Semua Bab サムライガール雛: Bab 41 - Bab 50

53 Bab

第二十三話 黒幕②

「……どういう、意味だ」 ニヤっと笑う黒川は、ゆっくりと雛に告げる。「おまえの父は今、私の手の内にある。  おまえの答え次第で、父親と生きて会えるかどうかが決まるということだ!」 「黒川! 貴様っ」 雛が黒川に飛び掛かろうとするのを神威が止めた。 雛は苦しそうに歯を食いしばり、神威の腕の中で藻掻く。  その様子を見ていた宇随が怒りに任せ叫んだ。「卑怯だぞ! おまえ、本当にクズだな!  雛の親父を殺したら、俺がおまえを殺すからな!」 「ふはははっ、私に手を出せば即刻、そいつの父は死ぬぞ! いいのか!」 心底嬉しそうに笑う黒川を、悔しそうに宇随は睨んだ。 神威は崩れ落ちそうな雛を支えながら、静かに黒川を睨みつける。  その瞳は深い闇のような、底冷えするような光を放っている。「おまえが手下に命令する間もなく、今一瞬で殺されたとしたら?」 神威が地を這うような低い声でつぶやいた。「は?」 次の瞬間、黒川の首が吹き飛んだ。  目にも留まらぬ速さで、神威は黒川の首を斬っていた。 生首がゆっくりと弧を描き床に落ちる。  辺りに血の雨が降り注ぎ、辺りを赤く染めていく。 血で染まった神威の顔が、ゆっくりと雛に向けられる。  雛と神威の視線が交わる。 狂気――そんな言葉が似あう。  一瞬、時が止まったような気がした。「あの、すみません」 緊迫した空気を打ち破り、一人の少年が奥の襖の影から顔を覗かせた。  遠慮がちに現れた少年は、まだあどけさが残る少年だった。 少年の背後から、そろりと姿を見せるのは――雛の父、雄二。「雛……」 雄二が雛を見て、嬉しそうに微笑む。  雛は大きく目を開いて叫んだ。「父さんっ!」 雛は雄二の胸に飛び込んだ。「父さん、よかった! 無事だったんだね」 「ああ、この子が助けてくれたんだ」
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-18
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第二十四話 とりあえず……

 黒川のことは奉行所へ任せることになった。 これにて黒川一味は崩壊し、彼の企みも無に帰すこととなり、この事件は一件落着した。 黒川については、幕府や大名たちも手を焼いていた。  雛たちが黒川の計画に手を貸していたことは事実だが、黒川を成敗したことにより、雛たちが行ってきた行為は無罪放免とされた。 伊藤の遺体は丁重に処理され、家族の元へと返されていった。  彼の生前の活躍を家族に語ると、家族は泣いて雛たちにお礼を言う。  何もできず、家族に向き合うことしかできない雛たちは、ただ黙って伊藤の家族たちに真摯に向き合うのだった。 葬儀には必ず出ると約束し、伊藤の家族たちに見送られながら雛たちはお別れした。  伊藤の家からの帰り道。  田んぼに囲まれたあぜ道を四人で歩く。 夕陽に照らされ伸びた四つの影が、田んぼの上をゆっくりと動いていく。 皆、伊藤との思い出に浸っているのか、誰も言葉を発しようとはしない。  静まり返っていたところへ、楓太の元気な声が突如響いた。「僕、伊藤さんの意思を継いで、新しい隊をつくろうと思います」 その言葉に、三人はピタリと足を止め、楓太を見つめる。  何を言い出すのかと、皆驚いた表情をしていた。 楓太がそこまで考えていたなんて……。  今回の事件のことで、新和隊は事実上解散し隊は無くなる。  そのことについて考えないわけではなかったが、まだそこまで考える余裕がなかった。 三人は顔を見合わせる。「おまえが隊長か?」 宇随が意地悪そうな笑みを浮かべ、楓太を肘で軽くつついた。「はい! と言いたいところですが、僕はまだ十四歳です。  隊長は荷が重いので、できればお三方の誰かにしていただきたいのですが……。  もちろん隊へ入っていただけますよね?」 楓太の期待に満ちた瞳が三人に向けられる。 三人はしばらく沈黙する。  それぞれ何かを思案しているようだった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-19
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第二十五話 我が家へ①

