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高嶺に吹く波風 のすべてのチャプター: チャプター 151 - チャプター 160

160 チャプター

150話 闇より這い寄るもの

「いっ……てぇ……!!」 一旦近くの公園に退避し、ハンカチで健橋先輩の傷を抑え止血する。 「痛み止めだ……死なないでくれ……!!」 どこかから持ってきたのか、橙子さんは痛み止めを取り出し使用する。神奈子さんの顔色はマシになったものの、危険な状態なことには変わりない。 「お前ら大丈夫か!?」 キュアリンが建物の影から治療スプレーを持って飛び出してくる。 「なっ!? ゼリル何でここに……」 「それは後!! 今こいつは味方だから!! それより健橋先輩を早く!!」 「お、おう……」 納得はせずとも彼女の容態は一目瞭然なので、そちらを優先し治療に当たってくれる。 「ねぇ高嶺……さっきからテレパシーを飛ばしてるのに、生人さんに全く繋がらない……」 治療は難航し、何度も呻き声を上げる健橋先輩の傍ら。波風ちゃんが段々と顔を青ざめさせていく。 「あの子なら治療ができるのよね!?」 「う、うん。でも繋がらないってまさか……」 「いやテレパシー用のブローチが戦闘の際に落としたり砕けただけの可能性がある。まだ希望を捨てるんじゃない」 とはいえ仮に無事だとしてもすぐに合流することは絶望的だ。健橋先輩にはスプレーだけで堪えてもらうしかない。 「はぁ……はぁ……もう大丈夫だ……わりぃ、心配かけた」 十数分後、なんとか健橋先輩の怪我は完治する。しかし痛みはまだ残っているようで足を動かすことはできない。 「すまない……オレが居ながら、王を止められなかった……」 「それより……だ、何でお前達がこいつと一緒に居るんだ?」 「それは……」 私はキュアリンの質問にどう返したら良いか分からず口を閉ざしてしまう。彼から見ればイクテュスを味方につけるなど言語道断、今すぐにでもこいつと手を切れと言い出すかもしれない。 しかし王と再び戦いその実力差を分からされた今、戦力はどんなに少なくても良いから欲しい。それがたとえこいつだとしてもだ。 「生人さんが言ってたんだ、人間とイクテュスは和解するべきだって。その足がかりがゼリルだって」 「お前ら分かってんのか!? イクテュスは今まで民間人を殺し、波風だって……!!」 「返す言葉もない……」 ゼリルは反論すらせずキュアリンから浴びせられる言葉を受け止める。 「とにかく……協力してくれるなら悪いように
last update最終更新日 : 2025-10-06
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151話 新たな命

「危ないっ!!」 一番近くに居たゼリルが咄嗟に鷹野さんの身体を掴み横にかっ跳ぶ。 「ぶしゅるるるる……」 黒い何かは街灯の灯りに照らされその全容を明らかにする。 「何これ……イクテュスじゃ……ない?」 黒いヘドロのような不定形の物体。生命と表して良いのか分からないソレは今度はゼリルに矛先を向ける。 「なんだこいつ……こんなイクテュス知らないぞ!! 実験体もこんなタイプは居なかった!!」 ヘドロはゆっくりと動きながらどんどん広がっていく。 「クソ……はぁっ!!」 ゼリルは両腕から半透明の触手を生やし、奴の全身を締め上げようとする。 しかし締めたところからブチュ! と嫌な音を立てヘドロが散らばる。 「うっぷ……!!」 散らばったヘドロが触手を這いゼリルの身体を求め迫っていく。 「触手が……しまえない!?」 少しずつ少しずつ触手を伝ってヘドロがゼリルを侵食していく。 「キュアチェンジ!!」 健橋先輩が飛び出し斧を取り出してゼリルの触手を斬り落とす。 「熱ならどうだ!? 皆さん伏せてください!!」 鷹野さんがゼリルの前に出て銃口をヘドロの塊に向ける。 橙子さんが咄嗟に変身し私を抱え物陰に飛び込み波風ちゃんもついてくる。アナテマとゼリルも一歩下がりその場に伏せ衝撃に備える。 「頼む……死んでくれっ!!」 弾丸は真っ直ぐ飛びヘドロの中心を捉える。中に入った弾丸は激しく回転し、奴の体内が少しずつ溶け始める。 直後激しい爆発が起きヘドロが辺りに撒き散らされる。だが散らばったそれらは肉が焼けるような音を出し消滅していく。 「はぁ……はぁ……どうやら熱には弱かったみたいだな……助かった……」 命の危険が突如迫り寄ったこともあり、鷹野さんは呼吸を整えながら額の汗を拭く。 「高嶺大丈夫!? 口とかにあの汚いの入ってない!?」 「う、うん大丈夫……それより距離的にアナテマ達の方が……」 「こっちも問題ねーぞ!!」 いまいち何が起こったか分からないが、ともかくみんな怪我はないようだ。 「完全に消滅した……灰すら残さず……これはイクテュスではない、ということは確実なんですね?」 鷹野さんが先程までヘドロが居たところを探るが何も痕跡は見つからない。まるで幻覚を見ていたようだ。 「あぁあんな奴は知らない
last update最終更新日 : 2025-10-07
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152話 死してなお

