Lahat ng Kabanata ng 年下王子の重すぎる溺愛: Kabanata 71 - Kabanata 80

86 Kabanata

49-2 王太子妃の務め

「あーちゃんと、そこのメイドが仲いいのが気になるだよね?」 ぐっと心臓に痛みが走る。アルの顔を見れず俯くけれど、クムト様は話を続けた。「あーちゃんさ、ちゃんと言ってないよね? 君……えっとネフィだっけ。じゃフィーちゃんね。ご主人が悩んでるの気付かなかった? 前はあーちゃんに対してツンケンしてたのに、急に仲良くなったらそりゃ気になるでしょ。それとも、そんなに深刻に考えてなかった?」 やめて、言わないで。 そう言おうとしても、声が出ない。真相を聞くのが怖くて、耳を塞ぐ。隣でアルの動く気配だけが伝わってくる。「いや、それは……だってあんなの、女の子には酷でしょ? リリーには教えたくなかったんだ」 ネフィも黙り、永遠に感じる沈黙が部屋に満ちる。それをクムト様は呆れたような溜息で壊した。「あのさ~、今の方が酷なの! そりゃ驚くだろうけど、王太子妃として知っておかなきゃいけない事だし、あーちゃんへの信頼も揺らいじゃうよ? フィーちゃんも、今まで培ってきた関係が崩れちゃう。それは嫌だよね?」 それを聞いて、アルが私を覗き込み、囁いた。「そう……なの? 僕、君を不安にさせてたの?」 触れるアルの指が震えている。顔を上げ視線が合うと、アルは驚いたような表情をした。それも滲んできて、堪えられなくなってしまう。ゆっくりと頷くと、アルは私を抱きしめ何度も繰り返した。「ごめん……ごめんね。ネフィとはそんなんじゃないから、絶対に僕にはリリーだけだから! まさかそんなに悩んでたなんて、気付かずにごめん」 ネフィも後に続き頭を下げる。「私も、リージュ様がそこまで気に病んでいらっしゃるとは思わず……申し訳ございません。しかし殿下の仰る通り、何もございませんからご安心ください。ただ、その……非常に言いにくい事でございまして……」 アルとネフィは助けを求めるように、クムト様に視線を向けた。私もクムト様を見つめ、言葉を待つ。「はぁ~、もう。君達、過保護じゃない? りっちゃんは王太子妃になる覚悟を決めた子なんだよ? そこは仕方のない事だって理解してくれるって」
last updateHuling Na-update : 2025-09-30
Magbasa pa

50 ︎︎導く者

 素っ頓狂な声を発し、勢いよく立ち上がると、大きな音を立てて椅子が倒れる。ネフィが素早く動いて位置を戻した。「そ、そん、え? 何……なんですかそれ!?」 知らされた事実に、頭が混乱する。 み、見られていた!? 誰に!? パクパクと口を開閉している私はきっと間抜けだろう。アルとネフィも気まずそうに視線が泳いでいた。ただ一人、笑っているクムト様が頬を掻く。「博識なりっちゃんなら知ってるかもって思ったけど、その様子じゃ全然知らなかったんだね」 その言葉に、どもりながらなんとか応えた。「お、王族にはそういった慣習があるというのは少しだけ……で、でも! ︎︎それは国王が側室から唆されないように、監視の意味があるはずです。カイザークには側室の風習はありません。だから、そういったものも無いのだと……」 そう、他の国には後宮やハレムなど、世継ぎを確実に残すための施設がある。貴族や豪商の娘が集められて、たいそう豪奢だと文献で読んだ事があった。 その場合、王は多くの女性と関係を持たなくてはならない。中にはユシアン様のように、地位や金銭を目当てに近付く者もいるから、監視として夜伽役が側に控えるのだ。 しかし、このカイザークでは側室は存在しない。精霊王との契約もあってか、歴代の王はただ一人の王妃を娶る。現国王陛下もそう。アルもそう言ってくれた。 だからそんな風習ないと思っていたのに! 事前に説明もなかったし、ネフィだって、アルだって何も言わなかった。 顔色を赤から青へとめまぐるしく変える私に、アルが申し訳なさそうに口を開く。「あの、黙っててごめんね。だってそんな事言ったらきっと躊躇うでしょ? ︎︎そうじゃなくてもガチガチだったんだし、とても言えなくて……ネフィとも相談して、リリーの王妃教育が落ち着いてからにしようって」 ね、とネフィに話を振ると神妙に頷いた。「はい。殿下が出征され一年の猶予があったので、それとなく夜伽のお話しをしようとしたのです。ですが、リ
last updateHuling Na-update : 2025-10-01
Magbasa pa

