All Chapters of 高嶺に吹く波風: Chapter 61 - Chapter 70

116 Chapters

61話 克服

「じゃ、帰る時間になったら連絡してよまた迎えに来るから」 「ありがとねたけ兄」 「いやいや大学生の夏休みはここからが本番だからね! 俺は出会いを探しに山を走ってくるよ!」 健さんに海水浴場まで送ってもらえることになり、私達はここまで車で来る。 大学生の夏休みはなんと十月の頭まであるらしく、まだ半分もいってないらしい。 「なんか夏休みになってたけ兄さらにはっちゃけてるわね」 「事故とか事件とか起こしそうで心配だね」 「まぁその時は縁切るわ」 話もそこそこに私達は海水浴場に入り辺りを見渡してみる。夏休み最終日だからか中高生は少なく、大学生や社会人以上の人が多い。 そして人混みの向こうには揺れ動く塩水が待ち構えていた。邪悪にも人々を波で拐いまた元の場所に戻す。 「大丈夫高嶺?」 「うん……歩けるし、海も直視できる……大丈夫だから……」 人々ははしゃいで海で遊んでいる。浮き輪でぷかぷか浮きながら波を楽しむ者や、奥の方でサーフィンをする者。それに砂浜で城を作る者や日光浴をする者。 誰も海を怖がっていない。そうだ。全員が全員トラウマを抱いているわけではない。あの震災は甚大な被害を出したが、私程のトラウマを抱いた人の方が少数なのだ。 私達は着替えるべく仮設小屋に向かいロッカーに服を入れ水着姿になる。 「どうしたの? じーっとこっち見て?」 波風ちゃんに視線が釘付けになっていたことに気づかれ、私はさっと目を逸らす。 彼女は濃い赤色のビキニを着ており、ヒラヒラが体を動かす度に揺れ胸に視線が誘導されてしまう。 「い、いや何でもないよ!」 私もささっと水着に着替える。波風ちゃんとは対照的にカラフルで子供っぽい水着だ。 (やっぱり私じゃ波風ちゃんには不釣り合いだよね……) どんどん大人びていく彼女に、未だ小学生気分の私。なんだか彼女が段々と離れていくような気がして胸が冷たくなる。 「さっきからどうしたの? 海を怖がってるってわけでもないし……何か悩み事でもあるの? ハッキリ言いなさいよ。アタシとの仲でしょ?」 それでも波風ちゃんは私に寄ってきてくれて独りぼっちにはさせないようにする。その優しさが胸に染み、本音を吐けるよう解凍される。 「なんだか波風ちゃんだけどんどん大人になってって、このままじゃ私は置いてかれちゃう
last updateLast Updated : 2025-06-02
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62話 秘めたる想い

「海に……入れる……!!」 私は水飛沫を立てながらもより奥へ歩いていき、膝くらいの深さまである所まで進む。それでも足はしっかり地面を踏んでいるし、波にも拐われない。 「高嶺……!! やったじゃない!」 波風ちゃんは私の克服をまるで自分のことのように喜んでくれる。こちらに飛びついてきて、彼女が上に乗っかるようにして水の中に倒れる。 「ぺっぺっしょっぱ!」 「あっ……大丈夫?」 「うん全然! 今まで怖がってたのが嘘みたい!」 口の中に広がる塩辛さに水着の上から全身を包み込む冷たさ。どこにも不快感がない。 いややっぱり塩辛いのは不快だ。しょっぱくて水分が奪われる。 だが過去にあったような、全身が震えて神経を直接撫でられるような感覚はない。 「やった……やったよ!」 今度はこちらから波風ちゃんに抱きつき胸に飛び込む。赤色の景色が視界いっぱいに広がり、ほんのり柔らかい感触が顔を包み込む。 「ちょっ……!!」 ほぼ突進のような抱きつきだったため、私と波風ちゃんは共に倒れ海に沈んでしまう。 「もう高嶺! やったわね……!!」 仕返しと言わんばかりに波風ちゃんは両手で水を掻き上げこちらにかけてくる。 たくさん顔に水が押し寄せるが何にも感じない。お互いに水を掛け合って、また一緒に倒れて抱き合って。 何の後ろめたさも恐怖もなく私は大好きな彼女と微笑ましい時間を送るのだった。 ☆☆☆ 「ふぅーなんだか疲れちゃった……」 「はい水飲んどきなさいよ。案外水分失うんだから」 「あははありがとう」 私は波風ちゃんから口をつけて飲むタイプの水筒を受け取る。それに口をつけようとするのだが、ある考えがよぎりピタッと止まってしまう。 (これって……間接キスってやつになるのか……?) 漫画とかで映画で今みたいなシーンを見ても、わざわざそんなこと気にしなくてもいいと思っていた。実際今までも気にせずやっていた。 だが何故か今は間接キスを行うことがとても恥ずかしく抵抗感がある。 嫌悪感を抱いているわけなのではない。寧ろ…… (あれ……これって……) 自分の中のある感情に気づいてしまい、更にこれを飲むことに抵抗感を覚えてしまう。 (そっか……きっと私は、波風ちゃんのことが……好きなんだ。恋愛的な意味で) 「どうしたの高嶺
last updateLast Updated : 2025-06-03
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63話 高め合い

