Lahat ng Kabanata ng 年下王子の重すぎる溺愛: Kabanata 61 - Kabanata 70

86 Kabanata

43 報いるために

 やっと殿下、改めアルの腕の中から抜け出すと、脱ぎ散らかされていた寝衣を拾い上げ身にまとう。極薄だけれど、無いよりましだろう。しかしアルは、そんな私を楽しそうに眺めている。「うん、そういうのもいいよね。隠されているのって、逆に唆るって言うか……ドレスの裾から足首が見えるの僕好き。あ、勿論リリー限定だから勘違いしないでね。透けてるのも色っぽくて、誘ってるようにしか見えないよ? それを今更着るのって逆効果じゃないかな」 揶揄うよう弾む声に、私は固まった。昨夜は緊張で、よく自分の姿を確認していなかったけれど、見下ろす体には赤い跡が無数に散っている。寝衣の上からでもしっかりと『それ』が見えるという事は……。 不安に駆られそっと腕を上げると、想像以上に見えてしまっていた。「こ、これ……な、嘘……!?」 なんとか体を隠そうと辺りを見渡しても、そんなものがある訳もなく、布団に逆戻りした。頭まですっぽりと被り、体を丸めるとアルの腕が優しく包んでくれた。「ほんと、可愛いんだから。もう隅々まで見られてるのに、隠す必要なんてないでしょ。それに、中に入ると僕のが見えちゃうよ? 名残りなんかも……ね」 アルの言うように、目の前には昨夜私を蹂躙した『モノ』が。それから目を逸らすと、今度は赤い血痕が目に入り嫌でも記憶を引きずり出す。さっきも触られて戻ってきていた熱が更に増していく。 しかたなく、もぞもぞと布団から目だけを出すと、アルと視線がかち合った。にんまりと笑う最愛の人は、年相応の無邪気さだ。それでも、昨夜だけでどれほど私を想ってくれているのか分かった。「アル、ずるいです……」 むくれながら文句を言うと、また可愛いの連発。この方は、どれだけ私を甘やかせば気が済むのだろう。   「アルも、可愛いですよ? もっと甘えてくれていいんですからね? 政務も忙しいとは思いますが、私と一緒の時くらい、子供に戻っても……」 私が言いかけると、今度は不機嫌に眉を寄せた。「リリーにとって、僕は子供なの? 昨夜の行為だけじゃ、まだ足りない? それな
last updateHuling Na-update : 2025-09-26
Magbasa pa

44-1 あるべき姿

 アルは枕を抱いて、私の言葉に耳を傾ける。「皆様も、良くしてくださいました。まだ婚約者である私は、夫たる貴方の戦功によって、今後の身の振り方も考えねばなりません。考えたくもありませんが、討ち死にの可能性もあるのですから……」 それは離れていた間、何度も見た悪夢。傍に行こうとしても、進まない足。声にならない叫び。ただ、目の前で愛する人を、貫く刃を見ているだけ。赤く染っていく世界で、飛び起きる日が続いた。すぐに遠見で無事を確認して、安堵していたのを覚えている。「ふとした時に、不安で苦しくなるんです。遠見で状況は把握していましたが、いつ何が起きるともしれません。そんな時に、フェティア様やリリエッタ様がお茶に誘ってくれるんです」 お二人は、めいっぱい可愛く部屋を飾り、美味しいお茶と一緒にアルの昔話しを聞かせてくれた。私の知らないアルの事を知るのは、とても楽しくて。つい思い出し笑いをすると、アルは少し拗ねたように口を尖らせた。「何? ︎︎変な話しとかしてないよね? ︎︎あいつら口が軽いからな~」 そこはやはり兄妹。よく分かっている。「ええ、お聞きしましたよ? ︎︎フェティア様はアルの三つ下ですから、物心がついたのは私と出会った後で、当時の事をよく覚えておいででした」 くすりと笑うと、アルは枕に突っ伏し、首元まで赤くなって悶えていた。「う~っ! ︎︎一番リリー本人に知られたくない時期じゃない!」 聞いた私でさえ気恥しいお話しの数々だったのだから、当人にとっては触れられたくない部分なのかも。 私と出会ってからのアルに、陛下や王妃様は相当手を焼いていたらしい。身辺調査は当たり前で、ドレスの寸法や食の好み、一日の予定まで調べつくし、実家と取引のある農家や商会とも接触していた。。どおりで、初日から私好みの食事が出るはずだ。その中でも一番力を入れていたのが、私に送られる婚約の打診を悉く握り潰す事。お父様さえ知らない内に消えた縁談は、数知れないという。 その他にも、ネフィが言っていた寝所の作法を記した教本の話しや、私が学んでいる事を調べ倣ったり、騎士に混ざって修練していたりと、使え
last updateHuling Na-update : 2025-09-27
Magbasa pa