 雛は父、雄二と共に無事、家へと辿り着いた。 久しぶりの親子の時間は、なんだか気恥ずかしくもありとても幸せな時間だった。  最初はたどたどしかった二人も、すぐに昔の空気を取り戻していた。 久しぶりの我が家を前に、雛の胸は逸る。  ゆっくりと門の中へ足を踏み入れると、我が家へ帰ってきたんだと実感した。  安心感から自然と笑みがこぼれる。「おかえり、雛」 雄二が雛に告げる。  雛は予想していなかったその言葉に、驚いて振り返った。 そこには、優しい笑顔で雛を見つめる雄二の姿があった。 喧嘩別れして、勝手に出て行ったことを怒っているんだとばかり思っていた。  勘当されてもしかたないって。  それなのに、こんな勝手な娘を笑って許してくれるの?「父さん……」 雛の目から涙が次々とこぼれ落ちていく。  雄二は両手を広げ、最上級の笑顔で娘を歓迎する。「父さん!」 雛は雄二の胸に飛び込んだ。「ごめん、ごめんなさい。私……」 嗚咽を漏らしながら泣く雛の涙が、雄二の胸を濡らしていった。「いいんだ……おまえが無事、帰ってきてくれただけで」 雄二が雛を優しく抱きしめる。 二人は離れていた時間を埋めるように、きつく抱き合った。   雛は男装を解き、女性物の着物に袖を通す。  たった数ヶ月男装をしていただけなのに、女性の姿に違和感を感じてしまう。 雛は鏡に映る自分の姿を見て、可笑しくて笑ってしまった。 でも、こっちが本当の私なんだ。  自室を出た雛は、雄二の待つ居間へと向かう。 久しぶりの我が家を噛みしめながらゆっくりと歩いていく。  見慣れた風景と懐かしい匂い。  廊下を歩きながら、雛は深呼吸する。 部屋の前で立ち止まり、雛は気持ちを入れ替えるように目を瞑り開いた。  そして、ゆっくりと襖を開けた。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-20
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第二十五話 我が家へ②

 雛はその日、眠れなかった。  雄二の言葉が頭から離れない。 雛は目をきつく閉じ、暗闇に溶け込もうと努力した。  しかしその努力も虚しく、気づけば辺りはすっかり明るくなってしまった。 結局、雛は一睡もすることなく、朝を迎えてしまっていた。  とりあえず、雛は朝食を取り身支度を整える。 天気は快晴。青い空に、太陽の光が眩しく照らしている。  雛の心の中とは大違いだ。 雛は雄二から言われたことを反芻しながら、考えをまとめるため、外の空気にあたろうと家を出た。 自分の心に従う……私はどうしたい。「雛ー!」 門から出てしばらく歩くと、遠くから雛を呼ぶ声がする。  考え事をしていた雛の足がピタリと止まった。 この声は――「雛! おかえりー!」 後ろから思いっきり抱きつかれた雛は、前のめりになった。 この感じ……。  雛はゆっくりと振り返る。「若菜……」 そこには、満面の笑みで雛のことを見つめる親友の若菜の姿があった。  わずかな間離れていただけなのに、すごく懐かしく感じる。  雛の心がほんのりと温まったような気がした。 若菜が今度は正面から雛をきつく抱きしめてくる。「心配してたんだからね! 勝手に居なくなるんだもん。  雛のお父さんに聞いたら、雛が勝手に危ないことしてるかもって聞いて。  もう気が気じゃなくてっ」 若菜が涙ぐむと、雛は若菜の頭をよしよしと撫でる。「心配かけてごめん……ありがとね」 若菜の気持ちに、雛の凝り固まった心が少し解けていくのを感じた。 彼女の表情から、本当に心配してくれていたことが伝わってくる。  いつも気にかけ、心配してくれる存在が、こんなに嬉しいなんて。  雛はいつになく親友の存在の有難さを実感していた。 二人は激しい抱擁を交わす。 その溺愛振りに、通りすがる者たちが驚いた表情で
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-21
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第二十六話 重なる想い①

