熟考の末、茜はまず結衣と話してみることに決めた。それでも結衣が許してくれないのならその時は徹底的に事を構えるまでだ。一方、結衣は家に帰るとしばらく休んでからスーツケースを取り出し、荷物をまとめ始めた。スーツケースが一杯になると彼女はそれ以上荷造りをしなかった。このスーツケース一杯の衣類があれば、汐見本家で暮らすには十分だった。スーツケースを玄関まで引きずっていくと、結衣はパジャマを持ってシャワーを浴び、眠りについた。翌朝、彼女は荷物を病院へ持って行き和枝に手渡した。毎日和枝が病院を往復する際は本家の運転手が送迎していた。結衣の荷物を見て和枝はにこやかに言った。「お嬢様、ではお部屋へお運びいたします。この数日で念入りにお掃除を済ませておきましたので、お戻りになり次第、すぐにお寛ぎいただけますよ」結衣は頷いた。「はい、和枝さん。お手数をおかけします」「とんでもございません。では、大奥様のところへどうぞ。私はこれで失礼します」「はい」結衣が病室に戻ると、時子は本を読んでいた。ドアが開く音に、時子は顔を上げて入口を見た。「荷物、和枝さんが持って行ったのかい?」「ええ」結衣がベッドのそばまで歩み寄った、まさにその時病室のドアがノックされた。「こんにちは、回診です」それがほむらの声だと分かり、結衣は口を開いた。「ほむら先生、どうぞお入りください」ほむらがドアを開けて入ってくると、その後ろには数人の研修医と看護師が続いていた。回診を終えると、ほむらは時子の方を見て言った。「お体の回復は順調です。あと数日もすれば退院できますよ。お家に帰られたら、まずはゆっくり休んでください。その後、またギプスを外しに来てください」その言葉を聞き時子の表情がぱっと明るくなった。毎日ベッドの上で体がなまってしまいそうだったのだ。「はい、はい!ほむら先生、ありがとう。そうだ、もう一つ先生だけに話したいことがあるんだが、今いい?長くはかからないから」「構いませんよ」ほむらは後ろにいる研修医と看護師を見やった。「二人は外で待っていてくれ」時子も結衣に声をかけた。「結衣、台所でお湯を沸かしてきてちょうだい」自分まで追い出そうとする時子の態度に、結衣は内心、ほむらに何を話すつもりなのかと興味を覚えた。
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