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碓氷先生、奥様はもう戻らないと のすべてのチャプター: チャプター 1741 - チャプター 1750

1770 チャプター

第1741話

「パイプカット手術をしたんだ」静まり返った寝室に、彼の落ち着いた声が響いた。桜は衝撃のあまり、目を丸くした。パイプカットですって!?あまりにも安人の表情と口調が平然としていたから、桜は一瞬、聞き間違えたのかと自分の耳を疑った。「安人、今、なんて……」安人は彼女を見つめ、口角を少し上げた。「いつもちゃんと避妊してたのに、結局あんなことになっちゃっただろ。だから、いっそ手術した方が安全だと思ったんだ」「でも……」桜はまつげを震わせた。「あなたはまだ若いし、子供もいないじゃない!」「今は技術が進んでるから、いつでも元に戻せるんだ」安人は優しい声で言った。「心配するな。S国でやったんだ。手術は成功したし、もし将来子供が欲しくなったら、また簡単な手術を受ければいいだけだから」「そ、そんなことができるの……」桜は半信半疑だった。「安人、私に嘘をつかないでよね?」安人は困ったように笑った。「手術の記録でも見せる?」桜は言葉を失った。別に、安人が手術をしたことを疑っているわけじゃない。ただ、そんな手術が彼の体に悪い影響を与えないかと心配なのだ。安人は、言いたげな彼女の顔を見て、何を心配しているのか察した。彼は顔を寄せ、彼女の唇に軽くキスをした。「桜、もし手術が俺の“機能”に影響するんじゃないかって心配してるなら、今からもう一回、体で証明してやってもいいぞ」桜は目を丸くし、彼の言わんとすることを理解すると、慌てて首を横に振った。「い、いえ、大丈夫!し、信じてるから!」しかし、それを聞いた、安人はさらに畳みかけるように言った。「疲れたか?」その一言に、桜はさらにぞくっとするのを感じた。彼女は慌てて横になり、布団を顔の半分まで引き上げて目を閉じた。「もう眠くなっちゃった。明日は北城に戻ってファンミーティングに参加しなきゃいけないし、わ、私、もう寝るから!」そんな彼女を見つめて、安人の目線は愛しさに溢れていた。実を言うと、桜のスケジュールはマネージャーから彼のもとに届いていた。今後一週間、彼女の予定はびっしりと詰まっている。仕事が多いのはいいことだが、その分、かなりハードになるということだ。安人としても、これ以上彼女を疲れさせるのは忍びなかった。彼は清潔なパジャマに着替えて、桜の隣に横になる
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第1742話

安人は黒いシャツ一枚で、しばらくベランダに立っていた。自分が寒いのは平気だけど、桜が少しでも風に当たるのは嫌だったんだ。「9時になったら起こしに行こうと思ってたんだ」安人は彼女を抱きかかえてソファに座り、顔をのぞきこんだ。「まだ疲れてる?」そう言いながら、安人は彼女の腰を優しく揉んでいた。「うん、ぐっすり眠れたからもう大丈夫」桜は少し照れくさそうに言った。「毎日ヨガで鍛えてるから、体力もちょっとはついたと思うし」彼女としては、安人を安心させたくてそう言ったのだが。だけど安人には、違う意味で聞こえてしまったらしい。彼は彼女を見つめ、にやりと笑った。「そうなんだ。じゃあ今夜、俺が直々に確かめてあげようか?」………そう言われ、桜は眉をひそめ、彼をにらんだ。「もう、安人ったら!いつもからかわないでよ!」すると、安人は楽しげに笑った。「だって、顔を赤くしてる君が可愛くて、ついからかいたくなっちゃうんだ」桜はぷんぷんしながら言った。「私、ペットじゃないんだから!」「当たり前だろ。君は、俺のかわいい彼女だからな」そう言って、安人は彼女の頬を優しくつねった。その感触は柔らかくてすべすべしていて、本当に気持ちいいものだった。一方、桜は彼の手をとった。きっと冷たいだろうと思っていたのに、予想外のことにも彼の手は彼女より温かかった。桜は思わずつぶやいた。「シャツ一枚で外にいたのに、どうして私より手が温かいの?」「母さんから聞いたんだけど、俺、未熟児で生まれたんだって。生まれた頃は体も弱かったらしいけど、漢方を飲んでなんとか改善できたんだ」桜は驚いて、安人を上から下までじろじろ見た。「あなたが……未熟児だったなんて、信じられない」「ああ」安人は答えた。「あの時母さんは俺と妹の双子を身ごもってたんだ。だから、予定より早く生まれたのは事故みたいなものだったって」桜は唇を噛んだ。あまり踏み込むべきじゃないとは思いつつも、どうしても気になってしまった。「ご両親って、すごく仲がいいんでしょう?」「今はすごく仲がいいよ」安人は桜を見つめ、隠すことなく話した。「でも、俺がまだ小さい頃に一度離婚してるんだ。で、俺が小学生になった頃に、また再婚した」「え?」桜はぱちくりと目を瞬かせた。「それって、まさか小説みたいに……子
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第1743話

