真奈美は大輝に向かって歩き出した。後ろで束ねたポニーテールが、歩調に合わせて揺れている。完璧なメイクを施した顔は、どこか冷淡な雰囲気を漂わせていた。7センチのハイヒールを履いているにもかかわらず、その足取りは素早く安定したものだった。そんな彼女は相変わらずのキャリアウーマンぶりだった。大輝は、一歩一歩近付いてくる彼女を見ながら、2ヶ月前に二人が婚姻届を出した日のことを思い出していた。あの日、真奈美は水色のワンピースを着ていた。くるぶし丈のスカートに、軽く巻かれた長い髪。派手ではないが、上品で魅力的だった。そして彼の心はその姿に掴まれてやまなかった。それを思い出すと大輝の心は、様々な感情で揺れ動いていた。正反対の二つの雰囲気が、なぜか相まって彼女の中でバランスよく共存していた。結局、彼はこの女性のことを何も理解していなかったのだ。......真奈美は大輝の前に来ると、言った。「行こう」そう言うと、彼女は役所の中へと入って行った。大輝は唇を噛み締め、眉間に皺を寄せながら、真奈美の後ろをついて行った。最近は、結婚する人よりも離婚する人の方が多い時代だ。真奈美は整理券を取り、空いている席に座って待った。大輝は彼女の隣に腰掛けた。彼らの周りにも、明らかに険悪なムードの男女が何組かいて、離婚しに来たのだろうと思われた。大輝は何度か話しかけようとしたが、真奈美は席についてからずっとスマホをいじっていた。彼女は仕事のメールを処理したり、電話に出たりしていた。まるで離婚なんて、今日の忙しい業務の中の一つでしかないように。大輝は真奈美の仕事に集中する様子を隣で見ながら、胸に切なさが込み上げてくるのを感じた。彼はこんな風に冷たく鋭い真奈美が好きじゃなかった。だけど、今の彼女こそ輝いて見えることを認めざるを得ないのだ。周りの男たちの視線が、真奈美に惹きつけられていることに、彼は気付いていた。大輝の心は、切なさでいっぱいだった。そんな中、真奈美はようやく電話を終えた。大輝は尋ねた。「今晩、チャリティーパーティーに行くのか?」真奈美は少し間を置いてから、彼の方を見た。「その予定はないけど」大輝は、「そっか」と短く返事をしてから、言った。「あなたが行かないなら、俺も行くのやめようかな」
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