「でりゃぁぁ!!」 道場に木刀同士がぶつかり合う音が響く。アタイが振り下ろした渾身の一撃は橙子に受け止められる。しかしそのままギリギリと力を込めていけばこちらが押していき、やがてその防御は崩される。 「うぐっ……」 「ちっ……」 しかし双方ともダメージを負う。アタイの腹部の装備に彼女の切先が突かれ、アタイの木刀が面を強く叩く。 「はい一旦ストップ!!」 離れて見ていた生人が組み手を中断させこちらに水を持ってきてくれる。 「んぐ……んぐ……ぷはぁ。まさか今のが返されるなんて。絶対勝てると思ったんだけどな……」 「こっちも完璧に裏を突けたと思ったんだけどね」 ここは桐崎家が管理する施設であり、現在道場として使わせてもらっている。アタイ達三人以外に人は居らず、誰かが来ることもない。訓練するにはうってつけの場所だ。 アタイはひんやりとした地面にあぐらをかいて座り、装備を外して汗を拭きながら水分を補給する。 「二人ともかなり動きが良くなってたよ! この短期間で信じられないほど成長してる!」 「それはいいが、今のわたしでこの前生人さんが戦った奴らには勝てるのかな?」 合宿の後生人から聞いた話。わたしと橙子は今後の戦闘のためになればと思い、あの時あった戦いについて聞いていた。 敵の中でもかなりの強者だと思われる三人。生人は彼らを一度に相手し苦戦しつつも打ち勝っている。 「……一対一で考えても勝率は二割くらいかな」 生人は厳しくも正確な推論を述べる。実際あの時戦ったアンコウみたいなのが中の上程度の実力ならそれも納得だ。 彼が言うには力も速さも他のイクテュスとは比べ物にならないという。 (できて相打ちくらいか……生人に頼りきるわけにもいかないしな。アタイがもっと強くならないと) キュアヒーローの犠牲は絶対に許さない。それは翠が一番望んでいないことだから。 だから自分が強くなるしかない。みんなを奴らから守れるくらいに。 「今の動きもまだ良くないところもあった。お互いにね」 「本当か? 教えてくれ」 「まず神奈子は攻撃が大振りすぎる。力は強いけど当たらなければ意味がない。それに力が強いということはその分受け流された際のリスクが大きいってことでもある」 的確な意見だ。アタイは喧嘩慣れこそしているものの、武術を習って
last updateLast Updated : 2025-06-03
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64話 掴みどころのない彼