桜が話題を変えなければ、まだよかった。しかし、彼女が話題を変えようとしたせいで、安人にはかえって怪しく見えてしまった。それでも安人は、桜が自分の生い立ちにずっとコンプレックスを感じていることを知っていた。だから、そんな気持ちのまま自分の家族に会わせるのは、彼女にとって少し難しいところもあるだろうと思った。安人は、そんな無理をさせたくなかった。その思いから、安人は桜の気持ちを汲んで、話を続けなかった。そして、何でもないふりをして、桜の口もとに優しくキスをして聞いた。「何が食べたい?」桜は甘えた声で言った。「ご飯とお味噌汁でいい。お漬物もつけてね」安人は眉間にしわを寄せた。「それだけでいいのか?」「うん、さっぱりしてて食欲がわくの」「それじゃ栄養が足りないだろ」安人は彼女の柔らかい耳たぶを指先で軽くつまんだ。「煮物とか焼き魚も頼もうか?」「うん、おまかせする」それから、安人はホテルに電話して、ルームサービスを頼んだ。……朝食を済ませると、夏帆と寧々がやってきて、桜の荷造りを手伝ってあげた。その間、安人はソファで仕事をしていた。桜は、その傍らであぐらをかきながら台本を読んでいた。仕事を終えた安人が顔を上げると、桜がうつむいてペンを片手に台本へ書き込みをしているのが目に入った。その姿は、まるで受験生のようだった。安人は愛おしそうに彼女を見つめると、そっとスマホを取り出してその姿を何枚か写真に撮った。すると、それに気づいたのか、桜がふと顔を上げて安人の方を見た。安人は、まさにその瞬間、シャッターを切った。何気なく撮った一枚だったが、それがかえって桜の息をのむような美しさと、独特の雰囲気を完璧に捉えていた。安人は、その思いがけない一枚に胸が高鳴った。そして、その写真をすぐにスマホの待ち受け画面に設定した。彼の行動を見て、桜は頬を赤らめた。「人に見られたらどうするの!」「これはプライベート用のスマホだから、他の人に見られることはない」「そっか」桜は安人を見つめると、急に台本を置いてスマホを手にした。「じゃあ、私も安人を撮ってあげる!」安人は口の端を上げて笑った。「いいよ、撮ってくれ」桜がカメラを起動した瞬間、彼は不意に体を寄せると、ひょいと彼女を抱え上げた。安人
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第1744話