「あそこですか……!!」 例の銃を構えた鷹野と共にオレ達は近くの河川敷に辿り着く。 「くっ……遅かったみたい……ですね」 既に戦っていた人間達は敗れ殺されたらしく、惨たらしい死体が辺りに散らばっている。 「それで……貴方に殺せるんですか? あの二体を」 「あぁ……だがその前に、最後に一言話させてくれ」 オレは上から飛び降り二人の甲殻類のイクテュスに近づく。何度か話したこともある奴らだ。 「お前ら……」 オレは二人に話しかけようとした。だが返答は特になく眼前に鋏が迫ってくる。 「くっ……キュアチェンジ!!」 咄嗟に変身しそれを紙一重で躱す。 「対話する気はないってことか……」 「答えは決まりましたね!! こちらからも援護射撃をするのでその二体の始末を!!」 鷹野は普通の銃も取り出し遠距離から応戦してくれるようだ。 「すまないお前た……ち……?」 近くに来たことでこの暗がりの中でも二人の表情がハッキリ見えた。 表情がなかった。 「ぐぎゅ……ぶりゅぅるるる」 口からは言葉にならない声を出し、直後ポキリと首があらぬ方向に折れ曲がる。そこから黒いヘドロを垂らしながら。 「鷹野ぉぉ!! 例の銃を取り出せぇ!! こいつら……さっきのヘドロに乗っ取られている!!」 生前と比べて明らかに速く動き、こちらの命を刈り取ろうと攻撃を仕掛けてくる。 「離れろっ!! 狙撃する!!」 鷹野が上の道から銃で片方のイクテュスを狙い、オレはゼリーを設置しそれで跳ねて爆発圏内から離脱する。 「鷹野後ろだ!!」 もう一体蛇のイクテュスが鷹野の背後から飛び出し全身に巻き付いていく。口からは舌をチロチロ出しながらもヘドロが垂れている。 「うぐっ!!」 その蛇は鷹野を締め上げ、メキメキと嫌な音を立て始める。 「今助けるっ!!」 空中にゼリーを設置し、そこを蹴る反動で彼の方へかっ跳ぶ。そして蛇のイクテュスを、かつての仲間を鎌で一刀両断する。 「灰にならない……もうイクテュスですらないのか……」 かつての仲間が身体を弄ばれ操られている。ならオレが引導を渡すのがせめてもの救済だろう。 残った内片方のイクテュスが登ってきて飛びかかってくるが、即座に目の前にゼリーを作り出しその中に閉じ込める。 「じゃあな……!!」 ゼ
last update最終更新日 : 2025-10-08
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153話 感動の再会?

