All Chapters of 高嶺に吹く波風: Chapter 131 - Chapter 140

160 Chapters

130話 謝罪

歩くこと十分と少し。途中そこそこの揺れに襲われながらもなんとか近所の小学校の体育館に入る。 「健橋先輩と橙子さんは?」 「二人はここから遠いし、毒も消えて変身できるから救助活動をしてる。ボクも君達を安全な場所まで下がらせたら参加するようにさっき言われたよ。それくらい人手が足りないんだ」 (さっきは生人君を反逆者扱いしてたくせに……手のひら返してすぐこき使うなんて……) きっと鷹野さん率いる特殊部隊の人達も救助活動に参加しており、そこで手が足りず恥を承知でという流れだろう。 理解はできるがそれでも今の生人君の心情を考えるとあまりに不憫だ。 「じゃ、行ってくるから二人は休みながらキュアリンか鷹野さんからの連絡を待ってて」 生人君は文句一つ言わずにすぐに飛び出して行く。 「た、高嶺……?」 彼のことについて思い悩んでいると背後から声をかけられる。 「朋花ちゃん……!?」 それは私が波風ちゃんを失い気が狂っていた時、手を上げて椅子で殴りつけようとしてしまった相手だった。 「ひ、久しぶり……学校に来ないから何かあったのか心配だったけど……げ、元気そうで良かったよ」 当たり障りのない話をして心配する様子を見してくれるが、どこか怯えた様子だ。前回私があのようなことをしてしまったから。 「待って高嶺は……あ」 波風ちゃんが弁明しようとしたものの、すぐに自分が朋花ちゃんに見えていないことに気づき言葉を詰まらせる。 「朋花ちゃん……」 「な、なに……?」 「ごめん!!」 私は髪を揺らし耳にかかるほど深々と頭を下げて謝罪の意を示す。 「高嶺……? そ、そうだよね! やっぱり前のは何か……事情があったんだよね!」 私は裁判所で罪を自供する容疑者のようにゆっくり首を縦に振る。 「ね、ねぇ……それならやっぱり波風は……それにキュアウォーターとキュアイリオって……」 「朋花ちゃんが思ってる通り……だよ」 波風ちゃんも俯きわたしと似たような表情をする。 「そんな……頑張ってたん……だね。ごめん……高嶺の辛さも知らずにあんなズケズケとみんなの前で聞いちゃって……」 「朋花ちゃんが謝ることなんてないよ!! 寧ろ私が……」 [高嶺! 波風! 聞こえるか!?] キュアリンからのテレパシーが脳内に響き、朋花ちゃんへの言葉が遮
last updateLast Updated : 2025-08-14
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131話 仕方なく

「はぁ……はぁ……ここまで来れば大丈夫だろ」 突如大地を揺るがした大きな揺れ。オレは咄嗟に倒れてくる電柱から子供を庇い、崩れてくる建物や飛んでくる瓦礫からその子を守りつつ逃げていた。 (高嶺は……どこだ?) あまりに突然な出来事だったため先程まで目の前に居たキュアヒーローを見失ってしまっていた。 (まぁ……あいつなら逃げれているか) 「うぅ……痛いよぉ……」 「はぁ……ちょっと見せてみろ」 抱えていた子供は先程まで瓦礫に足を取られていた。そこは赤く腫れ上がっており、数日は歩くことは困難だろう。 「大した傷じゃない。適切に処置すれば大丈夫だ」 オレは上着を脱ぎ、同時にあるものを探す。 「あった……」 綺麗な水を手に入れるためすぐ近くの自販機に行き拳を固める。 (いや……やめとくか) そういえば財布もしっかり持っていたし、無闇に破壊するのは良くないと思い留まり硬貨を取り出し天然水を購入する。 「よし……これで大丈夫だ」 念の為傷口を洗い、水で冷やした上着で傷口を抑える。 「あとは避難所とやらに送るだけだな。適当にそこら辺の人間に……」 「ねぇお兄さん……もしかしたら僕の家族……逃げ遅れてるかも」 「あ?」 「双子の妹が今日一人で留守番してて……あいつ動き遅いから……」 自分の大切な片割れを心配するその様子。それが妙にメサの姿と重なる。あの日、あいつの親友が人間に殺された日、そいつが居ないと泣き喚く姿に。 「おぶってやるから案内しろ」 「いいの……?」 「早くしろ……手遅れになったら一生後悔するぞ」 それからその子の言うままに足を動かし、潰れた民家の前まで行く。 「潰れてる……もしかして……」 「まだ諦めるな。ちょっと退かしてみる」 普通の人間なら諦めているかもしれない。だがオレはイクテュスだ。人間態でもこれくらいの瓦礫退かすのは訳ない。 「居た……気を失ってるが目立った怪我はないな……」 瓦礫の下に小さな女の子が居たが、居場所が良かったのか運良く潰されず隙間に入り込んでいた。 「あ、ありがとうお兄さん!!」 「礼なんていい……オレはやることがあるんだ。とっとと安全な場所まで行くぞ」 両脇に子供を抱え、オレは避難する人についていき安全な場所まで二人を運ぶ。 「ほ、本当にありがとう
last updateLast Updated : 2025-08-15
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132話 救助の傍ら