目が覚めると、メイクさんから「北城に着いたらすぐファンミーティングの会場へ向かうので、先にメイクを済ませておきましょう」と言われた。スケジュールが詰まっているから、桜は飛行機の中でメイクを済ませなければならなかった。プライベートジェットの機内はほとんど揺れなかった。メイクが終わると、安人は客室乗務員に夕食の準備をさせた。夜6時、飛行機は北城空港に着陸した。黒いワゴンとマイバッハが、もう長いこと待っていた。4月の北城はもう春だけど、夜はまだ少し肌寒い。桜は薄手のニットカーディガンを羽織り、安人に抱かれるようにして飛行機を降りた。そして、安人はまず、桜を黒いワゴンに乗せた。夏帆と寧々は荷物を積み終えると、横から車に乗り込んだ。車の中から、桜は安人に手を振った。「イベントが終わったら迎えに行く」と安人が言った。「いいよ」桜は言った。「その車、目立ちすぎるもん。もし写真を撮られたらどうするの?」それは確かにそうだ。安人は言葉に詰まった。「心配しないで。終わったら自分で帰るから。家で待っててね!」すると、安人はしかたなく微笑んで、「わかった」と言った。黒いワゴンが走り去るのを見届けてから、安人はやっと黒いマイバッハに乗り込んだ。ドアが閉まり、マイバッハは夜の闇に消えていった。だが、この時空港の向かいにあるビルの屋上で、高性能カメラがすべてをはっきりと捉えていたことには、誰も気づかなかった。………その後、ファンミーティングは順調に進んだ。桜は、こんなにたくさんのファンレターをもらったのは初めてだった。箱いっぱいの手紙を、寧々に全部しまっておくよう頼んだ。ファンからプレゼントをもらうこともあった。桜はその場で中身を確認して、手作りの小さなプレゼントは受け取った。でも、高価なものは返したり、その場で直筆のカードを添えてファンに手渡したりした。そうすることで、返されたプレゼントが、かえって記念に残る特別なものになるし、ファンの気持ちを無駄にせずに済むのだ。その気遣いに、ファンたちは感動のあまり、涙を流していた。こうして、ファンミーティングは2時間の予定だったけど、結局3時間以上も続いた。開始は8時だったのに、終わったのは11時半だった。会場を出ると、桜は寧々と夏帆に左右を固めら
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第1745話

彼女が電話を取ると、電話の向こうから、安人の低い声が聞こえた。「桜、今どこにいる?」「今、車に乗ったところ。これから家に帰るの」「トレンド、見たか?」「うん、たった今見たところ」安人は少し間を置いてから尋ねた。「どうするつもりだ?」「写真を見たけど、顔は写ってなかった」桜は言った。「まだ公にしたくはないの。でも、具体的にどう対応するかは、まず岡本さんと相談しないと」「分かった」安人は言った。「じゃあ、古川に直接、岡本さんと連絡を取らせる」「わかった」「俺は家にいる。帰り道、気をつけて。誰かにつけられていないか、よく確認しろ」「うん、気をつける」電話を切った桜が朋花にかけようとした、その時。一足先に朋花から着信があった。朋花もトレンドを見ていた。彼女も安人と同じで、真っ先に桜の考えを尋ねてきた。桜が公表を望まないなら、朋花は広報部に非公開の方針で対応させるつもりだった。朋花は経験豊富な敏腕マネージャーだ。それに、安人の側も協力してくれるから、この件の対応はそれほど難しくはない。お金でトレンドから消して記事を削除して、別の話題をトレンド入りさせて、世間の注目を逸らせば済む話だから。しかし、安人が心配した通りだった。ファンミーティングとトレンドの影響で、桜は帰り道で本当にパパラッチに追われてしまった。助手席に座っていた夏帆が、バックミラーで後ろの車を確認しながら、低い声で言った。「後ろ、パパラッチがつけてきてます」その言葉に、寧々は慌てて後ろを振り返った。案の定、シルバーのワゴン車がすぐ後ろをついてきていた。「これまでもアンチファンに囲まれたことはあったけど、こんなふうに一晩中パパラッチにこそこそつけ回されるのは初めてだよ」寧々は振り返って桜を見た。「桜さん、どうしよう?このまま帰ったら、家がバレちゃうよ」「なんとかして、まけないかな」桜は運転手に言った。「はい、やってみます」運転手は20代の若い男性だった。彼は芸能人の送迎を専門にしていて、パパラッチをまくのはお手の物だ。結局、運転手はわざと遠回りをして、パパラッチの車を街中で引き回した。10分ほどかけて、ようやくその車をまくことに成功した。そんなこんなで、家に帰り着いたのはもうすぐ12時という時間だった。黒いワゴン車が御
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第1746話

