All Chapters of 秘書と愛し合う元婚約者、私の結婚式で土下座!?: Chapter 531 - Chapter 540

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第531話

静江はスコップを動かす手を速め、やがて、錆びた金属の箱が現れた。箱を取り出して土を払い落とすと、彼女は急いで蓋を開けた。中のUSBメモリを見て、静江の表情が輝き、思わず息遣いが荒くなった。彼女は箱を抱えて急ぎ足でリビングに戻ると、パソコンを立ち上げてUSBメモリを挿し込んだ。30分後、静江は明輝に電話をかけた。「あなた、今どこ?すぐに家に帰ってきて!」静江の声から緊迫感を感じ取り、明輝は眉をひそめた。「どうした?何かあったのか?」「ええ、とにかく早く帰って。大事な話があるの」1時間もしないうちに、明輝は家に駆けつけた。「一体何があったんだ、そんなに急いで呼び戻して」「まず座って」明輝は不審そうな顔で静江の隣に座ると、静江はパソコンの画面を彼の方へ向けた。「これ、見てみて」明輝は画面を食い入るように見た。それまでどこか険しかった目が大きく見開かれ、信じられないという様子で画面に顔を近づけた。しばらく見てから、彼は静江の方を向いた。「これは、どこで見つけたんだ?」「裏庭の梨の木の下よ。でも、そんなことはどうでもいいわ。すぐにこれを警察に渡して。そうすれば、結衣を助けられるわ」明輝は首を横に振った。「いや、今は警察には渡せない」静江は驚いた顔をした。「どういうこと?警察に渡さないって、結衣をこのまま警察に置いておくつもり?これがあれば、結衣の無実が証明できるじゃないの?」「落ち着いて。今は警察に渡さないと言っただけで、結衣を助けないとは言ってない。このファイルを直接ネットに公開するんだ。そうすれば、必ず大きな騒ぎになる。このことを知る人が多ければ多いほど、長谷川家もこの件を隠せなくなる」それに、これまで長谷川グループは汐見グループを散々いじめ抜き、破産まで追い込んだんだ。このまま長谷川グループを簡単に許すわけにはいかない。「分かったわ。じゃあ、いつその証拠をネットにアップするの?」「今夜だ。まずは知り合いに連絡する」夕方、ネット上に突然あるファイルが現れ、すぐに多くの人々の注目を集めた。30分も経たないうちに、「長谷川社長の犯罪」と「長谷川グループの違法行為」という二つのトピックがトレンド入りした。【長谷川グループって、表向きは慈善活動してる企業だと思ってたのに、裏でこんな犯罪
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第532話

「社長、広報部がすでに対応していますが、あまりにも騒ぎが大きすぎて、収まるまでに2、3日はかかりそうです。情報源も、まだ特定できていません……」その言葉に、雲心の顔色がみるみる変わり、冷たい声で言った。「使えないやつらだ。毎年あれだけの給料を払っておいて、たかがトレンド一つ抑えられないとは。広報部長に伝えろ。明日の朝までに、必ずこの問題を収束させろと!」ちょうど今は退社時間で、ほとんどの人がスマホをいじっている。そのため、この情報の拡散スピードは非常に速い。長谷川グループの広報部も、すでに全力で対応に当たっている。秘書も内心ではそれを理解していたが、この状況で社長の怒りを買う勇気はなく、うなずいて言った。「かしこまりました」すぐに泰造から電話がかかってきた。その声は怒りに震えていた。「雲心、一体何をしてくれたんだ?!お前のやったことが、すべてネットに晒されるとは。長谷川家を破滅させる気か?!」雲心は深呼吸をひとつして、落ち着いた声で言った。「父さん、この件はまだ調査中です。3日以内に必ず解決します」「3日だと?」泰造は冷笑した。「3日も経てば、長谷川グループはおしまいだ。1日だけ時間をやる。もし解決できなければ、お前ももう長谷川グループにいる資格はない」雲心の息遣いが荒くなり、数秒後にようやく低い声で答えた。「分かりました」電話を切り、雲心は背を向けて自分のオフィスへ戻った。オフィスに入るなり、数人の株主が彼を待ち構えていた。皆が不満そうな表情をしている。「長谷川社長、ネットの件は見ました。私たちに、何か説明すべきではないですか?」雲心は書類に目を通しながら、無表情で口を開いた。「ネット上の情報はすべてデマです。私が対応しますので、株主の皆様はお帰りください」「長谷川社長、それが本当かどうかは、あなた自身がよくご存じでしょう。すでに長谷川グループは影響を受けています。何人もの人から、ネットの情報は本当かという問い合わせがありました。この問題は、できるだけ早く対処していただきたい。さもなければ、その結果はあなたも長谷川グループも責任を負いきれません。私は、長谷川グループが第二の汐見グループになるのは見たくありませんから」雲心は顔を上げて、話した株主を見た。何か言おうとした瞬間、オフィスのドアがノックされた。
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第533話