44-2 あるべき姿

 国を良くするには表も裏も、使い熟さなければならないのだから。それを非難する事は、誰にもできない。民衆は知る事さえないけれど、その恩恵で平穏な生活ができているのだ。 私も、予定通りに進んでいれば領地を盛り立てるため、時に他者を踏み台にしなければならなかった。特産品の売利上げを伸ばすのは、同種の商品を扱う人達を押し退けるという事と、同等の意味を持つ。 領地が栄える裏には、飢える人がいる。同じ国内であれば、話し合いでそれぞれの取り分を決めもできた。しかし、他国となればそうもいかない。だからこそ、宰相はアックティカに組したのだと思う。 まだ発展の余地がある農業国家で権力を握れば、税収や農作物の独占も可能になってくる。おそらく、丞相で終わるつもりはなかったのだろう。甥のピエット伯爵も連れて行っているのだから、このカーザイトだけでなく、アックティカの掌握も計画に入っていたはずだ。 最悪の結果は避けられたと思う。それでもまだ芽は残っている。 不意に黙った私に、アルは首を傾げた。「りりー? もしかして、嫌いになった……?」 その声は不安気で、逞しくなった体でも可愛く見える。その不安を取り払うように、私は明るく応えた。「いえ、頼もしい伴侶に出会えて幸せだなって思っていました。貴方は王家の何たるかを、よく理解していらっしゃいます。善政の意味を履き違える事無く、政を行うのは難しい事です。権力だけを欲する王も愚かですが、善だけを欲する王もまた、愚かと言えます。でも貴方は、裏も表も知っている。それは王として重要な事でしょう」 それは意外な言葉だったのか、アルはきょとんとしている。そして次第に笑みへと変わっていった。「うん、僕も幸せ。リリーも、王妃として必要な事をちゃんと理解してる。君の言う通り、政は奇麗事だけじゃ成り立たない。父上にも恨みを持ってる奴は多いだろうね。まぁ、その筆頭だった宰相が消えたから、やりやすくはなったかな」 二人で見つめ合い、笑っていると控えめなノックの音が響く。「昼食をお持ち致しました」 聞こえたのはネフィの声。 そ
last updateHuling Na-update : 2025-09-27
Magbasa pa

