それを聞いて、賢は何も言えなくなった。「山口さん、今あなたにできることはただ一つ。哲也たちがここに来てから何があったのか、全部、話してくれることよ」優希は真剣な顔で言った。こうなると賢は完全に観念して、うなだれた。そしてため息をつきながら言った。「話します。全部話しますよ……」話は、哲也が早紀を連れてF国に来た日から始まる――哲也が早紀をF国へ治療に連れて行く件は、事前に紫藤家と相談済みだった。紫藤家の当主・紫藤浩一(しどう こういち)は、娘が哲也についていくのを不満に思っていた。しかし、早紀のもう一つの腎臓も悪いと知って、政略結婚の価値は大きく下がるだろうと考えた。そんな時、哲也が彼女を引き取ると申し出てくれたのだから、浩一はもちろん喜んでその話を受け入れた。だから哲也が、早紀を退院させて治療に専念させたいと言った時も、彼は反対しなかった。そして、F国に来て最初の1週間、哲也は確かに早紀を現地の最高級の私立病院で治療させていた。そこへ紫藤家の長女・紫藤真帆(しどう まほ)も一度見舞いに来たが、哲也が早紀を手厚く看病しているのを見て、安心して彼女を任せたのだった。そして、1週間後、早紀の容体が安定してから、医師に退院して自宅で療養するよう勧められた。早紀自身も、病院の消毒液の匂いが嫌いだから、家で静かに過ごしたいと言い出した。哲也はそれを承諾した。退院後、哲也は彼女を郊外にある自分の荘園に連れてきた。それが、今いるこの場所だ。哲也は、ここなら病院まで15分もかからなくて便利だと言った。こうして哲也は早紀と暮らし始めた。しかし、全てが順調に進んでいるように見えたが、実は水面下で不穏な空気が渦巻いているのだった。荘園に住み始めて3日目のこと。早紀は、哲也と二人きりの時間を過ごしたいと言い出した。その日の夜、哲也は自らキッチンに立った。使用人たちには、前もって休暇を与えて家に帰らせていた。その時、荘園には、哲也と早紀の二人だけになった。早紀は自らワインセラーへ行き、ワインを一本持ってきた。自分は飲めないけれど、こんなに素敵な日には、赤ワインがあった方がロマンチックだと言った。そして、彼女はテーブルにキャンドルまで灯した。揺れるキャンドルの光の中で、哲也は早紀が注いでくれた赤ワインを受け取っ
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