泰造の表情が変わった。スマホを手に取り、弁護士に電話をかける。「雲心が警察に連行された。すぐに警察署へ行って、状況を確認し、何とかして雲心を保釈させろ」弁護士への指示を終えると、泰造は立ち上がり、聖子を見た。「これから会社に行く。お前は家で待っていろ」聖子は歯を食いしばった。「あなたと一緒に行くわ。今、家にいても落ち着かないわ」泰造はジャケットに手をかけた動きを止め、冷たい声で言った。「お前が行っても何の役にも立たん。家で大人しくしている方がいい。余計な騒ぎを起こすな。何かあれば、こちらから連絡する」そう言うと、聖子が反論する隙も与えず、足早にその場を後にした。彼が会社に着くと、株主たちは彼の到着を知り、すぐにオフィスに押しかけて彼を取り囲んだ。「会長、今、社長が警察に連行された件がネットで拡散しています。以前からの長谷川グループの違法行為の噂も収まっていません。このままでは、長谷川グループも汐見グループの二の舞になってしまいますよ!」泰造は険しい表情で、発言した株主を一瞥した。「たかがこの程度のことで、そこまで怯えることはない。心配するな。3日以内に、この問題は必ず解決する」「本当ですか?長谷川会長、私たちを騙すようなことはなさらないでくださいね?」「ああ。まだ処理する仕事がある。皆さんも仕事に戻りなさい」株主はうなずいた。「分かりました。では、3日後にまた参ります」やがて、株主たちは立ち去った。泰造は席に戻ると、広報部長に電話をかけ、オフィスに来るよう命じた。広報部長は恐る恐るドアをノックして入ってきた。「会長、お呼びでしょうか?」「ああ。ネットの件は、どうなっている?」泰造の冷たく鋭い視線を受け、広報部長は慌てて頭を下げた。「まだ対応中です。この問題はあまりにも早く広がっていて、収束させるには、もう少し時間がかかりそうです」「もう少し、だと?」泰造の声は大きくなかったが、圧倒的な迫力があり、広報部長の頭はさらに深く下がった。「現状では、少なくとも1、2日は必要かと……」「そんなに待つつもりはない。一晩だけ時間をやる。明朝8時までに状況を収束させられなければ、君は荷物をまとめて出て行け」広報部長は困惑した顔を見せた。「会長、一晩ではちょっと……」「君と相談しているわけではない
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第534話

