All Chapters of 年下王子の重すぎる溺愛: Chapter 51 - Chapter 54

54 Chapters

33 役目

 殿下が退出されると、途端に寂しさが顔を出す。ちゃんと約束もしたし、戦に行く事もない。それでも、まだ不安定な情勢下では、またいつ戦が始まるか分からなかった。 アックティカとの戦いは、一旦の目途がついている。しかしそれは、今回の出陣で大将首だった宰相、この呼び方はもう相応しくないかしら……元公爵オードネンを打ち取ったからであり、決着がついた訳ではない。オードネンがいなくなった今、私の遠見は当てにならなかった。     私が知り得たのは、あくまでオードネンの周囲だけ。やり取りがあった人物も、絵姿で確認してみたけれど追う事はできていない。つまり、直接会わなければ、遠見の対象にはならないという事だ。 今度また戦が始まれば、私は役に立てないだろう。私に何ができるのか。そう考えて思い付いたのが、味方陣営との連絡役だ。これは今回の戦でもしていた事ではある。     殿下もいらっしゃる戦場の情報収集なら即時反映できるから、私は殿下の目を通して戦況を陛下に伝えていた。それに加えて、騎士達とも面通しすれば、見える範囲が広がり情報量も増える。    もしかしたら内通者を見つける事だって可能かもしれない。これは一度、陛下にご相談してみる価値があるだろう。    そのためには騎士団の方々とお会いしなくては。事前に準備しておけば、いざという時に慌てなくて済む。それに、騎士団には大勢の方々が所属していらっしゃるから、面談にも時間がかかるだろうし。 そうと決まればじっとはしていられない。今は軍議の最中だから、使いを出してお時間をいただかねば。すぐに手紙を認め、ネフィへ指示を出すと、扉の外で見張りをしている騎士に伝えてくれた。遠ざかっていく小走りの足音を聞きながら、私は図書室へと向かう。 図書室には年代別に、王城へ従事している者の名鑑が収められている。殿下が私のためにと準備してくださった物だ。書物は手書きだから、書き写すだけでも膨大な仕事量になる。その上、装丁は鞣した革、紙も羊皮紙でとても高価だ。そんな写本が、私のためだけに集められた図書室は種類も
last updateLast Updated : 2025-09-16
Read more

34 羨望と嫉妬

 雪が積もる庭を眺めながら、私は暖かいサロンで寛いでいた。今日は騎士団長ハイゼ・ホーグ様との面会の日だ。殿下がお帰りなって三日。陛下は迅速に対応してくださり、通達を受けた騎士団長もお忙しい中、こうしてお時間をいただいている。皆様もまだ警戒を解いていないという事だろう。これを鑑《かんが》みても、お仕事が詰まってると予想される。離宮の番兵達も、どこか落ち着かない様子だ。 彼らも騎士の一員。離宮の警護を仰せつかっているから戦には出なかったけれど、戦況が変われば迷いなく死地へ向かうだろう。彼らも、私の力を制御する訓練に付き合ってくれた。仕事とはいえ、眉唾物の魔法の特訓だなんて呆れていたのかもしれない。それでも、私の力を実感するにつれ、真剣味を増していた。 王家の力は、皆知っている。だけれど、それは御伽噺としてだ。魔法が絶えて千年の間に、世情も落ち着き、使われなくなった力は忘れられていった。それでも、お年寄りの口伝で語り継がれる事もある。そうして思うのだ。「王族は特別な血を持っている。だから不思議な力もあるに違いない」    そうんな風に。 でも騎士になると、その辺りの感覚が違ってくるらしい。やはり、王家の近くを警護するのが主な任務だからか、私の力もすぐに理解してくれた。殿下や陛下の力の事も知っていて、心を見透かされても照れるだけ。お二人のお眼鏡にかなった方々だから、宰相のような人もいなかった。末端になると、目が届かずに買収される方もいると聞いたけれど。 騎士団長も、快く今日の面談に応じてくれた。そのお気持ちに応えるべく、できる限りのおもてなしを用意している。約束の時間が近づき、ネフィと最終確認をしていると、扉がノックされた。「王太子妃殿下、お初にお目にかかります。お招きにより馳せ参じました、騎士団長ハイゼ・ホーグでございます……何故、殿下がおいでなのですか?」 騎士の礼を執り、顔を上げると怪訝な顔をされる騎士団長。それもそのはず、私の隣には殿下が陣取っていたのだから。 ついさっき、騎士団長が訪れるほんの少し前に殿下は現れた。それからはずっと私の隣で腰を抱き、今に至る。騎士団長に問われた殿下は鼻で笑う。
last updateLast Updated : 2025-09-17
Read more

