All Chapters of 記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした: Chapter 91 - Chapter 100

127 Chapters

第91話 お名前は?

「ジョ、ジョン!? 一体貴方は……?」腰が抜けながら目の前に立つジョン? を指さした。「ユリア……やっぱりまだ完全に記憶が戻っていないんだね? まぁまだ60日経過していないから無理か……」ジョン? は妙なことを言う。「あ、貴方……一体何者よ!」しかし彼は質問に答えない。「そんなことよりもユリア! どうして屋敷に戻って来たんだ? 折角閉ざされた空間に穴を開けて逃がしたのに、また戻って来るなんて! 命が惜しくはないのか? 自分でも分っているんだろう? ユリアの命を狙っている存在がどれだけ危険か」「ええ、分ってるわ。危険人物なことくらい。だけど……だからこそ貴方だって十分私にとっては危険人物なのよ! 一体貴方は何者なの!?」腰が抜けて動けないけれども、それでも気丈にふるまって目の前のジョンを指さす。「僕はユリアに命を狙われているから助けて欲しいと頼まれた者だよ。森の中に住んでいる魔導剣士だ」「ま、魔導剣士……?」何それ? 初耳だ。私が依頼した? けれど……そう言えば何度か夢で森の中を歩いている夢を見た気がする。「魔導剣士と言うのは、魔法使いでありながら剣を持って戦える者を指す言葉さ。君は僕の話を聞きつけて、自らの足で訪ねてきたんだよ。と言っても覚えてはいないだろうけど……静かに!」突然私の口を塞ぐと静かにしているように目くばせする。すると何者かの足音がこちらへ向かって近付いて来る音が聞こえてきた。『ユリア……一体何所へ消えたんだ……』その言葉に背筋が凍りそうになる。あの声は紛れもなくジョンの声だ。でも未だに信じられない、いや。信じたくは無かった。まさかあの私の護衛騎士だったはずのジョンが命を狙っていた人物だったなんて……。「大丈夫だ、今のあいつにはユリアの気配はまだ感知することは出来ない」ジョン? が耳元で囁くように言う。私は返事をしない代わりに、素早くコクコクと頷いた。やがて徐々に足音が遠くなっていき……完全に聞こえなくなってしまった。「よし……行ったようだな。今、この屋敷はあいつによって外部との空間が閉ざされている。この空間を破るには奴を倒すか、傷を負わせて弱らせるしか方法が無い。僕は今から奴の元へ行く。ユリアはここに隠れているんだ」「ちょ、ちょっと! 一体貴方は何日ここで戦っているのよ! あれから10日も経過しているのよ!
last updateLast Updated : 2025-07-17
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第92話 消えたのはどっち?

 セラフィムが出ていってどれくらい経過しただろう。この部屋には家具も一切無ければ時計すら置かれていない。本当に何も無い部屋だった。「こんな部屋……屋敷にあったかしら……?」いや、そもそもまだ記憶が完全に戻っていない私にはこの屋敷の構造すらよく理解できなかった。さっき、セラフィムは言っていた。『60日経過していないから無理か……』それなら60日経過すれば私の記憶は完全に戻るのだろうか? でもそもそも何故私の記憶が消えたのだろう?そう言えばあの時夢の中でセラフィムが言っていた。記憶の操作から始めると。一体何故私はわざわざセラフィムを訪ねて記憶の操作をしてもらったのだろう? 私の命に関わることと何か関係があるのだろうか?「どのみち、セラフィムが戻ってこない限り何も分からないわよね。それにしても一体いつまでこの部屋でこうしていないといけないのかしら……」ただ黙って部屋にこもってたせいなのか何だか非常に眠くなってきた。「うぅ……。眠くてたまらないわ……。こんな時なのに……眠っちゃいけないの……に……」そしてとうとう私は眠ってしまった――**** 私は夢を見ていた――それは学生時代、仲良しの友達と飲みに行った時の夢だった。「ほら、〇〇! もっと飲みなよ!」「そうそう、ビール好きでしょ?」よし、それじゃ飲もうかな? えい!ゴクゴクゴク!ぷは〜っ!「おお〜! さっすが◯◯だね?」「いい飲みっぷり!」えへへ〜まあね〜それじゃもっと飲むよ〜!「よっ! さすが酒豪だね?」ゴクゴクゴクあ〜ビール最高!………****「……リア……ユリア……」誰かが私を揺すぶっている……。「う〜ん……」「ユリアさん! 起きてってば!」「うん……だめ……もう飲めない……」「おい! いい加減にしろ! 何がもう飲めないだ!」いきなりの大声で私は一気に目が覚めた。「え? 何? 何?!」ガバッと起きて周りをキョロキョロ見渡すと、そこには私を見下ろす10個の目。「キャアアアアアッ!!」私の絶叫に全員が耳を塞ぐ。「な、な、な、な、何してるんですか! ひ、人の寝顔を全員で見るなんて!」「何が人の寝顔を全員で見て! だ!」ベルナルド王子が声を荒げる。「そうですよ! 何でこんな非常事態に寝てられるんですか!?」テレシアが私の肩をガシッと掴む。
last updateLast Updated : 2025-07-18
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第93話 深まる謎