雲心は口元に皮肉な笑みを浮かべた。「高木警部、何のことか分かりませんね。ネット上の情報はデマです。俺はこれまで違法なことなど一度もしていませんし、いつでも調査を受ける用意がありますよ」彼の余裕たっぷりの、まるで無実の罪を着せられたかのような態度を見て、高木道明(たかき どうみょう)は隣の警官に目を向けた。「河野、証拠を長谷川さんに見せなさい」河野と呼ばれた警官は、手元の資料を開き、雲心の前に広げた。雲心はそれに目を落とした。しばらくすると、彼の表情がみるみる変わり、椅子にもたれていた体が、思わず強張った。「長谷川さん、これでようやく、私たちの質問にきちんと答えていただけますか?」弁護士が警察署を出ると、すぐに泰造に電話をかけた。「会長、状況は非常に深刻です。社長の保釈は不可能です。それに……実刑判決が下される可能性が高いです」警察が示した証拠は、弁護士も確認した。その証拠は、雲心が無期懲役を受けるには十分なものだった。長谷川グループも大きな打撃を受けることは避けられない。電話の向こうから聞こえてきたのは、弁護士が予想していたような激しい怒りではなかった。動揺した様子すらなかった。「それほど深刻なら、他の弁護士とも協力して、できるだけ刑が軽くなるよう努力してくれ」「会長、詳しい状況を直接お伝えしたいのですが、今、会社にいらっしゃいますか?お伺いしたいのですが」数秒の沈黙の後、泰造が答えた。「ああ、すぐに来るといい」1時間後、弁護士の説明を聞き終えた泰造は、冷静な表情で言った。「あいつが罪を犯した以上、法の裁きを受けるしかない。この件はすでにネットで大騒ぎになっている。誰かが責任を取らなければならない」泰造の淡々とした話しぶりに、弁護士は内心、震え上がった。つまり、泰造は雲心を見捨てるつもりなのか?雲心に実刑判決が下される可能性が高いことを、聖子はすぐに知った。彼女は会社で大騒ぎしたが、何の効果もなかった。なにしろ、雲心が不正行為を行ったのは事実であり、そのせいで長谷川グループは高額な罰金を科され、大きな打撃を受けたのだ。月波湾のプロジェクトが、雲心が裏で満を操って仕掛けた罠だったことが明らかになり、結衣は釈放された。雲心が逮捕されたと聞き、結衣は少し驚いて、健人に詳しい事情を尋ねた。「結衣さん
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第535話

「心配をおかけてすみません」二人はしばらく話していたが、時子が少し疲れている様子を見て、結衣は立ち上がって病室を出た。病室を出るとすぐ、明輝とばったり出会った。結衣の姿を見て、明輝は冷静な表情で言った。「出所できて良かった。そうだ、会社のことはもう片付けておいたから、これからはゆっくり休んだらいい」結衣はうなずいた。「ええ、分かったわ。ところで、長谷川社長はもう外に出てくる可能性はないのよね?」明輝の表情が少し険しくなった。「そうとは限らない。あいつは長谷川家の後継ぎだ。長谷川泰造がどんな手を使ってでも、あいつを保釈させようとするだろう」「なら、この件をもっと大きく広めましょう。そうすれば、彼が長谷川雲心をかばおうとしたら、長谷川グループもろとも沈むことになるわ」「私もそう思っている。だから最近、長谷川グループの動きを常に監視させているんだ。長谷川泰造に何か動きがあれば、すぐに記者にこの件を流すつもりだ」「今回こそ、長谷川雲心にふさわしい報いを受けさせたいわ」「ああ、この件は私が対応するから、お前は気にせず、ゆっくり休め。この間、お前も大変だったろう」結衣が去った後、明輝は病室に入り、時子の容体が安定していることを確認すると、しばらく座ってから彼もその場を後にした。長谷川家。聖子は、泰造が雲心を見捨てようとしていることを知り、怒りが込み上げて、思わず彼の頬を平手打ちした。「泰造、忘れないで。昔、私があなたを支えなかったら、今のあなたはないのよ。もし雲心を助ける方法を考えないなら、あなたの昔の所業を全部暴露しても知らないからね」泰造は表情を硬くし、頬の筋肉を引きつらせた。「俺が助けたくないと思っているのか?問題は、あいつの不正行為の証拠がすでに裁判所に提出されていることだ。今、俺があいつを保釈させようとすれば、長谷川家も長谷川グループも巻き込まれることになる」「知らないわ。絶対に、私の息子を刑務所なんかに入れさせない!」泰造は眉をしかめた。「少しは冷静になれよ。今は一時的に手を引くと言っただけで、今後ずっと見捨てるわけじゃない。裁判所の判決が出てから、裏で手を回す方法を考えればいい。せいぜい半年か1年で出てこられるさ」「だめよ!半年も刑務所にいたら、あの子がどれだけ辛い思いをするか分からないでしょ!」
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第536話

