立花市の「心の声」カウンセリングクリニックで、しとしとと雨が降るある午後。クリニックが正式オープンしてから一週間が経ち、すべてが順調に進んでいる。未央はある患者を見送ったばかりで、オフィスでファイルの整理をしながら、窓の外の雨音にどこか心安らぐ静けさを感じていた。クリニックの中は静かで温かな空気が流れ、かすかなアロマの香りが漂い、窓の外の曇った空や雨とは対照的に、外界から隔絶された安全な雰囲気を醸し出していた。アシスタントの晴夏がドアをノックして入ってきて、新しい予約リストを手渡してきたが、表情がどこか沈んでいた。「未央さん、この林(はやし)さんという方は急な予約で、通常の電話ではなく、直接訪ねてこられました。とても緊急のようで、情緒が非常に不安定のようです」未央はその林に会ってみた。彼女は三十歳前後だろうか。きちんとしたブランドスーツを身につけているが、顔色が青白く、目には恐怖と不安が満ちており、両手を強く握りしめて、行き場を失った傷ついた小鳥のようだった。未央の優しい言葉により、林はようやく震える声で口を開いた。「私……夫の元から逃げてきたんです。あの人は悪魔です……他人から見れば完璧な青年実業家そのもので、誰もが私を羨ましがります。でも、家に帰ってドアを閉めた後、彼がどんな人間かは私だけが知っています」その言葉に、未央の心はわずかに揺らぎ、博人のことを思い出した。林は夫の彼女を支配した経験を語り始めた。「彼は決して私に手をあげたことがありませんけど、言葉で私を貶めるんです。『お前は何もできない、俺なしでは生きていけない』と言っていました。私の交友関係をコントロールし、家族に会えるかどうかさえも彼の決断で決めるんです」未央の息が一瞬止まった。その言葉は、彼女自身の過去七年間の結婚生活を再現しているかのようだった。林は続けて言った。「彼には愛していた女性がいます。永遠に手に入れられない女性です。彼の私へのいい顔は、全部機嫌が良い時だけのものです……でも、あの女性が現れさえすれば、私はどうでもいい存在になってしまいます」その言葉は一本の針のように、未央の心に深く刺さった。雪乃の顔が彼女の意思とは無関係に脳内に浮かんできた。心では激しい動揺が渦巻いていたが、未央はプロとしての姿勢を保ち続けた。これは患者の投影であ
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