――だというのに。〈鋭いね。禁術を発動している〉 「そんなことしたら、出られなくなるじゃない!」 〈もとよりそのつもりだから心配しないで。あとのことは天神の娘と始祖神の末裔に任せて隠居するだけだから〉 まるで老人みたいだな、とけらけら自嘲する四季が、まるで目の前にいるように見える。「……知らないわ」 両手で耳を塞ぐ雁。けれど、四季の言葉は遮れない。〈ボクのことは忘れるんだ、いいね……朝になったら、忘れるんだよ、狩〉 泣きたいほどやさしい声音が雁に届く。 ふたつ名で簡単に縛られてしまう自分がもどかしい。「忘れるものですか! もう、ちからあるひとたちの暗示なんかに従わないんだから!」 そう撥ね退けても、四季の言葉は雁の心臓を抉っていく。 そんな雁を気にすることなく四季はふだんどおり淡々とつづけていく。〈まずは少し先で立ちすくんでるボクの式神を回収してもらおうかな。そしたら救護室で桂也乃たちと合流して。そこで朝まで休めばいいよ〉 「……ひとの話、きいてないわね」 呆れながら雁は頷く。最終的には四季に言われたとおりに動かざるおえないのだろう。〈伊妻の件には関わるな。彼女は魂の在り処を邪神に明け渡している。きみもわかるだろう? 桂也乃が刺されたんだ〉 「……皇一族の、始祖神の血が流れたのね」 〈彼女は帝都に伊妻の残党が慈雨であることを手紙で伝えていたんだ。彼女はそれを知って桂也乃を害した。けど、もう歯車は動き出している。帝都から追手が来る。それですべては終わる〉 慈雨のことを指摘され、雁は黙り込む。同室で学校生活を共にした慈雨は、自分をふたつ名で操り天神の娘を害そうとした慈雨は、すでにカイムの神々に見放されている。邪神を浄化しても、慈雨は戻らない。そう、四季は暗に告げたのだ。「……わかったわ」 彼女を救うことはできない。皇一族に属する桂也乃を害したのが伊妻の生き残りである慈雨だと、知れ渡ってしまったから。いままで革命の刻を待ち隠れていた彼女は、皇一
Last Updated : 2025-06-27 Read more