「は……はい」使用人が去ると、聖子はすぐに泰造の方を向き、その目には動揺の色が浮かんでいた。「あなた、どうしましょう?どうして急に警察が?」「分からん。まずは状況を確認してくる。もし今夜、俺が戻れなければ、お前は会社の資金を移す手段を考えろ」聖子の顔が青ざめ、声も震えていた。「は……はい、分かった」泰造はさらに、家の財産や金庫の暗証番号などを矢継ぎ早に彼女に伝えると、その場を後にした。彼の背中を見送りながら、聖子の視界はだんだん霞み、心も乱れに乱れた。この数年、彼女はずっと長谷川グループ会長夫人の地位に安住し、毎日、ショッピングや遊びに明け暮れていた。何か問題があっても、すべて泰造と雲心が解決してくれていたのだ。今、家の二本柱が警察に連行されてしまった。彼女一人で、どうやって支えていけというのか。泰造が出て行って間もなく、彼女はすぐに自分の兄に電話をした。やがて、兄の工藤浩司(くどう こうじ)が駆けつけた。ソファで泣き崩れている妹の姿を見て、浩司は急いで彼女の隣に座った。「聖子」「お兄さん、これからどうすればいいの?雲心も泰造も、警察に連れて行かれたのよ……」浩司は優しく彼女の肩をたたいた。「心配するな。もう警察署に人を送って状況を調べさせている。きっと大丈夫だ」聖子は涙をぬぐった。「ええ。必ず、早く二人を助け出す方法を考えてね」「ああ、任せておけ」しばらく聖子を慰めていると、浩司のスマホが鳴った。部下からだと分かり、彼はすぐに電話に出た。「どうだ?義弟と甥は、いつ保釈できそうだ?」電話の相手が何か言ったのだろう、浩司の表情がみるみる変わった。「何だって?!」浩司の様子がいつもと違うのを見て、聖子も思わず身構え、彼の表情を見逃すまいと、じっと見つめた。1分後、浩司は電話を切った。「聖子、泰造さんと雲心を保釈するのは、どうやらそう簡単なことじゃないらしい……」聖子は一瞬呆然として、信じられないという顔で目を見開いた。「お兄さん、お兄さんの工藤グループはあんなに力があるのに、どうして二人を助け出せないの?」浩司はため息をつき、ゆっくりと話し始めた。「この件はネットで大騒ぎになっていて、しかも、京市の伊吹家が関わったらしい。今はみんながこの件に手を出すのを恐れていて、普段の人脈も、たぶ
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第537話

聖子の心は乱れ、それ以上に、茫然自失の状態だった。彼女はもう、どうすればいいのか分からなくなっていた……どれだけの時間が経ったのか、聖子はようやく深呼吸をひとつして、浩司を見つめて言った。「ええ、お兄さん。あなたの言う通りにするわ」「ああ」「雲心に一度会わせてほしいの。手配できる?」浩司はうなずいた。「分かった。離婚協議書を警察署に届ける時に、一緒に連れて行ってやろう」「雲心と泰造のことは、頼むわね」「心配するな。彼らは、お前の家族であり、俺の家族でもあるんだから」浩司はスマホを取り出し、弁護士に電話をかけ、離婚協議書を作成して持ってくるよう指示した。聖子は気づかなかった。浩司が背を向けた瞬間、その目に冷たい光が宿り、何か企むような表情を浮かべたことを。やがて、離婚協議書が届けられた。聖子はサインを終えた後も、どこか不安な様子だった。「お兄さん、今、泰造と離婚するなんて、本当に正しいことなの?」「当然だろう。俺がお前を騙すわけないだろう?もういいから。まずは弁護士に手続きを進めさせよう。明日は、お前を警察署に連れて行って雲心に会わせてやる」「ええ」翌朝早く、浩司は約束通り聖子を警察署に連れて行った。「聖子、お前は先に雲心に会いに行け。俺は離婚協議書を泰造さんのところに持って行く」聖子は少しためらった。「お兄さん、泰造、離婚に同意してくれるかしら?」たとえ形だけの離婚だとしても、彼女は本当は離婚したくなかった。それに、こんな形で離婚協議書を突きつけたら、泰造は自分が彼を見捨てたと誤解しないかしら?「同意するさ。心配するな、俺に任せておけ」「分かったわ」聖子が雲心に会いに行くのを見送ると、浩司は背を向けて別の方向へと歩いていった。彼の姿を見た瞬間、泰造の目に希望の光が浮かんだ。「浩司さん、来てくれたのか。俺を保釈しに来てくれたんだろう?」浩司は黙ったまま、彼の向かいに座り、手に持った書類を彼に差し出した。「離婚協議書だ。サインしろ」泰造は思わず目を見開き、その書類を受け取ろうとしなかった。「どういうことだ?今、俺に聖子と離婚しろと言うのか?」「今離婚しなければ、いずれ長谷川グループもお前たちの財産も、一円も守れなくなる。お前たちのためを思って言っているんだ。出所したら、また復
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第538話

