雛は次の試合に向け、気持ちを落ち着けるために休憩所へ向かった。 大きなテントの下には、机とベンチが並べられ、机の上には給水機が設置されている。 用意されているコップに水を汲み、雛はそれを一気に飲み干した。 そのとき、雛の隣に一人の青年が現れた。 彼も給水機から水を汲み、勢いよく水を飲み干した。 雛が見つめていると、青年の瞳もこちらを向き、目が合った。「どうも……」 雛が挨拶すると、彼も柔らかい笑顔で挨拶を返してくれる。「どうも……。あの、もしかして次の試合の方ですか?」 「はい、そうです。……あなたも?」 「はい。お互い頑張りましょうね」 その青年はとても穏やかで優しそうな、いかにも好青年という雰囲気を醸し出している。 まだ試合まで時間があるので、二人は近くのベンチに座り時間をつぶすことにした。「あの、一つお尋ねしてもいいですか。なんで参加しようと思ったんですか?」 他の参加者があまりにもお金目的などが多かったため、雛は単純に興味が湧き聞いてみた。「お恥ずかしいのですが、お金のためです。僕の母が病気で、その治療費を稼ぐために。 父はもう他界していて、弟たちはまだ小さいですし、僕が何とかするしかないんです」 お金のためと言っても、この理由に、雛は何の嫌な感情も湧いてこなかった。 それどころか、彼を応援したくなってしまった。「そうなんですね……。あなたのような方が、報われる世の中にならなければいけない。私はそんな世をつくりたいと思って、ここへ来ました。 お互いベストを尽くして頑張りましょう」 雛が握手を求めると、彼も快くその手を取った。「ところで、あなたのお名前は?」 雛が笑顔で尋ねると、彼も笑顔で答える。「須田(すだ)健一(けんいち)です」 その名前を聞いた途端、雛は固まった。 雛が青ざめていくのを不思議そうに須田は見つめる。「どうしたんですか? ――まさ
Huling Na-update : 2025-06-09 Magbasa pa