「よっしこっちの人も無事だな!!」 毒が抜け落ち動けるようになったと思った矢先大地震が起き、ハンマーの奴が死んだという報告もあったのでアタイ達は逃げ遅れた人や瓦礫に潰された人達の救助をしていた。 「はぁ……はぁ……ありがとうございます! でもこのスプレーは?」 「細かいことはいいから早く逃げてください」 「は、はい……」 鷹野がキュア星の治療道具を使い怪我人を治していく。本来イクテュス関連でしか使用を認められていないが、市民のためと無理を言ってくれたらしい。 「ぐっ……変身が……!!」 長時間力を使っていたためか、法衣が霧散し変身が解除されてしまう。横を見るにノーブルも同じようで、連戦してからの重労働でかなり身体にきている。 「二人は構わず休んでてください。道が塞がっていて重機が動かせない今、貴方達が頼りですから。身体を壊したら洒落になりません」 膝を突くしかないのはもどかしいが、このままがむしゃらにやるよりも鷹野の指示に従う方が賢明だ。 「はぁ……はぁ……高嶺達は大丈夫なのかな……?」 「さぁな……生人は瓦礫で潰された程度じゃ死なないとは思うが、あの二人は……」 二人の変身するあの形態は負担が大きい。ハンマーの奴を倒したと報告があったが、その後スタミナ切れを起こして生身になったところを潰されたらひとたまりもない。 「いや……二人ももちろん心配だが、この状況……何も危ないのは二人だけじゃない」 「あいつら……!!」 アタイの頭の中に学校に居たであろう弟達の顔が思い浮かぶ。 (あいつら……大丈夫なのか? 携帯とかも持たせてないし、連絡が取れねぇ……) 学校は頑丈だし、現に近くの避難所に指定されている高校は崩れていない。なので大丈夫だとは思うが、それでも不安が湧き上がってきて落ち着かない。 「こんなこと……してる場合じゃ……」 アタイ達の休んでいるすぐ近く、救助活動に参加していた特殊部隊の人が偶然目に入る。明らかに焦っており集中できていない。 「生きててくれ……!!」 意識したのではないであろう溢れた一言。それだけで彼の心理状況は概ね察せられる。きっとアタイと同じで家族の安否が心配なのだろう。 (まるで地獄……だな) 未だに遠く離れた場所から悲鳴が聞こえ、それに鷹野が声を張り上げ対応している。 み
last updateLast Updated : 2025-08-16
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133話 それでもアタシは

