All Chapters of 離婚カウントダウン、クズ夫の世話なんて誰がするか！: Chapter 471 - Chapter 480

旭陽は肘で伶を小突いた。「少しは自制できないんですか？」伶は煙を深く吸い込み、軽蔑の眼差しを向ける。「若者の体力は、君みたいな老年には分かるはずがない。暇があったら滋養品でも飲んでろ」旭陽はムッとして言い返した。「バカにしないでくださいよ。それに私は老年じゃない、中年です！精力がどうとか、うちの嫁でもないし、君には分かるすべもないじゃないですか！まったく......」伶は鼻で笑っただけで、特に何も言わない。旭陽はしばらく黙っていたが、先ほどの嘲笑を思い出してまた力説した。「体力なら若者に負けません。信じないならうちの嫁に聞いてもいいです」伶は心底どうでもよさそうに肩をすくめ、わざと一歩後ろに下がって距離を取る。「君の体力なんて俺には関係ないし、見る機会もない。いちいち説明するな」一言で封じられ、旭陽は口をパクパクさせたが、結局何も言い返せなかった。やはり伶の口には誰も勝てない。その頃、悠良が検査を終えて出てくる。旭陽は無言で伶を指差し、ため息混じりに診察室に入っていった。その表情を見ただけで、悠良はまた伶にやられたのだと悟る。この男はいつもそう。軽く受け流しているようで、相手を必ずイライラさせるのに、どうにも手の打ちようがない。「また何を言って、有澤先生をあんな顔にさせたんですか？」「俺が？俺はただあいつが体力について食い下がるから、『体力なんて俺には関係ないし、見る機会もない』って言っただけだが」伶は堂々と答える。悠良は言葉を失った。確かにこれでは怒られる。だが、文面上は間違っていない。この男の口に勝てる人間なんていない。余計なことを言っても損するだけだ。しばらくして旭陽が検査結果を持って戻ってきた。「骨には異常ありません。ただ少し影響は出てますね。しばらく安静にして、栄養をつけてください。今は私の診察室で消炎薬を」悠良はほっと息をついた。「ありがとうございます、有澤先生」旭陽は歩きながら話を続けた。「でも、骨のことはたとえ軽くても油断は禁物ですよ。目に見えないので。先月もうちの科に若い子がいました。車に軽くぶつけられて、その時は大したことないって思っていたんですが、一週間後に急に背中が激痛で動けなくなって、検査したら骨がずれていました。

「それもそうですね。彼女にとって白川家の人間なんて本来は大嫌いなはず。史弥からあれだけの傷を受けて、やっと新しい恋人ができたと思ったら、また白川家の人間だなんて......」伶の目が細める。さっきまでの余裕は消え失せ、刃物のように鋭い顔つきになる。「これは諸刃の剣だ。いい面は、俺と一緒にいる限り、彼女は史弥の『叔母』になる。あいつを永遠に足元に踏みつけ、未練を断ち切らせることができる。悪い面は、もし嫁いできたら、雲城中から陰口を叩かれるだろう。長い間、言葉の暴力にさらされ、陰で指を差されることになる」旭陽は、伶の考えが意外と周到であることを認めざるを得なかった。彼の性格からすれば、一度自分のそばに置いた女をぞんざいに扱うことは絶対にない。雲城の人間が知っているのは、伶が「気難しく、傲慢で冷酷」だという表面だけだ。彼がやろうと決めたことは誰にも止められず、やりたくないことは誰が説得しても動かない。だが、人がなぜ彼に惹かれるのか、本当の理由を知る者は少ない。それは――仕事をきちんとやり遂げれば、必ず相応の報酬と待遇が与えられるからだ。だからこそ旭陽は、今回の伶のやり方に興味を覚えていた。「今度のじいさんの誕生祝い、彼女を連れて行くんですか？」「当然だ。本来ならとっくに行っているはずだ。五年前に彼女が突然いなくならなければ......」今ごろは彼女の名前が戸籍簿の配偶者欄に記されているはずだった。今回こそ、もう二度と逃がすつもりはない。その光景を想像しただけで、旭陽は頭痛を覚える。「どう見ても祝いに行くんじゃなくて、荒らしに行くようにしか」伶は窓口のスタッフから薬を受け取り、平然と答えた。「あの人も言ったんだ。俺の年齢ならそろそろ彼女を作るべきだって」旭陽は笑いを堪え、彼と並んで診察室へ戻る。「『彼女を作れ』とは言ったが、『史弥の元妻を連れてこい』とは違うでしょう」二人が戻ると、ちょうど看護師が悠良に薬を塗り終わったところだった。伶と旭陽が入ると同時に、彼女が部屋を出てくる。旭陽は念を押す。「しばらくは二人とも余計なことはしないでください。まず体をきちんと治るのが先決です」悠良の顔が一気に真っ赤になり、白い耳まで熱を帯びる。思わず慌てて弁解する。「有澤先生、

