「宇随!」 そのとき、突然風呂場に声が響いた。 声の方へ視線を向けると、風呂場の入口に立ち、こちらを見つめる神威の姿があった。 彼は服を着ているので、もう既に風呂からあがったあとだろうか。「隊長がおまえを探していたぞ」 神威がそう発言すると、驚いた宇随が勢いよく立ち上がった。「え! マジか」 男の裸体が真横にあるという事実に、雛は気が気で無かった。 視線を宇随とは反対の方へ向ける。「なんだよ、俺何かしたっけ……。 雛悪い、俺先行くな。おまえものぼせないうちにあがれよ」 宇随は急いで風呂場をあとにする。 やっと解放された雛は肩の力が抜け、ほっと息をついた。 すると今度は神威が近づいてくる。 宇随の次は、神威か! と雛が気を張って身構えていると……湯舟の縁にそっと大きな布が置かれた。「ほんとにのぼせるぞ。俺はもう行くから、早くあがってこい」 雛は驚き神威を見上げた。すると、神威は雛から顔を背けあらぬ方を向いていた。 思いもしない出来事に、ぼけーっと神威のことを見つめる雛。「……外で待ってる」 そう言うと、顔を背けたまま彼は風呂場から出ていった。 雛は神威の行動の意味をどう受け止めればいいのか悩んでいた。 伊藤が宇随を呼び出したことも、もしかして神威が私を助けてくれるための嘘だったのかもしれない。 そして布――持ってきてくれて、すごく助かった。が、神威が持ってくる理由がわからない。 まさか雛の正体が女だとバレているのか……? だとしたら、なぜ彼はそのことを言ってこない? 黙っていることで神威に何か得があるのだろうか。 銭湯の出口から雛が姿を現すと、すぐ傍で待っていた神威が声をかけてきた。「いくぞ」 「は、はい」 さっさと歩いて行ってしまう神威の後を、雛は駆け足で追っていく。 二人は微妙な距離を保ちつつ、夜の町
Last Updated : 2025-07-01 Read more