「高嶺! 波風! こっちだ!」 指定された現場に向かうとそこは古びた施設だったのか、ボロボロに瓦解していた。「ここは……?」「鷹野達が例の弾丸を開発したり、キュア星の物品を管理していた場所だ」「こんなボロい……うわ植物が瓦礫に巻きついてる……セキュリティー大丈夫なの?」 崩れていた瓦礫を見るが、とてもじゃないがそんな大事な物を保管する建物には思えない。「それはカモフラージュだ。そういう大切なのは地下室に保管してある。だが肝心の地下室への扉が瓦礫で塞がっててな……二人には瓦礫を退かしてもらいたい。救助に必要なキュア星の道具もそこにあるんだ」「なるほどね……健橋先輩達にも合流したいし、早く撤去しないと……いける波風ちゃん?」「……え!? あ、うんもちろん!」 ボーっとしてしまっていたのか、波風ちゃんの反応は遅れる。「どうかしたの……?」「え!? べ、別に何でもないわよ!!」 この反応……明らかに何かを誤魔化している。(さっき見た波風ちゃんの記憶、もしかして……)「ねぇ波風ちゃん……キュアノーブルとキュアアナテマって覚えてる?」「もちろんよ! 前者は光で戦うキュアヒーローで、後者は闇の力で……というより引力と斥力で戦うのでしょ?」「……じゃあ神奈子さんと橙子さんのことは?」「アンタあの鬼の神奈子と、イケメン美女で有名なあの人と面識あるの? やめときなさいよ……神奈子と絡んだら喧嘩に巻き込まれるし、橙子さんさ体面は良さそうだけど、裏で女の子を食ってるかもしれないわよ?」 私は質問の返しに絶句してしまう。それはキュアリンも同様のようで、引き気味に恐る恐る口を開く。「おい波風……お前何を言ってるんだ? 神奈子と橙子は……俺達の仲間だぞ?」「ねぇ波風ちゃんやっぱ変だよ!! 何か……やっぱり変身するのが……」「そんなことないっ!!」 彼女も私と同じ不安を抱いていて、それが的中していることもほぼ確信しているからか怒鳴ってまでも否定する。せめて口では。「いいから早くこの瓦礫退けるわよ!」「ちょっ……波風ちゃん!!」 彼女は無理矢理にでもブローチを私の胸につけ、出現したステッキに口を寄せる。「キュアチェンジ!!」 止めようとするがそれより先に唱えられ、私達は融合し法衣を纏う。[いいから……早くやるわよ……]「……分かったよ。キュ
last updateLast Updated : 2025-08-17
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134話 侵略開始

「くそ……みんな無事で居てくれ……!!」 オレは変身した状態で、空中にゼリーを設置しその上を跳ねながら移動する。先程から海岸近くで待機しているはずの仲間に電話をかけているが、地震のせいか繋がらない。 (電源を切っている……いやそれとも壊れたのか? とにかく急がないと……) 焦りながら空を賭けていると下の方から人間の悲鳴が聞こえる。 (なんだ……瓦礫に潰されて家族でも死んでたのか?) この状況ではそういったことも少なくない。もうすぐ海なので気にも留めず進もうとしたが、あまりに迫真な叫び声にチラリとそちらを見てしまう。 「あいつ……何やってるんだ!?」 そこでは甲殻類のイクテュスが、たった今連絡しようとしていたオレの同胞が中年の女性を手にかけようとしていた。 「っ……!!」 頭がこんがらがりそうになり迷いが生じるが、それでもオレは軌道を変えて同胞の方へ落下するかのように急下降する。 「おっ、ゼリ……うぉっ!!」 そしてオレの頭が奴の腹に激突し、オレは頭を痛め彼は大きく後退しながら腹を痛そうに抱える。その間に襲われそうになっていた女性は逃げ、オレは事を穏便に済ませられて一安心する。 「いてて……何すんだよゼリル!?」 「すまない……お前が見えたから空中から向かおうとしたら加減を見誤った……それよりお前こそ何をしている? 持ち場を離れて人を襲うなんて……」 「あぁすまねぇな。地震の時に滑って端末落として割れちまって……」 なんだそんなことかとほっとする一方で、もう片方の質問の疑問がより大きくなる。 「それで何で人間を襲っていた?」 「あれ……お前聞いてないのか? 王が人間の街を侵攻しろって命令したの」 「なん……だと……!?」 そんな連絡もちろん聞いていない。何故現場の指揮を任されていたオレに伝えなかったのかと疑問を抱くのと同時に、王を止めなくてはと更に焦りは増す。 「王は今どこに……!?」 「多分海岸近くの……待機場所C地点だと思うが……」 「くっ……お前は一旦待機場所D地点まで戻って人間の姿で待機していろ!」 「えっ? どうして? だって王は……」 「オレは今から報告も兼ねて王のところに行く……キュアヒーローが来たらお前じゃ勝てないから仲間が集まるまで待機だ!」 それらしい理由を咄嗟に作り上げ、オレ
last updateLast Updated : 2025-08-18
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135話 消滅までのカウントダウン