45-2 未来

 そんな二人を見て、笑いが込み上げてきた。つい、くすりと声が漏れて、視線が集中する。変な所で同調するんだから。ふふ、二人が仲が良くて嬉しいです」 そう言えば、ネフィがにがい顔をした。「仲が良いなど、恐れ多い。私はただのメイドでございますから」 それに反して、アルは嬉しそうだ。「うん、ネフィはね、リリーの事を色々教えてくれるんだ。好きな物や場所をね。今度一緒にミネス湖畔に行こうよ。ご両親とよく行ってたんでしょう? リリーが好きな景色を一緒に見たい」 アルは楽し気に、あそこも行きたい、ここも行きたいと指折り数える。王位を継げばそうそう遠出などできないから、まだ身軽な王太子の内に旅行したいとも言っていた。 そして、こうも。「その時、子供も一緒だと楽しいだろうね。僕は父上が早くに王位に就いたから、一緒に出掛けるなんて、仕事でしかなかったんだ。だから、いろんな所に一緒に行きたい。きっと可愛いんだろうな~。リリーの子供だもんね」 アルが同じように考えていた事に、私はまた嬉しくて笑みが深まる。「そうですね。私も今考えていたんです。子供ができたら、できるだけ自分の手で育てたいって。世継ぎとなる子ですから、甘やかしてばかりはいられないでしょうけれど、愛情を持って、アルと幸せな家族になっていきたいです」 王位継承者となる子には、厳しい教育も待っているだろう。でも、私達がその苦難を支える存在になれたら。そう思って言った事なのに。「よかった。リリーもそう思ってくれるんだ。じゃあ、僕頑張るよ。子供は早い内にできても困らないからね。ネフィ、そういう事だから」 にこやかにそう告げると、ネフィは溜息を吐きつつも一礼して退出してしまった。訳が分からず首を傾げる私に、アルは意味深な発言をする。「子供は何人欲しい?」 私の腕を引きながら、向かうのは大きな寝台。 まさか、今からまた?「あ、あの、お仕事はいいんですか!?」 若干怖気づきながら叫ぶと、アルは天使の笑顔で答える。「戦の功労で三日
last updateHuling Na-update : 2025-09-28
Magbasa pa

45-1 未来

「リージュ様、そう落ち込まないでください。私達メイドは慣れておりますから。最中であっても、空気のように仕事をするだけです。お気になさらず」 私の静止を待たずに部屋へ入ってきたネフィとメイドは、淡々と食事の用意をしている。恥ずかしくて隠れたのも、なんだか馬鹿らしくなってしまった。 そうは言っても、薄衣一枚で人前に出るのも憚れて、一度自室に戻り、着替えを済ませる。体も拭きたくてネフィにお湯を頼むと、既に用意されていた事に驚く。こういう所が流石だ。ゆったりとしたドレスに袖を通し、寝室に向かうと、アルも着替えを済ませて待っていてくれた。 寝室には日光室があり、陽射しが心地いい。ようやく人心地着いて椅子に座ると、暖かい料理が並べられる。イールのムニエルに、キノコと豚肉のスープ、豆と緑黄色野菜のサラダ。そして、ガーリックトースト。「……あの、ネフィ?」 アルは上機嫌でカトラリーを手に取っているけれど、お昼から少し豪勢な、そしてあからさまな料理に私は頬を引くつかせる。どれも精が付く食べ物だ。昨夜の夕食もそうだったなと思い出す。鶏の肝のワイン煮や、この辺りでは貴重な牡蠣の燻製まであった。 アルは王太子だから世継ぎが必要なのは分かっているけれど、今までとは違う重責を感じる。国をよくする事も大事だ。それと同様に、世継ぎを産む事も王妃の大事な仕事。 私はもうひとり身を通すんだと思っていた。十八になるまで求婚者はいなくて、実家も従兄弟が継ぐ。結婚なんて縁遠い話しだと思っていたのに、それさえ飛び越えて世継ぎを望まれている。 私が詰め込んだ知識は、全て領地経営に関するものだ。子供の育て方は多少は知っている。従兄弟は二つ下だから、たまに領地に来た時は遊んでいたし、お漏らしの後片付けくらいはやっていた。でもその程度だ。 自分の子供ともなれば、責任が全然違う。もちろん乳母はついてくれるだろうけれど、任せっきりにはしたくない。お母様も、乳母の援助を受けながら私を育ててくれた。何より好きな人の子供だもの。私の手で育てたい。 不意に口を閉じた私に、アルが怪訝な顔をする。「リリー? 嫌いな
last updateHuling Na-update : 2025-09-28
Magbasa pa