51 恋の病

「あら? ︎︎でも、夜伽とアル達が仲良くなった事に、どういう関係があるのでしょうか」 まさかの事態を知らされた衝撃で忘れかけていたけれど、そもそもは二人が仲良くなった経緯だったはず。確かに、あの後からネフィの態度は軟化したように思う。その理由が分からない。 そう問えば、ネフィが腰を折りながら口を開いた。「それに関しましては、私から申し上げます」 顔を上げると、ちらりとアルに視線を向ける。それには少しの棘があった。「無礼を承知ではっきり言わせて頂きますが、私は最初、殿下を信用しておりませんでした。例えリージュ様を守るためとはいえ、何も知らせず、五年もの間放置していたのですから。その間に闊達だったリージュ様は、次第に自信を失ってしまいました。たったひとつの求婚も貰えない自分には、貴族として価値が無いのだと」 アルはネフィの言葉をじっと聞いている。その表情は真剣で、文句も言い訳もしなかった。「旦那様にくらいは連絡を取ってもいいはずです。危険を伴うので秘密裏に行う必要はありますが、殿下にはその力があります。なのにそれをしなかった。信用しろという方が無理でしょう? それなのに、初対面のお茶会でもう自分のものだと思っていらっしゃった。リージュ様は処罰もご覚悟の上で、婚約破棄を願い出ようとお考えだったのですよ?」 ネフィの語気は強く、攻めているようにも聞こえる。けれど、私は違うのだと感じた。だって、もうそこを超えているのだもの。苦言というより、愚痴に近いものなのだろう。アルも苦笑いしているから、悪い空気はなかった。 クムト様はまるで孫を見るような目で、ネフィを眺めている。五千年も生きる賢者にとっては、だれもが愛しき子供なのかもしれない。「そこで問題の夜伽です。私も専属として列に入れてもらい拝見していたのですが、殿下はリージュ様をとても大切に扱われました。若さに任せた独りよがりの行為ではなく、一人の男性として行動されたのです。リージュ様を気遣い、ご自分の欲だけを押し付けたりなさいませんでした。だから思ったのです。この方なら、安心してリージュ様をお任せできると」 そ
last updateHuling Na-update : 2025-10-02
Magbasa pa

