撃に襲われる。 「だから……」 「っ!! 触るな!!」 オレはこちらの肩に触れようとする奴を突き飛ばす。 「オレは……イクテュスだ……!!」 誘いの手を切り離し、逃げるようにこの場から立ち去る。 (クソ……クソ……!!) 何度も奴の言葉が脳内で響き、オレが殺したあの子の死に際の表情が幾多もフラッシュバックする。 「オレは……どうしたらいいんだ……!!」 聞いてくれる相手はもう居ないというのに、オレは虚空に向かって愚痴を吐くのだった。 ☆ 「あっ、いや生人って人があの凄い子供ってのは分かるんだけどね……あんな強い子が居るならもっと早く助けに来てくれて良かったのに……」 「波風ちゃん……何言ってるの?」 生人君のことをさも知らない人物かのように話す彼女に言い知れぬ不気味感を覚える。 波風ちゃんはこんな悪趣味なドッキリや冗談をするタイプじゃないし、第一こんな緊迫した状況でするほど空気が読めない子じゃない。 「え……? だ、だってあんな子今まで会ったことないよ!? あんな小さな子が戦ってるなんて知らなかったじゃない!!」 「海原……その冗談は流石に笑えねぇぞ……」 健橋先輩も薄々本気で言っていることに気づきつつも、どう反応していいか分からず引き気味に宥める。 「もしかして……記憶が抜け落ちてるの……?」 「ち、ちがっ……!!」 「ねぇどういうこと!? 波風ちゃん一体どうし……」 「奴が見つかりました」 こちらが波風ちゃんに詰め寄ろうとした時テントの入り口を鷹野さんが開く。 「……何してるんですか?」 「あっ、いや……そ、それより見つかったんですか!?」 「はい。少し離れた住宅街で暴れているらしく……今は戦闘員が食い止めてますがいつまで保つか……今すぐ向かいましょう」 即座にブローチを取り出し装着しようとしたが、まだ体力が回復しきっていない。それに波風ちゃんのこの記憶障害も引っかかる。 「わたし達は
last updateLast Updated : 2025-08-06
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124話 日食

「おいあそこだ!!」 アナテマと共に逃げ惑う人達にぶつからないよう気をつけて向かう中、ついに逃げた奴を見つける。 「死ね……死ねぇぇぇぇ!!」 奴は逃げ惑う人間をその鈍器で殴り、離れた相手には地面を爆発させ焼く。 辺りには既に数十もの死体が積み重なっている。首から上がない者、逆に潰れた頭部だけの者。黒焦げになった子供に足元に転がる皺皺の腕。 「クソ……やめやがれ!!」 破壊の限りを尽くす奴にアナテマは激昂し、全身に闇のオーラを纏い振り上げられた手を掴み止める。 「君達早く逃げて!!」 アナテマが戦っている間にわたしは逃げ遅れた人達を立ち上がらせ安全な場所まで誘導する。幸い今回は裏で特殊部隊の人達が居るので避難はいつもより容易に終わり、アナテマが攻め切られる前に避難誘導は終わる。 「ぐぅ……!! そっちは終わったか!?」 激しい攻防の後、爆風の中からアナテマが飛び出してきて煙を立てながら着地する。 「とりあえずもう近くに人は居ないよ……君は少し休んでてくれ。今度はわたしの番だ」 アナテマを下がらせ、彼女はオーラを解き体力を回復させる。代わりにわたしが前に出て全身に光を纏う。 「ちょこまかちょこまかと……!!」 予想通り奴は怒り狂い動きが単調になっており、攻撃の軌道がさっきの戦闘より大振りで力任せだ。だがその分一発一発に確実にこちらを殺すという意志が込められており、掠るだけで致命傷だ。 「そこっ!!」 ハンマーの振り終わりのタイミングを狙い、光を剣先に集中させ一点集中高火力の一閃を脇腹に突き刺す。 「硬いっ……!!」 法衣と怒りで充血し肥大化した筋肉の相乗効果で奴の防御力は限界を超えており、この一撃でも肉を多少抉るだけに留まる。 「ならこのまま……!!」 わたしは判断を誤ってしまう。一撃必殺の奴の前で留まるのは死を意味する。なのに市民や街への被害を考えて焦りが勝ってしまい、勝負を急いでしまう。 「掴んだぞ……!!」 奴はこっちの手首をがっしりと掴み引き剥がせない。寧ろ掴む力は限界なく強まっていき、わたしの骨はミシミシと悲鳴を上げ始める。 「ぶっ潰れろぉぉぉ!!」 ハンマーが眼前に迫ってくる。本能的に死を覚悟したが、背後から飛んできた斧が奴の手を弾く。 「てやぁっ!!!」 隙ができたガラ空