それを聞いて、寧々はきょとんとした。一方、夏帆は、桜を見て何か考え込んでいる様子だった。それから、エレベーターが地下1階に到着し、ドアが開くと、桜が先に乗り込み、寧々と夏帆もそれに続いた。ドアが閉まると、桜は27階と28階のボタンを押した。……エレベーターはまず27階に着いた。寧々は桜のスーツケースを本人に預けると、夏帆と一緒に27階で降りた。ドアが閉まり、桜はそっとため息をついた。28階に着くと、桜は深呼吸をしてエレベーターを降りた。彼女はスーツケースを引いてドアの前まで行き、指紋認証で鍵を開けた。ドアが開くと、嬉しそうな「にゃーん」という鳴き声が桜を出迎えた。トラちゃんがソファから飛び降りて、まんまるの体で桜のほうへ走ってきた。「トラちゃん!」桜は中に入り、スーツケースから手を放してしゃがみ込むと、トラちゃんを抱き上げた。「あれ?また太ったんじゃない?」「にゃーん!」トラちゃんは抗議した。桜は笑った。「野田さんが、ちゃんとお世話してくれてたみたいね!」その時、安人がキッチンから出てきた。「おかえり。ちょうど夜食ができたところだ。手を洗ったら食べられるよ」桜はトラちゃんを下ろし、部屋着にエプロン姿の安人を見て、ぱちぱちと瞬きをした。「私のために、夜食を作ってくれたの?」安人は眉を上げた。「以外だったかい?」「すごく意外」桜は彼のほうへ歩いていき、彼の目の前で立ち止まった。彼女はキッチンの中をちらっと見てから、また安人に視線を戻した。「あなたが何でもそつなくこなす人だって知ってるけど、さすがに自分で料理するタイプには見えなかった」「前は一人だったから、料理する気も起きなかった。でも今は、君がいるだろ?」桜は少し固まった。少しして、彼女は言った。「でも、あなたはすごく健康に気を使ってるじゃない?夜食なんて、健康志向の人がすることじゃないよね?」安人は口角を上げた。「確かに夜食は良い習慣じゃない。でも、たまにはいいさ。それに、夜食は誰かと一緒に食べるからおいしいんだ」実は桜は夜食を食べるつもりはなかった。最近、体重を管理しないといけなかったからだ。でも、安人が手ずから作ってくれたのだ。彼の気遣いを無駄にはできなかった。「安人、ありがとう!」桜は彼に甘く微笑んだ。「手を
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第1747話

一方、桜はまだ、気まずい雰囲気に気づいていなかった。彼女はうつむいて、温かいスープを一口すくい、ふーふーと冷ましてから飲んだ。鰹だしのスープはコクがあっておいしかった。それをすっかり気に入った桜はぱあっと顔を輝かせ、声まで甘くなった。「わあ、このスープ、すっごくおいしい!安人、あなたってほんとすごい!」すると、安人は急に言葉を失った。「このスープもあなたがお出汁を取ったの?」安人は咳払いをすると、キリっとした顔のまま、ぶっきらぼうに答えた。「いや、野田さんが取ってくれた出汁だ」「え?」桜はきょとんとしたが、すぐににっこり笑った。「でも、うどんにこしがあってこの出汁との組み合わせが最高ね。決めた!ダイエットは明日からにして、今夜は食べちゃう!」すると、さっきまで機嫌を損ねかけていた安人は桜の様子を見て、なんだか怒るに怒れなくなってしまった。一方、桜はうつむいて、おいしそうにうどんをすすった。ふと、彼女は箸を止め、顔を上げて安人を見た。そして不思議そうに瞬きをしながら聞いた。「あなたはどうして食べないの?早くしないとうどんがのびちゃうよ!」安人は仕方ないなというように笑みを浮かべ、箸を取った。「ああ、食べるよ」それを見て、桜も黙って、またうどんを食べ始めた。……桜は「おいしい」と言っていたけど、もともと小食なのでそんなにたくさん食べられるわけではない。大きな器に盛られたうどんを、彼女は半分も食べきれなかった。安人も彼女がもう食べられないと分かっていたので、無理強いはしなかった。それから、桜がお皿を洗おうとすると、安人に止められ、トラちゃんと遊んでおいでと言われたので、仕方なく、彼女は猫と遊ぶしかなかった。こうして、安人が食器をキッチンに片付けてリビングに戻ると、桜はもうトラちゃんと遊び始めていた。桜が猫じゃらしを振ると、トラちゃんはまんまるな体を揺らしながらそれにじゃれついている。安人は彼女の隣に座り、静かにその光景を眺めていた。なんとも、和やかな空気が流れた。ふと、桜が振り返って彼を見た。「そういえば、トレンドの件はもう解決したの?」「ああ」と安人が言う。「輝星エンターテイメントの広報の手腕と、新太の処理能力があれば、あんなゴシップで大騒ぎになることはない」桜は唇を引き結び、少
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第1748話

