元捨て犬の私が暴君の愛され妻になりました。 のすべてのチャプター: チャプター 21 - チャプター 30

33 チャプター

19.私は彼を捨てて、生きていく。

 私は予定通りアレキサンダー皇帝に離縁を申し出て、部屋に戻った。 ナイフで髪を肩まで切ると、さっぱりした気分になった。(ちょうど、暖かい季節になるし良いかもしれない) ルミナは私についてきてくれると言ったが、どうなるか分からない私の人生に彼女を巻き込むのは憚られた。 彼女にはマルテキーズ王国に戻るように伝えた。 貧しい生活を強いられるかもしれない新しい人生でもワクワクするのは、私の前世が犬だからかもしれない。 人間であるならば言葉が使えるから、いくらでも道が開ける気がした。 ジョージのアドバイス通り、調香師などになり香水屋などの商売を初めてみようかと考えていた。 私の正体がバレると色々面倒そうだと思ったので、ふとジョージからもらったウィッグを持ってこうかと思った。 クローゼットの奥に入れたウィッグをよく見ると、アメジストのピンがついている。(結局、勝手にプレゼントしてきたのね。ジョージ⋯⋯) やはり、ありのままでいたい気持ちが強く、ウィッグからアメジストのピンだけ抜き取り右耳の上に止めた。 寝室のベットの下に潜って絨毯を一部ナイフで切り取る。 予想通り地下に続く扉があって、そのまま地下に降りた。 ベッドで寝ている時に、真下からわずかに水が流れる音がした。 階段をつたって降りれるようになって、仄かに灯りが灯っているということは地下は隠し通路だ。 きっと、ここを抜ければ城外に出られる。 私自身を避けながら、陛下が私に執着していのを私は感じ取っていた。 離縁がすんなり受け入れられるか分らなかったので、私は一方的に陛下に離縁を申し出て姿を消すことにした。 もし、私が見つからなければ、きっとそのまま離縁が成立する。 犬の記憶が目覚めて、新しい主人として陛下に期待した。 無意識に陛下に纏わりついてしまい、大切にして欲しいと尻尾を振った。 今となっては苦い思い出だが、私は人間になったのだから主人は自分で選べる。 私が死んでも構わ
last update最終更新日 : 2025-06-13
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20.裏の仕事は1度の失敗が命取りなのよ⋯⋯。

 酒場に入ると、灰色の髪をした初老の男が目に入った。 昼から酒を煽って、だらしなくカウンターに突っ伏している。 飲食を扱う場所なのに店全体が埃っぽくて、私は思わず顔を顰めた。「まだ、開店前です」「当然よ。まだ昼だもの。昼からお酒を煽っているような貴方に用はないわ。私は皇妃モニカ・マルテキーズよ。暗殺ギルドの長に会いにきたの。仕事の仕方が3流だから、もう皇家からの仕事はない事を伝えにきたのよ」 私はだらしのない男の目を覚ましてやることにした。「俺がこのギルドの長だ。見かけによらず生意気な女だな。皇妃だと? 雲でも食べてそうなお前がか?」 馬鹿にしたように笑う名も名乗らぬギルド長に溜息をついた。 皇帝のアレキサンダーに尻尾さえ振っておけば、私のような小娘の機嫌を取る必要はないと考えているのが丸わかりだ。 私は悪評込みで有名人なので、当然彼は私の事を知っているはずだ。 それなのに知らないフリをして、大物ぶっていて滑稽だ。「威嚇すれば怯むと思っている。女であるから自分より劣っていると誤解している。貴方と話すだけ時間の無駄ね。クレアを出しなさい。皇族暗殺未遂で処刑してもらわないと」 私が告げた言葉がよっぽどムカついたのか、ギルド長は包丁を投げてきた。 少し私の髪を掠って、プラチナブロンドの髪が床に落ちる。「威嚇しても無駄と言ったでしょ。私の体に傷をつけていたら、このギルドごと潰れていたわよ。皇族暗殺未遂で、あなたの親族もみんな処刑ね」「チッ!」 私たちのやり取りが聞こえたのか、奥からクレアが出てきた。 彼女の憂いを帯びた薄茶色の瞳を見た途端、怒りが込み上がってくる気がした。  暗殺など裏の仕事をする自分の人生を憂いて自分に酔っているような目つきだ。(裏の仕事は1度の失敗が命取りなのよ⋯⋯) 黒いパンツを履いて動きやすそうな格好をしていると男性のようにも見える彼女は、私の与える仕事を無事に果たせそうだ。「皇妃殿下、私は皇命に従ったまでです。それに、私はメイドのフリをして弱毒性の
last update最終更新日 : 2025-06-14
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21.脳が完全に溶けたか⋯⋯。