「キュアリン!!」 お義父さんの遺体を引き上げて抱き抱え、地下室の扉への道もできた頃、キュアリンに呼ばれた生人君が到着する。「生人……ダメか……?」「くっ……やってみる……」 生人君は両腕を異形の触手に変貌させお義父さんの肌に触れさせる。溶けるように触手が体内に入っていくと、お義父さんの身体がみるみるうちに治っていく。「生き返った……?」「ごめん……無理だった。もう死んでからかなり経ってる……心臓も動いてないし、血流も完全に止まってて形だけは治せたけど……」 薄々は分かっていた。形が元に戻っていっても身体は相変わらず冷たかったから。「それと波風……ちょっと調べさせてもらってもいいかな……?」「えっ!? い、嫌……そんなの必要ない!!」 生人君は額に汗を浮かべながら触手を波風ちゃんの方へ伸ばす。彼女は嫌がり後ずさるが、突如地面から生えてきた触手が彼女の足に触れる。「ごめんこんな無理やりな方法で調べて……でも大体分かった」「な、何が分かったっていうのよ……?」「波風……君だって気づいてるはずだ。自分の身体が、存在が消滅していってるって」「えっ……?」 二人は互いに深刻な表情で見つめ合い、蚊帳の外だった私はポロッと声を漏らしてしまう。「そ、そんなことない!!」「前よりもエネルギーが大幅に減少している……きっと変身がトリガーになって存在がどんどん消耗されてってるんだ」「そ、そうなの波風ちゃん……?」 私は限界まで、いやそれ以上に瞳孔を広げ、渇きなど気にせず彼女の方を見る。「アタシは……消滅なんて……」 突きつけられる親友の二回目の死。お義父さんの死に続きまた新たな別れが押し寄せてきて、私の心は大きく軋む音を立てる。「何で波風ちゃん黙ってたの!? このままじゃ消滅しちゃう……それにみんなのことも忘れて……何で!?」 やがて悲しみは、一人突っ走り消えようとする身勝手な親友への怒りへと変わる。肩を掴み揺さぶり彼女の心に訴える。「最初から……助からない……あの時殺されて、高嶺の側で辛い想いをしてた時から……もう徐々に身体が消滅していっていたから……」「最初からって……その、幽霊になった時から消えていっちゃってるの分かってたの……?」「うん……でも、変身することでだいぶ時間が早まったみたい……元々の時間は半年くらいだったと思う……
last updateLast Updated : 2025-08-19
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136話 化物

「あそこか……!!」 飛ぶこと数十秒。激しい衝撃と何かが崩れる音を探知しボクは空中で急ブレーキを踏む。ちょうど止まった真下でアナテマとノーブルが戦っている。 (何だあの数……一体何が起きてるんだ……!?) イクテュスの数はざっと見て20ちょい。二人が戦っている一方で一部のイクテュスは破壊の限りを尽くし、逃げ遅れた人を襲おうとしている。「クソっ!! やめっ……!!」 アナテマが即座に向かおうとするが、他のイクテュスが妨害し行く手を拒む。助けらない。あの場に居る誰もがそう確信するのと同時にボクは限界まで身体を引き延ばしそのイクテュスに向かって急加速する。「ふんっ……!!」 奴と激突する直前に人間の姿に戻り硬い甲殻に蹴りを叩き込む。奴はその衝撃で吹き飛びコンクリートを破って地面を転がり人を襲うところではなくなる。「生人……!! すまねぇ!! でもその足……」(やっぱり……脆くなったなぁ……)  足首は逆方向に曲がり、骨が皮膚を突き破り肉が損傷している。己の力でここまでの傷を負ってしまった。「まさかこいつゼリルが言ってた化物野郎……!? でも変身できてねぇ!! おいお前ら!! 建物壊すんじゃなくて一気に倒すぞ!!」 二人が手に負えていなかった、街の破壊に赴いていたイクテュスがボク目掛けて向かってくる。陰に隠れていた個体もおり、更に数を増す。「生人さん危な……」「こっちはいい!! 二人は自分の身を守ることを最優先に考えて!!」 戦いながらもこちらを想う二人をあえて突き放し、ボクはボク一人で、二人と同等の数と質のイクテュスと交戦を始める。(傷が治るまで……まだ数秒いる……!!) 時間稼ぎのためボクは片足のみで跳び上がり、イクテュスらを踏み台にして塀に跳び乗る。「こいつちょこまかと……!!」 ボクは二人の元に行かせないよう敢えて倒せるかもと思わせて挑発し、狭い道に誘導する。ここなら数の利を活かしにくい。 攻撃の合間を縫い、ボクは崩れた瓦礫を蹴り上げ甲殻類の鎧にヒビを入れる。「うっぐ……!!」「おい大丈夫か!?」 膝を突く奴を介抱するべく他のイクテュスが一人寄り添う。(ゼリルみたいに仲間意識は高いのか……なら……!!) ボクは塀の壁を走り、電柱を蹴り跳びながら来た道を引き返す。「二人とも!! イクテュスを殺すことに拘らないで!
last updateLast Updated : 2025-08-20
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137話 親友の皮を被った悪魔