「ルールは先に一本有効打を入れた方が勝者。足技やその他の技も使ってよい。ただし生人さんは宇宙人の力を使わないこと。で良いかな?」 「ボクはそれでいいよ! 技術だけで戦えってことだよね」 その条件下では体格から生人の方が圧倒的に不利なはずなのに、出された条件を二つ返事で認める。圧倒的な自信だ。 「アタイもオッケーだ。一泡吹かせてやる」 だがこちらも負ける気はない。 生人の動きなら今までたくさん見せてもらった。パターンはある程度予測できる。勝機がないわけではない。 「では試合……始めっ!!」 桐崎の号令と共にアタイは見様見真似で先程の生人の動きを真似て接近する。 (最速で勝ちにいく……なら……こうだっ!!) 脇を締めて突きと振りを合わせた攻撃を繰り出す。緩急をつけた最速の攻撃。しかしそれは容易く弾かれてしまう。力で退かしたのではない。木刀の表面を滑らして威力を殺していた。その動きに無駄など一切なく洗練されている。 だがカウンターは飛んでこない。アタイは数歩下がり様子を窺う。 「あと二回までなら打ち込んできてもいいよ」 ルール上受け手に回るのは圧倒的に不利なはずだ。なのに敢えて攻撃を受けようとする。 そこにあるのは師匠として直接攻撃を受けてみたいのか、単純に油断か。とにかくアタイはその挑発に簡単に乗ってしまいそうになる。 (ためだだめだ! 感情的になっても攻撃は当たらない。何か他の手を……) 今度は趣を変えて、一発一発に力を込めるのではなく連続で攻撃を繰り出す。先程の教えを活かし素早く手数を増やし翻弄しつつ、ここぞというところで拳を胴体に向けて放つ。 「そう来ると思った」 だがコンマ一秒のズレもなくアタイの拳は受け止められ、そのまま捻られ視界が一回転し背中を打ちつける。 「いててて……はっ!!」 アタイはすぐに起き上がりまた距離を取る。先に背中の心配をしてしまった。今のが実戦ならそのまま頭を貫かれていただろう。 「じゃあこっちからいくよ!!」 こちらが構え直したのを確認してから生人の猛攻が始まる。ただ突き出された単純な攻撃も受けるだけで手が痺れて、その手数の多さからカウンターなど狙う隙がない。 彼の顔に疲れは見られずこれでも手加減してくれているのだろう。この攻撃の嵐の中アタイは
last updateLast Updated : 2025-06-04
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65話 湯煙の中で

「ふぅー気持ちぃぃ」 広い浴槽があるお風呂でアタイは熱々のシャワーを汗をかき疲れ切った体に浴びせる。 「桐崎の家はこんなとこのシャワールームにも金をかけるのか?」 「ん〜経営の方はまだよく分からないけど、まず見た目からってことじゃないかな? 桐崎の家たる者常に身だしなみは最善であれるようにって」 こういう施設のシャワールームは仮設みたいな感じなのが定石だが、ここのは広い空間に大きい浴槽まで付いている。ライオンの像の口からお湯が出ており雰囲気は温泉だ。 髪と体を洗った後アタイ達は湯船に浸かっていく。 「おぉ〜家のとは全然違う……生き返る〜」 肩までどっぷりと浸かり失った活力を注入する。湯も普通のものではなく入っていると泡が体に纏わりつき始める。炭酸だ。 試しに太ももをなぞってみると泡が水面に浮き出てきてシュワシュワと小さな音を立てる。 「そういえば一般的な家庭ではお風呂はどのくらいの広さなんだい?」 「お前って本当にそういうところ世間知らずというかなんというか……ま〜アタイとお前の二人で入るとしたらまぁ狭いくらいじゃねぇか?」 自分や親戚、それに翠の家の風呂に入ったことがあるがそれくらいの広さだったはずだ。 「そうなのか……嫌味に聞こえるかもしれないけど、実を言うと普通の生活というか……君みたいな家庭が憧れなんだ」 「そうなのか? 普通はこっちがお前みたいな家に憧れを持つと思うんだが?」 自分の家はお世辞にも裕福とは言えない。だからこっそり学校をサボってバイトをしているし、買い物もセールの物しか買わない。ただ両親も愛を持って育ててくれるし弟達も可愛いので決して不幸とは思わない。 「こっちも両親に愛があることを最近確認できて少しはマシになったけど、勉強や習い事に縛られて、こうあるべきだとレールを敷かれて嫌気が刺してきてね」 「そっちも色々大変なんだな」 最近桐崎と一緒に行動することが増えたためかお互いに理解を増し共感できることが多々あった。 数ヶ月前は理解し合えるはずもない住む場所が違う奴と思っていた。ただその考えがいかに浅はかで愚かだったか今になってしみじみと感じる。 「神奈子はさ……高嶺と波風についてどう思う?」 「どう思うって……頑張ってると思うぜ。特に天空寺は無邪気な癖して胆力がすげぇからな。ビンタさ
last updateLast Updated : 2025-06-05
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66話 周り回って