プルメル公爵一族の処刑を済ませて、モニカの部屋に急いだ。 彼女の部屋のクローゼットを開けても、ドレスも綺麗に揃っている。(まだ、皇宮内にいるのか?) 「モニカの髪だ⋯⋯」 床に落ちているプラチナブロンドの髪は彼女のものだ。  初めて彼女に会った時、この髪がキラキラと舞っていて妖精のようだと思った。 モニカが何を考えているかは、俺には全く分からない。 それでも、俺が彼女に母タルシア・バラルデールを死に追いやった毒を盛っていたのは事実だ。 離縁を言い渡されるとは思っても見なかった。 俺はバラルデール帝国の皇帝で、女は皆、俺と縁を結びたがった。  最初会った時のモニカは、俺をただの男として愛してくれるような錯覚をさせた。 彼女は俺にしがみついて、もっと抱いて欲しいとせがんだ。 明らかに彼女の目には俺への好意が見られたし、まるで子犬のように人懐こい女に見えた。  彼女の身も心も自分のものになったと思っていたのが錯覚で、騙されたと苛立ち彼女を攻撃した。 明らかに彼女の心が俺から離れるのがわかって、ムカついて傷つけようとしたら返り討ちにあった。  彼女が現れてから、長年俺を悩ませてきたレイモンド・プルメル公爵まで失脚した。 ほんの1ヶ月の話だ。 そして、ついには父の仇を取り、プルメル公爵家一族を処刑することができた。 (そもそも、レイモンド・プルメル公爵が逃げるように領地に引っ込もうとしたのは何だったのか⋯⋯) 俺は何となく不自然な状況にモニカの暗躍を感じていて、何を考えているのは分からない彼女に恐怖を感じていた。  でも、モニカを失うかもしれないと思った今、俺は彼女を引き止めることしか考えていない。 もう、彼女に溺れて殺されて、バラルデール帝国が滅ぼされても良い気がしてきた。 モニカのような危険な女を愛するならば、バラルデール帝国最後の皇帝になるくらいの決意がないと無理だ。(脳が完全に溶けたか⋯⋯とにかくモニカを
last update最終更新日 : 2025-06-15
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22.やはり、彼女は普通の女とは全く違う。

  皇妃の部屋には、ベッドの下に隠し通路がある。 皇宮中の騎士にモニカを探させているが、隠し通路を使われて皇城外に出られたら目も当てられない。 ベッドの下を覗くと、なぜか絨毯に切れ込みが入っていた。 (教えてないのに、ここの隠し扉に気がつくか?) やはり、彼女は普通の女とは全く違う。 天使のように可愛く、人の心を惑わす悪女で、いつも俺の想像を超えていく。  隠し扉の位置に気が付いただけでなく、ベッドを動かさずに中に入り込んだという事だ。 そういえば、彼女は折れそうなくらい華奢な体をしていた。 彼女との初めての夜を思い出すと、今でも体が熱くなってしまう。(ダメだ⋯⋯もう皇帝である前に、モニカ愛するだけの男になってしまおう⋯⋯) 俺はそう決意し、馬に跨り隠し通路の出口の方に回った。 実は出口の方は鍵がないと出られなくなっている。 その鍵は皇家に代々伝わる、バラルの指輪だ。  俺は彼女にその指輪を渡していない。 (出られないぞ、どうするんだモニカ!) 俺はモニカが散々歩いた上に外に出られないと可哀想だと思い、出口を壊して隠し通路に入った。 (もう、この隠し通路は閉鎖しないとな⋯⋯) 隠し通路を逆流して走っているとモニカのプラチナブロンドの輝く髪が見えて、俺は思いっきり彼女を抱きしめた。(ずっとこうしたかった。愛しているモニカ⋯⋯心から) 子供が欲しかったと泣きそうな声で目を潤ませる彼女に申し訳なくなり胸が苦しくなった。。 スレラリ草の成分をモニカが摂取してしまったのは、確認したら2回だった。 そのような微々たる回数であれば、子作りに勤しめばおそらく問題ない。 俺が毎晩彼女を抱くと宣言すると、なぜか拒否された。(本当に俺のことが好きじゃないのか⋯⋯散々人の気を引いといて酷い残酷な女だ⋯⋯) モニカの部屋に戻り明るいところに来ると、彼女の髪が短くなっているのを再確認させられた。 腰まで届いてい
last update最終更新日 : 2025-06-16
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23.このような男に私の人生は預けられない⋯⋯。

