All Chapters of 高嶺に吹く波風: Chapter 141 - Chapter 150

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140話 完全敗北

 私達の手から巨大な氷柱が放たれる。奴はそれを容易に躱すものの氷柱は地面に突き刺さり辺りを凍てつかせ、窓や出入り口を完全に閉ざしこの広い密閉空間を私達と奴だけのものにする。「どうした? 逃げる気はないぞ?」「勝手にご想像してな……よ!!」 氷の弾に混ぜて氷柱を蹴って奴の胴体目指して飛ばす。しかし奴は咄嗟に触手を四本展開し氷柱を受け止める。「ほう……直撃したら擦り傷程度にはなりそ……」「今!!」 私はなんとか隙を作ることができ波風ちゃんに合図を飛ばす。リボンが素早く伸び奴の触手や胴体を縛り上げる。「凍れ!!」 リボンは凍てつきそれに触れている奴の身体も一部凍りつく。(これならあの重力攻撃も大丈夫……私達の氷の力の方が強い!!) 実際そのことは奴も理解しているようで、凍てついたリボンに対して重力の力を使ってこない。「ここで……決める!!」 お互い地面に着地し、同時に地面を這っていた氷が奴の足を捉え、氷の牢が奴の下半身に作り上げられる。「ブリザード……」 クラウチングスタートを切るように屈み全身に力を込める。奴へ引導を渡す氷の道が出来上がり、リボンが限界まで伸びミシミシと悲鳴を上げ纏っていた氷が崩れ始める。「クラッシュ!!!」 そして一気に全ての力が爆発し、氷の道を破壊しながら奴の胴体に向かって足を伸ばす。「ふんっ!!」 しかし奴と激突する直前、奴は全身を纏っていた氷を全て砕き牢から脱出する。(なっ……あれを全部……!? でもこのまま突っ込むしかない!!) この威力の蹴りを相殺できるはずがない。私はそう踏んでいた。しかし奴は即座に灰を手から溢しそれを巨大な杖に変形させる。先は巨大な水晶のような物が付いており、硬く重たそうだ。(まずっ……!!) 引き返そうにももう止まれず、私達の必殺技と奴の杖の振り下ろしが激突する。「ぐっ……!!」 辺りに衝撃波が及び出入り口の氷が砕けていく。そしてやがて私達の蹴りの勢いは殺されていき、奴の杖に弾き飛ばされ壇上の壁にめり込み更にそこを突き破って地面を激しく転がる。「うっ……!!」「高嶺……足……が……!!」 変身はさっきの衝撃で解除されてしまっており、同時に下半身の感覚が少しおかしい。そして波風ちゃんに言われその違和感に気づく。「何これ……私の……足……?」 両足の膝が反対方向に曲
last updateLast Updated : 2025-08-27
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141話 もうアタシは必要ない

「うっぷ……!!」 目の前で気を失った悲惨な姿の親友を見て吐き気が込み上げてくる。この身体で吐瀉物なんて出るはずがないというのに、それでも口を抑える。「この傷……あのスプレーで治せる……の?」 いつも使っているキュア星の技術を使った治療スプレー。軽く骨にヒビが入った程度なら即座に治せるらしいが、今の高嶺の怪我はそんな次元を超えている。「そうだあの子なら……!!」 アタシは先程高嶺のお義父さんの亡骸を元通りにした生人という子供のことを思い出し、すぐにテレパシーを飛ばす。[生人!!!][ごめん今片付いて向かってるとちゅ……][高嶺が……高嶺が大怪我を負ったの!! お願い……助けて……!!][……今学校に居るよね!? もうすぐ着くから見えやすいように立ってて!!] 向こうの声色も焦り出し、そう待たないうちに体育館の上から生人が飛び降りてくる。「酷い怪我……」「治せる……?」「治す際に痛むかもしれないけど、幸い気は失ってるし特に問題ないと思う」 生人は高嶺の身体に触れて治療を始める。少しずつ彼女の膝が治っていくが、生人はかなり集中しているようで瞬きすらしない。その間数回衝撃が校舎側で発生するがすぐに収まる。(あの王とかいうのは……どこかに行った……?) 状況から考えて奴がやったと思うが、こっちに追撃しに来ることもそれ以上破壊活動を行う様子もない。(あの発言や振る舞い……今回は恐怖心を煽ることだけが目的だった……? 完全に舐められてた……そんな状態なのにアタシ達は……負けた……)「治りそう……?」「なんとか……でもかなり負担がかかったし目を覚ますのは夜頃になると思う。ごめん……ボクが居ながらこんな怪我をさせてしまって……」「そ、そんな君が謝ることは……」 かける言葉がこれ以上見つからない。本来アタシとこの子の間にはそれ相応の仲間としての絆があったはずだ。だが酷いことにアタシは彼のことを忘れている。それを彼が良く思うはずがない。(高嶺も……アタシが焦って戦わせなければこんなことには……) 意識を失い見るのも辛い大怪我。もしアタシがあそこで戦闘ではなく交渉を提案して上手く時間稼ぎができていればこんなことにはならなかったかもしれない。(アタシは……高嶺を……大好きな人を守りたかっただけなのに……) アタシが死んでもこの姿で高嶺の側
last updateLast Updated : 2025-08-28
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142話 唇を噛み締めてでも

