夜の屯所は、昼の喧騒が嘘のように静まり返っていた。 部屋の行灯(あんどん)の灯りが揺れ、障子にやわらかな影を落としている。 外からは虫の音が微かに聞こえ、心にそっと寄り添ってくれるようだった。 私は、部屋の隅でひとり、膝を抱えていた。 あのとき神威に言ってしまった言葉が、胸の奥で繰り返される。「今の私のまま、あなたの妻になってもいいのかな」 言ってしまったあと、少しだけ後悔した。 それはずっと胸にしまっていた迷いで、彼に見せることを躊躇っていたから。 普通の女の子とは違う私。 私は神威に、何を与えてあげられるのだろう。 彼は何を望んでいるのだろう。 女として何もしてあげられない私と一緒になって、彼は幸せになれるのだろうか。 ここ最近、悩みはどんどん増すばかりだった。 神威や仲間たちと結婚の話をするたびに、祝言の準備が進むたびに、私の心に影が落ちる。 神威は優しい。誰よりも私のことを思ってくれる。 だから、余計に心配だった。 我慢させているのではないかと。 本当は私に、普通のおなごとして生きてほしいと思っているのでは……。 もし、「そのままでいい」と言ってくれなかったら? もし、私に剣を捨てるように求めてきたら――? そんな未来ばかりを想像してしまう。 ふと、人の気配がした。 襖がすっと開く音がして、私は顔を上げる。 神威が、そっと顔をのぞかせていた。「雛、起きてたか」 いつもの優しい眼差しと、目が合う。「うん……眠れなくて」 なんだか落ち着かなくて、俯き加減に小さく頷く。 視線を上げることができず、手をぎゅっと握りしめた。 すると、神威がそっと部屋に入ってくる。 彼は、何も言わずに私の隣に腰を下ろした。 沈黙がふたりの間に沈む。「昼間の
Terakhir Diperbarui : 2025-07-27 Baca selengkapnya