52-2 頼もしき存在

「フェリット家は子爵から伯爵に引き上げられた一族だよね。もちろん実力で得た地位だけど、その戦功が著しい。褒賞だけで済むのに、爵位まで上げたんだから。そして次代達も評判が良くて、騎士団の中で重用されている。そんな生え抜きのフェリット家を、オードネンが放っておく訳ないでしょ」 確かに、子爵家は貴族の遠縁などが叙せられる爵位だ。我がフェリット家は父方の本家、イタル侯爵家の末端であり、男爵よりは上位であるけれど微妙な立ち位置だった。それが一気に爵位を上げたのだから、古参には面白くないだろう。宰相はその筆頭で、陞爵を受けた曾祖父の代から目をつけられているとぼやいているのを聞いた事があった。 ここまでは私もアルから聞いている。オードネンが簒奪を企て、暗躍していたせいで動けなかったと。更にアルは続ける。「手紙を送ろうにも、誰が敵か判断が難しくて預けられなかったんだ。その頃の僕はまだ八歳で、お披露目もしていない、ただの王子だったからね。動かせる騎士もいなくて……だからせめて婚約だけは阻止しないとって、親交を深める手紙を装って、リリーと同年代の子息を牽制してた」 むくれた顔で白状すると、クムト様が頭を撫でる。それを邪険に払いながら、私にくっついてきた。「そのせいでリリーは自己肯定感が低くなったんだ。甘やかして何が悪い? 責任は取るべきだろ」 それにネフィが賛同の声を上げる。「そうです。殿下のせいでリージュ様はご自身を卑下なさるようになったのですよ? 自信を取り戻すのも、張本人である殿下でないと意味がありません」どこか棘のある言い方に、アルは頬を引きつらせていた。「え……僕の事、認めてくれたんじゃないの……?」 ネフィはつんと澄まして応える。「はい。認めておりますとも。ですが、これとそれとは別問題です。事実、殿下がリージュ様に劣等感を植え付けたのですから。私、それについては許すつもりはございません」    相手は王太子だというのに、ネフィはどこまでも実直だ。それは嬉しくもあり、危なっかしくもある。苦笑いしながら隣を見ると、アルは『反
last updateHuling Na-update : 2025-10-03
Magbasa pa

52-1 頼もしき存在

 嫉妬……つまりはヤキモチ?  私、ネフィにヤキモチを焼いていたの? ぽかんとする私に、クムト様は言う。「りっちゃんは嫉妬するほどの自信もなかったんだね。嫉妬や妬みは、何も悪い事ばかりじゃないんだよ。時に自分を鼓舞する力にもなるんだ。負けてたまるかってね。りっちゃんも昔はそうだったでしょ?」 嫉妬が……自信……? 言われてみれば、昔は確かに私より物知りな子に嫉妬していた。私の知らない事を自慢げに話す子が憎らしくて、負けてたまるかと勉強したんだ。そして次にあった時に言い負かすのがとても楽しくて……。「お父さんから聞いてるよ。周りの男の子に喧嘩売ってたって。でも求婚者が現れない事で、次第に自信を失っていった。貴族の令嬢にとって、結婚は仕事でもあるからね。それをあーちゃんが止めちゃった訳だ。それが急に過保護にされて、心が追い付いていないんだよ。聞いてる? あーちゃん」 クムト様に注意されて、アルは口を尖らせる。「過保護でもいいじゃない。五年も待たせちゃったんだし、その分の愛情を注いでるだけだよ」 ネフィもそれに同意して頷いていた。私はそれがおかしくて頬が緩んでいまう。 ネフィは二歳上で、私を甘やかす傾向にある。私が五歳の時に専属となって以降、あれやこれやと世話を焼きたがり、同時に色々な事を教えてもらった。当時はまだ七歳だったのに、とても大人っぽく見えたものだ。 十一で初潮が来た時も、赤く染る寝台を見て怖がる私を落ち着かせ、処置をしてくれて、これがどういったものか教えてくれたのだ。 その頃は勝気で、喧嘩ばかりしていた。木に登って落下したり、男の子と掴み合いの喧嘩をして鼻血が出た経験はあるけれど、経血の量はその比ではない。幼い私は、本気で死ぬんだと思い込み泣き喚いた。勉強は始めていたけれど、まだお披露目前で、知識が十分ではなかったからかなり取り乱してしまったのを覚えている。多くのメイドが手を焼く中で、根気よく付き合ってくれたのがネフィだった。 アルに対しても、恐れず苦言を呈して諌める事がある。これは誰にでもそういう態度なのではなく、アルの性格を理解し
last updateHuling Na-update : 2025-10-03
Magbasa pa

