Todos os capítulos de 碓氷先生、奥様はもう戻らないと: Capítulo 1731 - Capítulo 1740

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第1731話

今回は朋花が空港まで、直々に浩平と彼が連れてきたメイン脚本家を出迎えに行っていた。双方のスケジュールがタイトだったため、打ち合わせはシアタービル内の会議室で行うことになっていた。顔を合わせると、挨拶もそこそこに席につき、さっそく本題に入った。朋花と桜は脚本をざっと確認して、二人とも良い作品だと思った。打ち合わせの結果、その場ですぐにこの映画を引き受けることに決めた。浩平が提示したギャラは相場よりも高く、朋花に異論はなかった。そして、契約書を交わす日程も決め、この話はまとまった。その時、浩平に電話がかかってきた。彼の妻の詩乃からだ。すると、さっきまで真剣な顔をしていた彼だったが、電話に出た瞬間、目元がふっと優しくなった。彼はスマホを耳に当てたまま皆に軽く会釈すると、会議室から出ていった。まさにネットで噂されている通りの、愛妻家ぶりだ。一方、朋花も立ち上がって、桜に言った。「社長に電話して、この良い知らせを伝えてくるね」「うん」桜は軽く頷いた。朋花が出ていくと、会議室には桜と脚本家の石原美雨(いしはら みう)だけが残った。美雨は桜の真向かいに座っていた。向かい合って座る二人。なぜだか少し気まずい空気が流れていた。桜と美雨は中学の時、1学期だけ隣り合わせの席に座ったことがあった。でも、特別仲が良かったわけではなかったから桜が転校してからは、一度も連絡を取っていなかった。桜は中学1年生の1学期だけ、隣町の中学校に通っていた。しかし映画撮影のため、すぐに北城の学校に転校してしまった。それでも、美雨のことはよく覚えている。美雨は学校中の誰もが認める優等生だった。父親は教頭で、母親はベテランの国語教師。両親ともに同じ学校に勤めているエリートだ。美雨もまた彼らの期待に応えて、小さい頃から聡明で成績優秀だった。親戚からも評判で、学校の先生や生徒からも好かれていた。当時、美雨は学級委員長で、桜とは隣の席だった。美雨はクラスの誰に対しても親切で、それは入学初日から、その美貌で注目の的だった桜に対しても同じだった。桜の記憶の中で、美雨は欠点のない完璧な子だった。まるで絵に描いたような優等生で、同級生や先生たちからも、そういう目で見られていた。美雨のあまりにも完璧な印象が深かったのだろう。だから、十数年も連絡を取
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第1732話

桜は美雨を見て、心の底から言った。「あなたみたいに優秀で頭のいい人なら、どんなことをしてもきっと成功するわ」「いやあ、久しぶりに会ったら、あなたはすごく綺麗になっただけじゃなくて、お世辞も上手になったのね!」美雨は桜を見て、しみじみと言った。「十数年も会っていなかったんだから、お互いずいぶん変わったわよね。あなたは昔、すごく内気だったじゃない。かわいい顔してるのに、毎日うつむいてて、誰とも話さないんだもの。それにあなたの机の中、毎日ラブレターでいっぱいだったのを覚えてるわ!」そう言われ、桜はかすかに眉を寄せ、ただこう言った。「そんなことあったっけ…もう覚えてないよ」実を言うと、桜はあの学校に通っていた頃のことをあまり思い出したくなかった。当時、美雨以外のクラスの女子全員から、仲間はずれにされていたからだ。13歳の頃の桜には、どうして皆が自分を仲間はずれにするのか理解できなかった。でも、大人になるにつれて、それが女同士の嫉妬のせいだと知った。彼女が際立って美しかったせいで、クラスの男子生徒の視線をほとんど独り占めしてしまっていた。だから、他の女子たちの嫉妬を買って、皆で結託して彼女を仲間はずれにしたのだ。学校は一つの集団社会だ。ほとんどの生徒はまだ精神的に未熟で、一人か二人が旗振り役になると、あっという間にその集団の中で暗黙の了解のようなものができあがってしまう。その言葉にならない、目に見えない仲間はずれは、桜に精神的なダメージを与えていたのだった。あの頃、桜は自分の容姿にコンプレックスを抱くようにさえなった。だから、彼女はわざとうつむいて歩くようになったのだ。今では芸能界で誰もがうらやむモデルのような顔立ちも、あの頃の桜にとっては、決して自慢できるようなものではなかった。特に、あの出来事が起きてからは、桜は一時期自分の顔を憎むことさえあった……「桜?」腕を軽く揺すられて、桜は我に返った。自分を揺すった朋花を見て、桜はぼんやりと瞬きをした。「朋花さん、ごめんなさい。今なんて言いました?よく聞いていませんでした」朋花は彼女の様子を見て、顔色が優れないことに気づくと、少し心配になった。桜が流産したことを、朋花は知っている数少ない人物の一人だったのだ。美雨に何か感づかれては大変だ。朋花はわざと困ったよう
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第1733話