last updateLast Updated : 2025-08-07
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125話 消えていく繋がり

「はぁ……はぁ……」 車から降りてしばらくし、やっとアナテマとノーブルの元に辿り着けた。 (二人は……) 二人は今まさに戦っており、高速に動き奴を翻弄していた。 (良かった……私達の力なんて要らないくらい……やっぱ二人は強い) やがて奴の法衣は解け、膝を突きトドメが刺されようとする。 「高嶺あれ!!」 波風ちゃんが明後日の方向を指差す。その先の屋根の上にはクラゲの奴がおり、触手を展開させ二人の首筋に静かに持っていく。 「二人と……」 叫ぼうとしてももう遅く、二人の首にクラゲの毒が流し込まれる。いつぞやの私のように二人の身体は跳ねその場に蹲ってしまう。 「まさかお前が負けるなんてな。冷静になれ」 クラゲの奴は屋根から飛び降りアナテマとノーブルの前に着地する。 「ゼリル……早くこいつらを殺せ!! ここで息の根を止めろ!!」 冷静沈着に感情の波がないクラゲの奴とは違い、奴は怒りに支配され激しく激昂する。 「いや……それより撤退して体勢を持ち直すぞ」 「はぁ!? こいつらのせいで……人間がイクテュスを!! メサを殺したんだぞ!?」 距離的に変身しても間に合わないと思った。だがしかしクラゲの奴は中々行動を起こさない。 「いくよ波風ちゃん!! キュアチェンジ!!」 不安は消えていないし、今でも胸の中で燻っている。それでも変身するしかない。それが彼女の願いでもあるから。 「ちっ……!!」 氷を奴の足元まで発生させ、槍を片手に滑っていく。そうすれば嫌でも奴は気づき注意が二人からこちらに向く。 「はぁっ!!」 勢いそのまま槍を突き出すが、動きが見え過ぎていたためか複数の触手でガードされてしまう。だが奴を大きく後退させることに成功する。 「二人とも大丈夫!?」 一旦二人を脇に抱え私も後ろに下がる。奴もハンマーの奴を持ち跳んで建物の上まで後退する。 「おい何やってんだゼリル!! アタイも次期に回復する……二人で奴らを殺すんだ!!」 「……」 クラゲの奴は仲間の怒号に何も返さない。ただこちらを見つめると複雑そうな表情をし、建物の影に消えていくのだった。 「二人とも大丈夫!?」 不意打ちしてくる気配もないので一旦変身を解除し二人でそれぞれ肩を持ち、近くに居た特殊部隊の人達の元まで戻る。 (波風ちゃんは
last updateLast Updated : 2025-08-09
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126話 止める道

「もう振り切れたか……」 建物の壁を伝いながら、混乱し逃げ惑う人達を尻目に退却する。追手の姿はなく近くに誰か潜んでいる様子はない。ここらで良いだろうと適当な河川敷に入り込み脇に抱えていたライを降ろす。「てめぇっ!!」 ライは降ろされるとすぐに拳を硬め、容赦なくオレの顔面を殴り抜く。赤い血が口から舞い、そこまでのダメージではないもののよろめいてしまう。「何であいつらを殺さなかった!? あのタイミング……二人を殺せたはずだろ!!」「そう……かもな」 戸惑い思考がまとまらないせいか、せめて何か言い訳をすればいいものの上手く言葉を紡げない。そんな対応をしているせいか、よろめきが治った頃合いでもう一発重い一発を受けてしまう。「ふざけるな!! メサを殺されて何を躊躇う必要がある!? 人間は悪魔だ……分かり合うことなんてできない……最初にそう言ったのはお前だろ!!」 ライの一言であの頃の、地上に来て人間について調べ始めた頃の記憶がフラッシュバックする。人間に失望し、憎悪し、それを王に報告したあの時のことを。(そうだ……この争いは……オレが……)「もうお前には頼らねぇ……アタイだけでも、一人でも多く人間を殺してやる……!!」 "待て"とは言えなかった。オレにライを止める資格なんてない。争いの種に着火したオレなんかに。 ライが立ち去ってしばらくし、遠方から甲高い悲鳴と鈍く低い爆発音が響いてくる。また、始まってしまった。