まさか......自分を犬扱いして撫でてるんじゃ......悠良は慌てて彼の掌から身を引いた。「ちょっと聞きたいことがあるんだけど」伶は車のシートにゆったりと凭れかかっていたが、その言葉に横目を向ける。鋭い瞳が、すでにすべてを見透かしているようだった。「白川の叔父のことを聞きたいんだろ？」さすがに頭の回る人。悠良は、彼のようなタイプに下手に賢ぶってみせると逆効果だと分かっていた。だから正直に頷く。「うん」「わざわざ俺に聞かなくても。誕生日祝いの日、彼も必ず来る。あいつが来るなら、叔父が来ないわけないだろ」つまり、その日になれば自然と分かる、ということだ。無理に詮索する必要はない。今度こそ、この長年ベールに包まれてきた人物が誰なのか、目で確かめられる。もう理由なんてどうでもいい。ただの好奇心だ。なぜか何度も、自分と不思議な縁があるように感じていたから。そして何よりも――あの史弥を抑え込める存在が、どんな人物なのか知りたかった。翌日。悠良は葉からの電話を受けた。「早くしないと、そのプロジェクト、本当に白川のものになっちゃうよ。あの人、最近まるで興奮剤でも打ったみたいに外で接待に走りまくってる。多分、悠良に刺激されたのね。昔とはもう違う。今の悠良は、あの人には手の届かない存在」葉でさえ、今回の悠良の帰還を「過去の屈辱を雪ぐ逆襲」だと感じていた。戻ってきて早々、史弥に不意打ちを食らわせたのだから。「あっ、そうだった......ちょっと待ってて。今すぐ企画書おく――」そう言いかけて、悠良はハッとした。しまった。今は伶の家にいるんだった。自分の家じゃない。「えっと......ごめん。今、家にいないの」その言葉に、葉は思わず目の前が暗くなる。「家にいない？じゃあどこに？」「ええと......」口ごもる悠良。伶の家にいるなんて、簡単には言えなかった。すると葉が急に声を潜め、不安そうに畳みかける。「危険な目に遭ってないよね？もしそうなら、軽く咳払いして。すぐ警察に通報するから」多分、今まで何度も危険な目に遭ってきたせいで、葉は自分の身を余計に案じるようになったんだろう。少しでも不自然なら即座に反応する。下手すれば本当に通報され