桜は一瞬ためらったけど、すぐに「ええ」と頷いた。二人が連絡先を交換し終えると、浩平も戻ってきた。それぞれ挨拶を交わすと、お互いに会議室を後にした。それから、朋花は夏帆と寧々に桜を先にホテルへ送るよう指示した後、自分は、浩平と美雨を劇場の出口まで見送りに行った。……一方、地下駐車場では、黒いマイバッハがエレベーターの前に停まっていた。そこに着いた寧々は桜を支え、夏帆は後部座席のドアを開けた。桜は体をかがめて車に乗り込んだ。ドアが閉まると、彼女はマスクとサングラスを外して、長いため息をひとつ漏らした。すると、大きな手が、そっと彼女の額に触れた。それに気づいて桜ははっと顔を上げると、安人の穏やかな眼差しと視線が合った。「熱はないな」安人は彼女の頭を撫でた。「疲れただろ?」桜は力なく頷いた。安人は腕を広げた。「こっちにおいで」桜は素直に彼の胸に顔をうずめた。彼女を抱きしめて、安人は自分のコートでその華奢な体を包み込んだ。「少し休んでいいよ。ホテルに着いたら起こしてあげるから」「うん……」桜は目を閉じた。一度の公演で彼女はすっかり体力を使い果たしてしまったのだ。おまけに、インタビューや監督との打ち合わせもあったから、倒れずに持ちこたえられたのが奇跡と言えるくらいだ。こうして安人の腕の中で彼女は穏やかな寝息を立てた。ぐったりと寝入ってしまうその様子はまさに疲れ切っていたのだった。それを見て、安人はスマホを取り出すと寧々に電話をかけた。「先にホテルに連絡してくれ。なにか栄養のある消化しやすい食事を用意するように頼んでくれ」……一方、桜は、うとうとしながら自分が動いているのを感じた。眉をひそめて目を開けると、自分が安人に抱きかかえられていることに気づいた。「起きたか?」寝室に向かう足を止め、安人は彼女を見下ろした。「ホテルに食事を頼んでおいたんだ。少し食べるか?」桜はあまり食欲はなかった。でも、今は栄養を摂る必要があると分かっていた。やはり体がすべての基本だから。朋花から、巡演が終わったらすぐに撮影が始まると聞かされていたし。つまり、これから少なくとも1年間は、ハードな仕事が続くということだ。それには、ハードワークに耐えられる体が必要だった。だから、しっかり食べて、ち
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第1734話