果たしてキュアヒーローとライの戦いはどうなるのだろうか?  結果は分からない。だが、大量の死体が生み出されることだけは容易に想像できる。「今更……どうしたら……」 戦いを止めようにもオレの一存でできるとは思えない。だが争いに加わろうとも胸の奥底で痛むものが邪魔でもうできない。 八方塞がりとは正に今の状況のことを言うのだろう。どこにも行けない。何もできない今みたいな状況を。「ここに居たんだね」 また、奴の声が背後からする。いつ回ったのか分からないが、そんなことどうでも良い。攻撃してこないことなんて分かっているし、オレはゆっくりと振り返る。「君はさっき……神奈子と橙子を助けてくれた……そうだよね?」「メサが殺された時……オレもライのように怒りに飲まれそうになった。よくもオレ達の仲間をって……」 今でもその怒りはハッキリ覚えてるし、
last updateLast Updated : 2025-08-10
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127話 ブリザードクラッシュ

「キュアチェンジ!!」 あれから少ししてまた奴が暴れているとの報告があり、唯一動ける私達が向かうことになった。二人は歩けるようにはなったものの毒がまだ抜けきっておらず戦闘は厳しい。[あのクラゲにも警戒していかないとね……][アタシも警戒するけど、気をつけなさいよ!][う、うん! 波風ちゃんもできる範囲で良いからサポートよろしくね!] 先程の二人のように戦闘中に横槍を入れられてはたまったものじゃない。私達は警戒しつつもこれ以上被害者を出さないために急いで街を駆ける。「あっ……!!」 衝撃が強くなる方にひたすら向かっていると、私達は凄惨な光景を目の当たりにすることになる。 段々と強くなる焦げ匂い。それが最高潮に達したところでは、大量の死体の山が積み上がっていた。「酷い……!!」 老若男女問わず皆殺しといった感じで、死体の側には泣き崩れる家族や残された者達も居た。「あぁっ!! 死ね!! 死ねぇ!!」 骸の道標の先で奴は発狂しながら暴れ虐殺の限りを尽くしていた。容赦や罪悪感などはそこに一切なく、なんの躊躇いもなく建物を破壊し人の体を潰していく。「やめろっ!!」 あまりの残虐さに我を失いそうになり、激昂しながら奴の方へ氷を出し腕を凍てつかせ暴虐を止めさせる。「キュアヒーロー……!!」 腕の氷は容易に破壊され、私達を視認すると奴の顔に浮かび上がっていた血管は更に倍増し、民間人に向けていたものとは比にならない程の憎しみを向けてくる。「っ……!!」 明確にこちらに向けられた、今までとは比にならない殺意。悪意の籠った視線が突き刺さり鳥肌が立つ。「これ以上街を壊させない……来いっ!!」 しかしそれでも臆するわけにはいかない。立ち向かう足に力を込め、悪魔を討ち取るべく前進する。 地面を凍てつかせ、その上を滑り加速する。相手の動きに合わせて氷を曲げさせ、時に空中に道を作ってそこを進み爆発を回避する。[リボンで上手くサポートするから隙を狙って!!] 波風ちゃんは爆風を氷の壁でガードしつつ、リボンを巧みに動かし奴の手足に絡めようとする。「速いっ……!!」 怒りで痛みや身体のセーフティーロックが外れてしまっているのか、奴は反動や体のダメージなど気にせず限界を超えて肉体を動かす。前より速さが格段に上がっており、リボンも中々絡みつけず躱される。(
last updateLast Updated : 2025-08-11
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128話 恐怖の再来

「ぜぇ……ぜぇ……ごふっ!!」 奴はついに立っていることすらできなくなり血を吐きながら膝を突く。 (あいつ……腹に穴が開いているのにまだ灰にならない……なんて生命力……!?) 「そんな……こんなところで……!!」 だが流石にこの状態で生き永らえることは無理なようで、傷口からポロポロと灰が溢れ始める。 「痛い……痛いよぉ……!!」 突然横の方から男の子の啜り泣く声が聞こえてくる。先程までは爆発と悲鳴で掻き消されていたが、それらが消えたことによって私達の耳にも入ってくる。 見れば爆破され崩れた建物の瓦礫に足を取られており、その箇所は赤く腫れ上がっている。