葉は普段、自分の身の上話をほとんど口にしない。それが彼女にとって痛みそのものだから、悠良も余計なことは聞かないようにしていた。けれど今その話題になった途端、葉の目から涙が止めどなくこぼれ落ちる。悠良はティッシュで彼女の涙を拭い、胸の奥に強烈な罪悪感が広がった。「ごめん......私が余計なことを言ったせいで、傷をえぐっちゃった」葉は手を振り、すすり泣きながら言う。「大丈夫、もう慣れっこよ。でもさ、もし私を悠良の会社に入れてくれたとして、あんたの継母や妹に何か言われない？迷惑かけるくらいなら、行かないわ。いざとなったら、外で屋台でもやればいいし」悠良はきっぱり首を振った。「何言ってるのよ、この石頭！あんたみたいに仕事できる人、もし家の事情に縛られてなかったら、とっくにいいポジションに就いてるわ」長年パートナーを組んできた悠良にとって、葉の実力は誰よりもわかっている。葉は口を尖らせ、小さなため息を落とす。「仕方ないわよ、そうなる運命なんだから」悠良は少し考え、提案するように言った。「じゃあ、こういうのはどう？子どもも手がかかるし、お姑さんは体が弱い。このままじゃ何もできないでしょ」葉は目を上げた。「いい方法があるの？」「お姑さんを実家に帰して、信頼できる人にお金を払って世話を頼む。それから子どもはもうすぐ幼稚園に通い始めるんでしょ？送り迎えは私が人を雇って任せるわ。あなたが帰宅するまで見ててもらえば十分。これならどう？」葉はその言葉に、思わず悠良に飛びつきそうになった。「悠良......ありがとう。本当にありがとう......！前世でどれだけ善行を積んだら、今世であんたみたいな恩人に会えるのかしら」彼女が本気で拝もうとするのを見て、悠良は慌てて止める。「ちょっと！そんなことされたら寿命縮むわ！」葉は鼻をすすりながら笑う。「じゃあ、これから先、馬車馬のように働いて恩返しするわ」涙と鼻水でぐしゃぐしゃな顔を見て、悠良も思わず吹き出した。「いいってば。私たちの仲で、そんなこと言う必要ないでしょ」葉はティッシュで顔を拭きながら、真顔に戻る。「それはそうと、あのプロジェクト急がないと！遅れたら、逆に自分たちがやられるかも」悠良の澄んだ瞳が、その瞬間だけ鋭く光った。

悠良はほとんど反射的に、ドアを素早く閉めてしまった。ちょうど後ろから葉が歩いてきて、二人は危うくぶつかりそうになる。慌てた様子の悠良を見て、葉が首を傾げた。「どうした？入らないの？」「な、なんでもないわ。ちょっと待ってて」そう言うと、悠良は葉をそっと手すりのところへ押しやり、自分だけ中へ入っていった。伶はすでに着替えを終え、白いTシャツ姿で振り返った。「もう終わった。入るのが遅いな」まるで悠良が覗きたくて仕方なかったかのような口ぶりだ。彼女は慌てて言い訳する。「ち、違うわよ！私は寒河江さんのプライバシーを守ったの。感謝されてもいいくらいに！」背の高い伶は彼女の前に歩み寄り、少し腰をかがめて、汗ばんだ鼻先に軽く触れた。「ふん......独り占めか。他の奴には見せない、ってことか」悠良は心の中で天を仰いだ。この男の前では、何を言っても無駄だ。どうせ自分の都合のいいように解釈するのだから。だからこれからは説明なんてやめよう。意味がない。軽く咳払いして話題を切り替える。「ところで、この部屋使うの？」「俺はこれからシャワーだ」その言葉に悠良は少し考え、恐る恐る切り出す。「じゃあ、隣の書斎を私たちに貸しても？」伶は横目で彼女を見て、薄く笑う。「二人でなにか大ごとを企んでるんじゃないだろうな」悠良は思わずむせそうになり、瞳を泳がせる。この男、どうしてここまで勘が鋭いの。もし社長を辞めても、この目がある限り絶対食いっぱぐれない。何をしても成功するに違いない。「な、なんでもないの。ただの履歴書作りよ。葉を来週から小林グループに入れるつもりだから」「小林グループに？」伶の眉間に皺が寄る。「そうよ。今の私は小林グループの筆頭株主なんだから、これくらいのことはできるはずでしょ？」彼女はてっきり「無理だ」と言われると思っていた。しかし伶はベッドに腰を下ろし、脚を組みながら冷静に告げる。「君は友達を火の中に突っ込むつもりか？あそこは今や君の継母と莉子の縄張りだ。もう孝之の会社じゃない。三浦はあの騒動で散々悪評を立てられた。そんな状態で入ったら、やつらの冷たい視線と噂話で潰されるのがオチだぞ」だが悠良の目は真剣そのものだった。「それでも、避けては通れ