アタイ達はお風呂から上がり着替えた後生人の元まで戻る。 「って寝てるし。というかこの鳥……イクテュスの捜索とかしてくれているやつか?」 彼は床で丸まって寝ており、数話の鳥が彼の腕の中や体の上で気持ち良さそうに寝ている。日光が当たる場所で寝ておりその姿はまるで宗教画のようだ。 「クルッポー! クルッポー!」 鳥の中の一匹が彼の耳元で大声で鳴き目を覚まさせる。他の鳥達も起きて寝ぼける彼の頬をちょんちょんと突く。 「んぅ……ふぁぁぁ。ん〜おはようみんな」 服を少々はだけさせ彼は目を覚まし体を起こす。鳥が一羽彼の頭に乗っかり髪を整える。 「あ、ごめんね。はいいつも通りのお礼」 彼は鞄から鳥の餌が入ったペットボトルを取り出し、それを手に乗っけて食べさせてあげる。 「じゃあ引き続きよろしくねー」 鳥達は窓から飛んでいき再び街の監視へ戻る。 「すみません生人さん。お風呂が長くなってしまい」 「ううん気にしないで! ボクも気持ち良く寝れたから!」 「それでわたし達は今からお昼を食べに行こうと思っているんですけど、少し早いですが貴方もどうですか?」 「えっ!? お昼!? 行く行く!!」 何億年も生きているとは思えないほど子供っぽい反応でこちらの話にくらいつく。この姿だけ見ると弟達と大差はなく、寧ろ一番上の子より幼く見える。 (本当にギャップがすげぇよな……) 猫を被っているわけでも演技しているわけでもなくこれが素なのは間違いないが、だからこそ素性とのギャップに脳が軽いバグを起こしてしまう。 「といってもこの辺のお店というか、一般のお店とかはわたしは分からないな。神奈子はどこか良い所は知らないかい?」 「えー……アタイは金持ちの舌に合う料理屋なんて知らねぇぞ?」 「庶民が行く所も経験しておきたいし別に構わないさ」 「後で文句言うんじゃねーぞ。じゃあ回転寿司にでも行くか」 確か近くに有名回転寿司チェーンがあったはずだ。ここに来る途中で見ている。 「ふむ……回転寿司か。回らない寿司しか食べたことしか……生人さんは?」 相変わらず一言多い奴だ。無意識にやっているのだろうが。 「他の星やボクの故郷でも同じような文化はあったね。ここのは話だけしか知らないからそこまでは」 「そうか……じゃあ今日は神奈子にレクチャーしてもら
last updateLast Updated : 2025-06-06
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67話 偶然? 必然?

「ふむ……一皿百円少しでこのクオリティ……中々侮れないね」 「その皿二百円のやつだけどな」 桐崎はマグロを頬張り、今度はしっかりお湯をコップで受け止めて茶を作りそれを啜る。 一方生人はマヨコーンに卵にサイドメニューのフライドポテトといかにも子供っぽいラインナップだ。 「ん〜美味しい〜!」 彼はその料理達に大満足のようで次々に料理を頬張っていく。 「そういえば生人って色んな星を旅してたんだよな? 宇宙船とかで」 「うんそうだね。昔の友人が作ってくれた宇宙船でね」 「移動中とかはどうやって暇潰してるんだ? 結構時間かかるだろ?」 県と県を跨ぐだけでも何かないと暇を持て余してしまう。それが宇宙規模になるのだ。もちろん移動速度も新幹線の比にならないだろうがそれでも暇はたくさんあるだろう。 「そうだね……長い時は移動だけで数年かかったこともあったからね」 「数年……やっぱスケールが違うな」 「まぁでも暇はしないかな。宇宙船を作ってくれた友達が色々作ってくれてたおかげで訓練や食事は自由にできるし、データさえあれば色んな惑星の景色を再現できる部屋もあるしね」 「へーそうなんだ」 アタイは頼んだうどんの出汁を味わい飲みつつ、興味深いその話に聞き入る。桐崎も同様で、他に聞けるはずもない彼の物珍しい体験話に黙って耳を傾ける。 「でも……生きてる人はボクだけだがら、寂しくはあるかな」 生人は手を止めてとても寂しそうな、構ってもらえなかった子犬のような瞳をする。自分達は彼を超人のように扱っているが、彼も一人の人間だし自分達と同じように寂しさも感じる。 「実はキュア星についてからすぐに地球に派遣されて、こうしてみんなと話すのが、生きた人と遊んだりするのがすっごい久しぶりで……正直みんながボクを友達みたいに接してくれてとても嬉しかった」 自分らと同じように笑い、食べ、楽しみを共有する。そこになんの違いもなく、アタイ達三人の間には確かな親近感が湧き絆が深まる。 「うーん……ちょっとトイレ行ってくるね!」 話しながら食べ進め、ある程度してから生人はトイレに向かい、それと入れ替わるようにして二人の女性客が来てアタイの後ろのテーブル席に座る。 地雷ファッションの女の子に筋骨隆々な女と実にアンバランスなコンビだ。 ただあんまり見るのも向
last updateLast Updated : 2025-06-07
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68話 悲劇の始まり

