お邪魔虫がいなくなって、安人は桜のほうを見た。「こっちへおいで」さっきは悠翔がいたから、三人で大きな円卓を囲んでいた。でも、一人一人が離れて座っていて、桜と安人の間には席がいくつも空いていたんだ。今はもう他の人がいない。桜は閉まったドアをちらっと見て、素直に立ち上がって安人のそばへ歩いて行った。彼女は、安人が隣の席に座るように言っているんだと思っていた。ところが、彼女が立ち止まったとたん、安人は彼女の手首を掴んで、自分の膝の上に引き寄せて座らせた。驚いた桜は目を丸くして彼を見つめた。「な、何するの?ここ個室だけど、誰か入ってきたらどうするの」「ここは一流ホテルだ。店員が理由もなくお客様の個室にいきなり入ってくることはない」安人はそう言うと、彼女の手を取って、その腕を確かめた。桜の手の甲には、いくつか引っかき傷があった。咲希につけられたものだ。「痛むか?」桜は自分でも気づいていなかったけど、安人に聞かれて初めて、手の甲の傷に気がついた。「痛くないよ」桜は手を引っ込めようとしたけど、安人にしっかりと握られてしまった。「今日の出来事、俺に話してくれる気はないのか?」桜は彼を見つめて、首を横に振った。「話すつもりだよ。ただ、まだ心の準備ができてなくて」安人は口の端を上げた。「俺がどうして知ってるのか、聞かないのか?」「きっと岡崎さんがこっそり教えたんでしょ?」「ああ」安人も隠すつもりはない。「彼が動画を送ってきたんだ」桜はきょとんとした。「動画?なんの?」「君が咲希と喧嘩しているところだ」「!!!!!」桜は驚いてしまった。「岡崎さんなんてことするのよ!」桜は半狂乱で叫んだ。「私のイメージが……まさか、全部見ちゃったの?」「ああ、全部見た」安人は彼女の鼻の頭を軽くつまんだ。彼女の頬がみるみる赤くなっていくのを見て、彼は少し笑えてきた。「まあ、喧嘩に勝ったなら、それでよしとしよう」彼の言葉を聞いて、桜は衝撃を受けたようだった。「あの……私、普段はあんなんじゃないの。咲希にだけ、ああなっちゃうのよ。彼女がいつもちょっかい出してくるから、もう我慢の限界で」「桜。俺が君の喧嘩する姿を品がないと思うのが心配なのか?」桜は唇を噛んで、うつむいた。「自分の彼女が他の人と殴り合いの喧嘩
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