「波風ちゃん!! 波風ちゃん!!」 もうすっかり日が沈み地震があったことなど嘘のように静かになった頃、それとは反対に私は大声を上げながら走っていた。「待って高嶺!!」「何で止めるの!? 波風ちゃんを探さないと!!」「もうこんな時間だよ……それにイクテュスや王もどこに潜んでいるか分からない……」「でも……だからって波風ちゃんを見捨てられない!!」 今イクテュスに襲われたら波風ちゃん抜きで変身できない私なんて一捻りで殺されるだろう。それでも彼女を見捨てる理由にはならない。「それで死んで……消滅間際の波風を悲しませて高嶺は満足なの? 少しは残される側のことも考えて……!!」「それは……!!」 言い返せない。私の一時の感情で自らを危険に晒し、あまつさえそれに巻き込んで他のみんなに迷惑をかけ、波風ちゃんを悲しませる結果を描きかけていた。(何で……テレパシーに応じてくれないの……!!) 先程からずっと波風ちゃんにテレパシーを飛ばしているが一向に返答はなく、通話の受け取りさえしないので話さえ聞いてもらえていない。(何か……私が傷つけるようなこと……)「おい」 背後から声がしたのと同時にある男が勢いよく着地する。それは今会いたくない、会ってはいけない存在だった。 私の実の父親の皮を被り、波風ちゃんを殺したクラゲのイクテュス。奴が闇夜を切り裂き現れた。「お前……!!」「待って!」 追い詰められ余裕がない状況で奴の顔を見て激昂する私を生人君がさっと手を出し静止する。「彼はもう敵じゃない……よね?」「少なくとも……オレに人間を傷つけることはもう……できないな」「ど、どういうこと?」 奴の落ち込み生命を慈しむような様子は私が知るような、親友の命を刈り取ったあの悪魔の如き風貌とは大きくかけ離れていた。「彼は……ゼリルは人の命を奪うことに罪悪感を覚え始めて、それで人間とイクテュスの和解を望んでいる……ってことで良いんだよね?」「あぁ……その通りだ」「は……?」 私は言葉にできない感情に襲われていた。もちろんイクテュスと人間が和解できたら、彼らの力を地震の復興に利用できたら人間にとって大幅にプラスになることは分かっている。「……けないでよ……!!」 それでも私は言わずにはいられなかった。親友を、大切な人を殺した奴が提案してきたことが私の逆
last updateLast Updated : 2025-08-29
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143話 引き留め