「キャハハ!! 今更気づいたんだ!! こっちは店に入った時点で準備はできてたのに!!」 メサは高笑いを上げてたった今来た鯨肉の唐揚げを手掴みで口の中に放り込む。 「まっ、平和ボケするくらいが一番精神的に良いって言うしね。否定はしないよ。容赦もしないけどね」 ライもそれを食べ注射器を取り出し立ち上がる。 「神奈子!!」 「言われなくても分かってる!!」 アタイ達はブローチを取り出し人目も気にせず変身する。幸いみんな机の方に向いているし監視カメラもキュアリンがなんとかしてくれるだろうが、この際周りのことなんて考える余裕はもうない。 目の前の二人もこの前戦ったようなイクテュスの姿へと変貌する。姿形から判断して恐らくメサがサメ、ライが鯨のイクテュスなのだろう。 (片方ずつ担当しても勝率は二割か……) 「さぁ二人とも覚悟し……うわっ!!」 アタイ達の背後からコップが音速の速さで飛んでくる。それはしゃがんだメサの頭の真上を通過して壁に激突しそこを凹ませつつ粉々になる。 「メサにライ……どうしてここに? とにかく二人だけで来るなんて、負けに来たの?」 生人が肝心な所でちゃんと間に合ってくれた。これで勝利は大きくこちらに傾く。 「ふふ……二人だけなんて誰が言った? お前達!! やっておしまい!!」 ライが手に持つハンマーで地面をガツンと殴る。するとあっちこっちから悲鳴が上がり悲鳴の大合唱が行われる。 大量のイクテュスが出現した。客の何人かがイクテュスに化けていたらしく、更には壁を突き破って知性のないタイプも十匹近く雪崩れ込んでくる。 「なっ……!!」 あまりに唐突な展開と信じられない光景にアタイと桐崎は呆気に取られ二人の接近を許してしまう。 繰り出されるハンマーによる殴打と長い刃物による斬撃。アタイらはそれらをなんとか武器で防御するものの手に鋭く重たい痛みを覚える。 「なんて馬鹿力だあの鯨野郎……」 斧で防いだというのに手が痺れダメージが残る。桐崎の方もあまりに速い攻撃に防御が間に合わず少し肩を切り裂かれている。 「二人は周りの奴らをお願い!!」 生人がサッと変身し二人に突っ込んでいく。あの二人相手に押していきどんどん二人を後退させる。 「ちっ! やっぱり強いよこいつ!!」 「ほらあんた達もこいつ抑えな!」
last updateLast Updated : 2025-06-08
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69話 夭逝

