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蓮華草の花言葉⑧

Auteur: 佐藤紗良
last update Date de publication: 2025-06-11 20:00:20

窓枠がピシッと音を立て、床が軋む。屋敷の歪みが無くなったのだ。ヌエの鳴き声が聞こえなくなった部屋は、時計の針も止まり無音になった。

「んー…」

それに気付かず、佐加江は爪を噛みながら膝を抱え、貧乏ゆすりのように身体を揺らしていた。鼻腔を通る空気さえ、熱がこもっているような気がする。

「佐加江」

扉の向こうで、拳を噛んだ青藍が荒ぶる呼吸を整えようと肩を大きく揺らしていた。

「佐加江。結界を張ったので大丈夫ですよ、安心なさい。昼間から芳しい匂いが漂っていたので、蘇芳に気付かれてしまいましたが。ここを開けてください、佐加江」

「気づいていたなら、もっと早く」

「ふふ。いつもやられっ放しの蘇芳に、少しだけ自慢したかったのです。私の番の香りを。しっかりとした紋になるまでは、芳香が他の丙に漏れてしまうようですね。気を付けねばなりません」

濃厚になっていくフェロモンに誘われるように、青藍は我慢できず書
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    「お早い出発ですね」 「……」 駅へ向かうオースチンの中で、佐加江はうつむいて爪をいじっていた。どことなく、しらけた雰囲気に蟇田は黙り込む。 「佐加江。実はですね、私もーー」 青藍は佐加江に耳打ちする。 「え?」 「あまりにも可愛らしくて、やっちまったです」 「……いくつの僕と?」 「出会った頃の佐加江です」 佐加江がシートからズルッと滑った。 「痛い、痛いという割に、尻は普段通り良い具合でしてね」 「ダメダメ、言っちゃダメ!」 青藍の口を両手でふさいだ佐加江は、また赤い顔をしていた。赤くなったり、青くなったりクルクルと佐加江は表情を変える。 「もう、どこまでが現実だったのかわからないよ。夕べはご飯を食べた辺りから記憶がないし」 「本当ですか」 そういえば食事のあと、やけに「コミコミプラン」と言っていたような気がする。鞄の中へしまった通知表のような大国主命の評価表を改めて見た。 「佐加江、そういえば」 佐加江の耳元へ唇を寄せ、「子供は出来る」と大国主命の心強い言葉を伝えた。すると表情がぱあと晴れて、ここへ来た時のような笑顔になった。 「本当に?」 「私の頑張りが少し足りないようです」 そもそも、この評価表にある硬度や濃度をどうやって測ったのか。 「佐加江、身体の不調はありませんか」 「平気だよ」 大国主命が佐加江にとりついて、青藍の性技をチェックしていた可能性はある。 運転席の蟇田を見ると、ルームミラー越しに目が合った。瞳孔がシュッと細くなり、何か言いた

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    「ん……」 振り返ると佐加江がゆっくりと何度か瞬きをして、ぼうっと宙を眺めている。 「ヒィィッ」 「佐加江、どうしました」 「ご、ご、ごめんなさい!!」 目が合った瞬間、佐加江が叫び声をあげて布団にくるまってしまった。 「佐加江、おはようございます」 そばで正座をしていたが、待てど暮らせど返事はない。どうしたというのか。また怖い夢でも見たのかもしれない。 布団越しの佐加江に身を寄せ、背中を摩る。 「寝てしまいましたか」 布団をかき分けると、佐加江が真っ赤な顔をしていた。 「そんな泣きそうな顔をして、どうしたのです」 どうやら、悪夢を見たわけではなさそうだった。 「……やっちゃた」 「何をです」 「青藍。身体、おかしかったりしない?」 「平気ですよ」 「ちっちゃい青藍と、えっちな事たくさんしちゃったよぉ……」 佐加江が両手で顔を隠している。おそらく、さきほど大国主命が言っていたことだろう。 「子供の私はどうでしたか」 「皮を剥いてあげてね、初めてだって言うからあまりにも可愛くて、小さな角をしゃぶったりねーー。そんな願望、僕にはない!保育士として失格だ」 「どのみち、私は佐加江が初めてでしたよ」 ジタバタと暴れる佐加江の動きがピタッと止まった。 「子作りが初めて……って」 「まぐわいは、すべて子作りの為ですからね。子供の私と他には、どのようなことをしたのですか」 「言えない!」 先ほどの紙に、佐加江のことも書

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    「ククク。お前も一人前にあんなことが、できるようになったのだな」 「何をおっしゃっていますのやら」 「その点、佐加江は嫁として申し分ない。問題はお前だ」 煙管を咥えた閻魔が立ち上がり、窓を開けて煙を細くくゆらせる。 冷たい空気が部屋に流れ込み、佐加江を見た青藍は笑みを漏らす。布団にくるまって穏やかな寝息をたてていたからだ。 空が白み始めている。 とこかで烏がカーと一息だけ鳴いて、また静寂に包まれる。 「精進します」 「みことちゃんに怒られたわ。庄をかけ過ぎだって。そんな事をしたら、出来るものも出来ないってな」 「それは」 「まあ、楽しみにしておる。お子ができ、お前があの世へ戻らねば、わしも隠居できないからの」 「佐加江が閻魔様に饅頭を買っていましたよ。土産です」 話を逸らすように、青藍は土産の饅頭を渡した。 閻魔の隠居――。 佐加江にまだ言っていない。閻魔の後継が自分であることを。世襲ではなく、何年にもわたる科挙を経て、決まったことだった。それはつまり、佐加江も立后する日が来ると言うことになる。 「ほうほう。こんなものを貰い受けるのは初めてだ」 閻魔は目尻を下げて喜んでいた。 「閻魔様。かねてよりひとつ、お聞きしたいことがありました」 「なんじゃ」 「私の父は、どのような方だったのでしょう」 閻魔が青藍を見つめ、煙管を咥えた。 「お前の父も母もわしだ。生まれたころより、そうであったではないか、何を今さら」 「誤魔化すのはおやめください。佐加江が、あのような酷いことをされても父親代わりの男を許す意味が分からず、その存在はそん

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    『一人は、寂しい……』 「佐加江!」 テープを破き、洞窟へ入って来た青藍に佐加江は首を横へ振った。そして「大丈夫だ」と視線を交わし、微笑む。 「僕もずっと一人だった。友達の真似をして、おじさんのこと『お父さん』って呼びたかったんだ」 腰に絡みついていた手が、蟻が巣食ったようにサラサラと崩れはじめていた。天気が悪い時は今だに疼く首の傷をグッと絞められ、本気で連れて行こうとしているようだった。 「おじさんに育

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