「おひとよし」 「なんだ、起きていたのか」 四季は寝台の上で横になったまま気だるそうに口を開く幼い少女へ顔を向ける。いつもなら桂也乃が使っている寝台だが、彼女のいない今だからあえて入り浸っているようだ。「それで、どう思った?」 「帝都のごたごたは興味ないんじゃなかったっけ?」 くすくす笑いながら、ボレロ姿の少女は四季の方へ身体を傾ける。「状況が変わったんだ」 「藤諏訪麗が帝都清華の裏切り者で、その黒幕が古都律華の水嶌家出身でいまは神皇帝の正妃の座にのぼりつめている、冴利と、きみが教えてくれた種光という名の男だってことがわかっただけで充分じゃない?」 少女は種光がどこの家のものかわからないと言っていたが、古都律華の人間と考えていいだろう。「皇一族の後継者争いか」 「小環皇子はそのことについて何か言ってました? それとも何も知らされていないのかしら」 「……たぶん後者だろう。彼自身第二皇子で皇位に執着してる様子もなかったからな」 「でも、神皇帝は天神の娘を求め、逆に冴利は弑そうとしている」 「冴利は天神の娘がいなくなれば自分の息子を次期神皇帝にすることができると誰かによって信じ込まされているようだな……暗示か」 「たぶんね」 冴利は神皇帝とのあいだに生れたまだ幼い青竹を何がなんでも次期神皇にしようとしているらしい。神皇帝は冗談だと思って相手にしていないようだが、冴利はすでに古都律華と手を組み、空我伯爵邸の襲撃を命じている。 そこからすべてがはじまったと思った。「不思議に思ったんだよ。なぜ、今になって天神の娘が狙われたのか。なぜ、カイムの地へ彼女は連れ出されたのか」 「この地へ春を呼び戻すためでしょう?」 「なぜこの地に春は訪れていない?」 「神々が強引に開拓を進める人間の所業に怒って冬将軍を留まらせているから。もしくは神嫁という名の生贄を味わい邪悪なものへ変化した一部の神がのさばっているから」 「それは今年に限ったことか? 予兆ならすでにあっただろう?」 「ええ。毎年
Last Updated : 2025-06-12 Read more