カイムの古語をうたうように唱え、冴利は梅子を眠らせる。くずおれた梅子の身体を抱きとめながら、大松はかなしそうに継母を見つめる。「母上……」「お前など、妾の息子でも次期神皇帝の器となる者でもない。おとなしくその権利を妾の息子へ譲渡いたせ。そうすれば命だけは助けてやっても構わぬぞ?」 この部屋に飾られている暗褐色の薔薇よりも深い、赤黒いひかりが灰色の双眸から浮かび上がる。カイムの民特有の加護を、『雨』の出身である冴利もまた持ち、ちからを操れる人間なのだと幹仁は悟る。大松の方が冴利を糾弾すべき立場にいるというのに、冴利は自分の罪が暴かれてもうろたえることなく、大松に迫っている。居直っているのか、それとも……「我を消したところで、解決はせぬ。父皇が真の次代として命じたのは、弟だからな」「なに」 目の前の皇太子さえいなくなれば息子が次代の神皇となると信じていた冴利は、忘れかけていたもうひとりの皇子の存在を思い出し、愕然とする。「小環(ショウワ)が……? まさか、そのようなこと、名治さまは妾にひとことも」 うろたえる冴利へ追い打ちをかけるように、新たに現れた人物の声が、部屋に響く。「言うわけないだろ。言ったらお前は彼をも害そうと必死になって彼を大陸に遣ることも阻止しようとしただろうからね」「帝だ……」 事の成り行きを見つめていた朝仁が、信じられないと声をあげる。幹仁も、遠目でしか拝見したことのない彼の登場に、言葉を詰まらせている。 名治は傍らに侍女らしき少女を連れて部屋の中を進んでいく。女中服(メイド)姿の彼女は無表情のまま、応接椅子に横たえられた梅子の傍に膝をつき、冴利がしたように、古語を唱える。すると、呪いはするりと解け、梅子の意識が覚醒する。「ん……梅子は?」「眠らされていただけです。命に別条はございませんわ」 表情を変えることなく梅子にかけられた呪いを解いた少女は、夫である名治
Terakhir Diperbarui : 2025-06-17 Baca selengkapnya