[……というわけなのだ! そっちももしかしたら普通のイクテュスじゃないかもしれないから気をつけてなのだ!] [了解!!] わたしとアナテマは現在少し離れた場所にある橋に向かいながらリンカルから報告を受けていた。 どうやら件のヘドロは死体を再生させ動かす力があるらしく、イクテュスの遺灰を元に動いている疑惑があるらしい。 「ちっ、アタイ達が倒した奴らが再利用されてるってことかよ!!」 「死体相手じゃ和解も話し合いもあったものじゃないからね……戦うしかない……!!」 数分も経たない内に指定された橋が見えてくる。車四台程が通れる広さの道で、その上でブクブクと沸騰する不定形の新生物とやらが暴れていた。 「助けに来ました!! 皆さんは下がってください!!」 光の剣を飛ばし奴に対し牽制し、アナテマの斥力の力で奴を下がらせている間に戦っていた人達を避難させる。 「早く下がってください!!」 しかし一人が中々に下がろうとしない。蠢くヘドロに未練でもあるかのように。 「そ、そいつ……仲間を……仲間を取り込んだんです!!」 「何……だって……!?」 目の前のヘドロは蠢きある形へと変形していく、人型の物体へと。 「くそ……!!」 わたしは剣を構え何かに成ろうとしているそれを、かつて人だったモノを斬り裂こうとする。だがそのヘドロの中から細く長い何かが出てくる。 「ノーブル伏せろ!!」 その先から火花が散り何かが射出される。伏せた背中の真上を通り過ぎ、風圧が肌を撫でる。もしあとコンマ数秒踏み込むのが速かったらあれはわたしを捉えていただろう。 (なるほど……銃すらも取り込んで人間を操っているのか) ヘドロはやっと多少は定まった形となる。黒く薄汚れて分かりにくいが、形状的に特殊部隊の人を元にしているのだろう。ヘルメットはひび割れており、腹から銃が飛び出している。 (元の形にしようとしているが仕組みを理解していない……? だとしたらやはり知能は低いな) 知能の問題に関しては複雑な搦手などしてこないというメリットと同時に、一切の対話が通じないという欠点もある。 同族を模したものを傷つけるのは抵抗感があるが、やらなければわたし達が、他の民間人が殺される。 「油断すんなよ。まだ何を隠し持ってるか検討がつかねぇ」 「君に諭されるとわね
last update最終更新日 : 2025-10-09
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154話 疑問符

翠がゆっくりと右手を上げる。 じゅくじゅくと膿が腕を這い回りそこからヘドロが溢れ肥大化し固まっていく。それは鉄槌のような形を為し容赦なくわたしへと振り下ろされる。 「っ……!!」 動揺していたためか反応が遅れてしまう。左足の先がハンマーに押し潰され、足首から下が潰れ骨が砕ける。 「ノーブル!!」 追撃が来ようとしていたがわたしの身体は宙を浮かびアナテマの方へ引っ張られる。 「すまない油断した。片足を持ってかれた……!!」 左の足首から下の感覚がなく、一ミリも動かせない。こんな状態では戦えるはずもなく、辛うじてあと一発攻撃を躱すのが限界だろう。 「何で翠が……だってあいつが死んだのはもう半年以上……」 アナテマもわたし同様に目の前の現状を脳が受け付けず混乱してしまっている。だが敵はそんなことお構いなしに攻撃してくる。 「あ……あ……」 アナテマがわたしを抱え振り下ろされる鉄槌を躱し、次に備えるが奴はこちらの胸に、いや正確には胸についているブローチを見て硬直する。 「おいおいマジかよ……!!」 アナテマが悲鳴めいた声を捻り出す。 奴が体内からブローチを取り出した。それを胸につけ、出現した杖を握る。 「き"ゅゅあ"ぢぇんじ」 ゴポゴポと口から泡を立てながらも奴は魔法の言葉を唱える。黄緑色の法衣が奴を包み、生前と、かつての仲間と全く同じ姿になる。 一歩、また一歩とこちらににじり寄ってくる。歩いた箇所にはアスファルトの上だというのに草花が生い茂り、地面から生えてきた蔓がこちらに迫ってくる。 「ちっ……ここは一旦引くぞ!!」 怪我をしたわたしを庇ったまま戦うのは不利だと思ったのか、かつての親友に斧を向けることが耐えれなかったのか。アナテマは前に出る選択肢を取らず敵に背中を見せる。 しかし背後には既に植物が先回りしており、蔓や木々が複雑に絡み合い壁を成している。 「どけっ!!」 わたしを抱えそのまま空いた右手で斧を振り下ろす。闇を纏わせたそれは植物達を一刀両断するが、壁は厚く再生力も高く破壊が追いつかない。 「アナテマ!! すぐ後ろまで来てる!!」 アナテマが斧を振り下ろした瞬間もう距離は半分以上縮められており、先程よりも更に巨大化した鉄槌が命をすり潰そうとしてくる。 「引っ張れ!!」 引力の
last update最終更新日 : 2025-10-12
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155話 家族

