「柚希〈ゆずき〉」「……」「ねえ、柚希ってば」「え? な、何? どこか分からない?」「もぉ柚希ってば、さっきからずっと呼んでるのに。どうかしたの?」「……ははっ、大丈夫大丈夫、何でもないから。で、どの問題?」「……これなんだけど」 早苗〈さなえ〉の部屋での勉強会。 早苗が指差した問題に慌てて目を通し、柚希はノートに鉛筆を走らせて計算しだした。 何度も何度も問題を読み返し、頭の中の公式を総動員しても出せなかった答えを、柚希がいとも簡単に導き出していく。 書き終え、答えまでの過程を説明する柚希の横顔を見ていると、早苗はまた動揺している自分を感じた。 あの日。 柚希の心の闇に触れた時に生まれた感情。 それが何なのか、早苗はまだ分からずにいた。 あれ以来、柚希と会うと妙に胸がざわつく。 柚希の声、動作、笑顔。そのひとつひとつが心を大きく乱していた。 柚希の部屋で見たネガの女性を思い出すと、これもまた、これまで経験したことのない何かが沸き上がってくるのを感じた。 少し疲れてるのかな、私。 早苗は初めての感覚に戸惑っていた。 そんな早苗が見ても、最近の柚希の様子はおかしかった。 学校では山崎の一件で年齢のことがばれてしまい、柚希とクラスメイトの間に溝が出来てしまうのではないかと心配した。しかしそれが杞憂だということを、早苗はすぐに感じた。 山崎が柚希を孤立させる為に取った行動が、逆に柚希とクラスメイトの距離を縮める結果になっていた。 柚希の笑顔を見ることも多くなり、早苗も嬉しく思った。 しかしそんな日々の中でふと、何かに心を持っていかれたかの様にぼんやりとすることがある。 元々人と接触しない生活をしてきた柚希は、確かに物静かで、一人考えにふけっていることが多かった。 しかし最近
Terakhir Diperbarui : 2025-05-14 Baca selengkapnya