53 暗君の掌中

「それで、用はそれだけ?」 気持ちを切り替えるように顔を上げて、アルはクムト様に問いかける。わざわざ私に夜伽の事を教えるためだけに、賢者がこの離宮に足を運ぶのは少し不自然に思えた。私も視線を向けると、クムト様は朗らかに笑う。「まっさか~。一応賢者だよボク。本題はこれから」 そう言うと、すっと目を細め指を口元に添える。「アックティカの事は聞いてるね? ︎︎鎖国して輸出入を止めてからもう二月近い。そろそろ春節だけど、あの国はほとんどの作物を輸出に回していたからね。行き場のない食物は飽食過多で、逆に備蓄が減っているんだ。全てを食べ切れるほどの人口はいないからさ」 作付けは輸出する量を計算して決められる。季節毎に適した物が違う上に、土にも気を配る必要があり、一年を通して計画していくのだ。アックティカの野菜は評判がよく、多くの国へ輸出していた。それが突然止められたのだから、有り余る食料を前にどうしようもないのだろう。 農業が盛んな国だけあって、保存食の技術も発達している。それでも腐敗は進んでしまう。特に輸出用の物は、保存食として加工しているけれど、わざと日持ちを短くしているらしい。これも王の命令で、売買の回転率を速めるためであり、言ってみれば粗悪品を流通させている事になる。民達は逆らえず、やむなく従うしかない。 そのせいでこの冬は備蓄がほぼ全滅。残っているのは米を乾燥させた干飯と、乾燥野菜、それから川で釣れる僅かな魚類くらいだろうか。比較的温暖なアックティカでは氷室が作れないのだ。 そして目の前の食糧が腐っていくのを、なす術もなく見ている事しかできない。収穫の時期はまだ遠く、力のいる農作業には栄養面で心もとない。本来であれば、備蓄は世帯毎に十分あるはずなのだ。近年は気候に恵まれ豊作だったし、味も良かった。 それなのに民が苦しむ羽目になっているのは、現国王エネメス三世の治世のせいだ。戦を口実に過剰な年貢を課し、民の手元に残るのは一冬をどうにか越せる程度の食糧だけ。春になれば野山で山菜も取れるだろうけれど、それさえも年貢として差し出さねばならない。それ以外は全て輸出
last updateHuling Na-update : 2025-10-04
Magbasa pa

54 ︎︎見えない戦い

 クムト様のお話しは、信じ難いものだった。確かに、鎖国は外界と隔絶する制度ではある。それでも、自国の民さえ入国を禁止するなんて。アックティカから出ていたという事は、出稼ぎや商談なのではないだろうか。 例え交易が盛んでも、どうしても足りない物はある。特に嗜好品は、輸入に頼ると高くついてしまう。生産量も多くなく、物によっては危険を伴い高価な上に、関税がかかるからだ。 だから直接出向き、少しでも安く仕入れる。特にアックティカは、農業国家で鉱石が不足しがちだ。山はあるけれど、ほとんどが粘土層で崖崩れも多く、それを防ぐために植林され、ただでさえ少ない鉱石を発掘するのが困難になっている。 鉱石は農業に欠かせない。農具や、作物を保存する樽を作るには必須だ。それらを持ち帰る人が締め出されていては、肝心の農作業に支障が出てしまう。 アルに視線を向けると、同じように眉を顰めていた。きっと考えている事も同じ。「父上はなんと?」 固い声でアルが問うと、クムト様は答える。「うん、難民のための居留地を作るって。それと仕事も。ある意味さ、貴重な農業の知識を仕入れる好機でもあるんだよね。アックティカが鎖国した事で、カイザークにも影響が出始めているんだ。緊急ではないにしても、輸入していた作物が減っているんだからね」 カイザークにも、農村はいくつかある。しかし、国全体を賄うには心許なく、気候も考慮すると安定した供給は難しいだろう。 もし、アックティカの難民から知恵を借りる事ができれば、それも緩和される可能性があった。 クムト様の言葉に、アルも頷く。「確かに。今後全面戦争になるにしても、難民の受け入れは必要になってくるし、勝たなければカイザークの民も同じ道を辿る事になる。厳しいな……」 先の戦ではオードネンが率いていたためか、正面から仕掛けてきた。それはこちらとしては優勢に働き、勝利を得たけれど、次は傭兵が動く可能性が高い。 傭兵は金銭で契約を結び、軍師とは違う戦略を使う。攻撃手段も遠近共に多彩で、機動力に優れている。武力としては軍が上だけれど、個々の戦いで
last updateHuling Na-update : 2025-10-05
Magbasa pa