「あっ! 居た!!」 私がゼリルに教えてもらった公園まで着くとそこにはブランコに座り顔を俯かせている波風ちゃんが居た。 「波風ちゃん!!」 「た、高嶺……!!」 しかし波風ちゃんはこちらに気づくとスッと立ち上がり背を向けて顔を見せないようにする。 「心配したんだよ……? 何かあったの?」 突然私の前から姿を眩ました彼女。何か理由が、私に原因があったのではという考えに行き着き恐る恐る尋ねてみる。 「もしかして……私のせい?」 「違う……そんなことない!!」 こちらに背を向けながら彼女は肩を揺らす。どこか痛々しく辛そうで、無理をしている時の波風ちゃんだ。 「アタシが高音の側に居たら……辛い想いさせちゃうから……だから離れようとして……」 こちらに背を向けているため表情は一切分からないが、その物悲しい声色から大体は察せられる。 「何で……私波風ちゃんのせいで辛い想いなんてしてないよ!!」 「してるわよ!! アタシが死んじゃったせいで……高嶺の心は壊れかけたし……さっきだってアタシが戦おうって言わなければあんな怪我しなかった!!」 「そうだよ……波風ちゃんが居なくなるのは辛いよ……死んじゃうのも、消滅しちゃうのも。でも、まだ一緒に居られるのに、どこかに行っちゃうのはもっと辛いの……!!」 感情を露出させる彼女に応じてこちらもそれ相応の心の内を曝け出す。 「たとえ消えちゃうとしても、居なくなっちゃうとしても私は最後まで波風ちゃんと一緒に居たいよ!!」 「高嶺……!!」 波風ちゃんが振り返り隠していたその顔を露わにする。涙で顔がぐしゃぐしゃになってしまっており、その涙さえ彼女を拒絶するように地面に吸収されずすり抜けていく。 だが私は彼女を、大切な大親友を受け止め肩に手を回し抱き締める。 「だからお願い……何があっても、最後まで一緒に居よ?」 「う、うぅ……!!」 彼女の大粒の涙は私の肩を伝い皮膚の上を這っていく。夜風が吹き抜け肌寒いこの中、私達はお互いのぬくもりを分け合うのであった。 ⭐︎ 「ごめんなさい……大怪我した高嶺を見て、その現実から逃げるように……」 「こっちこそごめんね心配させちゃって……でもほら生人君が治してくれて元通りだよ!」 私はその場でピョンピョンと飛び跳ねて自身の足の良好具合を示す
last updateLast Updated : 2025-09-10
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144話 妥当な怒り

「なんで……どうしてそいつと居るの……?」 波風ちゃんは手を震わせながらゼリルを指差し突き刺すような視線を送り睨みつける。己の仇を。 「い、生人く……」 私は彼に助け舟を出そうと声をかけようとするができなかった。冷静であるのと同時に冷徹な鋭い視線。ゼリルの背中を突き刺す彼のものを見て言葉が遮られる。 生人君は黙っているだけで何も説明しようとしない。あくまでもゼリル自身の口から言わせる気だ。そうしないと意味がないから。 「オレは……お前を殺したことを後悔している……前までは人間の命なんてどうとも思っていなかった。でも、直接この手でやってから、罪悪感と後悔が込み上げてきたんだ……」 奴はついに重い腰を上げるように想いを吐露する。だがそんな理屈は殺された波風ちゃんに受け止められるはずもなく、次の瞬間ゼリルの胸倉を掴み上げていた。 「今更ふざけないでよ……!! アタシを殺し……高嶺を殺しかけておいて後悔? 罪悪感? 人をおちょくるのも大概にしなさいよ!!」 ゼリルの力なら容易に振り払えるのに、彼はそうせず力なく腕を垂らす。抵抗……まではいかなくとも苦しさから逃げることすらせず、締め上げられることを受け止め表情を歪める。 「なによ……何でそんな顔をするのよ……何か言いなさいよ!!」 「許されないことは分かっている……それでもオレは……やってしまったことの責任を取りたい。人間とイクテュスの和解を……頼む。双方にこれ以上被害や確執を増やしたくない……」 「今更……今更……遅いわよそんなの……!!」 もし、もしもこの提案があと数ヶ月、いや半年と少し早ければそもそも私や波風ちゃんがキュアヒーローにならず、彼女が死ぬこともなかった。 それにあと一年早ければ橙子さんと健橋先輩もなっておらず、翠さんも死なずにみんな過ごしていただろう。平穏な日々を。 「ぐぐっ……!!」 波風ちゃんの首を締め上げる力は次第に強くなっていき、ゼリルは苦悶の声を漏らす。イクテュスの肉体強度なら誤って……ということにはならないだろうが、見ていて複雑なものが心に芽生える。 「すま……ない……!! それでも……オレにできること……を……!!」 波風ちゃんの心境を考えれば話を一応聞いてくれるだけでもだいぶ寛大だ。それはゼリルも分かっており、言葉にした通り許されるなん
last updateLast Updated : 2025-09-28
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145話 分断行動