試合のコングが鳴りクマノミの方が真っ先にこちらに向かってくる。腕、というよりヒレから灰を出しそれを固めて斧に変化させる。 「なっ……!!」 咄嗟に防御に移り奴の斬撃を受け止める。この前戦った奴以上の力で押し込まれ、刃がアタイの眼前まで迫ってくる。 しかしそこに割り込まれた光を纏った剣が奴の頭部に迫り、奴は攻撃を取り止めて引き下がる。 「兄者!!」 だが奴が避けたその先にいたイソギンチャク野郎は真紅の触手を伸ばしノーブルを弾き飛ばす。 「うぐっ……ごほっ!!」 触手自体には大して威力はなく、ノーブルも防御や受け身はできていた。ダメージはそこまでのはずだ。 それなのに激しく咳き込み顔を青くする。 「まさかあいつの触手……毒か!?」 アタイはノーブルを担ぎ上げて一旦奴らから距離を取る。クマノミ野郎も一度引き下がって剣が掠った箇所を擦る。 「兄者〜案外アイツら強いかも」 「そうだな……だが我ら兄弟の敵ではない。そうだろう?」 互いに支え合い、二人の戦闘力は単純な足し算ではない。 「立てるか?」 「立てないと思うのかい?」 「おう」 こちらも軽口を叩き合いながら互いに支え合う。連携ならこちらだって負けていない。 とはいえ奴らが強いのも事実だ。クマノミの方は素早く反射神経も良い。あのタイミングで繰り出されたノーブルの攻撃を躱す程に。 イソギンチャクの方も触手の精密さが高く、まるで腕のように扱っている。 「分かっていると思うけど、あの触手は触れたらヤバい。持続性はあまりないが力を吸われる感覚だ」 「なるほどな……」 長時間スタンさせられるわけではないのが救いだが、敵が二人いるこの状況下で動けなくなるのは死と同義だ。こちらも連携してカバーし合わなければ勝機は薄い。 「行くぞ弟よ! ここで打ち勝ち我が一族に繁栄をもたらすのだ!」 イソギンチャク野郎の号令と共に戦闘が再開する。触手には絶対に当たれないので躱しつつ、隙だらけになった奴の触手を二人で切り落としていく。 だがそっちの対応に追われていると今度はクマノミの斧が防げない。 「ノーブル!!」 アタイはその重たい一撃を敢えて受けて吹き飛ばされる。ノーブルの方向へ。 「分かった!!」 言葉は要らずこちらのやりたいことを察してくれて、触手への攻撃
last updateLast Updated : 2025-06-09
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70話 気の迷い

「タイガークロー!!」 手を鋭い爪へと変えて知性のないイクテュスを次々に切り裂き粉々の灰に変えていく。 「うげぇーやっぱこいつすっごい強い!!」 前とは対照的にメサは下がり気味に、防御重視で戦う。 背後や他のイクテュスはノーブルとアナテマに任せている。あっちはなんとかしてくれると信じてボクは目の前の強敵を担当する。なんとしてでもこの二人を向こうに行ってしまうことを防がなければならない。 (そういえば……ボクが最後に誰かと一緒に戦ったのっていつだっけ?) ライのハンマーを足で受け流し、メサの刃物を指で掴んで止めながらふと軽い思考をしてしまう。 今まで数億年の旅をしてきて、数多の星を巡ってきた。たくさんの人と出会い、友達になり、正義のヒーローとして数え切れない程の人の命を救った。 そして数え切れない程の罪なき命を助けられなかった。 「隙ありだ!!」 年寄りの悪い癖か深く考え込んでしまい気の迷いが一瞬の隙を作り出す。 「ふんっ!!」 腕を触手に変えて、すぐ近くに居た知性のないイクテュスを引っ張って盾にする。そして灰になりつつある奴を蹴り飛ばしメサの体勢を崩す。 一寸の無駄もない動きで立て直す前に一撃で命を狩り取れる距離まで接近する。 (この子を殺しても……戦いは終わらない。きっと向こうも激情して争いが激しくなるだけ……) 過去に犯してしまった失敗が神経を刺激し、貫こうと構えたその手が止まってしまう。 「メサから離れなっ!!」 ボクの顔から胴体にかけて巨大なハンマーが触れる。グシャリと顔面と右手足が潰れ壁にめり込む程飛ばされる。 完全にライから視線を切ってしまっていた。手痛い一発を受けも流せもせずもらってしまい、眼球が潰れ骨は粉々になる。 (痛たた……何考えてるんだボクは。とにかく奴らを無力化しないことには何も始まらない) キュアヒーローとボク自身の力で傷を治癒しつつ、壁から抜け出して頭の中の余計な考えを消しクリーンにする。 「ありがとうライ姉助かったよ!」 「間一髪だったね……今回の作戦分かってるのかい? 危ないと感じたらすぐに下がりな」 追撃に備えるが来る気配がない。今日はとことん防御重視の戦い方をする気だ。 (何か引っ掛かる……) [キュアリン聞こえる!?] [あぁ聞こえる……配信も開
last updateLast Updated : 2025-06-10
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