ユーク殿下は唇を噛み、重い口を開く。「父は……変わってしまいました……昔は自ら畑に降り、民達と農業に精を出していたんです」 お義父様とお義母様はじっと耳を傾け、リリエッタは不安そうに眉を垂れていた。私もアルと指を結び、ユーク殿下の声に集中する。「民jはアックティカの宝だ、農作物は財宝だ……それが父の口癖だったのに。それが変わったのは、とある商人が謁見に訪れてからです……それは奇妙な商人でした」 思い出すように、ゆっくりとユーク殿下は語った。「その商人は毎回少しだけ、顔が違うのです。目敏い者は気付きましたが、詮索するほどの確証はなく……しかも持っている手形は同じ。本来であれば、厳重に対応するべき事です。愚かだと思われても、致し方ありません。ですが、それも偏に争いを好まぬ国民性故なのです。それは誇れるものですが、こういった手合いには逆手に取られてしまう……」 その言葉に、陛下が僅かに身を乗り出す。私もアルと顔を見合わせ、結んだ指に力がこもる。 顔が変わる商人、それではまるで――。「陛下がお考えの通りです。商人は、梟と名乗りました」 そして、騎士団長が言葉を継いだ。「そのため、こうして軍議にお呼びした次第です。もっと早くご紹介するべきでしたが、お立場上、機会を窺っておりました」 それはそうだろう。身の上だけ見れば敵対している国の王太子なのだから、疑う者も少なからずいるはず。しかも軍議の場だ、間者の疑惑も浮かぶ。 そこにリリエッタの声が上がったことで、この場が設けられたのだ。信用されたのはユーク殿下ではなく、リリエッタ。そして彼がリリエッタの番であることは、間違いない。 ちらりと視線を向けると、ユーク殿下は頬を緩め、リリエッタを見つめている。リリエッタも、不安気ながらユーク殿下を見つめ、頬を染めていた。 ユーク殿下は続ける。「それからです。父は権力に魅入られてしまいました。畑を放り出し、周辺諸国に悪意をまき散らす、悪王となってしまったのです」
Last Updated : 2026-08-20 Read more