46-1 独占欲

 この二日間はほとんど寝室から出る事ができなかった。決して、ずっと交わっていた訳ではないと名誉のために言わせてもらいたい。 私達は会えなかった一年の時間を埋めるように、日光室でまったりとお話しをしたり、お互いの好きな料理を食べあったと静かで、穏やかな時間を過ごしていた。 アルは立場上、休みなどほとんど取れない。しっかりと休息できるのは、今回のような戦の報奨だけだ。それも戦功を挙げなければ得られない。行事には出席する事が当たり前だし、政の合間には勉学や、剣の稽古もある。 戦に行く前、たった数日だったけれど、アルが離宮に来るのは決まって夜だった。そして、夕食を共にすると本城へと戻っていく。ネフィに聞いた話しでは、まだ残っている仕事に向かっているという。 王族や貴族は、豪奢なドレスに身を包み、豪勢な生活を満喫するものだと思われがちだ。物語でも、王子様に憧れるものをよく見かける。 しかし、それは間違い。 他の国は知らないけれど、少なくともこの国の王族は裕福な生活の対価をちゃんと払っている。時に宰相オードネンのような輩が現れても、その罪を見逃す事は無い。ユシアン様がそうであったように。 あの後、ユシアン様は処刑された。まだ十一の幼い子供であっても、行ってきた罪が重すぎる。いくら親の影響があったとしても、善悪の区別はつく歳だ。せめてもの救いとして、処刑方法としては軽い、斬首刑に処せられた。 城下町に降りれば、十に満たない子供が働いている事も多い。仕事と言っても厨房の皿洗いや、物資の配達などの軽作業が主で、生活のためには仕方がないのかもしれない。けれど、それは子供の成長にもいい影響を与える。 勉学も、もちろん必要だろう。数字や文字が分かれば仕事の幅も広がる。子供達は仕事の中でそれを学んでいく。帳簿の見方、物資の管理、配達の数。そういったものを通して、実用的な算術や文字を覚えていくのだ。 その中で褒められたり、罰せられる事で善悪も学ぶ。特に悪い事は、雇う側の信用問題にも関わってくるから厳しく躾られる。 ユシアン様はそれをされていなかった。お母上も贅沢を好む方で
last updateHuling Na-update : 2025-09-29
Magbasa pa

46-2 独占欲

「リリー? ︎︎浮かない顔だけど、どうしたの? ︎︎やっぱり戦場の話しなんていやっだったよね、ごめん」 私はその声にはっとして顔を上げた。そこにはまるで垂れた尻尾が見えそうなアルの姿が。「ち、違います! ︎︎その、ユシアン様の事を思い出していて……宰相の娘に産まれなければ、違う結末だったのだろうかと。もしかしたら、私ではなくユシアン様が……」 そう言いかけると、アルが机を叩き立ち上がる。「リリー、それ以上言ったら怒るよ?」 怒気を込めて放たれた言葉に肩が竦む。アルが私に対してこんな物言いをするのは初めてだ。「申し訳ありません……」 俯くと、涙が滲んできた。本当に、こんな自分が嫌になる。どれだけアルが愛情を示してくれても、自信が持てない。 しょげてしまった私の元に膝をつき、アルは優しく髪を撫でた。「僕も強く言いすぎたよ、そんなに落ち込まないで。でもね? 例えユシアンがまともだったとしても、僕はきっとリリーを好きになってた。それが精霊王の決めた事であろうとね。そこだけは信じてほしいな」 アルはいつも優しい。こうして私の欲しい言葉をくれる。それに応えられるだけの器量が、私にあればいいのに。「いえ、貴方は悪くありません。悪いのは私です。こんなに愛情を貰っているのに、まだ私なんかが王太子妃でいいのかと度々思います。知識だって、ここに来てから増えました。メイドや番兵の皆さんもよくしてくれます。それでも、やはり染みついたものは中々消えなくて」 曖昧に微笑むと、アルは苦笑いをしつつ口を開いた。「う~ん…なんでそんなに自信が無いのかな……君は十分に魅力的だよ? って、そうか、僕のせいだったね。フェリット伯爵からも聞いていたんだ。求婚者が一人もいなくて、リリーは自分のせいだと何かにつけ頭を下げるって」 そう、あの頃は釣書の一枚も来ず、自分の存在価値すらも分からなくなっていた。また落ち込んでいく私に、アルから衝撃の言葉が飛び出す。「ごめんね、リリー。君を奪われたくなくて、求婚しようとする奴ら全部握り潰していたんだ。多い時は
last updateHuling Na-update : 2025-09-29
Magbasa pa