たとえ浩司が彼を助けたくなくても、実の甥の雲心を見殺しにするというのか。浩司の目には憐みの色が浮かんでいた。「本来なら、あんたは俺の義弟で、雲心は甥だ。こんなことはしたくなかった。だが、工藤グループを京市で大きくしたいんだ。そのためには、あんたたちを犠牲にするしかなかった。それに、あんたも雲心も、自業自得だろう」かつて、聖子が泰造に嫁ぐ時、浩司は彼女を説得しようとしたことがある。泰造は大胆な男で、金を稼ぐためならグレーゾーンにも平気で踏み込み、最終的には違法行為にまで手を染めるようになった。しかし、聖子の心は完全に泰造のものとなっており、浩司がどれだけ説得しても耳を貸さず、彼は諦めるしかなかった。本来、雲心は実の甥だ。浩司も最初は彼を助けるつもりだった。しかし、雲心のやったことを知って、その考えを改めた。雲心は土地を手に入れるため、立ち退きを拒んだ一家を殺害した。そんな男を助ければ、この先何をするか分からない。この親子は性格がそっくりで、どちらも目的のためなら手段を選ばない、冷酷な人間だ。二人とも、残りの人生を刑務所で過ごすべきだろう。浩司の真剣な表情を見て、泰造の顔から血の気が引き、手を伸ばして離婚協議書を奪い取ろうとした。もちろん、無理な話だった。「浩司、よくも俺をはめたな!絶対に許さないぞ!」その恨みに満ちた顔を見て、浩司はただ滑稽に感じた。「あんたはもう、一生ここから出られないだろう。さよならだ。これから、俺の妹はあんたと雲心がいなければ、きっともっと幸せに生きられる」そう言うと、浩司はきっぱりと背を向けて立ち去った。背後から泰造の怒鳴り声が聞こえたが、彼は振り返りもしなかった。警察署のロビーまで来ると、しばらくして、聖子が目を真っ赤に腫らして面会室から出てきた。その様子から、雲心との会話が辛いものだったことは容易に想像できた。浩司は近づいて言った。「聖子、先に車に乗っていろ。俺は雲心に会ってくる」聖子はうなずいた。「ええ」浩司の姿を見て、雲心は眉をしかめたが、それでも「叔父さん」と声をかけた。浩司は彼の向かいに座り、先ほど泰造に言ったことをもう一度繰り返すと、最後に付け加えた。「お前も、ここから出られるとか、また社会に戻れるとか、そんな幻想は抱かない方がいい。お前も泰造も、もう二度
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第539話