あの様子じゃ動くことはできないだろう。 「ぐっ!!」 奴は血反吐を吐きながらもその子供の方に向かって飛び出す。 「しまっ……!!」 奴の方が子供に近く、最後の力を振り絞ったのか死に際とは思えない速さで子供の元まで行き首根っこを掴み瓦礫から無理矢理引き摺り出す。 「動くなっ!!!」 首に指をめり込ませ、私達に向かって奴が怒鳴る。 「一歩でも動いたらこのガキを殺す……!!」 「くっ……!!」 足を止めその場に急ブレーキをかける。奴の目は本気で、動いたら本当に殺す、道連れにするつもりだ。 「その子を離してっ……!!」 助けようとしたらその瞬間に男の子の首は飛ばされる。私はその場に足に釘を打たれながらも必死に訴える。 「変身を解いてこっちに来い……」 「え?」 「おまえの命と引き換えにこのガキを助けてやるって言ってんだ!! もし断るなら……このガキを道連れにする……!!」 (こいつ……!!) 人質を取り、こちらの命を交換条件に出してきた。 「早くしろ……こっちは時間がないんだよ!!」 奴は傷口からボロボロと崩れ始める。もってあと数分といったところだろう。だからこそ焦っているし、今にも男の子の首をへし折りそうな勢いだ。 「わたっ……しは……!!」 [高嶺ダメっ!!] 私はブローチに手を伸ばそうとするが、中に居る波風ちゃんが必死に叫んで呼び止める。 [で、でも……あの子が……!!] [馬鹿!! アイツが約束を守ると思うの!?] [それはそうかもしれないけど……でも!!] 手がブローチの前で止まり激しく震える。この状況に動悸が収まらなくなり始
last updateLast Updated : 2025-08-12
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129話 吐き気を催す記憶

大地を揺るがす大揺れが来てこの場に、いやこの街に居る全ての物を揺らす。 [高嶺逃げっ……] 「いやぁぁぁぁぁっっ!!」 動悸が収まらず脳内が恐怖で支配され、波風ちゃんの声は届かず脳に入る前にシャットアウトされる。 「おいたか……」 クラゲの奴がこちらに来ようとするが、奴と男の子の方に電柱が倒れる。 「くっ……!!」 奴は咄嗟に男の子を抱え後ろに跳んで電柱を躱す。そのままそっちに大量の瓦礫が崩れていきすぐに姿が見えなくなる。 [高嶺避けて!!] 気づいたらすぐ側まで崩れた建物が迫ってきていた。 「あっ……」 ☆ [……ね……高嶺!!] 朦朧とする意識の中親友の掛け声で意識が覚醒する。 「えっ……? これは?」 目を開けるがろくに光が入ってこない。身体が上手く動かせず、私達はどうやら瓦礫に押し潰されてしまったようだ。 「氷……?」 [あ、うん! 高嶺が寝ている間氷で壁を作って瓦礫が潰すのを防いでたの!] [そんな一体どれくらい力を使い続けてたの!? 大丈夫!?] [だ、大丈夫よ。まだ数分だし、生人さんも呼んだから……] テレパシーの途中で上の方で物音がする。 (これは……生人君の触手?) 触手は瓦礫の隙間を縫いまず崩れるのを防ぎ、次はそれらを一気に引き上げる。 「高嶺!!」 瓦礫が退かされた先には見知った生人君の顔があった。 ホッと一安心し変身を解除するが、次の瞬間私は絶望することになる。そして思い出す、地震が起こったのだと。 「あ……いや……!!」 「見ちゃダメ!!」 私のことをよく理解している波風ちゃんが即座に私の目を塞ぐが、半透明なため視界を遮れない。 街が壊れていた。ハンマーの奴がやったものじゃない。それ以外にも、視界に見える全てで建物が崩れ火が上がっていた。 「何これ……何が起こったの……?」 「地震があったんだよ……震度6の揺れが。この街だけじゃない。他の場所もこんな風になっているらしい……」 「そんな……それじゃあまるで十年前の……うっぷ……!!」 十年前の光景が鮮明に蘇る。波に全てを奪われ、それでもほんの少しの希望に縋り強がり、結局それすらも奪われ心を壊したあの時の出来事が。 「うぉぇぇぇ……!!」 込み上げる嘔吐感に耐えきれなくなり、私は地面にで
last updateLast Updated : 2025-08-13
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