 部屋を出ると、屋敷の中は普段と変わらない状況に戻っていることに気付いた。けれども何だか騒がしい。廊下の片隅に10人前後の使用人たちが固まって何やら話をしている様子が目に入ったので、私は声をかけながら近付いた。「ねぇ。そんなところで何をしているの?」すると使用人たちが一斉に振り向く。「あ! ユリアお嬢様!」「それが妙な話なんです」「妙な話……?」首を傾げると次々に使用人たちが興奮気味に訴えてくる。「屋敷に出入りしている業者の人たちが10日間も中に入れなかったそうなんです」「私の聞いた話ではこの屋敷に出入りしていた業者が町にもどったら10日間も何処へ言っていたと言われたらしいです」すると一番年上の使用人が最後に言った。「そこで、我々の話をまとめた結果……この屋敷は不思議な力で外界と隔離されていつの間にか10日間経過していたのではないだろうかという考えに至ったわけなんです」「あ……そ、それで話し合っていたのね。不思議なこともあるものね。それじゃあね」それだけ言うと私は足早にその場を立ち去った。私だけが特殊な空間に捕らえられていたと思っていたのに、まさかこの屋敷全体が閉じ込められていたなんて。しかし、元通りに戻ったということはジョンの身に何か起こったのだろう。「セラフィムは何処に行ったのかしら……」考えてみればこの広い屋敷の中、簡単に会えるはず無いのに。「困ったわね……。とりあえず王子たちの所へ戻ったほうがいいかしら?」色々悩んだ挙げ句、結局自分の部屋へと戻ることにした。何しろ自分がどの部屋から出てきたのか覚えていなかったからだ。それにベルナルド王子たちだって恐らくあの後すぐに部屋を出たに違いない。そして屋敷の中が元通りに戻っているのを目にしたことだろう。「うん、きっと皆帰ったに違いないわ。明日学校に行ってからベルナルド王子たちに謝罪をすればいいわよね」とりあえず自分の部屋に戻ってお茶を飲んで休みたい……。私は自分の部屋へと足を向けた――****カチャリ……部屋の扉を開けて目を見開いた。何とそこには私のお気に入りのソファに座り、お茶を飲んでいるジョンの姿があったからだ。「あ、お帰り。ユリア」ジョンは私を見て笑みを浮かべる。「キャアアアアアッ!! ジョ、ジョン!! な、な、な、何でここにいるのよ!! ま、まさか……ま
last updateLast Updated : 2025-07-19
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第94話 ジョンの正体

