殿下が退出されると、途端に寂しさが顔を出す。ちゃんと約束もしたし、戦に行く事もない。それでも、まだ不安定な情勢下では、またいつ戦が始まるか分からなかった。 アックティカとの戦いは、一旦の目途がついている。しかしそれは、今回の出陣で大将首だった宰相、この呼び方はもう相応しくないかしら……元公爵オードネンを打ち取ったからであり、決着がついた訳ではない。オードネンがいなくなった今、私の遠見は当てにならなかった。 私が知り得たのは、あくまでオードネンの周囲だけ。やり取りがあった人物も、絵姿で確認してみたけれど追う事はできていない。つまり、直接会わなければ、遠見の対象にはならないという事だ。 今度また戦が始まれば、私は役に立てないだろう。私に何ができるのか。そう考えて思い付いたのが、味方陣営との連絡役だ。これは今回の戦でもしていた事ではある。 殿下もいらっしゃる戦場の情報収集なら即時反映できるから、私は殿下の目を通して戦況を陛下に伝えていた。それに加えて、騎士達とも面通しすれば、見える範囲が広がり情報量も増える。 もしかしたら内通者を見つける事だって可能かもしれない。これは一度、陛下にご相談してみる価値があるだろう。 そのためには騎士団の方々とお会いしなくては。事前に準備しておけば、いざという時に慌てなくて済む。それに、騎士団には大勢の方々が所属していらっしゃるから、面談にも時間がかかるだろうし。 そうと決まればじっとはしていられない。今は軍議の最中だから、使いを出してお時間をいただかねば。すぐに手紙を認め、ネフィへ指示を出すと、扉の外で見張りをしている騎士に伝えてくれた。遠ざかっていく小走りの足音を聞きながら、私は図書室へと向かう。 図書室には年代別に、王城へ従事している者の名鑑が収められている。殿下が私のためにと準備してくださった物だ。書物は手書きだから、書き写すだけでも膨大な仕事量になる。その上、装丁は鞣した革、紙も羊皮紙でとても高価だ。そんな写本が、私のためだけに集められた図書室は種類も
Last Updated : 2025-09-16 Read more