夜食を食べ終わると、もう11時半だった。桜はあくびをすると、また眠気が襲ってきた。「食後すぐにお風呂はダメだよ。少し休んで、消化させないと」桜はうなずいた。こうして、二人はリビングのソファに移動して腰を下ろした。安人はノートパソコンを開いて仕事に取り掛かった。桜はうつむいてスマホをいじっていた。朋花からの連絡によると、2回の公演共に大成功したことで、観客の彼女を見る目も変わったらしい。ツイッターのフォロワーもすごい勢いで増えているから、これからはちゃんとアカウントを運営するようにとのことだそうだ。以前の桜は、ツイッターに投稿する勇気がなかった。何を投稿しても、必ず叩かれてしまうからだ。だから、彼女のツイッターは登録して何年も経つのに、ずっと放置アカウント状態だった。数少ない投稿も、2年前にまだ仕事があった頃のもので、ドラマやバラエティ番組の宣伝に協力するためのリツイートだけだった。でも、そんな公式な投稿でさえ、コメント欄は彼女への悪口で埋め尽くされていた。それで結局、桜は何も投稿しなくなった。だから、彼女の投稿は、2年前にあるバラエティ番組に出演した時のもので留まっていた。当時は番組の宣伝文をリツイートしただけなのに、数千件もの罵倒コメントがついてしまった。今もう一度その投稿を開いてみると、コメントがなんと数万件にまで急増しているのだった。思わず下にスクロールすると、彼女は再び衝撃を受けた。コメント欄は彼女を褒める言葉で溢れていた。それに、新しい投稿を待っているという声もたくさんあった。桜はスマホを見つめながら、目の前の光景がなんだか信じられなかった。彼女はスクリーンショットを撮って、寧々に送った。すると、寧々からすぐにボイスメッセージが返ってきた。「今ごろ気づいたの?トレンドのトップ3、全部あなただよ!桜、あなたは間違いなく返り咲いたのよ、正真正銘、実力でね!これで、いよいよスターの仲間入りね、桜!」桜は唇を引き結んだ。文字を打つのがもどかしくなって、彼女もボイスメッセージで返信することにした。「寧々、からかわないでよ。まだそんなレベルじゃないって。ただ、ちょっとびっくりしてるだけ。みんなに認めてもらうには、あと何年か、もっとたくさんの作品に出ないとダメだと思ってたから」それから、
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第1735話

それからの公演は雲城で行われるのだが、安人はもう桜に付き添えなくなった。彼が立ち上げた会社「WVTech株式会社」の、海外支社での初の共同プロジェクトが山場を迎えたのだ。創業者として、彼は自ら現地で指揮を執る必要があった。これで、現地に行けば、少なくとも一ヶ月は帰れない。出発する前、安人は桜に、自分の体を大事にするよう何度も言い聞かせた。仁から処方された漢方薬も、毎日きちんと飲むようにと。桜は素直にうなずき、全部わかったと答えた。そして、M市の公演からは、マネージャーの朋花がすべての公演に付き添うことになっていた。今回の公演を機に桜は、見事な返り咲きを果たしたと言える。輝星エンターテイメント側も、この伝統芸能の巡演が彼女の実力を証明する大きなチャンスになるとは読んでいた。しかし、たった2回の公演でフォロワーが千万単位で増えるとは、さすがに予想外だった!もともと輝星エンターテイメントとして、今回の伝統芸能への出演は、桜が本格派女優へとステップアップするための足がかり、くらいのつもりだった。まさか彼女一人の力で、伝統芸能そのものの人気を、かつてないほど盛り上げることになるとは、社内でもかなり驚いていた。由美子は、伝統芸能における正統な継承者だ。そんな彼女は生涯をかけてその普及に努め、たくさんの優れた役者を育ててきた。しかし、多くの伝統文化がそうであるように、時代の変化とともに人々の記憶から薄れ、衰退していくものは数知れない。由美子の劇団でさえ、今回の巡演が始まるまでは、経営状況が年々厳しくなる一方だったのだ。それが桜は自身の持つ話題性と、生まれ持った演技力で、一瞬にして由美子のここ10年の努力を上回る成果を出せたのだ。それだけでなく、彼女の活躍によって伝統芸能の歴史に、新たな一ページを刻み込めたといっても過言ではない。だって、専門的な訓練を受けたわけでもないのに、彼女はこうして才能と努力、そして持ち前の話題性だけで、伝統芸能という文化を世に知らしめたのだから。現に、桜の演劇を見たのがきっかけで、伝統芸能に興味を持ったという人は次第に増えているのだ。さらに、劇団の責任者である由美子のもとにも、インタビューの依頼が舞い込んだ。インタビューで、記者が由美子に尋ねた。「ネットでは、春日さんは『話題性がある』と言われています
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第1736話