 私の命を狙っているのと同じ人物……同じ……。「キャアアアアアッ!! や、やっぱり殺人鬼なんじゃないのっ! いやーっ! 出てって! わ、私を殺しても何にもならないわよーっ!」再び物を掴んで投げつけようとして……。「ユリアッ! 落ち着いて!」ジョン……もとい、セラフィムの言葉と共に身体が動かなくなってしまった。「い、一体私にな、な、何をしたのよ……?」「ごめん。そんなに興奮していたら話をすることもままならないから、ちょっと身体を拘束させてもらったよ」「や、やっぱり普通じゃ考えられないようなその魔法……ジョンなのね? やっぱりジョンだったのね!?」「そう、それだよ」するとセラフィム? が私に言った。「それって……何よ?」「ユリアは何でジョンと呼ぶのかと思ってね」「だ、だって本人が名乗ったよ。自分の名前はジョン・スミスだって」「ジョン・スミス……あぁ、そういうことか……ユリアはその名前を聞いた時、何て思ったんだい?」「何って……随分ありふれた名前だなって思ったわ。何処にでもある名前でまるで偽名の様に感じ……」そこまで言って不思議に思った。『何故ジョン・スミス』と言う名前を偽名だと感じたのだろうか? この世界では余り聞かない名前なのに……。「え……? この世界って……?」何だろう? また妙な違和感がある。「ユリアは人ならざる者に命を狙われているんだ」「え?!」あまりにも唐突なセラフィムの言葉だった。「な、な、何それ? 私の命を狙っているのは人間じゃ無かったの?」「そうだよ。だからユリアは僕の噂を聞きつけて身の危険を犯してでも僕の所へやってきた」セラフィムは静かに語る。「だ、だけど私の命を狙っているのはジョンなのよね? 貴方とジョンは同一人物だってさっき言ってたじゃない……。ハッ! もしかしてセラフィム、貴方は人間じゃなかったの!?」「いや? 僕はれっきとした普通の人間だよ? 今はね」もう何が何だか分からない。セラフィムの話を聞けば聞くほど頭が混乱してくる。「ねぇ、勿体つけた話し方するのはやめてよ。そういう所がジョンと似てるのよね」「仕方ないよ。オルニアスに僕の身体は乗っ取られてしまったからね。でも……ようやく呪縛から逃れることが出来たよ。彼は完全に僕と分離してしまったみたいだからね」「え……? オルニアス? オルニ
last updateLast Updated : 2025-07-20
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第95話 セラフィムの正体

「ねぇ、私はユリアじゃないの? ひょっとして、この身体に入り込んでしまった別の人間なの?」本当はこことは違う世界の人間で、セラフィムに召喚されてこのユリアという人物の中に憑依してしまったのではないだろうか?「いいや、君は間違いなくユリアだよ。記憶が失われているだけで」「そう言えば夢で見た気がするのよ。セラフィムが私に記憶を操作するって話していた夢を」「それは夢じゃない。本当のことだよ。ユリアを守る為に一時的に別の記憶を入れ替えたんだけど……ごめん。こんなことになるとは思わなかったんだ」「は? 何故突然謝るの?」「まさか僕がオルニアスに身体を乗っ取られるとは思わなかったんだよ。結局はユリアを危険に晒してしまった。本当にごめん。ユリアからは多額の護衛費を受け取っていたのに……少し返そうか?」セラフィムは申し訳なさそうに尋ねてきた。「え? 謝る所ってそこ? 私ってそんなにセラフィムに多額の護衛費を払ったの? そのお金って、お父様からのお金かしら? それとも自腹……?」「さぁ……? 生憎お金の出処は何処からなのか分からないけれど、完全に身体を取り戻すことは出来たよ。当初の計画からは大分ずれてしまったけれども、今度こそ間違いなくユリアを護衛すると誓うよ。……だからお金は返さなくてもいいかな?」「別にそれはいいけど……やっぱり何となくセラフィムとジョン。……じゃなくて、オルニアスは性格が似ているわね。お金の話を持ち出すところとか、やけにリアルだわ」「まぁね。元々は僕の人格が主体になっているから。オルニアスは堕天使となって魔界に身を落とした時に身体を失って魂だけの存在になっていた。そして戦いの最中に僕という器に乗り移ってしまったんだよ。それで少し性格が似てしまったんだ」「戦いの最中って……?」「勿論、ユリアの命を狙って襲って来た時にさ。でもあいつは大分力が弱くなっていたんだろうね。僕を完全に支配することが出来なかった。だから機会を狙っていたんだ。力を蓄えて、元の自分を取り戻す機会をね。オルニアスも大分葛藤していたと思うよ。本来はユリアの命を奪うために側にいながら、ユリアを守ろうとしている僕の身体の中に入り込んでいたのだからね。命を奪いたくても出来なかったんだよ」「成程……言われてみればジョンは得体のしれない男だったわね……」私の護衛騎士のくせに、何
last updateLast Updated : 2025-07-21
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第96話 明らかになった私の正体