49-1 王太子妃の務め

 アックティカ鎖国の一報が入って数日。平穏な日々の中でも、着実に戦への準備が行われていた。まずは兵糧や軍備、これが整わなければ戦う事は困難になってしまう。特に兵糧は狙われやすく、運搬路を襲撃するのはどこの国でも定石だ。運搬を阻害されてしまえば、兵はただ飢えて死んでいくだけになる。軍備もそう。鎧や武器、馬の調達が急がれていた。 私もできる限り協力を惜しまず働いていた。騎士団との面談や、取引商とも面談を行い、王城にいながら軍備の確認をしていた。 毎日がその繰り返し。それでも、昼食だけはアルと共にしていた。その時間が何よりの休息。お互いを励まし合い、意見を交換してさらに良い案を出してく。結局は仕事の話になってしまうけれど、それも仕方のない事と割りきっていた。 この難を乗り切れば、また平和な時代が訪れるのだから。 そんな忙しさに追われていたある日の事。いつものようにアルの執務室で昼食をとっていた私達の元に、いきなりクムト様が来訪した。 クムト様とはあの開戦の日以来お会いしていなかったのに、なんの知らせもなくひょっこり現れ、壁際に置かれていた予備の椅子を持ってきてしれっと私の隣に座る。それを見たアルは一瞬にして鬼の形相と化した。「おい! クムト! リリーの隣に座るなよ!」 そう言いながら、クムト様を引きずり少し離れたソファに押し込める。かと思うと、自分の椅子を私のすぐ横に置き、守るようにくっついてくた。あの日にも言っていたけれど、すごい警戒の仕方だ。 そんなアルにも、クムト様はにこやかに笑っている。そして私に視線を向けると、不意に問いかけた。「りっちゃん、何か悩み事あるでしょう。当ててみようか?」 ソファに寝転がり、だらけた体勢でネフィがテーブルに置いたお菓子を摘まみながら、いきなり確信をついてくる。私の肩が跳ね、心臓が大きく脈打った。「い、いえ、何も。クムト様ご冗談を」 きっと、クムト様が言っているのは戦の事じゃない。ずっと気になっていて、でも聞けずにいた事だ。私は何故かそれを知られたくなかった。嫉妬深い女だと思われたくない。実際に当人達にも既に聞いている事で、何もないはずなのだ
last updateHuling Na-update : 2025-09-30
Magbasa pa