55 遙かなる刻の中で

クムト様はアルの捻くれた激励に苦笑していた。結構ひどい事を言っているけれど、そこには友愛も感じられる。最初の面通しは、五歳の誕生日を迎える朝に行われるそうだ。それから九年の付き合いなのだから、私の知らない何かがあるのだろう。 少しの嫉妬と、羨望の眼差しで二人を見つめた。私にも、数人の友はいる。けれど、はたしてここまで信頼し合えているのか。 十三のお披露目から親しくしているのは、たったの三人。それも友人とは言え、お茶会で令嬢らしい会話をするだけの関係でしかない。友人のお茶会に誘われて行けば、知らない令嬢とも出会う機会があった。女の園ともいえるお茶会は、自領の自慢や産物の売り込みだったり、流行りの店や演劇、ともすれば下世話な話題ばかり。私もフェリット領で獲れた新茶をお出しして、もてなしていた。でもどこか虚しくて、どんな話をしていたのか、あまり覚えていない。 それでも、自領の益になる情報だけは、脳内に焼き付けなければならなかった。きっと他の令嬢も同じ。違うのは、他人を押しのけ、より良い条件の男性と縁を持つ事に執着しているところだろうか。そして、無事に嫁げば、今度はその自慢が始まる。 私はもう婚約破棄されていたから、その手の話題になると、みんな気まずそうにして空気を悪くしてしまっていた。申し訳ない気持ちもあったし、中には嘲るように皮肉をぶつける人もいて、徐々に足は遠のいていく。最後のお茶会はいつだったか。「リリー?」 アルの声にハッとして顔を上げると、二人の視線が集まっていた。いけない、今はそんな事を考えている場合ではないのに。「ごめんなさい、お二人がとても仲が良くて、少し羨ましくなってしまいました」 慌ててそう言えば、クムト様が笑い出す。「あはは、ボクにまで嫉妬しちゃったか~。りっちゃんって、意外と独占欲強いんだね。ま、それはあっちゃんも一緒かな。いや、あっちゃんのは笑えないか。知ってる? この子がどんな手を使って、君の求婚者達を撃退していたか」 クムト様の言葉に、今度はアルが慌てた。立ち上がり、口を塞ごうと詰め寄るけれど、クムト様
last updateHuling Na-update : 2025-10-06
Magbasa pa

