All Chapters of 今さら私を愛しているなんてもう遅い: Chapter 431 - Chapter 436

そうしてこそ初めて博人が彼女にもたらした悪い影響と傷から抜け出せるのだ。幸い、仕事は順調だった。午前中、未央は数人の患者の診察をし、その中には自閉スペクトラム症の子供もいた。彼女は辛抱強くしばらく彼らと話し合い、全ての注意力を仕事に投じたことで、逆に博人のせいでできた傷を忘れることができた。昼食時、病院に突然知り合いが訪れた。この人物は以前不眠症と不安障害の治療を受けた今市浩章だった。彼はわざわざお礼に来たのだ。「白鳥先生、本日はお礼に参りました。あなたのこれまでの治療がなければ、今でも普通の人と同じように生活できなかったでしょうから」浩章は口角をゆるめて微笑み、声に真摯さが感じられた。「正直に言うと、私はもう回復して、ここ数日でいくつかの大きなプロジェクトも契約することができました」彼が手を振ると、傍らにいた秘書が銀行カードを差し出した。「パスワードは私たちが出会った日付です。白鳥先生、どうぞお受け取りください」未央は首を左右に振り、それを押し戻した。「診療代はもうお支払いいただいていますから、追加料金は必要はありませんよ。今市社長、ご丁寧にありがとうございます。社長にもたくさん助けてくださいました。多くのお客様を紹介してくださいましたよね」未央は礼儀正しく言いながら微笑んだ。彼女が受け取らないのを見て、浩章は懐からある招待状を取り出し、テーブルの上に置いた。「白鳥先生、お受け取りにならないというなら、無理強いはしません。ちょうど今夜オークションがありますので、ご興味があれば行ってみたらどうでしょうか。気分転換にでもなればと」招待状はテーブルの上に置かれたが、未央は見ようとしなかった。彼女はこういったものに興味がないのだ。しかし晴夏はとても興味津々な様子で、招待状を手にしてじっくりと見てから、目を輝かせていた。「白鳥さん、オークションってどんな感じなんですか？私、一度も行ったことがないんです！」未央は自身も数回しか行ったことがなく、その中の数回は博人に付き添って行ったものだった。彼女は物にそこまで欲が強くなくて、こういったものに興味が湧かない。だが晴夏はまだ若いし、卒業したばかりで、こういった上流社会に憧れと期待を抱いている時期だった。未央は少し眉間を揉んだ。「行きたいの？」

このオークションはまさに苦痛の時間だった。彼女は後悔し始めた。なぜ連れて来てほしいと言ってしまったのだろう。病院にいた方が明らかにもっといい選択肢だったというのに。ようやくオークションが終わり、晴夏は迷わず、未央の手を引いて逃げるように出ていった。しかし意外なことに、二人が会場を出たところで、すぐに背の高い人物に行く手を阻まれた。その人物は博人だった。「未央、話があるんだ」博人はかすれた声で言いながら、未央の顔をじっと見つめ、一瞬も逸らそうとしなかった。彼らが別れてからまだそれほど時間は経っていないのに、彼女を見たこの瞬間、心の中にある感情が再び湧いてきた。彼は彼女を思う感情でいっぱいで、今すぐ全ての真実を未央に伝えたくてたまらなかった。彼は言いたかった。以前の彼は確かに過ちを犯した。もう一度チャンスをくれないかと。しかし未央の冷たい顔を見て、博人は躊躇してしまった。晴夏は二人の間の気まずい空気を鋭く察し、即座に言った。「あの、私、先に車に戻るから、お二人でお話ししてください」「晴夏……」未央は眉をひそめたが、彼女を呼び戻すことはできなかった。彼女は少し煩わしく感じていた。「あなたと話すことなんて何もないわ」博人は少し落胆したようで、敦の言葉を思い出し、すぐに手に持った箱を彼女に押し付けた。「未央、これはサファイアのネックレスだ。君の肌の色によく合うよ、試してみないか？」彼は恐る恐ると言い出した。未央に拒まれることを恐れていたのだ。しかし未央は見もせず、直接箱を押し返した。「博人、私にはこんなもの要らないわ」彼女は理解できなかった。これほど大金を使って買ったネックレスを、なぜ自分に贈るのか。どうして雪乃の元に届けないのか。「未央、話を聞いてくれ、あの日のことは俺が悪かった。君を誤解していたんだ。理不尽なことをしていたのはいつだって俺だった」博人は切迫したように説明した。彼はこれまでこのように急いで自分の感情を証明したことはなかった。しかし全てはもう遅すぎたのだ。未央はただ冷たく彼を見つめた。「あなたは私に償いたいのよね？」博人はまるで希望の光が見えたかのように、すぐに頷いた。「そうだ、未央、チャンスをくれないか？ちゃんと君に償わせてくれ、これからの人生をかけてこれ

メッセージの内容はいたってシンプルで、たった一言だけだった。「子供の頃、誘拐された真相を知りたいか？」続いて、また長文のメッセージが届いた。そこには、彼が子供の頃どのように誘拐され、最後に誰によって救出されたかが詳細に記されていた。あまりに完璧な記述で、まるで自ら経験したかのようだった。もう何年も経ったことで、博人自身も少し記憶が曖昧になっていたが、この文章を読んで、すぐに子供の頃の記憶が呼び起こされた。記憶の中では、確かに子供の頃に彼を救ったのは雪乃だった。この命を助けてくれたという恩がなければ、彼は雪乃を一目も見ようともせず、こんな状況に陥ることもなかっただろう。だが今は……博人は突然、少し理解できなくなった。ぼんやりとしていたところに、彼は先ほど個室で聞いた話を思い出した。雪乃と佐紀の間には何かの協力関係があるようで、その協力は彼に関わるものだった。今になって、このメッセージが送られてきたのは実に不可解なことだ。当時の多くの詳細は、彼と雪乃しか知らないはずだ。もし、他にも知っている者がいるとすれば、それは当時の誘拐犯だけだ。博人は一瞬驚き、ある考えが突然頭に浮かび上がった。もしかすると、あの時自分を誘拐したのは佐紀なのではないか？そして雪乃は、最初から最後まで全て知っており、わざと佐紀と協力して、自分に近づいたのではないか？博人は一瞬呆然とした。彼は突然、自分が雪乃と二十年以上も知り合いながら、この女を本当に理解したことが一度もなかったことに気づいた。彼女は本当に表面で見せているような純粋で無実な女なのだろうか？もちろん違う！博人は今は酒を飲んでいる場合ではないと気付き、急いで携帯を手に取り外に出ながら、高橋に電話をかけた。一方、高橋はまだ残業中で、上司からの電話を受けたとき、目の前が真っ暗になるのを感じた。そして、博人の怒りを帯びた声を電話から聞いた。「二十五年前に俺を誘拐した人物と西嶋佐紀の関係を調査してくれ。それから綿井雪乃もだ。彼女はその中で一体どんな役割を演じていたのか」高橋はそれを聞き、ただただ茫然とするしかなかった。上司が雪乃が自分の命の恩人ではないのではないかと疑うのは、かつてないことだ。しかし、彼は有能な秘書なので、もちろんそこまで詮索せず、電話を切るとすぐに