[じゃあ健橋先輩と橙子さんは無事なんだね!?][うん……なんとか間に合ったよ] 生人君が飛び出していってから数十分後。私達は生人君とテレパシーで連絡を取り合っていた。[こっちは救助活動を続けるから、そっちも出来る範囲……いや、休んでてもいいからね][待ってください……アタシはまだ……!!][君は……もう時間がない。ならせめて、その少ない時間でも、高嶺と一緒に居てあげて] 生人君はこちらを、波風ちゃんを気遣うような口振りだが、肝心な彼自身もどこか落ち込んでいる声色だった。[生人君……? 何かあったの……?][えっ? いや何でもないよ。それより二人はこっちのことを気にせず休んでて。じゃあ][えっ、ちょっと待っ……] こちらの言葉など聞かず、彼は一方的にテレパシーを切る。「とりあえず二人は本当に緊急の時以外は動くな……生人の言った通り……せめて今だけでも一緒に居てくれ。すまない……」 キュアリンは大変申し訳なさそうに頭を下げ、肩を落としながらどこかへ去って行く。きっと地震の対応やイクテュスへの対処があるのだろう。「波風ちゃん……」 なんと言葉をかけていいのか分からなかった。そもそも今の波風ちゃんはどこまで覚えており、何を、誰を忘れているのか分からない。私のこともどこまで覚えているのか……「アタシは……大丈夫……!! だからこの街を……高嶺が居るここを守らないと……!!」「何で……どうして波風ちゃんは自分が消えそうなのにそこまでするの!?」 腹を貫かれて死に、幽霊として蘇ってもキュアヒーロー以外からは認識されない。そして変身するたびに記憶と存在を摩耗し寿命がすぐそこまで迫ってきている。 怖くないはずがない。幽霊になるだけでも恐ろしく寂しいのに、更に消滅までしようとしている。なのに彼女はそれでも戦うと、立ち向かうと言う。「そりゃアンタが……っ!!」「えっ? 私……? 私がどうかしたの?」「高嶺の馬鹿!!」 波風ちゃんが涙目になりながらもこちらを睨みつける。だがそれには喧嘩した時のような敵意はなく、それでも怒りが確かに込められている。「ば、馬鹿って……!!」 正面向かって罵倒されつい私も言い返しそうになるが、彼女の悲しそうな顔を見て踏み留まる。(そうだ……波風ちゃんだって辛いんだ……!!) その後波風ちゃんが何度かキュアリン
last updateLast Updated : 2025-08-24
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138話 後悔を振り切り