ほむらは彼を見上げ、無表情で言った。「お前、僕がこんな状態で、彼女に目が覚めたことを知らせるべきだと思うのか?」拓海は思わずほむらの足に視線を落とし、表情が暗くなった。「結衣先生は、おじさんの状態を気にしたりしないと思いますよ」おととい夜、ほむらは意識を取り戻した。しかし同時に、彼の足は……完全に回復するには、長期間のリハビリが必要だと分かった。当分の間、車椅子を使わなければならないと知り、ほむらは拓海に、自分が目覚めたことをまだ結衣に伝えないでほしいと頼んだのだ。彼は、完全に回復してから、清澄市へ結衣を訪ねようと決めていた。「彼女が気にしないのは分かっている。でも、彼女の足かせになりたくないんだ」拓海は心の中でうんざりした。「足かせなんて言わないでください。結衣先生がおじさんの意識が戻ったと知ったら、絶対に喜びますよ」ほむらは黙り込んだ。彼は、結衣にこんな役に立たない自分を見せたくなかった。もちろん、自分が歩けなくなったと知れば、結衣がそばにいてくれるだろうことは理解していた。しかし、彼は結衣に自分の惨めな姿を見られたくなかったのだ。そう思うと、ほむらは冷たい声で言った。「僕の了承なしに、彼女に僕が目を覚ましたことを言うな」拓海は少し困った顔をした。「清澄市の問題が解決したら、結衣先生は絶対こっちに来ますよ。来ないでくださいなんて、無理に決まってます」「なら、何か仕事でも見つけてやれ。彼女を清澄市にとどめておけるなら、何でもいい」拓海は返す言葉がなかった。しばらくして、彼はようやくゆっくりと口を開いた。「分かりました」「ああ、もう出て行ってくれ。一人になりたいんだ」「分かりました」拓海が去った後、ほむらはLINEを開き、ピン留めされた結衣のアイコンを長い間見つめていたが、最後にはため息をつき、静かにスマホを置いた。清澄市。時子は病院で数日療養し、ついに退院した。本家に戻ると、彼女は結衣に言った。「結衣、わたくしの体はもう心配ないわ。ここにずっといなくても大丈夫だから、あなたのことを考えなさい」「おばあちゃん、もう少しそばにいさせて」汐見グループが倒産したばかり。時子の心は辛いはずなのに、それを表に出していないだけだ。彼女は今回京市へ行けば、その後はほとんどの時間を京市でほむらに
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第540話

その言葉に、拓海の顔に困惑の色が浮かんだ。「おじさん、本当にそんなことするつもりですか?万一、結衣先生が真相を知ったら、絶対に怒りますよ」「足のリハビリが終わったら、自分から会いに行くつもりだ。数カ月もすれば終わる」「……分かりました。でも、後で俺が忠告しなかったなんて言わないでくださいよ。おじさんが結衣先生に嘘をつくなんて、二人の関係に悪影響しかありませんよ。彼女に言わないって、おじさんの身勝手な考えで、彼女がリハビリに付き添いたいかどうか、聞きもしないで決めるなんて」目が覚めた恋人に嘘をつかれるなんて、考えただけでも、拓海はほむらのやり方があまりにもひどいと感じた。「分かっている」結衣が病院の入口に着いた瞬間、拓海から電話がかかってきた。「結衣先生、お話ししたいことがあるんですが……」拓海の声には、どこか後ろめたさが滲んでいた。なにしろ、彼もほむらと一緒に結衣を騙しているのだ。真相を知れば、結衣も彼を簡単には許さないだろう。「どうしたの?」「あの……おじさん、まだ意識が戻らないじゃないですか。それで、おばあ様が、国内の医療では限界があるって、昨日の夜、おじさんを海外の専門施設に移して治療を受けさせることにしたんです」結衣の心が沈んだ。「海外のどこの施設?」「それが、俺にも分からないんです。おばあ様に聞いたんですけど、教えてくれなくて……」ほむらが昏睡状態のまま海外へ送られたと思うと、結衣の胸が締め付けられた。海外へ行ってしまえば、もう彼のそばにずっといることも、彼の様子を知ることもできなくなる。結衣が何か言う前に、拓海が続けた。「結衣先生、心配しないでください。おじさんは必ず良くなりますから。意識が戻ったら国内に帰ってきますよ。もしかしたら、1、2カ月もすれば、目を覚ますかもしれないし……」「あなたのおばあ様は今どこにいるの?一度会わせてほしいの」拓海は言葉に詰まった。2秒ほど沈黙してから、彼は口を開いた。「結衣先生、ご存じだと思いますが、おばあ様はおじさんの件で、結衣先生のことをあまり良く思っていません。会ってくれないと思いますよ……」「どこにいるか教えて。会ってくれないなら、会うまでずっと待つわ。海外へ行って、ほむらの看病をしたいの」拓海はため息をついた。「はぁ、分かりました……
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