「そ、そう……。そして記憶を失う前の私は元天使様から命を狙われ、元天使様に護衛をお願いしたわけね? 我ながら随分大胆な真似をしたものだわ。でも私は天使様に命を狙われるほど悪女だったのかしら?」私の言葉にセラフィムが答えた。「いや……あの当時のユリアはそれほど悪女とは思えなかったけどね。ちょっと我儘なお嬢様って感じだったかな? まぁ、頭はあまり良いとは言えなかったけどね」セラフィムは最後の台詞を小声で言ったのかも知れないが、私の耳にはばっちり聞こえていた。成程……それでセラフィムの身体を乗っ取っていたオルニアスは私に勉強させようとしていたのだろうか?いや、今となってはそんなことはもうどうでも良い。「ねぇ。オルニアスは一体何故私の命を狙っているのよ? そもそも天使様に命を狙われるようなこと、した覚えなんか無いわよ?」「ああ、オルニアス自身はユリアに恨みなんか持ってはいないよ」「そう言えば本人もむしろ殺すには惜しい人物と言ってたわ。からかい甲斐があったと言って」「へ~あのオルニアスにそんな台詞を言わせるなんて、なかなかやるじゃないか?」笑顔になるセラフィム。「そんなこと言われても少しも嬉しい気持ちにはなれないけれど……それじゃ何故私の命を狙っているの?結局オルニアスは理由を教えてくれなかったのよ」「彼は天国から魔界に落とされた堕天使だ。通常なら自分の意志で人間界に現れることは出来ない。彼は何者かによって人間界に召喚されたんだよ。ユリアの命を狙う為に」「な、何ですって……!」その言葉に当然真っ先に脳裏に浮かんだのは、ノリーンだった。記憶を失う前の私は誰かに命を狙われるほど悪女だったようには思えない。それにノリーンだけはジョンの魔法にかからなかったのだから。「ねぇ! 私は誰がオルニアスを召喚したか犯人を知ってるわ。その人物の所へ行ってオルニアスを魔界へ帰してもらいましょうよ。呼び出した位なんだから、帰すことだって可能でしょう?」するとセラフィムは少しだけ悲しげな顔になる。「ユリア……それは無理だよ。召喚には代償が必要だ。恐らくオルニアスを呼び出した人物は願いを叶えて貰った後、自分の身体を明け渡すつもりだったんだと思う。何しろ堕天使は本体を持たない、魂だけの存在だからね。魂の状態だと地上にとどまれるのは60日間だ。だけど本体を手に入れてしまった
last updateLast Updated : 2025-07-22
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第97話 新たな護衛騎士

「前世の魂……成程。それで時々訳の分からない記憶が蘇っていたのね?」「そうなのかい? それでは徐々に記憶を取り戻していると言うことだね? 僕のかけた魔法は60日かけて完成するようになっている。今の状況では前世と今世の記憶に翻弄されてしまうかもしれないから、最終的に融合するようにしたんだよ。その間に僕は命を狙うオルニアスからユリアを守り抜く予定だったんだ。何しろ魂だけの存在ではオルニアスは地上でわずかで60日間しか存在出来ないからね」「セラフィムは私を護衛していたのに、身体を奪われてしまったのね?」するとセラフィムの顔が陰った。「そうだよ。誤算だった……。天界から人間として地上に降り立って26年経過しているからオルニアスに僕の正体がばれないと思っていたのに……」「え? ひょっとして、それって……オルニアスがターゲットである私を見つけられたのはセラフィムの正体に気付いたからなの? それで身体を乗っ取った際に、貴方の記憶をもとに、私が狙うべき相手だと言うことに気付いてしまったの?」「うん……そう言うことだよ」「そ、そんな……それじゃセラフィムが身体を乗っ取られていなければ私は60日間の間、命を狙われることも無かったのね!?」ひどい! セラフィムのせいで私は命を狙われることになったんだ!「え? でもそれ以前からユリアは命を狙われていたんじゃないか? それで僕の所に助けを求めに来たんだろう? 僕の所に来た時は10日程前から突然命を狙われ始めたから助けてほしいと訴えていたよ? そしてユリアを見た時に魂にターゲットの目印が付けられていることに気付いて前世の眠っている魂を上に引っ張り上げたんだ。その時に一時はオルニアスの目をくらますことが出来たのに……僕がもと天使だと言うことに気付かれてしまって、身体を奪う為に襲って来たんだよ。油断していた僕はオルニアスに身体を乗っ取られてしまって、彼はユリアが自分のターゲットだと再認識したんだ」セラフィムは肩をすくめる。「それで……私の命を狙う為にオルニアスはセラフィムのふりをして護衛騎士として私の傍にいたの?」「そうだよ。召喚された者は召喚者の命令は絶対に聞かなければいけないからね。だけど乗っ取ったのは僕の身体だったから、ユリアの命を狙いながらも守らなければという気持ちが彼の中で働いていたんじゃないかな?」「成程……
last updateLast Updated : 2025-07-23
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第98話 飽きたからだよ