「ちっ……とりあえずそいつはもう人を襲う気はないってことだな?」 日付も変わり疲労と眠気が限界を迎える頃合い。やっと健橋先輩と橙子さんもゼリルの件を飲み込めたようで、納得こそ得られないものの理解は示してくれる。 「本当に大丈夫かい……? 実は今も潜んでいるイクテュスと内通している……なんてことはないよね?」 橙子さんが疑心暗鬼……とまではいかずともかなりゼリルを疑り信用していない。いや信用していないのは私も同じだか、より深い溝が感じられる。 「ボクの力で通信機器やテレパシー等はしてないことは確認済みだし、ずっと見張ってるからそこら辺は大丈夫」 「だけど……」 橙子さんは横目で波風ちゃんの方へ視線を送る。殺人の被害者と加害者が一緒に居るというありえないこの状況。言い知れぬ気まずさが漂う。 「わたし達はもう誰一人欠けることなんて許されないのに……」 無意識で溢した言葉だったのか、小さく呟く。この中の半分も聞き取れていないであろう声量で。 「とりあえず二人の方は何かあった?」 「いやアタイ達は特にテレパシーで報告した以上のことは。ただ暴れるイクテュスを片っ端から倒しまくって……でもすぐに逃げるからほとんど倒せなかった」 「向こうも犠牲はなるべく抑えたいってことか……ここを占拠してそれ以降も国や世界を相手にしてくつもりだろうね……」 世界を相手する。突拍子もない話だがそうも笑っていられない。向こうはまだ技術を隠し持ってる、あるいは開発する可能性だってあるし、なにより人間に化けられる厄介な技術もある。 「そのための踏み台がこの街だってのかよ……クソっ!!」 殴りつけた地面が少し凹む。健橋先輩の手は酷く荒れており、ところどころ治せてない場所が散見される。 「ねぇアンタ本当にイクテュスの動向とか分からないの?」 「王からは完全に見限られてそういうのを聞かされる前に半殺しにされたからな……生人に会う前にいくつかオレの知ってる集合場所に行ってみたがどこもダメだった」 「ボクも今色々手を打ってるけど、人間の姿になれる上にこの地震でもうめちゃくちゃだから、基本的に後手に回らざるえない。あんまり気負わせたくないけど、いつでも戦える準備はしておいて」 地震が起き辺りは阿鼻叫喚。ここに来る途中でも小さいとはいえ何度か地面が揺れ、その度に深夜
last updateLast Updated : 2025-10-01
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146話 もう誰も死なせない

「二人ともどうぞこちらへお掛けください。急いで片付けましたのでまだ散らかっていますが、最低限休めはするはずです」 中は多少散らかっているものの他の民家と比べるとマシで、校長室お決まりのフカフカのソファーは無事だ。それに隅にはベッドもある。 「おうありがと……うございます」 アタイは咄嗟に敬語に切り替えぺこりと頭を下げる。 「神奈子が敬語使うなんて珍しいのだね」 「ちょっ、リンカル……!!」 「いえ気にしないでください。まだ中学生ですし」 少々小っ恥ずかしさを覚え、今度から少し国語の授業を真面目に受けようと心の中で反省する。 「私はすぐに出て行くので気にせず休んでもらいたいのですが、その前にいくつか聞いておきたいことがありまして」 鷹野は向かいのソファーに座り、リンカルは机の上にちょこんと座る。 「まずキュアリンを通じて生人さんから聞いたのですが、分かれて行動し即座に対応できるようにするとか」 「はい。わたし達もある程度休めましたし、今向かえと言われたら100%を出すのは難しいですがイクテュスを退けることはできるはずです」 「負担をかけて申し訳ございません。こちらも最善を尽くします。それはそれとして……」 鷹野の雰囲気が少し変わる。こちらに懐疑を向けた、尋問官の目になる。 「生人さんのことなのですが……ただいま連絡が取れなくて、居場所を知りませんか?」 「いえ、わたし達は聞かされてなくて……彼に何か用が?」 「上がこう言ってましてね。"これ以上身勝手な行動をするならイクテュスに与したと見做す"とね」 「はぁ!? なんだよその言いがか……」 あれだけ酷使し無理をやらせてきた生人に手のひらを返し敵と見做すと宣告したことに激怒するが、立ちあがろうとしたアタイを橙子が掴み制止させる。 「私としても不本意ですよ。彼とは良い関係を築きたい。手を切るにはあまりにも早計だ。上は踏ん反り返っているくせに案外おくびょ……いえ、これ以上はやめておきましょうか」 文句を言う割には彼の態度には半ば諦めも見え、最悪生人を切り捨てる気でいる。 「何を隠しているのかは知りませんが、彼にあったら伝えておいてください。これ以上は危ないと」 「半分何をおっしゃりたいのか分かりませんが、彼に会えたら伝えておきます」 「では私はこれで」 橙子
last updateLast Updated : 2025-10-02
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147話 商店街にて