35 ︎︎幼心の君

 殿下の落ち込み具合は、まるで垂れている耳と尻尾が見えるかと思うほどだった。私は沈む殿下の手を取り、満開の百合の花を撫でると、穏やかな声音を意識しながら語りかける。「殿下はよく務めておいでです。何事も、最初から上手くはいきません。今は学ぶ時なのです。周りをご覧になって? ︎︎師となる方々に恵まれているではないですか。辛い時は、どうぞ私にぶつけてください。私は、そのためにいるのですから」 ゆっくりと顔を上げる殿下に、微笑み頷いた。私達は支え合い、高め合う双樹。精霊王もそれを望んだのではないかしら。 人と精霊という、一時期は相反した存在が手を取り合う。私は精霊の血というものを感じる事はできないけれど、それが殿下の傍に在るために必要だと言うのであれば、信じたい。長い年月を繋いできた契約は、きっと当事者にとっては意味の無いものだ。 きっかけがどうであれ、互いのために存在する事が重要で、契約はそれに付随するものでしかない。少なくとも、私はそう思う。 それもちゃんと言葉にして、殿下に伝える。「……うん、そうだね。リージュがいるから僕は強くなれる。戦場も、本当は怖かった。さっきまで話していた従騎士が、呆気なく死んでいくんだ。僕も何人も殺した。オードネンも、民兵も……その感触がまだ残ってる。でも、リージュを危険に晒したオードネンが許せなくて、それで……」 私の腰に抱きつき、肩を震わせる殿下は小さく感じる。戦場は、私には想像もつかない、人と人が殺し合う場所。そこに訓練を受けているとはいっても、たった十三歳で送り込まれたのだ。 どれほど怖かっただろう。 どれほど恐ろしかっただろう。 殿下の背中を撫でながら、相槌を打つくらいしかできなのが歯痒い。 そんな私達を見て、騎士団長は控えめに口を開く。「殿下、良きお方と出会われましたね。王妃様も気丈なお方ですが、妃殿下は肝が据わっておいでだ。遠見で、戦場の様子もご覧になられていたはず。軍議の場だけとはいえ、殺伐とした空気は感じておられたのでは?」 問いかける騎士団長に、私は頷いた。戦場自体は見ていないけれど、騎士達の鎧は血に
last updateLast Updated : 2025-09-18
Read more

36 洽覧深識(こうらんしんしき)

「リージュ様、論点がずれております」 とんちきな発言をした私に、ネフィは心底呆れた声で指摘した。それに反して、殿下は上機嫌だ。「え、じゃあ夜ならいいの? やった! そういえば、まだ寝衣も見た事なかったよね。どんな感じなんだろう……それを脱がすのも楽しみだな」  垣間見た弱々しさはどこへやら。艶を増していく紫の瞳は、確実に私を獲物として見ている。いつもとはまた違う、獰猛とも言える視線に呑まれ混乱する私に、騎士団長が助け舟を出してくれた。「殿下、今はそういった事はご遠慮ください。私をお呼びになったのは、妃殿下のお力について、でございますね?」 さっきまでの屍のような目とは一転、騎士団長の表情は、きりりと引き締まっている。既に私を『妃殿下』と称する点は気になるけれど、それを言い始じめたらまた話しが止まってしまう。不承不承ながらも、居住まいを正した殿下に胸を撫でおろし、騎士団長へと向き直る。「はい。此度の戦では、主にオードネンの動きに重点を置いていました。けれど、今後はアックティカを覗き見る手段がありません。国王や、その他の重鎮たちを絵姿で確認はしましたが、追う事は叶いませんでした。そこで、味方陣営の情報収集に観点を移してはと思ったのです。陛下にもご相談いたしましたが、賛同していただき、こうして騎士団長をお呼びする運びとなりました」 経緯を掻い摘んで伝えると、殿下も援護してくださる。「うん、僕も賛成。リージュ誘拐の時から、内通者の存在が懸念されている。オードネンも、こちらの情報が洩れていると仄めかしていたし。まずは騎士団を束ねる君、それから軍団長、師団長と広げていく。団長であれば数もそう多くはないし、リージュの負担も軽く済むはずだ。慣れてきたらもっと目を広げる」 じっと耳を傾ける騎士団長は、一つの疑問を呈した。「しかし、多くはないと言っても十名以上はいます。それら全てを網羅されると? 恐れ入りますが、名も爵位も様々です。私も完全に把握しているのは軍団長まで。それ以下の者は、各団長に一任している状態です。師団長は更に多く、兵卒ともなれば、かなりの功績を上げなけれ
last updateLast Updated : 2025-09-19
Read more
PREV
123456
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status