「桜さんに関する悪い噂のほとんどは、写真の一部を切り取って、話をでっち上げたものです。メディアの巧妙な手口や、事務所とかスポンサーの力もあって、見ている人には本当かどうかなんて分かりません。でも、みんなが彼女のことを気にしているのは確かです。だから良いニュースでも悪いニュースでも、とにかく彼女に注目するんです。その結果、彼女は『騒ぎの的』みたいになってしまうんです。実際私たちみたいな演劇の役者より、芸能界のタレントのほうが、ずっと強い精神力が必要なんです。今はネット社会で、人気者ほど何をしても大げさに取り上げられて、プライバシーなんてほとんどありませんから……」由美子はカメラに向き直り、真剣な表情で言った。「桜はとても優秀な子です。13歳で映画に出て、助演女優として新人賞を獲得できたのは、彼女に才能があったからです。でもその後の10年間、事務所から不遇な扱いを受けながらも、彼女は努力を続けました。初心を貫いたからこそ、『見掛け倒し』と言われる時代を乗り越えられたのだと思います。今、彼女の努力がようやく皆さんに認められました。この情報化社会で、どうか噂に流されず、彼女のことをもう少し温かい目で見てあげてください」……そのインタビューは桜も見た。そして、由美子の最後の言葉を聞いて、彼女はまた涙が止まらなくなり、劇団に初めて足を踏み入れた日のことを思い出した。あの頃、由美子の厳しい指導に、怖気づいて道を見失いそうになったこともあった。それでも諦めようと思わなかったこと、本当によかったと思う。それに、ずっと厳しかった由美子が、まさかカメラの前でこんなにはっきりと自分を認めてくれた上に、過去の不当な扱いにまで言及してくれるなんて、本当に夢にも思わなかった。安人に出会ってから、自分の人生は本当に少しずつ良い方向へ向かっているんだなと、桜は改めてそう実感した。安人はまるで、自分の世界を覆っていた暗い雲を突き破って差し込んできた、暖かい太陽の光のようだった。だから、桜も彼にふさわしいパートナーになるために、より素敵な自分を目指したいと思った。でも、努力だけではどうにもならないこともある。安人は、きっと自分の人生にとってほんの束の間だけ現れた光なのだ。少しの間でも、その光を独り占めできた。それだけで満足しなくちゃ。…
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第1737話

M市での千秋楽は、追加チケットも出て、全席満員だった。公演が終わって舞台の照明が暗くなると、客席には無数の薄紅の光がぱっと灯った。桜のファンたちだ。わずか二ヶ月で、桜のツイッターのフォロワーは五千万人に増え、ファンクラブも急速に大きくなった。ファンは桜のことを「桜りん」と呼び、桜も自分のファンに「さくらんぼ」という可愛い名前をつけていた。そして桜の好きな色の中からさくらにちなんで薄紅を選び、さくらんぼのメンバーはそれを自分たちのテーマカラーにした。千秋楽の公演では、客席の半分を桜のファンが占めていた。桜の目から涙がこぼれ落ちた。舞台の照明が、再び明るくなる。ファン代表の一人が、花束を持って舞台に上がってきた。由美子はその様子を見ると、桜の手を引いて舞台の中央へと連れて行った。すると、他の役者たちは気を利かせて、少し後ろに下がった。舞台を二人に譲ったのだ。そんな中、桜はファンから花束を受け取ると、涙を流しながら笑顔で「ありがとう」と言った。すると、ファン代表の若い女の子は顔を赤らめ、桜を見つめるその目にも涙を浮かべていた。「あの、ハグしてもらってもいいですか?」桜はうなずくと、片手に花束を抱えたまま、もう片方の手で女の子を抱きしめた。女の子は感激のあまり、ぼろぼろと涙をこぼした。桜は女の子の背中を優しく叩きながら言った。「ありがとう。応援してくれて、本当にありがとう!」女の子はうなずいて、桜から体を離した。そして、ファン全員を代表して言った。「桜さん、さくらんぼのみんなからお祝いを言わせてください!これからも、大胆に前へ進んでください。私たちは、ずっとあなたについて行きます!ずっと応援しています!」それを聞いて、桜は胸がいっぱいになった。「ありがとう。みんなの応援があるから、私はもっと勇気をもってまえに進めるの!」この光景は、客席にいたファンによって撮影され、ネットに投稿された。会場に来られなかったさくらんぼのファンたちも、その動画を見て感動していた。最後は、舞台で記念の集合写真を撮った。写真を撮り終えると、由美子が千秋楽の円満な終演を言い渡した!これで半年以上かけて準備したこの全国ツアーは、正式に幕を閉じた。そして、過去の記録を塗り替え、劇団史上最高の収益と話題性を叩き出
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第1738話