48 暗雲

 三日間の休暇はあっという間に過ぎ、アルは別れを惜しみながらも仕事へ行ってしまった。寂しいけれど、引き止めるなんて愚かな事はしない。夜には帰ってきてくれるのだから。 そしてその間に、私も王妃教育を受ける運びとなっていた。この一年、アル不在の中でも王妃教育は受けてきている。覚えなければならない事は膨大だ。既に知っている分野もあったけれど、その範囲が多岐に渡った。歴史に語学、地学、農学、そのどれもが桁違い。私が独学で知り得た知識など、ほんのひと握りだったのだ。 次々に先生が入れ替わり、息をつく暇もない。授業の間だけは寂しさが紛れていたけれど、夜に自室で一人になると、昼間の忙しさの分余計にアルが恋しくなっていた。 それが今では毎日会えるのだから、贅沢は言えない。それに会おうと思えばすぐに会える。王妃教育も王城で行われるから、アルの執務室まではほんの数十分の距離だ。「お昼はお弁当を持って、執務室へ行かれてはいかがですか? ︎︎殿下はお忙しいでしょうから、サンドイッチをご用意しますね」 ネフィもそう言って、二人の時間を少しでも作ろうとしてくれる。そのネフィは、何故かこの三日でアルへの態度が和らいでいた。私が聞いても誤魔化され、二人で意味ありげに目配せするばかり。 仲がよくなってくれたのは嬉しい。でも心のどこかがチクリと痛む。何かの病かと調べてみても分からなかった。 そんな日が続きながらも、情勢は安定し、国中に穏やかな暮らしが広がっていた矢先。「アックティカが動いた」 お昼のお弁当を手にして執務室を訪れた時、アルが神妙な声で呟いた。 ピエット伯爵や宰相派の動向は、放った間者によって逐一報告されている。その内容は輸出入の禁止。俗に言う鎖国だ。 アックティカの農作物はカイザークのみならず、多くの国に輸出されている。それを全て止めたと、アルは言う。「そんな……それではアックティカの民に影響が出るのではないですか? ︎︎貴重な収入源がなくなってしまいます。酪農業が豊富ですから飢える事はないと思いますが、生産過多では意味がありません」 この国を含め、他国もアックティカから輸入は
last updateHuling Na-update : 2025-09-30
Magbasa pa

47 想いの重さ

 アルが何を言ったのか一瞬分からず保けていると、無邪気な声で話しは続いた。「リリーってフェリット伯爵家の跡取りだったでしょ? ︎︎だから貴族の次男坊やらにとっては美味しい獲物なんだよ。婿入りすれば伯爵位を継げるし、領地も手に入る。昔はお転婆だったみたいだけど、リリー本人は可愛いし文句のつけようがない。そんな奴らがこぞって求婚しようとしてんだ。ふざけてるよね」 表情こそ柔和に微笑んでいるけれど、目がちっとも笑っていない。私は口を挟む事もできないまま、背を冷たい物が伝う。「もちろん、中には本当にリリーが好きだからっていう奴もいたよ? ︎︎僕としてはそいつらの方が厄介だったかな。どれだけ圧力をかけても怯まないんだ。たぶんリリーの知ってるやつもいると思う。徹底的にぶっ潰してやったけどね」 鼻息も荒く、褒めてとばかりに胸を張る。これは、どう反応するべきなのかしら。私のために頑張ってくれた事は嬉しい、のかもしれない。そこまでして欲してくれたのだから。 でもそれって六年前、つまり五歳の頃のはずだ。私と出会ってから、ずっとそんな事をしていたのかと思うと複雑でもある。 確かに、アルは騎士団長にも当たりが強かった。出征前、番兵と談笑していた所に行き当たった時も、割り込んできたアルには棘があったように思う。 この三日間、ずっと一緒にいても私を離そうとしなかった。ソファでも隣に寄り添い、肩を抱いてぴったりとくっつき、うとうとする事もしばしば。 完全に離れるのは、食事の時くらいだろうか。さすがにくっついたまま食事をするのは難しい。お風呂も一緒に入りたがったけれど、やんわりと断り今の所は事なきを得ている。いくら体を見られていると言っても、お風呂だと妙な気恥ずかしさが湧いてくるのだ。 そんな葛藤が顔に現れたのか、アルは何を思ったか変な弁明を始める。「あ、でも命を取ったりはしてないから安心してね。社会的に抹殺した程度だよ。それも正当な理由でだから、不正はしてない。一番しつこかったのはマセオーエン男爵の三男だったかな。エントっていう奴だけど、知ってる?」 その名前を聞いて、私は変な声が漏れてしまった。「エ
last updateHuling Na-update : 2025-09-30
Magbasa pa
PREV
1
...
456789
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status