お茶のおかげか、緊張が解れてきたとき、ノックの音が部屋に響いた。ゆっくりと三回鳴って、ヒメリア様が扉を開ける。 そこにいたのは殿下、ではなくネフィだった。カーテシーでヒメリア様と挨拶を交わし、入室してくる。その後ろには数人の侍従が続き、大きな鞄をいくつも抱えていた。「リージュ様、お待たせ致しました。すぐに必要な物は一通り揃えております。それから、カーナ様よりこちらをお預かりしました」 ――お母様から? ネフィが持つ箱を受け取り開けてみると、そこには一組の装飾品が収まっていた。ダイヤが散りばめられた首飾り。その中心にはぽっかりと穴が開いて、銀色の台座だけが鈍い光を放っていた。並んだ耳飾りも同様だ。 これ、見た事ある。 確か、お母様が嫁いできた時に、お祖母様から受け継いだ物のはず。母方のお祖母様は厳格な方で、身なりも質素に整えていた。舞踏会に参加する時も、派手にならないよう気を付けていたと。 それでも、お爺様に恥をかかせる失態は犯さなかったそうだ。質素なドレスでも、生地は流行りの物だったり、華美ではないけれど、上等な装飾品を選ぶ目は確かだったらしい。 そして今、私の手の中にある物。 結婚する時にお爺様が贈った、一揃え。 お祖母様が身に付けたのは、挙式の日だけ。その後は大事に保管して、娘である私の母、カーナに譲られた。お母様も、身に付けたのはただ一度きり。 首飾りの中心には、嫁ぎ先を象徴する宝石が嵌め込めるようになっていて、お祖母様の時はエメラルド。お母様の時はトパーズが輝いていたという。 じっと見つめる私に、ネフィが微笑む。「やっと渡せると、カーナ様は仰っていました。本当なら、二年前にはリージュ様の手元にあったはずなのにって」 その言葉に苦笑いを浮かべ、そっと箱を閉じた。「そうね……でも、殿下との挙式が実現したら、これは使われないかもしれないわ。婚約のお話し自体、破棄される可能性があるもの」 光沢のある布張りの箱を撫でながら、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。私の|我儘《わがまま》で無理を言う
Last Updated : 2025-08-18 Read more