56 愛のカタチ

思いがけない言葉に、私は戸惑った。呪い、とはなんなのか、聞いてもいいのだろうか。アルに視線を向けると、背中を撫でてくれる。「気にしなくていいよ。呪いって言っても、悪いものじゃないんだ」 そう言って、クムト様に続きを促すと、頬を掻きながら少し恥ずかしそうに話しだした。「ボクにかかっている呪いはね、ある物を探し出す事なんだ。それが見つかるまで死ねない。カイザークに留まっているのは、それがどこかに隠されているからかな。この国にある事までは突き止めたんだ。でもこの五千年、探し続けてるけど見つからなくてさ。やんなっちゃうよ」 肩を竦めながら、身の上話を語った。 五千年前、まだ十八才だったクムト様は、結婚を間近に控えていたという。花嫁は幼馴染の女性。特別美しいわけではないけれど、年上の男性にも物怖じしないさっぱりとした性格で、誰からも愛される人だったそうだ。 しかし結婚式当日、横柄な男が横槍を入れた。その男は、ずっと花嫁を付け狙っていた人物で、クムト様を晴れの場で殺害するという暴挙に出る。 この時、クムト様は一度死んだのだ。 やっと花嫁を手に入れて、高笑いする男。もちろん招待されていた住民の面前で凶行に出たのだから、警備役が捕らえようと動いた。 しかし男自身も警備役に就いていて、腕っ節が強く誰も敵わない。男は花嫁を強引に拐い、逃走を図る。 そこで異変が起った。 女性から魔障が生じたのだ。 まだ魔法が存在している時代。誰からも愛される花嫁は、精霊にも愛されていた。 愛しい伴侶を失った花嫁は、怒り悲しみ、その感情に精霊が呼応して魔障となる。周囲を突風の渦に巻き込み、破壊の限りを尽くし、男は真っ先に引き裂かれた。 そして残ったのは、花嫁とクムト様の遺体だけ。異形と化した花嫁は泣き叫び、精霊に懇願する。 ――返して……私のクムトを返して! あまりの激情に、精霊も闇に染まっていき、遂には禁呪を発動させるに至った。道反の術だ。
last updateHuling Na-update : 2025-10-07
Magbasa pa

57 遠い記憶

それからクムト様は、どれだけ自分達が愛し合っていたかを熱弁し始めた。「ボクもシーアも、すごくモテてたんだよ~。今は白くなちゃったけど、この髪も金色でね。女の子に良く声掛けられてたな。シーアはね、めちゃくちゃ可愛いの! 黒い髪が綺麗で、澄んだ青い瞳が印象的なんだ。その上、愛嬌があって、町の食堂で働いていたんだけど、働き者で可愛いって噂が広まって、ほとんどのお客さんはシーア目当てって言われるくらい!」 両手を大きく開き、身振り手振りで婚約者を褒め称える。今もまだ、その姿は脳裏に焼き付いているのだろう。当時の空気、匂いさえも。「その町は宿場町でさ、いろんな人が訪れてた。人種も職業も様々で、賑やかだったな……」 空を見つめるクムト様の瞳には、うっすらと涙が浮かんでいる。いつも気丈に振舞っているけれど、やはり不老不死は人と隔絶した存在。五千年もの間、どれほどの友を見送ってきたのだろう。長い刻の中でも忘れれられない恋人との記憶、そして再会こそが、クムト様の原動力のように思えた。 アルも神妙に話を聞いている。「父さん、母さん。弟のルイ、隣のトゥディ、ゼクおばさん……皆の顔は忘れた事ない。旅の中で出会った人達、皆、皆覚えてる。仲良くなった人も、喧嘩した人も」 クムト様は幸せを噛み締めるように、目を閉じて思い出に浸った。軽薄な態度の裏側には、計り知れない慈愛が隠されている。それが痛い程に伝わって、私まで涙が滲んできた。 そんな私を見て、クムト様は可笑しそうに笑う。「どうしたの、りっちゃん。ここは笑う所だよ? ボクの記憶に、泣き顔なんて残したくないな。ほら、あっちゃんも。じじぃの昔話なんて、笑い飛ばしてくれなきゃ」 ケラケラと声を立てておどけてみせるけれど、そんなに軽い話ではない。会えない時間の重みを知った私には尚更。 それはアルも同じで、真摯な眼差しで応える。「笑わないよ。お前はお調子者だけど、僕達の事を誰より考えてくれてる。以前、父上が言ってた。クムトはカイザークの父だって。精霊王と交渉したのも、お前なんだろう?︎ ︎ ︎人間の行いに激
last updateHuling Na-update : 2025-10-08
Magbasa pa
PREV
1
...
456789
I-scan ang code para mabasa sa App
DMCA.com Protection Status