 無防備に背を向けるアレキサンダー皇帝に胸が苦しくなった。 私を捨てようとした彼を見限ったつもりだった。 「モモのご主人」失格な彼なのに、縋られると揺らいでしまう。 彼の言っていることは、驚く程自分勝手だ。 それなのに、従ってしまうのは私が元犬だからだけではない 陛下が私を家族にしてくれる可能性を探ってしまう。 (森でひたすらにルイを追っていた時、ルイが駆け寄って私を抱きしめていてくれたら⋯⋯) 犬である時に夢見ていたような光景だ。 あれ程冷たく接して来たと思えば、急に私のことを愛しているようなことを言ってくる。 もしかしたら、ただ、何か失う経験をした事がなくて私に執着しているだけなのかもしれない。(本当に理解できない人⋯⋯) ナイフを手に持ち、陛下の髪を切る。 女とは違って、難しい。 もはや、傷をつけないように切るのが精一杯だ。「陛下⋯⋯プルメル公爵家の処刑は滞りなく行われましたか?」「あぁ⋯⋯」私は自分の策略がうまくいったことを確信しホッとした。宰相だったレイモンド・プルメル公爵がいなくなった事で帝国は大きく変わる。レイモンド・プルメル公爵はカイゼル・レンダースと結託していた。カイゼル・レンダース伯爵は領地の暴動を意図的に起こしていた。争いが好きなアレキサンダー皇帝を引き寄せる為だ。アレキサンダー・バラルデールは争いがあると、喜んで出兵にしてしまう暴君だと言われている。皇宮から若くて賢い陛下を留守にするのは簡単だった。陛下はどうしてそこまで血を好むのだろう。「モニカはどうしてそんなに子供が欲しいんだ?」陛下の質問に思わず、私は手が滑って指を切ってしまった。「痛っ⋯⋯」「おい、大丈夫か?」 私の指を確認したようとした陛下の手を思わず振り払ってしまった。(少し優しくされたくらいで揺らいで⋯⋯私らしくないわ⋯⋯) やはり犬のモモだった時の記憶が蘇って以来
last update最終更新日 : 2025-06-17
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24.陛下の気まぐれな愛に付き合うのが怖いのです⋯⋯。

 陛下が私をじっと見つめて口づけをしようとしてくるので、私は思わず避けた。「私を抱かないのではないのですか?」「寒いから強く抱きしめて欲しいと言っていたではないか? それに、俺も魔性の悪女に惑わされて見ようと思ってな」「私は悪女ではありません。自分の皇城脱出という目的の為に自分の持つ女の武器を使っただけです。反省すべきは、バラルデール帝国の夜間警護の騎士が自分の役割を瞬間でも忘れてしまう平和ボケ加減ではないですか?」  私はベッドから立ち上がり、このバラルデール帝国の問題点を彼に説いた。「戦場に赴く第1騎士団などと違い、主に警護や護衛にあたる近衛騎士は危機感が足りません。帝国の皇城を攻められる事など想定していないのが丸わかりです」 バラルデール帝国は世界一の強国だ。 確かに1カ国でこの国を落とすのは不可能だろう。「なぜ、今、真夜中の部屋に2人きりだというのに、そのような色気のない話をしているのだ?」 陛下は先程まで怒りのままに私を抱こうとしていたが、今は笑っている。 ベッドに座って、どうやら私の話を聞いてくれそうだ。 この1ヶ月で帝国のあらゆる問題点に私は気がついた。 「なぜ、レイモンド・プルメル公爵が先皇陛下を暗殺したか分かりますか? それは政治の方向性が違ったからではありません。陛下を1日でも早く皇帝にする為です」「どういう事だ?」「陛下は争いがあると城を空けて戦場にいきます。その時は帝国一の第1騎士団を連れて行きます。もし、その間に真夜中皇城が奇襲攻撃に遭ったらどうしますか?」「一体、どこの小国が帝国に奇襲攻撃を仕掛けてくるというのだ」「まず、陛下を暴君に仕立て上げます。そして、その暴君を倒すという体で周辺諸国に働きをかけます。レイモンド・プルメル公爵は他国をの武力を借りて、帝国を乗っ取る計画がありました」 レイモンド・プルメル公爵は他国と頻繁に交流を持っている。 そして、プルメル公爵家が持っていた第2騎士団の武器は他国に横流しされていたのではないかと私は睨んでいた。 第
last update最終更新日 : 2025-06-18
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25.私の心に少しでも寄り添ってくれるなら、離縁してください。

