All Chapters of 高嶺に吹く波風: Chapter 141 - Chapter 144

144 Chapters

140話 完全敗北

 私達の手から巨大な氷柱が放たれる。奴はそれを容易に躱すものの氷柱は地面に突き刺さり辺りを凍てつかせ、窓や出入り口を完全に閉ざしこの広い密閉空間を私達と奴だけのものにする。「どうした? 逃げる気はないぞ?」「勝手にご想像してな……よ!!」 氷の弾に混ぜて氷柱を蹴って奴の胴体目指して飛ばす。しかし奴は咄嗟に触手を四本展開し氷柱を受け止める。「ほう……直撃したら擦り傷程度にはなりそ……」「今!!」 私はなんとか隙を作ることができ波風ちゃんに合図を飛ばす。リボンが素早く伸び奴の触手や胴体を縛り上げる。「凍れ!!」 リボンは凍てつきそれに触れている奴の身体も一部凍りつく。(これならあの重力攻撃も大丈夫……私達の氷の力の方が強い!!) 実際そのことは奴も理解しているようで、凍てついたリボンに対して重力の力を使ってこない。「ここで……決める!!」 お互い地面に着地し、同時に地面を這っていた氷が奴の足を捉え、氷の牢が奴の下半身に作り上げられる。「ブリザード……」 クラウチングスタートを切るように屈み全身に力を込める。奴へ引導を渡す氷の道が出来上がり、リボンが限界まで伸びミシミシと悲鳴を上げ纏っていた氷が崩れ始める。「クラッシュ!!!」 そして一気に全ての力が爆発し、氷の道を破壊しながら奴の胴体に向かって足を伸ばす。「ふんっ!!」 しかし奴と激突する直前、奴は全身を纏っていた氷を全て砕き牢から脱出する。(なっ……あれを全部……!? でもこのまま突っ込むしかない!!) この威力の蹴りを相殺できるはずがない。私はそう踏んでいた。しかし奴は即座に灰を手から溢しそれを巨大な杖に変形させる。先は巨大な水晶のような物が付いており、硬く重たそうだ。(まずっ……!!) 引き返そうにももう止まれず、私達の必殺技と奴の杖の振り下ろしが激突する。「ぐっ……!!」 辺りに衝撃波が及び出入り口の氷が砕けていく。そしてやがて私達の蹴りの勢いは殺されていき、奴の杖に弾き飛ばされ壇上の壁にめり込み更にそこを突き破って地面を激しく転がる。「うっ……!!」「高嶺……足……が……!!」 変身はさっきの衝撃で解除されてしまっており、同時に下半身の感覚が少しおかしい。そして波風ちゃんに言われその違和感に気づく。「何これ……私の……足……?」 両足の膝が反対方向に曲
last updateLast Updated : 2025-08-27
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141話 もうアタシは必要ない

「うっぷ……!!」 目の前で気を失った悲惨な姿の親友を見て吐き気が込み上げてくる。この身体で吐瀉物なんて出るはずがないというのに、それでも口を抑える。「この傷……あのスプレーで治せる……の?」 いつも使っているキュア星の技術を使った治療スプレー。軽く骨にヒビが入った程度なら即座に治せるらしいが、今の高嶺の怪我はそんな次元を超えている。「そうだあの子なら……!!」 アタシは先程高嶺のお義父さんの亡骸を元通りにした生人という子供のことを思い出し、すぐにテレパシーを飛ばす。[生人!!!][ごめん今片付いて向かってるとちゅ……][高嶺が……高嶺が大怪我を負ったの!! お願い……助けて……!!][……今学校に居るよね!? もうすぐ着くから見えやすいように立ってて!!] 向こうの声色も焦り出し、そう待たないうちに体育館の上から生人が飛び降りてくる。「酷い怪我……」「治せる……?」「治す際に痛むかもしれないけど、幸い気は失ってるし特に問題ないと思う」 生人は高嶺の身体に触れて治療を始める。少しずつ彼女の膝が治っていくが、生人はかなり集中しているようで瞬きすらしない。その間数回衝撃が校舎側で発生するがすぐに収まる。(あの王とかいうのは……どこかに行った……?) 状況から考えて奴がやったと思うが、こっちに追撃しに来ることもそれ以上破壊活動を行う様子もない。(あの発言や振る舞い……今回は恐怖心を煽ることだけが目的だった……? 完全に舐められてた……そんな状態なのにアタシ達は……負けた……)「治りそう……?」「なんとか……でもかなり負担がかかったし目を覚ますのは夜頃になると思う。ごめん……ボクが居ながらこんな怪我をさせてしまって……」「そ、そんな君が謝ることは……」 かける言葉がこれ以上見つからない。本来アタシとこの子の間にはそれ相応の仲間としての絆があったはずだ。だが酷いことにアタシは彼のことを忘れている。それを彼が良く思うはずがない。(高嶺も……アタシが焦って戦わせなければこんなことには……) 意識を失い見るのも辛い大怪我。もしアタシがあそこで戦闘ではなく交渉を提案して上手く時間稼ぎができていればこんなことにはならなかったかもしれない。(アタシは……高嶺を……大好きな人を守りたかっただけなのに……) アタシが死んでもこの姿で高嶺の側
last updateLast Updated : 2025-08-28
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142話 唇を噛み締めてでも