「そりゃアタイだってお前やみんなが居なくなるのは嫌だよ。だから必死に……」 「君も知ってるだろう? わたしはそんはに強い人間じゃない。やっとできた、本当の友達との別れを三度耐えれる程強くないんだ」 一人目は翠、そして二人目は今もなお消滅に近づいているという海原のことだろう。 (何で……どうしてこんなに死ななきゃいけねぇんだよ……!!) アタイも立て続けに友達が死に、必死に戦い続け誤魔化しているがメンタルがかなり削られている。 「例え神奈子が許してくれたとしても、翠がどう思っているかなんて分からない。もしわたしが死んだら、あの世で責められるかもしれない」 友人の死に連戦に継ぐ連戦。地震による阿鼻叫喚に誰が死に、誰が生存しているか不鮮明な現状。橙子の精神はかなりガタがきている。 「ごめんのだ……本来君達を戦わせるなんて危ない真似させるべきじゃないのに……その上僕のせいで二人を死なせて……僕達が変身して戦えれば……」 キュア星の人達は変身できたとしても、変身前のアタイ達くらいの力しか出せないらしい。そんな状態で戦っても死ぬだけだし、責めることなんてできない。 「最初リンカルからキュアヒーローのことを教えられた時、適性が地球人だとわたしくらいの年頃の女の子の一部でそれにわたしが該当してると知った時、正直自惚れていた」 確か橙子は一番最初にキュアヒーローになったはずだ。ヒーローになれる、変身できると何も前情報がない中知りはしゃぐ気持ちも理解できる。 「それで翠を死なせて、君とも確執を作ってしまった……」 「もうそのことはいいだろ」 「そうだね……それで高嶺のおかげで考えを改めたはずだったのに、今度は波風が……それに生人さんまで……」 後悔してもしきれないとはこのことを言うのだろう。しかし来た道を振り返ってみてもアタイらは最善を尽くしたと思う。それでもやるにやりきれない。 「でも、だからこそわたしはもう逃げたくない。間違えたくない」 橙子の話す語気が強くなる。そこにはもうブレないという覚悟が、信念が籠っていた。 「同感だ。もう被害は出さねぇし、さっさとこのゴタゴタを終わらせて、せめて高嶺と波風がきちんと最後まで一緒に居れるようにしねぇとな」 「二人とも……ありがとうなのだ」 どんなに辛い状況であろうと今のアタイ達は一人で
last updateLast Updated : 2025-10-03
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148話 総力戦