「今日はジャガイモのスープなんですね」「あの時はすまなかった⋯⋯」 陛下はかぼちゃのスープをひっくり返した時のことを謝っているのだろう。 あの時はスープから草の匂いがした。 陛下が途中でスレラリ草の毒を私に盛るのを控えた。 その心境の変化がなぜ起こったのかは私には分からない。「スレラリ草の毒をモニカが摂取してしまったのは、たったの2回だ。だから、そのように不妊だと思い詰めることはないと思うのだが⋯⋯」 私は何も状況を理解していない陛下にため息をついた。「陛下のお母様は紅茶にスレラリ草の毒を忍ばせられ飲まされています。湯を通して毒の成分は100分の1程度まで分解されています。対して、私は直接草を擦り付けた食材を摂取しています」「100倍の毒素?」「私が死んでないから信じられませんか? 私がサンダース卿のナイフで倒れた時、あのナイフには毒が塗ってありました。陛下が私が1週間意識がなかったと言ってましたよね。私はあの毒には免疫があるはずなので不思議に思ったのです。私が1週間目覚めなかったのはスレラリ草の毒の影響です」 ここまで言えば理解してもらえるだろう。 私はナイフに塗られていたマルネスの毒には耐性があった。 即効性のあるマルネスの毒に対し、スレラリ草は遅効性の毒。 私を1週間目覚めさせなかったのはスレラリ草の毒の影響だ。 あの時、私の体の中で何が起こっていたかは分からないが、母が鍛えてくれたこの体が私を殺そうとした毒に打ち勝ってくれた。  私は自分が死ななかった事に感謝して、自分の子を持つことは一生諦めなければならない。(なぜ私は自分をこのような体にした男と一緒にいるのだろう⋯⋯)「モニカ⋯⋯もし、君が子を持てなくても僕は君を愛している」「どうしてですか? 私をずっと避け続けていたではないですか。それに、私に陛下を愛することは不可能です。私の心に少しでも寄り添ってくれるなら、離縁してください」「それは、できない⋯⋯」 掠れた声で絞り出すように伝えてくる陛下は、
last update最終更新日 : 2025-06-19
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26.モニカ⋯⋯俺は君を罰しないよ。

 モニカを連れ戻して、髪を切って貰い少しは心が近くなった気がしていた。「皇妃殿下が動きました⋯⋯」 俺は自分が愛していると言っているのに、彼女がまだ逃げて行く理由を理解していなかった。 昔から母に欲したものは全て手に入ると教えられて来て、実際にその通りだった。 対して欲してないものも、気がつけば自分の手の中にあった。 でも、今、欲しくて気が狂いそうなのに、モニカは俺から逃げて行こうとする。 真っ暗な庭園で、護衛騎士を籠絡するモニカは見た事もないくらい妖艶だった。 (本当に魔性の悪女だな⋯⋯) 俺の事を名前で呼びもしない彼女が、恋人のように騎士を名前で呼んでいるのは演技だからだ。 そう理解した時にモニカは俺の前では演技をしないで、本当に最初は慕ってくれていたのではないかとほのかな望みを抱いた。 俺は彼女に俺を慕っていた気持ちを思い出して欲しくて、彼女を抱こうとしたが拒絶された。 そして、彼女がまだ1ヶ月程度しかバラルデール帝国にいないのに、俺以上に帝国の問題点に目を向けていることに驚いた。 彼女は恐ろしく頭が切れる。 その割に出口の鍵を持たずに隠し通路に入ったり、先程も裸足で城門の外へ逃亡しようとしていた。 なんだか、彼女の行動は行き当たりばったりに見える事もある。(全く目が離せないな⋯⋯)  朝食の時に、彼女が俺を見限った訳を知った。 彼女は俺のせいで死に掛け、おそらく一生子供が産めない体になった。(子供が欲しいのに、もう叶わないと泣きそうな顔で叫んでたな⋯⋯) 俺を愛することは不可能だから離縁して欲しいと言われても、俺は彼女を手放せない。 スレラリ草の毒の解毒方法については、母が死にかけた時に散々研究したが見つからなかった。  俺は母の墓を掘り返し、その肉体を切り刻んでもモニカの体を回復させる方法を探るだろう。 色々な顔を見せて不安にさせるモニカだが、俺の子ができているかも知れないと嬉しそうにしていた彼女の姿は本物だった。
last update最終更新日 : 2025-06-20
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27.モニカ、結婚式をしないか?