「キュアチェンジ!!」 走ること数分。良い感じの高台を見つけそこから目的地を見下ろす。ヘドロかはたまたイクテュスなのか、何かが暴れている気配があるので私達は変身して氷の足場を作り、一気に滑り降りてそこまで向かう。 隣町の小学校の中庭。暴れているのはイクテュス三匹。だが目を凝らしてみるとどいつも傷口や目から黒いヘドロを垂らしている。 (あれが乗っ取られた……) 敵だったとはいえ、私達と同じように考え生きていた存在が乗っ取られ弄ばれているという状況に胸に刺さるものがある。 とはいえ今は一刻を争う状況。余計な考えは履き捨て滑る足場の角度を微調整し最速で中庭に飛び込む。 「ふっー……今っ!!」 完璧なタイミングで足場を砕きつつ前にかっ飛び、ついでにそのまま一体の胴体を槍で真っ二つにし葬り去る。 (あと二体……近くに逃げ遅れた人も居ないし、良い感じに避難させてくれたみたい) 「すみませんあとは頼みました!」 「はい! こっちは大丈夫なので下がっててください!!」 傷口を押さえた武装した人達を退かせ、残りの二体の注目をこちらに集める。 「ごぽっ……ぶしゅぅぅぅ……」 残された取り憑かれた二体は仲間が倒されたというのに一切の反応がなく、そこに知性や感情が感じられない。 (怖い……!!) 今まで戦ってきたイクテュスは、知性がないものでも生物としての習慣や意志を感じられたし、ゼリルや王のような個体は明確な知能と目的を持っていた。 だがこいつらは違う。既存の生物の枠組みから、もちろんイクテュスからもかけ離れており生物としての意志を感じない。命に対する感情がなく、行動原理や方向性が読めない。未知からくる恐怖が胸を覆い尽くす。 [高嶺大丈夫……?] [あっ、うん大丈夫だよ。それより次奴らが動いたら一気に決めよう。これ以上見たくない……] 奴らは関節や首の謎の隙間から黒い液体を垂らし、その片方だけが思いついたように、転ぶように駆け出す。 (二体の距離が離れた……今だっ!!) 近づいてきた方の背後を地面から生やした氷柱で覆い、二体を分断しながら確実に仕留めていく。踏み込んで槍を突き出し外皮を貫通させ、傷口を凍てつかせ破裂させる。 そのまま下がってもう一体も迎え討とうとするが、氷の壁が易々と壊され巨大な拳が目の前に飛び出し
last update最終更新日 : 2025-10-13
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156話 侵食

「な、何を言ってるの波風? お母さんだよ!?」 死別したと思っていた娘に会えたのに忘れられ拒絶され、それでも必死に彼女の心に訴えかける。 「おかあ……さん……?」 実の母親が必死に訴えかけても彼女の記憶が蘇ることはなく、代わりに私の頭が痛む。 家族と一緒に誕生日を祝う姿や、私と会う前の幼い日に一緒に動物園に連れてってもらった光景が脳裏にフラッシュバックする。その他数多の記憶が一気に流れ込んできて酔いが全身に回る。 「お願い思い出して……あなたは……!!」 やっと頭が落ち着き周りを見えるようになった時には彼女が波風ちゃんに抱きついていた。 波風ちゃんも記憶自体はないものの、自分の母親に関しての記憶が抜け落ちていることは気づいており、目に見えて狼狽え現実を拒絶し目を背けようとしている。 「おやおや、もう我が同胞の亡骸を始末したのか。相変わらず対応が速い」 横で聞いていた声と同じものが上空からする。見上げると体育館の屋根に王が腰掛けており、こちらが認識すると躊躇いなく飛び降りてくる。 「お母さん危ないっ!!」 私達は即座に後ろに引き、波風ちゃんは母親を引っ張り衝撃から守る。奴が地面に着地すると大きな土埃が舞い、小石や枝が足や腕にぶつかる。 「お母さん逃げて……!!」 「えっ!? 私のこと思い出し……」 「いいから逃げて!! 高嶺いくよ!!」 一切の躊躇を見せず波風ちゃんは変身しようとする。前から強くなっていく感覚。もしかしたら今ならこいつを倒せるかもしれない。だがそれは同時に波風ちゃんの消滅を意味するかもしれない。 「高嶺早く!!」 「っ……!! キュアチェンジ!!」 すぐそこまで迫る不安の壁。それから逃げる手段はなく、立ち向かって壊すしか選択肢はない。 「二人ともその姿は……? それより波風が二人……?」 「早く逃げて!! 近くに武装した人が居るはずだから早くそこまで!!」 鬼気迫る勢いで捲し立て避難を促す。理解は追いつかないだろうが、本能で危機を感じ取り速やかに退散してくれる。その間王は一切動かず退屈そうに欠伸をかく。 「見逃してくれたの?」 「恐怖を伝播させるにはこれ以上の殺しはあまり意味がない。寧ろ生かして外に逃げさせ語らせた方が良い。特に電波系統が麻痺しているこの状況では。問題は中々外へ逃げ出
last update最終更新日 : 2025-10-15
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157話 光すら飲み込んで