 家からほど近い場所に、河川があった。  底が見える程澄んだ水に、川魚が泳いでいるのが見える。  水に光が反射し、キラキラと輝いていた。 雛と神威は、その川のほとりを並んで歩いた。 のどかな田舎町の風景。  田んぼや緑が多く、空気が美味しい。 一本の川が長くどこまでも続いていた。 川のせせらぎと、鳥の泣き声が耳に届くのは二人が静かだから。  水面にキラキラと反射する太陽の光に、雛は目を細めた。 雛はそっと自分の胸に手を当てた。  ドキドキと高鳴る鼓動がしっかりと感じられる。  女の子として、神威と二人きりになったのは初めてで、雛はとても緊張していた。 男装していたときもドキドキしていたが、それを凌駕するほど心臓がうるさい。  これほどまで神威に惹かれていたのかと、雛は驚きを隠せなかった。「ここは綺麗なところだな、空気も美味しい」 神威は辺りを見回すと、雛へ柔らかな笑顔を向ける。  雛の心臓がさらに大きく音を奏でた。 視線をあちこちに動かす雛の耳に、衝撃の発言が届く。「君が女の子だって、始めから気づいてたよ」 「え!」 思いもよらないカミングアウトに、雛は素っ頓狂な声を上げてしまった。 は、始めって、いつ?  っていうかずっとバレてたの? 雛は大きく開いた目で、まじまじと神威を見つめる。「い、いつから?」 「君が隊の試験を受けに来て、門の前で会ったあの時。  俺は君のことを既に知っていたんだ。  ほら、君は以前、町で乞食の男性を助けたことがあったろ?  そのとき、君を庇った人物が俺なんだ。  ……すごく強い女の子だなって、興味が湧いた。  そしたら、新和隊の試験に君が男装して現れて、驚いたよ。どうして男装までして、こんなところへって。  でも、君の剣の腕前が知りたくて、しばらく様子を見ようと思って黙ってた」 あのとき助けてくれたのは、神威さんだったんだ。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-22
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第二十六話 重なる想い②

 しばらく黙り込む雛。  神威はただ黙って、雛が何か言うのを待っていてくれる。 人生で一番の勇気を振り絞り、雛は自分の正直な気持ちを告げた。「私っ、私も神威さんのことが、好きです!」 神威の表情が一変し、いつものクールな表情が崩れた。  少し惚けたような表情で雛を見つめている。「私も始めは興味でした。すごく強い神威さんに惹かれ、剣士として勝負がしてみたいと思った。  実際に、神威さんは想像以上に強くて、尊敬と憧れが強かった。  でも、一緒に過ごしていくうちに、神威さんのさりげない優しさやあたたかさに触れ、だんだん惹かれていく自分がいるのを感じていました。  ……でも、今の自分は男としてしか見られていないと思い、気持ちを見て見ぬ振りしていたように思います。  そんな中、神威さんの婚約者の舞さんのことを知り、完全にあきらめようと心に決めました」 雛が涙目になり俯いてしまうと、突然、神威が雛を抱き寄せた。 きつくぎゅっと雛のことを抱きしめてくる神威の腕の中で、一体何が起こったのかと雛は目を何度も瞬かせる。「馬鹿だな……舞さんはもう婚約者じゃない」 「え?」 「昨日、君と別れてからすぐに実家に帰ったんだ。婚約を解消してもらうために。  両親はまだ納得していないけれど、必ず説得してみせる。  俺は舞さんとは結婚しない。……できれば、君と結婚したい」 神威の真剣な眼差しが雛に注がれる。  その瞳はどこか不安気にゆらゆらと揺らめていた。 今聞かされた信じがたい事実に、雛は驚き、大きな瞳で戸惑いがちに見つめ返す。「ほ、本当に?」 「ああ。俺の気持ち受け入れてくれるか?」 こんなことって、あるの? こんな幸せなことって。  雛は未だに今起きていることが夢のように感じていた。 彼のことは大好きだけど、婚約者がいるのなら仕方ないって。もうあきらめていた。  でも、やっぱり本人を目の前にすると、好きの気持ちが溢れてきて、どうしていいかわからなくて切なかった。
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-22
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第二十七話 新たな希望①