「そ、そう? ありがとう。でも貴方なら安心して護衛を任せそうね? だって本物なんだから」イケメンのセラフィムにじっと見つめられて思わずドキドキしながら返事をする。不思議なものだ。ジョンとセラフィムはまるきり顔が一緒なのに、雰囲気が全く違う。ジョンにはこんな気持ちを感じることは無かったのに、セラフィムが相手だと、深くにもときめきを感じるなんて。そのとき、突然肝心なことを思い出した。「ねぇ、そう言えば貴方も元・天使だったのよね? 何故人間としてここにいるの?」「ああ、簡単なことだよ。天使でいることが飽きたからだよ」「え?」その言葉に耳を疑う。「今……何て言ったの?」「だから、飽きたからだってば」「……ねぇ、天使って……飽きればすぐにやめられるものなの?」「そうだよ。もう大勢僕の仲間たちが地上に降りてきている。尤も連絡を取り合うようなことはしていないけどね」「ふ、ふ〜ん……そうなんだ……で、でもどうやって人間になって降りてきたの?」「うん、それはね。まず背中の羽を切り落として……それでこれから生まれる人間の魂の中に潜り込むのさ」「……それってやっていいことなの……?」犯罪なのではないだろうか?「別に構わないんじゃないかな? ユリアだって前世の魂を持ちながらこの世に生まれてきたんだから、かなり特殊な存在だよね。普通はあまりそんな人はいないのに……。あ、だからユリアには魔法が使えないのかもしれないね」「そ、そうなの……。でも、これで今日から私はセラフィムという心強い護衛がそばにいるから安心して生活出来るわね」「安心するのはまだ早いよ。本体を取り戻したオルニアスは強い。何とか傷を追わせることが出来たから一時的に撤退しているけど、傷が治れば再びユリアを狙って来るかもしれない。一番良いのは召喚者がユリアの命を狙うことを諦めてくれれば……」「何だ! それなら簡単なことよ! 私にはもう召喚者が誰か分かっているから、明日その人物と会って話をすればいいのよ!」「え? ユリアには分かっているのかい?」「ええ。だから明日からセラフィムもジョンとして学校に通うのよ? いいわね?」「え……?」セラフィムが露骨に嫌そうな顔をしたのは言うまでも無かった――****その日の夜――「お父様が不在中で良かったわ……」ダイニングルームでセラフィムと一緒に
last updateLast Updated : 2025-07-24
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第99話 何故ここにいる?