「ぐ……動……ける……!!」 前と同等の負荷をかけられるがそれでも手足はなんとか動かせ、力に逆らって前へ前へと重たい身体を進める。 「ほう、成長……にしては急だな。何か作用が働いた……? まぁどのみち結果は変わらん」 加重空間から抜け出し浮遊感が襲う一瞬。それを狙い奴は杖をフルスイングする。なんとか左腕で頭への直撃は防げたものの、私の膝を逆向きに折り曲げたあの一撃をもらってしまう。 「ぐっ……!!」 (痛いけど……折れてない!!) 痺れはするものの前のように目も当てられない形になることはなく、恐らく骨にヒビすら入っていない。 [今なら倒せるかも……終わらせよう、もう……!!] [そうだね……!!] 槍を握りしめ、もう痛みが引いた手に力を込める。 互いに睨み合い数秒の後、奴がこちらに手を翳そうとする。それを見切り横に躱してから突進し、ガラ空きになった奴の腹に槍を突き立てる。 「我の触手に傷をつけるとは……」 攻撃は触手にガードこそされたものの今までと違いその外皮を引き裂き、多少とはいえ傷をつけ赤い血を垂らさせる。 「だが……!!」 奴が防御に用いていない他の触手を神速の如く地面に叩きつけ衝撃波を発生させる。ふわりと浮遊感に包まれ、無抵抗になったところを杖の先が腹に激突する。 「ごはっ……!!」 研ぎ澄まされ磨きのかかった今の私達でも躱わせず、内臓に強い衝撃が走り血の塊がボタボタと口から吐き出される。 「この成長、君を野放しにしていたら五十そこらの部下達でも抑えられなくなるだろう。ここで確実に命を奪わせてもらうおうか」 奴の手が私達とは少し外れた方向に向く。百メートル程離れた場所に武装した人が待機しており、彼が見えない力に引っ張られるようにこちらに飛んでくる。 「予想通り。雑兵ならこの距離でも十分だ」 そして彼を受け止めそのまま校舎の壁に投げつけ、加重空間で押さえつけ捕縛する。 「なっ……!? その人を離せっ!!」 「ならば我を殺せばいい。逃げずに立ち向かえばな。殺すほど力は強くしていないし、万が一力が解けても死なない高さに磔にしておいた」 「くっ……!!」 「貴様はキュアヒーローなのだろう? ヒーローと語るからには同胞を見捨てはしないのだろう?」 今壁に磔にされている彼にもきっと私にとっての波
last update最終更新日 : 2025-10-16
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158話 猶予はあと一日