「波風ちゃん!! 波風ちゃん!!」 もうすっかり日が沈み地震があったことなど嘘のように静かになった頃、それとは反対に私は大声を上げながら走っていた。「待って高嶺!!」「何で止めるの!? 波風ちゃんを探さないと!!」「もうこんな時間だよ……それにイクテュスや王もどこに潜んでいるか分からない……」「でも……だからって波風ちゃんを見捨てられない!!」 今イクテュスに襲われたら波風ちゃん抜きで変身できない私なんて一捻りで殺されるだろう。それでも彼女を見捨てる理由にはならない。「それで死んで……消滅間際の波風を悲しませて高嶺は満足なの? 少しは残される側のことも考えて……!!」「それは……!!」 言い返せない。私の一時の感情で自らを危険に晒し、あまつさえそれに巻き込んで他のみんなに迷惑をかけ、波風ちゃんを悲しませる結果を描きかけていた。(何で……テレパシーに応じてくれないの……!!) 先程からずっと波風ちゃんにテレパシーを飛ばしているが一向に返答はなく、通話の受け取りさえしないので話さえ聞いてもらえていない。(何か……私が傷つけるようなこと……)「おい」 背後から声がしたのと同時にある男が勢いよく着地する。それは今会いたくない、会ってはいけない存在だった。 私の実の父親の皮を被り、波風ちゃんを殺したクラゲのイクテュス。奴が闇夜を切り裂き現れた。「お前……!!」「待って!」 追い詰められ余裕がない状況で奴の顔を見て激昂する私を生人君がさっと手を出し静止する。「彼はもう敵じゃない……よね?」「少なくとも……オレに人間を傷つけることはもう……できないな」「ど、どういうこと?」 奴の落ち込み生命を慈しむような様子は私が知るような、親友の命を刈り取ったあの悪魔の如き風貌とは大きくかけ離れていた。「彼は……ゼリルは人の命を奪うことに罪悪感を覚え始めて、それで人間とイクテュスの和解を望んでいる……ってことで良いんだよね?」「あぁ……その通りだ」「は……?」 私は言葉にできない感情に襲われていた。もちろんイクテュスと人間が和解できたら、彼らの力を地震の復興に利用できたら人間にとって大幅にプラスになることは分かっている。「……けないでよ……!!」 それでも私は言わずにはいられなかった。親友を、大切な人を殺した奴が提案してきたことが私の逆
last updateLast Updated : 2025-08-29
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143話 引き留め

「あっ! 居た!!」 私がゼリルに教えてもらった公園まで着くとそこにはブランコに座り顔を俯かせている波風ちゃんが居た。 「波風ちゃん!!」 「た、高嶺……!!」 しかし波風ちゃんはこちらに気づくとスッと立ち上がり背を向けて顔を見せないようにする。 「心配したんだよ……? 何かあったの?」 突然私の前から姿を眩ました彼女。何か理由が、私に原因があったのではという考えに行き着き恐る恐る尋ねてみる。 「もしかして……私のせい?」 「違う……そんなことない!!」 こちらに背を向けながら彼女は肩を揺らす。どこか痛々しく辛そうで、無理をしている時の波風ちゃんだ。 「アタシが高音の側に居たら……辛い想いさせちゃうから……だから離れようとして……」 こちらに背を向けているため表情は一切分からないが、その物悲しい声色から大体は察せられる。 「何で……私波風ちゃんのせいで辛い想いなんてしてないよ!!」 「してるわよ!! アタシが死んじゃったせいで……高嶺の心は壊れかけたし……さっきだってアタシが戦おうって言わなければあんな怪我しなかった!!」 「そうだよ……波風ちゃんが居なくなるのは辛いよ……死んじゃうのも、消滅しちゃうのも。でも、まだ一緒に居られるのに、どこかに行っちゃうのはもっと辛いの……!!」 感情を露出させる彼女に応じてこちらもそれ相応の心の内を曝け出す。 「たとえ消えちゃうとしても、居なくなっちゃうとしても私は最後まで波風ちゃんと一緒に居たいよ!!」 「高嶺……!!」 波風ちゃんが振り返り隠していたその顔を露わにする。涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまっており、その涙さえ彼女を拒絶するように地面に吸収されずすり抜けていく。 だが私は彼女を、大切な大親友を受け止め肩に手を回し抱き締める。 「だからお願い……何があっても、最後まで一緒に居よ?」 「う、うぅ……!!」 彼女の大粒の涙は私の肩を伝い皮膚の上を這っていく。夜風が吹き抜け肌寒いこの中、私達はお互いのぬくもりを分け合うのであった。 ⭐︎ 「ごめんなさい……大怪我した高嶺を見て、その現実から逃げるように……」 「こっちこそごめんね心配させちゃって……でもほら生人君が治してくれて元通りだよ!」 私はその場でピョンピョンと飛び跳ねて自身の足の良好具合を示す
last updateLast Updated : 2025-09-10
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