 翌朝―― 朝食後、学校へ行く準備をしているとノックの音が聞こえた。「はーい、どうぞ入って」するとカチャリと扉が開き、メイドが現れた。「ユリア様。あの、ベルナルド王子がお迎えにいらしておりますが……いかがいたしましょうか?」「え? ベルナルド王子が!?」そうだった。昨日はうやむやの内に屋敷の中ではぐれてしまい、その後の彼らの行方は不明になっていたのだっけ。本当は馬車の中でセラフィムと今日の打ち合わせ? 的な話し合いたかったけれども仕方ない。王子のお迎えを拒絶するわけにはいかないし。「分かったわ。すぐに行きますと伝えておいて」「はい、かしこまりました」メイドは頭を下げると部屋を出て行った。「……急がなくちゃ」隣の部屋に移動すると、扉をノックする。セラフィムを呼ぶ為に――****「……おい、その男、何処かで見た気がするんだが……?」セラフィムを連れて行くと、馬車で待っていたベルナルド王子が最初に発した言葉がこれだった。「あ、そうだった。そう言えば記憶の操作をするのを忘れていたよ」セラフィムは指をパチンと鳴らした。すると……。「お前……やはりユリアと一緒に住んでいたのだな!? おまけにこの間は炎の玉を俺に投げつけてくるとは、とんでもない男だ!」ベルナルド王子がいきなりセラフィムに向かって怒鳴りつけてきた。「え? 炎の玉……? 一体何のことだい?」一方のセラフィムは全く見に覚えの無いことをベルナルド王子に責められて首を傾げる。そうだった! すっかり忘れていたけれど、ジョンはベルナルド王子に炎の玉をぶつけたことがあったのだ。「貴様……とぼける気か……?」どうしよう、何と説明すればいいのだろう? 思わず返答に困っていると……。パチン!セラフィムが指を鳴らした。その途端……。「よし、では早く馬車に乗れ。遅刻するぞ」ベルナルド王子が私達に声をかけてきた。「あ、はい。分かりました」馬車に乗り込もうとした時、セラフィムが右手を差し出した。「どうぞ、ユリア」「ありがとう」セラフィムにエスコートされて馬車に乗り込むと、何故かベルナルド王子が私を睨みつけている。あの……怖いんですけど……。「な、何か?」「……別に!」「どうしたの? 乗らないのかい?」セラフィムに促されたベルナルド王子は不機嫌そうに馬車に乗り込むとセラ
last updateLast Updated : 2025-07-25
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第100話 火花を散らす?2人

「ああ、それはね、ユリアは今何者かに命を狙われているからその護衛騎士として雇われて、一緒に暮らしているんだよ?」「何だって? 命を狙われているだって!? ……言われてみればそんな気がするが……」ベルナルド王子は腕組みをしながらしきりに首を傾げている。するとセラフィムが小声で耳打ちしてきた。「どうやら王子の記憶を操作し過ぎてしまったかもしれない。かなり混乱しているようだよ」「仕方ないわ。なるようになるわよ」「おい! そこの2人! 距離が近い!」ベルナルド王子が私とセラフィムを交互に指差す。「ところでベルナルド王子。何故私を迎えにいらしたのですか?」何故王子は今日もここに来たのだろう?「それはお前と一緒に登校する為だろう?」「何故ですか?」「うぐ! そ、それは……そう! お前が何者かに命を狙われているからだ!」「それならもう大丈夫です。ほら、この通り私には心強い護衛騎士がついておりますから」隣に座るセラフィムを見る。そして黙って頷くセラフィム。「い、いや! だが……この馬車は安全だぞ? 少々の魔法攻撃くらいではびくともしないからな」「僕なら馬車全体に防御壁を張れるから特殊馬車じゃなくても大丈夫だよ」セラフィムの言葉にベルナルド王子の眉がぴくりと上がる。「ふははっはは……そ、そうか。なかなかお前は腕に覚えがあるのだな?」「当然だよ。ユリアの護衛騎士をしているんだからね」「ほ〜う。そうか……すごい自信だな」「まあね。実際僕は腕に自信はあるからね」……何故だろう? 先程からこの馬車の中に殺伐とした雰囲気が流れている。それにセラフィムとベルナルド王子が火花を散らしているようにも感じる。けれど、私がベルナルド王子に関わるのは非常によろしくない。何しろ私の命を狙っているのはノリーンで間違いないはずだから。「ベルナルド王子。私を心配して下さるお気持ちは嬉しいのですが、もうお迎えに来ていただかなくて結構ですからね。いえ、と言うかはっきり申し上げれば逆に迷惑なので私にもう関わらないでいただけないしょうか? お願いします」「な、何だって!? お、お前……本気でそんなこと言ってるのか? 何故俺が迷惑なんだよ!」「それは王子のせいで恨みを買いたくないからです」「一体どういうことなのだ!?」「それはですね……」そこまで言いかけたとき、御者が
last updateLast Updated : 2025-07-26
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