「私、やっぱり隊に戻ります。  そして神威さんと宇随さんと楓太くんと一緒に、今度こそ新しい時代をつくるため、私の力を使いたいと思います」 雛が力強い瞳を神威に向け、宣誓する。  神威は嬉しそうに微笑み頷いた。「ああ、雛がどんな道を選んでも、俺は君を支える。  雛と共に生きていきたいから。  君が隊に戻らなくても、俺は会いにくるつもりだった。もちろん隊に来てくれるなら大歓迎さ」 神威は雛に手を差し出す。  握手……ではないよね? 戸惑った雛がなかなか手を取らずにいると、神威が雛の手を奪った。 雛の手を引き、神威は意気揚々と歩き出す。「雛の父上に報告だ」 ニコニコと微笑む神威に、雛の頭の中には疑問符が飛び交っていた。「な、何を?」 雛が不安げに尋ねると、神威は自信満々で答える。「もちろん、隊に残ることと――婚約のこと」 神威が雛にウインクする。「えーーー!!」 雛が目を丸くして叫ぶ横で、神威は可笑しそうに笑いながら雛を引っ張っていく。 なんだかキャラ変わってない?  あのクールな神威さんはいったいどこへ? 急に大胆で強引なキャラに変化した神威に戸惑いながらも、繋がれた手の温もりに幸せを感じてしまう雛だった。  雛の父である雄二に挨拶を済ませた二人は、町へ向かっていた。 宇随と楓太のいる屋敷へ帰る前に、必要な物を揃えるためだ。 買い物の最中も、神威は雛の手を離さない。  手を繋ぎながら町中を闊歩することが恥ずかしくて、雛の顔は終始赤く染まっていた。 店の店主から、からかいを受ける度に神威は軽くあしらっていたが、雛はもういっぱいいっぱいだった。「父上に認めてもらえてよかった」 休憩も兼ねて訪ねた団子屋で、神威は団子を頬張りつつ、満足そうに頷く。  雛も団子を一口食べると、恥ずかしそうに頷き返す。  あのあと、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-23
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第二十七話 新たな希望②

 宇随たちが待つ屋敷へ到着した二人は、仲良く手を繋いで屋敷の門をくぐる。「おう、ご両人、見せつけてくれるぜ」 玄関の入口に立っていた宇随が二人を笑顔で出迎える。「宇随さん!」 雛が嬉しそうに笑いかけると、隣に寄り添う神威も柔らかな笑顔を見せた。「わざわざ待っていてくれたのか?」 幸せそうに寄り添いながら、手を繋いだ雛と神威が宇随に近付いていく。  二人の仲良さそうな姿に、宇随が不機嫌そうな表情を浮かべた。「なんだよっ、あーあ、つまんねえ。  おーい、楓太!」 宇随が大きな声で呼ぶと、屋敷の中から足音がこちらへ向かってくるのが聞こえた。  次の瞬間、玄関から飛び出てきた楓太が一目散に雛に抱きついた。「おかえりなさい!」 嬉しそうな楓太の姿に、雛も嬉しくて顔をほころばせる。「楓太君、ただいま。ごめんね、心配かけて」 「あ! てめえ、雛に抱きつくな!」 宇随が慌てた様子で、楓太を雛から剥がそうと試みる。  すると神威が宇随の頭を殴った。「阿保、子ども相手にムキになってどうする」 「いってー、手加減しろよ!」 大袈裟に痛がる宇随を無視し、神威は雛にくっついている楓太を真っ直ぐ見据えた。「な、楓太。おまえももう十四なんだから……わかるよな?」 神威は終始笑顔だが、目が笑っていない。  恐怖を感じた楓太は雛から急いで離れた。「ご、ごめんなさい!」 怯えながら謝る楓太の頭を優しく撫でながら、神威が笑顔で頷いた。「さ、こんなところで立ち話もあれだし、中へ入ろう」 神威はさりげなく雛の腰に手を回すと、宇随と楓太を見て微笑む。  『雛は俺のものだから手を出すなよ』と神威の心の声が聞こえてきそうだ。 二人が屋敷の中へ入っていくと、宇随と楓太が顔を見合わせた。「これからは、気をつけましょう」 楓太がそうつぶやくと、宇随は肩を落とし残念そうに頷い
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-24
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第二十八話 永久に――