更衣室のドアが閉まると、寧々はメイクさんに目配せをした。メイクさんはすぐに察して、OKサインをすると、寧々と一緒にこっそり楽屋を出て行った。一方、桜は私服に着替えて、ドアを開けた瞬間――バチン!突然、電気が消え、部屋は真っ暗になった。桜は外に出ようとして足を止め、暗闇の中で手探りをしながら言った。「停電?寧々?」すると、暗闇の中から、ゆっくりと足音が近づいてくるのが聞こえた。桜は眉をひそめた。「寧々、あなたなの?」その人は答えなかった。桜は息をのみ、思わずドキッとした。彼女はとっさに後ずさり、震える声でもう一度呼びかけた。「寧々、返事して。脅かさないで……」突然、温かい手が彼女の頬に触れた。その瞬間、桜は覚えのある香りに気づいた。それは安人特有の、爽やかな香りだ。その香が鼻を掠めると一瞬で、彼女の張り詰めていた気持ちが緩んだ。そして驚きに変わった。「安人?あなたなの?」続いて暗闇の中、男の低い笑い声が聞こえた。「すごいじゃない。二ヶ月も会ってないのに、ちゃんと彼氏だってわかるんだな」桜は黙り込んだ。だが、桜が反応する間もなく、たくましくて力強い腕に抱きしめられた。こうして彼女は、彼の腕の中にすっぽりと包まれた。そして、安人は顔を寄せ、彼女の唇を探し当てると、熱い口づけを重ねてきた。桜はきょとんとした。だけど、彼のキスは強引でありながらも優しかった。桜はそのまま彼のペースに流されて、両腕をそっと彼の首に回した。彼女は細い腕で彼の首にしっかりと抱きついた。ただ、身長差があるので、彼の熱いキスに応えるのに、彼女はつま先立ちにならなければならなかった。暗闇の中で、互いの荒い息遣いだけが響き渡り、絡み合い混ざりあった。二ヶ月会えなかった。お互いへの想いが、すべてこのキスに溶け込んでいくようだった。それから桜は安人にされるがまま、気がつくと、彼女は彼に抱き上げられ、化粧台の上に座らされていた。電気はずっと消えたまま……唇が離れたのはほんの一瞬だった。すぐに彼の温かい手がうなじに添えられ、また唇を塞がれた……あまりに激しいキスで、唇がヒリヒリした。どれくらいの時間が経っただろう。キスで頭がぼーっとしてきた桜は、ふと首筋に冷たい感触がするのに気づいた。カチッ。
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第1739話