 俺もエステラ・アーデンの罪をカイザーの罪とは思っていない。 俺がジョージア・プルメル公子に死んで欲しかったのは、モニカと親密だったからで完全に私怨からだ。「あの死体は誰なんだ」「クレアです」 微笑みを称えながら応えるモニカに、俺は自分も同じように恨まれていることが予想できた。 自分に毒を盛った人間を処刑したのだから、当然指示した俺のことも殺したいくらい憎いのだろう。 「私は先程もお伝えした通り覚悟を決めています。反逆者一族の人間を逃しました。それは極刑に値する大罪です」 目を瞑って俺に委ねるように沙汰を待つ彼女は本当にずるい女だ。 俺は彼女を手放せない。 無垢で、残酷で、賢くて愛おしくて仕方がない俺の妻だ。「モニカ⋯⋯君に罰を与えるよ。一生君が憎くてたまらない俺の隣で過ごすんだ⋯⋯」 俺は自分の願望だけを伝えて、彼女に口づけをした。 彼女が誰を好きだとか、本当は俺の敵だとかどうでも良い。 ただ、一緒にずっといたくて、彼女の笑顔がまた見たいだけだ。「一生ですか? 本当にずっと私と一緒にいたいと思っているのですか?」「だから、そう言ってる⋯⋯モニカ、君を心から愛している」 モニカがゆっくり目を開ける。 本当に無垢な色をした瞳だ。 俺は彼女の瞳が幸せそうに輝いていた瞬間を知っている。  彼女はもっと明らかに好意的な目で俺を見ていてくれていた。 今は、俺を見ると呆れたように直ぐに目を逸す。「一時的にそう思っているだけで、陛下は私を愛してなどいませんよ」「どうして、そう思うんだ⋯⋯」 感じたことのないような強い感情で彼女を求めているのに、彼女は全く俺の気持ちを信じない。 確かに、彼女に酷い事ばかりしてきた自覚はある。 本当は最初から彼女に惹かれていて、その気持ちは日に日に溢れて今抑えきれなくなったと言っても信じてもらえないだろう。 俺自身初めての感情で全くどう扱って良いか分からなかった。
last update最終更新日 : 2025-06-21
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28.モモと呼んでください。

 陛下が犬のモモだった私を肯定してくれたようで嬉しくなった。「本当にお花が綺麗てすね。紫陽花、桔梗、ブーゲンビリアにサルビア⋯⋯陛下はどのお花が好きですか?」 「俺が好きなのはモニカだ。君は本当に花が好きなんだな」 どの花が好きか聞いたのに、私が好きだと返してくる陛下ははなに興味がなさそうだ。 花が好きになったのはルイのお母さんがきっかけだ。 私を捨てた方だけれど、ルイの事を心から愛してたのが犬の私から見てもわかった。 悪いおじさんに噛みついた私をルイの安全の為にも遠ざけなければいけないと思ったのだろう。「陛下⋯⋯ミレーゼ子爵だけでなく、スラーデン伯爵の尻尾を掴まねばなりません。武器の横流しに関しても絡んでるかと思います。伯爵に接触してみようと思います⋯⋯」「ダメだ⋯⋯他の男に近づかないでくれ。スラーデン伯爵については俺が探るから」 陛下にまだ信用されてない気がした。 私は彼がずっと一緒にいたいと言った以上、主人となる彼に尽くそうと思っていた。「分かりました⋯⋯あっ! カイザー! お庭にいたのですね」私はカイザーがいたので駆け寄った。「兄上、義姉上お2人揃ってどうしたのですか?」「あなたに会いにきたのですよ」 私はカイザーに駆け寄り抱きしめた。 カイザーも私をギュッと抱きしめ返してくる。 実は私と彼はかなり仲良くなっていて、彼を名前で呼ぶことを許されていたのだ。「義姉上は実は寂しがり屋ですよね」5歳の子から言われた言葉にドキッとするが本質をつかれている気がする。「そうですよ。だから、もっと私の相手をしてくださいね」ふわふわと風に靡くカイザーの髪を撫でる。このような事も人間になったからできることだ。「モニカ、俺のことも名前で呼んで欲しいな」「アレク、じゃあ、これから私は陛下をアレクと呼びますね」私の言葉に陛下は驚いている。それでも、私はこのチャンスを逃したくなかった。今、貴族たちが寵愛を得ていない皇妃など
last update最終更新日 : 2025-06-22
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