 新希隊の屯所の前を子どもたちが駆けていく。「早く来いよー、おいてくぞ」 「待ってよー」 「へへっ、負けないぞ」 子どもたちは遊びに夢中で前を向いていなかった。 ドンッ。 先頭を走っていた男の子が、誰かにぶつかり転んでしまう。「いてて……」 「ごめんね、大丈夫?」 手を差し出された男の子が、その手を取り起き上がる。「あ、この人、新希隊のお姉さんだ!」 助け起こされた子どもの隣にいた女の子が、雛を指差しながら叫んだ。「え? 本当? すげえ、この人だろ? 伝説の女剣士って」 もう一人の男の子も、興奮した様子で雛を見つめる。  助られた男の子が、雛をまじまじと見つめながら尋ねてきた。「本当に、お姉ちゃんが新希隊の女剣士?」 そう問われた雛は戸惑いながら答える。「……ええ。一応その新希隊の女剣士だよ。伝説かどうかはわからないけど」 子どもたちが雛に群がった。「えー、すごーい!」 「お姉さん、すっごい強いんでしょ?」 「俺、憧れるなあ」 飛び交う称賛の声に、どうしていいのかわからず雛が困り果てていると、「そうだよ、彼女は鬼も恐れる伝説の女剣士、斎藤雛だ。  君たちが束になっても敵わないからな」 雛の後ろから神威が顔を出した。「神威さん……酷い」 雛がいじけると神威が可笑しそうに笑いながら謝る。「いや、ごめん。でも君が強いのは本当だから」 「そうそう、俺らじゃ雛を止められないよな」 今度は神威の後ろから宇随が顔を覗かせた。  彼は満面の笑みで子どもたちの頭を撫でていく。「おう、おまえら、雛みたいに強くなりたいのか?」 宇随にそう聞かれた子どもたちは目を輝かせる。「うん! 強くなりたい」 「強くなって、悪いやつらをやっつけるんだ」「それは、いけません」 今度は楓太が割り込んできた。「我が隊の方針ではありません。  強くなって悪い人をやっつけるのではなく、強くなり、悪い人から弱い者を守るために戦うのが新希隊のモットーなのです」 楓太は堂々と胸を張り、子どもたちに諭している。「ふーん、つまんねえの」 子どもたちのテンションはみるみる下がっていった。 雛たちは互いに顔を見合わせ、子どもたちを微笑ましく見つめた。「敵を倒したり殺したりするのではなく、自分の守りたいと思う人をこの手
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-25
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【番外編】第一章  春風の中、揺れる心

 あれから、少しばかり月日がたち、春がやってきた。 屯所も賑やかになり、あちらこちらから子どもの声が聞こえてくる。 あたたかな風が、庭に咲く草花をそっと揺らし、  日差しはやわらかく降り注ぎ、あたりを優しく照らしていた。「……はっ!」 私は、今日も剣を振るう。 屯所にある稽古場には、私ひとりだけ。  普段はたくさんの仲間や門下生、子どもたちで賑わっている。 今日は天気がいいので、外で稽古をしているようだった。 外の様子をうかがうと、神威と宇随が子どもたちに稽古をつけていた。 二人とも楽しそう。  穏やかな笑みや笑い声が飛び交っている。 とくに、宇随は子どもたちから人気がある。    今もたくさんの子どもたちに囲まれ、何やらからかわれているらしく、楽しげな声が響いていた。  まあ、あの明るさや気さくさがいいんだろうな。 逃げる宇随に、追う子どもたち。そして見守る神威。 ふと、神威に視線を向ける。その姿に胸が高鳴った。 私の愛しい人……。 見つめていると、あたたかな気持ちが湧いてくる。  しかし、そのやわらかな想いと同時に、心にそっと影が差す。 最近、ずっと悩んでいることがある。 私はそっと、自分の手にある木刀を見つめた。 心が落ち着かない。  剣の振り方一つひとつに、迷いが映っている気さえする。  何度も構え直すたびに、その心の揺れが形になっていくようで、苦しくなった。 剣は、私にとって武器であり、心の拠りどころでもある。  幼い頃から、いつも一緒で、寄り添ってくれる存在だった。 剣を握っているときは、どこまでも強くなれる。……そんな気がした。 でも、女としての幸せを考えたとき――剣は、どうすればいいのだろう。 剣を握ったまま、戦いに身を投じながら。  愛する人の側に。隣に寄り添い、生きることは許されるのだろうか。 それを望
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-07-26
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