殿下は思わず叫んだ私をじろりと睨み、口を尖らせる。 「酷いな。女の子だと思ってたの? 僕お嫁さんになってって言ったよ」 そう文句を口にしながらも私の手を引き、ソファへ座らせると何故か足の上に跨る。そのまま私に撓垂れ掛かって首に腕を絡ませた。 「あの時、君は優しく手当してくれた。どこの誰とも分からない僕に。あの時から僕は君の虜だよ。この髪も瞳も、忘れた事は無い。やっと手に入れた。僕のリージュ……」 甘く囁く殿下の声が耳を擽る。頬を撫でながら近づいてくる殿下の顔に、私は気が動転してしまった。 「で、殿下! お待ちになって……!」 胸を押して抵抗する私にも、殿下は余裕の表情だ。これではどちらが年上か分からない。 「リージュ、照れてるの? 可愛い。もう食べちゃいたいよ」 そう言いながら、グリグリと腹部に押し付けられる硬い物。それの正体に気付いて血の気が引いた。 「殿下!? あの、私達はまだ婚約者で、いや、それも解消していただけないかと……!」 私のその言葉を聞いた途端、殿下の瞳が剣呑に細められる。その瞳に射抜かれて喉がヒュっと鳴った。 「婚約を解消? そんなのダメだよ。君は僕の妃になるんだ。まだ身体も小さくて満足させてあげられないけど、すぐ大きくなるから。僕が十六になったら結婚しよう。盛大な式を挙げて、国民に知らしめるんだ。未来の王妃がどれほど美しく、聡明なのか」 美しい!? 聡明!? 私が!? それはあまりに過ぎた評価だ。自分の容姿が平凡な事くらい自覚している。殿下にはどう映っているのだろうか。不敬だけれど、その目は濁っているのでは……。
Dernière mise à jour : 2025-08-08 Read More