こうして、リビングから寝室まで、二人はキスしながら歩いた。次の瞬間、寝室のドアが閉まった。トラちゃんが後からついていき、ドアの前でにゃーんと鳴いたが、ドアはただカチャリと、無情に鍵がかかった。一方、安人は桜を抱きかかえて、バスルームに入ると、バスルームのドアが閉まった。そして、桜を洗面台に降ろして、安人は彼女から離れて言った。「いいね。自分から彼氏を誘えるようになったんだ」すると、桜は艶っぽく笑い、瞳を潤ませた。「彼氏が夜食を作ってくれたお礼に、私も何かお返ししないとね~」「いい子だ」安人は顔を近づけ、彼女の耳たぶを甘く噛んだ。「そのお返し気に入った」桜はまつげを震わせて目を閉じ、唇を噛みしめて甘い声を漏らした。意識が朦朧とするなか、頭上から温かいシャワーが降り注いだ。安人は自らの手で、桜の体を隅々まで洗ってあげた。それから、桜の足がふらつくほど長いシャワーが続いた後、二人はバスルームの大きなバスタブに浸かった。温かいお湯が揺れて、バスタブの桜から溢れ出していく…………桜から始まった情事は、深夜まで続いた。すべてが終わる頃には、桜はもう目を開けていられないほど疲れ切っていた。安人は彼女の体を拭いて、パジャマを着せ、髪を乾かしてあげた。すべてが終わった頃には、桜は安人の膝の上で眠ってしまっていた。安人はそっと彼女の頭を枕に寝かせると、立ち上がってドライヤーを引き出しにしまった。それから、彼はバスルームの後片付けをしに行った。彼が出てくると、桜は寝返りを打っていた。部屋は暖房が効いて暖かかったので、桜は暑かったのか布団を蹴飛ばしていた。細くて白い脚が、空気に晒されていた。安人は近づいて、落ちた布団を拾って彼女に掛けてあげた。ふと何かを思いつき、彼は部屋を出ていった。そのまま書斎へ行った安人は、アクセサリーケースを一つ持ってきた。そして、アクセサリーケースを手にベッドサイドに座ると、その箱を開け、中からアンクレットを取り出した。これは彼が海外の有名なジュエリーデザイナーに依頼したもので、天然アメジストとプラチナで作られていた。桜の足首はとても細くて白い。安人は彼女と愛し合う時、その華奢な足首を掴むたび、こんなに綺麗な足首にアクセサリーをつけたら、きっとすごく似合
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第1749話

