一方、安人は、慌てて逃げていく彼女の後ろ姿を見つめ、さっきキスされたばかりの頬にそっと指で触れた。……それから、桜は身支度を済ませ、服を着替えると、飼い猫を抱いて27階の部屋に行った。ドアを開けると、寧々がパンを焼いていて、夏帆が隣でやり方を教わっているところだった。桜は猫を床に下ろすと、駆け寄って寧々に抱きついた。「寧々、会いたくて死にそうだった!」寧々は手に小麦粉がついたまま、困ったように笑った。「ちょっと、猫の毛だらけになるじゃない!早く離れてよ。パンに毛が入っちゃう!」でも桜は寧々に抱きついたまま、離れず、甘えた声で言った。「やだ、離さない。猫の毛くらい入ったって平気でしょ。今はあなたとこうしていたいの!」寧々は呆れたように言った。「はいはい。じゃあ、せめてこれが焼けるまで待ってくれる?その後ならいくらでもどうぞ」そう言われ、桜はようやく寧々から体を離すと、テーブルに並べられた食材を見て言った。「まだ7時過ぎなのに、もしかして明け方から買い出しに行ったの?」「うん!今回は数日しか一緒にいられないから。でも、あなたがこれを食べたがるだろうなって思って。だから、たくさん作って冷凍しておけば、いつでも食べられるでしょ?」その言葉を聞いて、桜は小さくため息をついた。「それで、何日いられるの?」「ほんの数日かな?」寧々はパン生地を捏ねながら答えた。「また落ち着いたら、ちゃんと戻ってくる。でも夏帆さんもすごく仕事ができるから、彼女があなたのそばにいてくれれば私も心配せずに済むわ!」「夏帆には夏帆の、あなたにはあなたの良いところがあるもの」桜はそう言うと続けた。「夏帆は武道ができるから、あなたが戻ってきたら岡本さんに話して、二人体制にしてもらうわ。二人でいれば、お互い助け合えるでしょ」「いいね!」そう言ったものの、寧々は夏帆と顔を見合わせると、すぐに話題を変えた。「午後は何時に劇団に行く予定なの?」「2時集合なの」桜は言った。「そうだ、安人さんが、一緒に朝ごはんを食べないかって。野田さんがあなたたちの分も用意してくれてるみたい」寧々は一瞬手を止め、いたずらっぽく笑った。「私たちがお邪魔虫になっちゃうじゃない?」「もう、寧々!」桜は彼女の腕を軽く叩いた。「またからかって!」「はいはい、冗談よ。でも、私はやめ
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