「しぶといな……あれだけ挽肉にしてやってもまだ立ち上がるとは」 「生憎あの程度じゃ死ねなかったみたい。ボクを完全に殺したいならこの星ごと爆破でもするんだね」 互いに一定の距離を保ち牽制し合う。生人君はすぐに躱せるように、そして王は先程の言葉が気掛かりなのだろう。 「同胞がどうこうほざいていたが……何のことだ?」 「君のことは良く見てたし、理解してるよ。ボクの攻撃じゃ殺せないことも、そして仲間を大事に想ってることもね」 「何が言いたい?」 「君がここに来るまでのルートも最初から見ていた。お仲間のところから律儀に歩いてくるところをね。ところでボクのこの触手中々に便利でね。離れた箇所にトラップのようなものも作れるんだ。例えば一定の場所に留まってる者に刃物を飛ばしたり……」 「貴様……!!」 生人君が見たこともない悪辣な顔をする。実演するかのように生やす触手も気味悪くうねり嫌悪感が背中を伝う。 「今もし何かしらの通信手段を取ろうとすればトラップを作動させる。集合場所には蟻すら殺せない代わりに不可視の分体を置いてあるから、すぐに分かるからね」 生人君の背中から生えた触手が千切れ落ち、ウネウネと動き捻って消えていく。 「もしここを立ち去って戻るなら、トラップは解除する」 「信じられないな。貴様を今ここで殺した方が……」 「君が急いで戻ればそのトラップの攻撃くらい弾き落とせると思うけど?」 「……命拾いしたな」 奴は怒りをぶつけるように触手で地面を殴り、砂埃を上げながら後ろに飛んでいく。数秒で物理的に見えなくなり、同時に私の体調的にも視界が消えそうで変身も解除される。 「波風……君肉体が……」 「アタシのことはいいから今は高嶺を!!」 「うん……!!」 奴が見えなくなると生人君はすぐにいつもの優しい表情に戻り、両手を触手に変えて治療を始めるのだった。 ☆ 「どう? 動かせる?」 「とりあえず……死ぬことはないと思う」 痛みこそ残っているが、傷は問題なく塞がり内蔵器官なども徐々に修復されていく。多少貧血状態が残り眩暈に襲われるが、走れなくても歩ける程には回復する。 「とりあえず校舎の中に身を隠そう。いつあいつが憤慨して戻ってくるか分からない」 「え? どういうこと?」 「さっきの演技と嘘がバレるのも時間の問題だ
last update最終更新日 : 2025-10-17
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159話 侮辱

「とりあえず治療は……終わったのだ」 乗っ取られた翠にやられてから十分後。すぐに駆けつけてくれたリンカルにより砕かれた骨はくっつき多少無茶をすれば戦闘できるまで回復する。 「なぁリンカル一つ聞いておきたいことがあんだけどよ……」 神奈子が重々しい口調で詰め寄るように問い始める。 「半年前のあの時、翠の死体って……どうなった?」 「それは……政府の判断で一時冷凍保存することになったのだ」 「つまり……親に死んだことも伝えず行方不明のまま、今後何かに使えるかもって私利私欲で冷凍してたってことか……?」 ポタポタと神奈子の握り締められた手から血の雫が垂れる。彼女の怒りの矛先はリンカルに向けられており、今にも殴りかかりそうだ。 「落ち着くんだ神奈子。政府の判断とリンカルは言った。リンカルにとやかく言えたり指示できる力はないんだ……」 「じゃあ橙子は許せるのかよ……!! こいつがずっとアタイ達にそのこと黙って隠してたことが!!」 「それは……」 翠の冷凍保存の件を一体何人が知ってたのだろうか? キュアリンや鷹野さんや生人さんでさえ知っていたかもしれない。 それなのに彼らが一言でもその件に触れたことも、触れようとする素振りすらなかった。 「そのせいで……こいつらが損得で翠を隠したせいで今もあいつは身体を操られてるんだぞ!?」 「ごめんなさい……なのだ」 リンカルは蛇に睨まれた蛙のように縮こまり、小さく謝罪の意を述べる。 「それで、翠は今どこに?」 「橋が崩れてから海岸の方に向かったけどそれっきり……どこかに消えているのだ」 人気の多い所に行かなかったのは不幸中の幸いか、それとも二度と見つからない可能性を考え最悪の事態と言うべきなのか。 「こんな状況で我儘言って申し訳ないが、もし次翠が現れたら……その時はわたしと神奈子に任せてくれないか?」 「他のみんなにも伝えておくのだ……」 先程は動揺し本領の半分程度しか出せなかったが、覚悟し二人で挑めば勝てない敵ではないだろう。それにこのケジメは他の人には譲れない。 「それと他の場所の状況は? こっちはとりあえず最初居たのは倒せたけど……」 「それならゼリル達は無事で、高嶺達の方は王に襲われたけど生人が間に入ってなんとか退けたらしいのだ」 「生人が……? やっぱ生きてたのか
last update最終更新日 : 2025-10-18
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