事故の後、自分はしばらく深刻なPTSDに悩まされていた。皐月は自分の専属カウンセラーで、事故から5年間、定期的に彼女の元へ受診に通っていた。だが、皐月は自分に、恋人がいたことを一度も話さなかった。それどころか、この数年間、周りの誰もそのことを自分に教えてくれなかった。哲也は、これはおかしいと感じた。早紀の話が本当かどうかは別として、少なくとも一つだけ確信したことがある。自分の記憶は、確かにおかしい。しかし、皐月は4年前に亡くなっていた。哲也も優希と結婚してからは、カウンセリングを受けに行くことはなくなっていた。そこへ突然、早紀が現れたのだ。だから、彼はもう、何もしないでいるわけにはいかなくなった。哲也は、皐月の元秘書だった高田拓也(たかた たくや)を訪ねた。拓也は皐月から、もし哲也が自分の記憶を疑う日が来たら、彼の治療記録を渡してほしいと託されていた。そこで、哲也は資料を受け取り、答えを知った。彼は本当に記憶を失くし、深く愛し合っていた女性を忘れてしまっていたのだ。彼の記憶喪失は、事故だけが原因ではなかった。自分自身が深刻な精神的問題を抱えていたからだ。彼は無意識に恋人へ強い独占欲を抱いてしまう。さらには、何度も不安に駆られ、自分のネガティブな感情を抑えきれずに恋人を疑ってしまうのだった......そんな最悪の状態が続き、恋愛において、彼は次第に度を越した狂人と化していった。哲也がさらに驚いたのは、こうした自分の過去を、優希がすべて知っていたことだ。いや、正確に言えば、周囲や家族たちは皆知っていた。そして、彼らは優希と結託して、自分を騙していたのだ......それで拓也は言った。「松尾先生は口止めしていましたが......でも、紫藤さんとあなたがこんな形で引き裂かれたのを見て、心が痛んで、やはり本当のことを話すべきだと思いました。奥さんは、どうやら昔からあなたに片思いをしていたようです。あなたが記憶を失って紫藤さんを忘れたと知ると、彼女はすぐに松尾先生の所へ行き、協力を持ち掛けたのです......」それを聞かされた哲也は、これらの情報にすっかり心をかき乱された。だが、彼が頭の中を整理する間もなく、優希と息子が病気だという知らせが届いた。その瞬間、哲也は何もかもどうでもよくなり、すぐに空港へ向
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