「やめろっ!!」 波風ちゃんの身体を使っていることもあり抵抗があったが、それでも目の前の友人を助けるべく親友の皮を被ったナニカに飛び蹴りをくらわす。「硬いっ……!?」 人間ならかなり痛い一撃になるはずなのに、ダメージを受けたのは攻撃した私の方だ。奴は岩のように硬く人間の地力でダメージを与えられるイメージが全く湧かない。「誰だお前……いや、後ろの半透明の……報告にあったな。キュアヒーローとやらか?」(波風ちゃんが見えてる!? ってことはこいつも……!?) 背中に冷たいものが走る。人間態でこの硬さ。それにイクテュス態以上の強さを持つ法衣の姿にもなれるということだ。「まぁお前は離してやろう……もう必要ない」 朋花ちゃんは乱暴に投げ捨てられ、体育館内に貼ってあったテントに激突し頭から血を流す。「朋花ちゃん!!」 助けに行こうとするが、この姿で奴の隣を駆け抜けることなどできない。幸い周りが恐れながらも彼女を手当てしに行ってくれている。遠目で見た感じ致命傷にはなっていないし、死ぬことはないだろう。「この姿は非効率だな……戻るか」 奴は首に注射器を刺し、身体をメキメキと変貌させタコのイクテュスへとなる。「人間ども!! 我はイクテュスの王である!!」 奴はこの場に居る全員に聞かせるように大きく、高らかに名乗りを上げる。「なんだあの化け物……うわぁぁぁ!!」 奴がイクテュス態になったことで辺り一面が混乱に包まれる。慌てふためく者、悲鳴を上げて逃げる者。腰を抜かして逃げられない者。全員が恐怖を心に植え付けられる。「このように我らは人間とイクテュスの姿を自由に入れ替えることができる!! 今怯えている貴様らの中にも同胞が居るかもしれないな……」 また辺りの空気が一変する。隣の誰かが化け物かもしれない。そんな不安が過ぎり疑心暗鬼の色も空気に加わる。「そしてそこに居る女はキュアヒーローだ。貴様らの希望のな。そしてその希望を今ここで打ち砕く」 奴は触手でブローチを持ち皮膚に貼り付ける。すると人間の姿に戻っていき出現したステッキを手に取る。「キュアチェンジ」 ステッキが黒色の禍々しい宝石に変わり奴の胸に張り付く。そこから触手が伸びるように法衣が全身にできていき、奴は深い黒に近い青色の、深海のイメージを浮かべさせる法衣を纏うのだった。「高嶺……変身する
last updateLast Updated : 2025-08-25
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139話 押さえつける力

 辺りに氷の礫が舞い、私達は一つとなり法衣を身に纏いキュアヒーローへと変身する。[いくよ……波風ちゃん][こっちも全力でサポートする。無駄なこと考えてそこ突かれたら許さないからね!!][分かってる……!!] 今の波風ちゃんがどのような感覚で、何を考えているのかは分からない。だが少なくとも私の方は何も問題なく、いや寧ろ以前よりも身体が動かしやすく感じる。「氷の使い手……だったか? 我のこの姿にどれだけ傷をつけれるか試してみるか?」「挑発には乗らないよ……」 キュアリンから受け取った武器を取り出し銃に変形させる。銃口の先を奴に真っ直ぐ向け、引き金に手をかける。(みんな逃げ始めて衝撃が及ぶ範囲に人は居ない……でも奴が動いたら……ならここで機動力を断つ……!!) 銃を向けられても奴の表情に変化はなく不気味に、不敵に笑みを貼り付けている。(撃てる……今ここで……殺せる!!) 奴は隙だらけで確実に仕留めらると思った。素早く引き金を引くが、次の瞬間発射された氷の弾は地面に突き刺さっていた。[触手で……いやその前に弾が落ちた……!?] 明らかにおかしな挙動をした弾。その不気味さに鳥肌が立つのも束の間。もう既に奴が眼前に迫っていた。背中に生やした触手を叩きつけ、その反動で推進力を生み急接近してくる。(ここは一旦引かないと……!!) 一旦距離を取って立て直そうと後ろへ跳び迫りくる触手を躱そうとするが上手くいかない。かなり勢いをつけたはずなのに全く後ろへ下がれない。「身体が……重いっ……!?」 まるで鉛をコーティングされたかのように全身がズシりと重くなっており思うように動かせない。そのことに驚愕していると横に振られた触手が脇腹を捉えてしまう。「ごふっ……!!」 血を吐きながら吹き飛ばされるが、壁にめり込むことなく私は空中で数回回った後着地する。[ごめん防ぎきれなかった!!][大丈夫……なんとか致命傷は避けられた……みたい] 脇腹にはリボンが何重にもなって巻き付いて肌を守ってくれていた。あのハンマーの奴でも簡単に引き千切れないこれがあってもこのダメージ。全身に鋭い電流が走り危険信号を発する。「ほう……中々面白い力だ。どれ、他には何ができる? 我自身この力にはまだ知見が浅くてな……」  こっちが体勢を立て直そうとしているのに奴は遠慮なくグイ
last updateLast Updated : 2025-08-26
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