ほどなくして、黒のマイバッハが、ホテルへと向かっていた。運転手は運転に集中している。車内の仕切りが上がって、前と後ろの席は完全に隔てられていた。桜はためらっていたけど、勇気を出して安人に言った。「あとで、一緒に入るのはやめよう」安人は少し黙り、彼女を見て言った。「どうして?」「私たちのことを、まだ公開していないじゃない」桜は真剣な顔で彼を見つめた。「最優秀女優賞をとるまでは、そういう約束だったでしょ」それを聞いて安人はすこし黙り込んだが、結局彼はなにも言わず、ただ静かに頷いた。「わかった」一方、桜は、彼がこんなにあっさり頷くとは思っていなかった。「怒ってる?」桜は安人の表情をうかがいながら聞いた。「いや」安人は彼女の目を見て答えた。窓の外の街灯の光が、車内を明滅させる。薄暗い車内で、安人は低い声で言った。「今夜の打ち上げは、劇団のメンバーと岡本さん、小林さんたちだけだろ。身内だけの集まりだから平気だと思ったんだ」そう言われ、桜は眉をひそめた。「里村先生たちは、私たちのことを知ってるの?」「劇団の皆は知らないかもしれない。でも、里村先生が気づかないと思うか?」桜は唇を噛んだ。よく考えてみれば、確かに、由美子は自分と安人とのただならぬ関係に、とっくに気づいていたはずだ。たとえ最初から知らなくても、安人が広告スポンサーになってくれた時点で、勘付いていたに違いない。しかし、それでも桜は言った。「先生が知ってたとしても、劇団には他の人もいるし……みんないい人たちだけど、まだそんなに親しくない人もいるの。もし誰かがうっかり私たちのことを話しちゃったら……」「桜」安人は彼女の言葉を遮り、大きな手で優しく頬を撫でた。「分かってるよ。そんなに説明しなくても大丈夫だ。確かに劇団の人数は多いし、今ここで公表するのは軽率かもしれないな」「本当に怒ってない?」桜はもう一度確かめた。「あなたのことを公開したくないわけじゃないの。あなたはすごく素敵な方よ。でも、これはわたしの問題だから」安人は困ったように笑った。「君だって素敵な女性だよ。気持ちはわかる。今は君にとって大事な時期だ。ここで恋愛がバレたら、君のキャリアに傷がつく。それに、せっかく上がってきた好感度も、また落ちてしまうだろう。桜、君を独り占めしたい気持ちは、正
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第1740話

そう言われると、桜もそろそろ帰りたくなっていた。お酒が飲めないので、みんなが楽しそうに乾杯しているのを見ていると、なんだか自分だけ浮いているような気がしたからだ。だから、朋花にそう聞かれて、桜はぱっと目を輝かせた。「先に帰ってもいいかな?」「もちろんいいに決まってるでしょ?」朋花は呆れたように笑った。「桜がお酒飲めないのはみんな知ってるし、もうすぐ日付も変わる時間だもの。先に帰って休むのは当たり前だよ」それを聞いて桜は遠慮なく頷いた。「じゃあ、みんなに挨拶してくる。そしたら先に失礼するよ」朋花は「うん」と頷いた。それから、桜はジュースでみんなに挨拶を済ませると、夏帆と寧々に付き添われて先に部屋に戻った。……夏帆と寧々は、桜を部屋まで送り届け、彼女がちゃんと中に入るのを見届けてから、ほっとした様子で向かいの自分たちの部屋へと戻っていった。一方、桜は部屋に入るとすぐに、安人の姿を見た。この時、彼はソファに寄りかかり、目を閉じていた。眉間にわずかにしわが寄っていて、少し疲れているように見えた。桜はそっとドアを閉め、スリッパに履き替えた。すると、気配に気が付いた安人は目を開けて、振り向いた。桜は彼の方へ歩み寄り、その顔をじっと見つめた。「お酒、飲んだの?」安人はかすかに口角を上げた。「ほんの少しだけ。大したことない」桜は彼の隣に腰を下ろして聞いた。「帰国して、直接来たの?」「ああ」予想通りの答えに、桜は嬉しく思いながらも、安人のことが心配になった。「もう遅いし、もし仕事が終わってるなら、早く休まない?」安人は彼女に優しく微笑んで言った。「まだシャワーを浴びていない」「お酒を飲んだ後すぐにお風呂に入るのはよくないよ」桜は真剣な顔で言った。「これくらい、どうってことないさ」安人は大きな手で桜の頬を包み込み、顔を寄せた。桜が息をのんだ瞬間、彼はその柔らかい唇をそっと含んだ。そして、彼は誘うような、とろけるキスをしてきた。桜は彼のキスに翻弄され、我に返った時には、シャワーを浴びていたのだった。あっという間に、二人は頭からつま先までびしょ濡れになった。温かいシャワーで、濃い湯気が立ち込める中、桜は次第に瞳を潤ませ、わずかに開いた唇からは熱い息が漏れた。それから、安人はバスタオルを掴
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