桜は安人を見つめた。「どうしてまたアクセサリーなんてくれたの?これ、高かったでしょう?」安人はベッドサイドに座ると、大きな手で彼女の足首をそっと掴んだ。そして指の腹で、きめ細やかな肌を優しくなでた。「お前の足首、きれいだからな。アクセサリーをつけないともったいない」彼は桜をじっと見つめる。その瞳は深い。「これはオーダーメイドだ。世界に一つしかない。つけたら、もう外すなよ」一方彼になでられている肌が、じんと痺れるのを桜は感じて、頬を赤らめた。すると、桜はきゅっと唇を結び、昨夜の光景が自然と頭に浮かんだ。そう思い返していると、安人は身をかがめ、長い指先で彼女の顎をくいっと持ち上げた。目と目が合う。男は薄い唇の端をくいっと上げ、首を傾けて彼女の口角にキスを落とした。驚いて、桜は慌てて顔をそむけ、手で口を覆いながら、きれいな瞳をまんまるに見開いて言った。「わ、私、まだ歯磨きしてないのに!」だが、安人は優しく微笑んだ。「気にしてないから」そう言われ、桜はさらに驚いて言った。「……わ、私、恥ずかしいもん!」安人は、こうして恥ずかしがって困っている彼女の姿を見るのが好きだった。本当に可愛い。「今日は仕事の予定あるのか?」桜は首を横に振った。「明後日、M市に出発するの。今朝、岡本さんから電話があって、今日はゆっくり休むようにって」「M市?」安人は言った。「今度の映画は、M市で撮影するのか?」「うん」桜は言う。「我妻監督の新作は芸術的な映画なの。でも、ドキュメンタリーの要素も含まれているのよ。舞台はM市で、時代背景に伝統文化を組み入れた物語だから、業界でもすごく珍しいタイプの映画だと思う」安人はこれまで映画業界にはまったく興味がなかった。しかし、桜と出会ってからは、意識して情報を追うようになっていた。今の芸能界は人気やお金がすべてだ。でも、すべての役者がそれに流されているわけじゃない。今でも信念を貫いている役者たちもいる。彼らは初心を忘れず、一つ一つの役に真剣に向き合っている。その多くはベテランで、演技への情熱は本当に尊敬できるものだ。そして桜も、そんな役者の一人だった。そう思って、安人は桜を見て言った。「どうして、演劇が好きになったんだ?」桜は安人にそう聞かれるとは思っていなかった。それに正直そんなこと
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第1750話

桜は言った。「わかったわ。じゃあ、私たちは私たちで予定を組むね!」安人は彼女の頭を撫でた。「俺が出かけるっていうのに、君はなんだか嬉しそうだな?」桜少し口ごもった。「……そんなことないわよ!」彼女はただ、二人きりで何もせずに家にいると、安人がまたすぐにちょっかいを出してくるかもしれないと心配しているだけだった。だから、安人には忙しくしていてもらう方がいいのだ!……11時半、黒いマイバッハが梨野川の別荘へと入っていった。安人は、梨野川の実家のガレージに車を停めた。すぐに、綾が家から出てきて声をかけてきた。「安人」安人は運転席のドアを閉めて答えた。「母さん」「さあ」綾が近づいてきて続けた。「中へどうぞ。我妻さんも、ずいぶん前から待ってらっしゃるわよ」安人は頷くと、綾と一緒に家の中へと入った。……一方、裏庭にあるサンルームで、浩平が木製の大きなテーブルについて座っていた。テーブルの上では、淹れたてのお茶が湯気を立てていた。周りの美しい草木が、太陽の光を浴びて生き生きと輝いている。そこへ、安人と綾が並んで入ってきた。浩平は物音に気づいて振り返り、安人と視線を交わした。安人が先に口を開いて挨拶した。「我妻さん、ご無沙汰しています」浩平は立ち上がり、鼻の眼鏡を押し上げつつ安人を眺めて、にこやかに言った。「さすがは恋をしている男だな。顔つきが生き生きしてるじゃないか!」思わぬ冗談に、安人は言葉を失った。「もう、我妻さん、からかうのはやめてあげて」綾はテーブルの主賓席に座り、二人にも座るように促した。「この子ったら、私と優希があんなに後押ししてやらなかったら、いつ彼女ができていたか分からないんだから!」そう言われ、安人はテーブルの席につき、こめかみを押さえた。「……母さん、少しは俺のメンツも考えてくれよ」綾は彼にちらりと目をやり、笑って言った。「せっかく若い彼女ができたんだから、ちょっとくらいからかわれたっていいでしょ?」そう言われ、安人はさらに言葉を失った。一方、浩平は、そんな安人の様子がとても新鮮に思えた。「安人は子供の頃から、あの子たちの中で一番優秀で落ち着きがあった。でも、あまりに大人びすぎて、逆に何にも興味がないように見えたんだ」浩平は感慨深げに言った。「正直な話、
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