「何だこいつら全然疲れねぇ……!!」 二人で半分ほど片付けた辺りで奴らが怖気付き始める。前まで戦っていた知性のない奴らとは違い、こいつらには恐怖という感情がある。 「ブリザードッ!!」 背後から巨大な氷柱が迫ってきて地面に突き刺さる。さらに天井のガラスを突き破り神秘的な職種が数匹の首を締め上げ地面に叩きつける。 「これで五人揃ったか……ゼリルは?」 完全にこちらが優位になり、奴らを逃さないよう全体に注意を向けながらも生人の側で囁く。 「ボクの身体の一部を渡して監視しつつ裏で待機させながら民間人が近づかないようにしてくれてる」 「そうか……」 まぁ役に立っているなら言うことはない。今は目の前の敵に集中する。 「みんな……!!」 奴らを追い詰めていくと生人がピタッと止まり険しい顔をする。話を聞こうとしその場で急停止しようとしたものの、それより前に横道から人影が飛び出してくる。 「海原……?」 飛び出してきたそれは海原の姿で呆気に取られるが、すぐにそれが彼女ではないことを思い出す。そして同時に全身が鉛のように重くなりアタイは地面に叩きつけられるのだった。 ☆ 「アナテマ!!」 私達が商店街に駆けつけた直後アナテマが不自然な挙動で地面に叩きつけられめり込む。その前には波風ちゃんの姿をしたあの王がおりアナテマを見下していた。 「ほう、予想通り全員居るようだな」 王は私達を品定めするように見渡し、キュアヒーローが全員居ることを確認する。 「ここで終わらそう。キュアヒーローとやらを」 「ぐぐぐ……はぁっ!!」 地面に押さえつけられていたアナテマの全身に闇のオーラが纏わっていく。そして更に強化した肉体で地面を押し奴の加重空間から脱する。 「ほう、中々やるようだな……お前らは下がっててよい。後は我に任せよ」 王は他の部下達を退かせ、追いかけさせないために私達の前に立ちはだかる。 「終わるのはどっちかな……? 今回は数的にもこっちが有利だよ」 一度負けたとはいえこちらは全員揃っている。心強い仲間が居る。 「お返しだっ……!!」 張り詰めた空気の中アナテマが奴の頭上に闇の塊を投げる。そこから強い斥力が発生し上から奴を押さえつける。 「ふぅ……キュアチェンジ」 かなりの力で
last updateLast Updated : 2025-10-04
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149話 命を賭ける価値

「ふむ……これでも死なぬか」 「耐久力なら誰にも負けないからね」 何度目かの致命傷をもらい、ボクは痛みを堪え身体を再生させる。 (とはいえ……流石にこのまま倒すのは無理……だよね) ゼリルと戦った時のように創意工夫にどうにかしてダメージを与える、というのも奴の身体のスペック的に不可能だろう。 「我を前に仲間を逃したことに敬意を払い、一つチャンスをやろう。貴様、我らイクテュスの仲間に入らないか?」 「ボクが……?」 「そうだ。見た感じ人間ではないのは分かる。実験体か宇宙人かは知らんが、そこまでして人間に肩入れする理由はあるのか?」 ズキズキと片目が痛む。先日ぶつけられたあの石が、助けようとした女性に投げられ傷つけられた痛みがぶり返す。 「理由なんてないよ。ボクはただ……ヒーローであるって約束を守るだけだから。それより君こそもうこんな争いはやめない? このまま戦ったって……」 「下ってイクテュスに、我の同胞達に幸福はあるのか? 捕まり、身体を弄くり回されるのが関の山だろう?」 「そうならないためにボクやゼリルは……」 「それこそ貴様ら二人で世界を敵に立ち向かう気か?」 話は決着付かずの平行線。奴は諦め今一度杖を振り上げる。 「こちらの手を振り払うなら、その選択悔いるがいい」 そうしてまた何度か攻撃をもらい、その度にボクの全身は粉微塵になっていく。 「仕方ない……もうこれで……」 ボクはあるカードを一枚取り出す。それを具現化すると筆箱のような形状の、ベルトのバックルが出てくる。 「ボク達はもう手を引こう。この世界から……!!」 「貴様何を……!?」 そのバックルを下腹に装着しようとする。だが寸手のところで手が止まる。 (動かせない……!!) これを使うことは寿命をすり減らす、つまりは死を意味する。そんなこと分かって覚悟していたはずだが、直前で手が何かに引っ張られるように停止する。 同時に考えてしまう。こんなところで死んでしまっていいのかと。確かに奴は止めないといけない。だが先が短いとはいえ、この先ボクは一体何人の命を助けられるだろうか? イクテュスや他の惑星の命を救えるのだろうか? そして脳裏を過ぎるもう一つの邪な考え。ボクに石を投げた人。かつて他の星で化物と罵倒し、助けたのにも関わらずまた虐殺を繰り
last updateLast Updated : 2025-10-05
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